★バーダックLong Dream【Changes-ふたりの変化-】
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バーダックSide
一年前、カカロットからブルマの親父が天才だと聞いていたオレは、カカロットの丸型の改造を依頼し、最大重力数、千倍の重力装置を設置して貰った。
そして約一年間、倅共を基礎から徹底的に鍛え上げた結果、戦闘力を大幅に上昇させることに成功した。
さらにオレ自身も厳しい修業に励み、ベジータ共を迎え撃つ準備は整った。
いつどのポイントに到着するかは、ヤツらほどの戦闘力なら地球に到着した時点で、すぐに感知できるだろう。
熱いシャワーを浴びて、いつもより遅めの朝飯を食った後、真新しい戦闘服に身を包んだ。
親父同様、ブルマも天才だと聞いていたオレは、一年前から戦闘服の開発を依頼して作らせた物だ。
オレが以前着ていたプロテクターを再現させたんだが、惑星ベジータで支給されていた物より若干質は劣る。ま、この際贅沢は言ってられねえか。
しかしコイツを着ると、昔トーマ達と宇宙を暴れ回っていた頃を思い出して、サイヤ人の血が騒ぎやがる。
最下級戦士だったオレが、サイヤ人の王子と遣り合う。前代未聞だが、相手が王子様だろうとなんだろうと関係ねえ。
オレは自分の役目を果たすだけだ。
リビングに戻ると、倅共がオレを待ち受けていた。
「おっ! 父ちゃん、カッコいいじゃねえか!」
「やっぱり親父には戦闘服が、一番しっくりくるよな」
「へっ、ありがとよ」
「ほら、名無しさんも見てみろよ」
カカロットの背後から名無しさんが面を覗かせ、笑顔でオレに近寄って来た。
「うん、よく似合ってるよ。やっぱりブルマさんに頼んで正解だったね」
「……」
オレがあんな態度を取ったってのに、何の躊躇いもなく普通に接してやがる。まったく、神経が図太いというか、肝が据わった女だぜ。どうやら、オレは名無しさんを見くびっていたようだ。
オレも彼女に敬意を払わねえとな。
「ああ、戦闘服を着ると身が引き締まるぜ。お蔭で誰にも負ける気がしねえよ」
オレは口角を上げ、名無しさんの頭をくしゃりと撫でてやると、彼女は頬っぺたを微かに赤くして俯いた。
名無しさんの反応が以前に比べ、嫌厭 されてねえことを安堵しながらも、倅共に視線を向ける。
「ラディッツ、カカロット。今後の予定だが、ベジータ共が地球に到着次第、現地に向かうぜ。それまで各自待機しとけ」
「それはいいとして、親父。名無しさんと万事仲直りしたんだな?」
「あ? 何のことだ?」
「隠しても無駄だぜ。この一年、親父と名無しさんの仲がギクシャクしてたのはお見通しだからな」
コイツ、気づいてやがったのか。まあ、オレもあからさまだったから、それも当然か。
「ラディッツ……」
名無しさんは複雑な面をしてやがる。
「……お前の気のせいだ、ラディッツ。オレらはいつも通りだぜ。なあ、名無しさん」
「う、うん」
「ほう? 限りなく黒だが……まあ、そういうことにしとくか」
しかしラディッツめ、妙な所で勘が働く野郎だ。そいつをもっと戦闘にも生かせればいいものをよ。
「なあ。父ちゃんと名無しさん、喧嘩してたんか?」
「カカロット、てめえは口を挟むな。余計こじれるからよ」
オレは透かさず釘を刺す。
「ん? ま、いっか」
相変わらず、能天気なヤツだな。ま、それぐらいあっけらかんとしている方が幸せか。
「それより、父ちゃん。オラ、ちょっとカリン塔に行って仙豆貰って来っぞ」
「仙豆?」
「簡単に説明すっと、腹が膨れて体力が回復する豆のことだ」
「そんな便利な物があるのか。分かった、さっさと貰いに行って来い。もし、その間ヤツらが現れたら、迷わず現場に直行しろ」
カカロットが頷いて、慌ただしく出て行った。
「親父、オレもカカロットと一緒に行くぜ。特にやることもないしな」
ラディッツは片手を上げ、カカロットの後を追って飛び出して行きやがった。
「ったく、騒がしいヤツらだ」
倅共が一年前より遥かに強くなっているのは確かだが、問題はどの程度ベジータに通用するかだ。
「二人共、生き生きしてるね。これは、やっぱりバーダックの影響かな」
「それは買い被りだ。どうせ早く自分達の力を試したくて、いても立ってもいられねえだけだろう」
名無しさんは一年前、オレ達をサポートすると言ってこの世界に留まった。
だが、オレ達がベジータ共を始末すれば、役目を終えた彼女は恐らく元の世界に帰るだろう。
この一年、名無しさんと過ごして分かったことがある。オレが手段を選ばず、彼女を無理に支配しようとしても、名無しさんの心は手に入らねえ。悔しいが、他の野郎の女だ。いや、支配ってのは語弊があるか。
何しろ男ってのは、例外なく女の涙には弱いからな。それが惚れた女なら尚更だ……。
何にせよ、彼女がオレを選ぶことはねえだろう。いくら本気で迫ろうとも、名無しさんの心がオレに向かねえことは頭の片隅で理解していた。
分かっていることだったが、長くいればいるほどに別れが辛くなる。オレにとっちゃ生殺しも同然の幕引きだ。
だが、それでもオレは……。
「バーダック、難しい顔してどうしたの? もしかして、怖じ気づいたとか?」
気づけば、名無しさんが心配そうにオレを見上げていた。
オレは咄嗟に彼女の左腕を掴んで、強引に抱き寄せる。
「ちょっと! いきなり、何する――」
「お前の言う通りかもな。だから、少しの間こうさせろ」
不満げにオレを睨む名無しさんの頭部を掻き抱くと、観念したのか、彼女は身体の力を抜いてオレの胴にそっと腕を回した。
「……バーダックなら大丈夫だよ。今まで必死に修業してきたんだから絶対勝てる。それは私が保証するよ」
違う、戦闘が怖いわけじゃねえ。むしろ、ベジータ達と闘えるなんざ、滅多にねえチャンスだからな。思う存分暴れてやるつもりだ。
オレが闘いより夢中になるとすれば、名無しさんだけだ。正直お前を失うことほど、怖いもんなんざねえよ。
「名無しさん……」
名無しさんの後頭部に手を添えたオレは、薄紅の唇を荒々しく奪った。
突然のことで驚いたらしく、僅かに強張るのが伝わってきたが、それでも彼女はされるがままだった。
そんな反応をされたら、もしかすると名無しさんは、オレを好きになったんじゃねえのかと勘違いしちまう。
このまま離したくねえ。叶うなら、名無しさんの全てが欲しい。その想いをぶつけるように、彼女の唇を深く貪る。
絡めた舌を何度か甘噛みしてやると、甘い吐息が洩れた。それを聞くだけで、オレの心は満たされていく。戦闘と似た高揚感、いやそれ以上の心地好い気分に包まれた。
静寂なリビングには、オレと名無しさんの吐息だけが聞こえている。
このまま押し倒したいところだが、そうもいかねえ。オレはどうにか欲望を押さえ込んで、彼女から唇を離した。
「……もうっ、いきなりキスしないで! これから闘いに行く人間のすることじゃないでしょ!」
開口一番、名無しさんがオレを怒鳴りつけやがった。
相変わらず勝ち気な女だな……だが、オレは彼女の豪胆な性格も気に入っている。
名無しさんが去った後は、色褪せた物足りねえ日々が続くんだろうよ。
戦闘第一のオレが人生で二人目の、それも地球人の女に現 を抜かす時が来るなんざ、予想もしなかったぜ。
手触りのいい髪の毛に指を絡める。こうやって名無しさんに触れるのも、残り僅か……いや、これで最後だ。
「何とか言ったら――」
「惚れた女に触れたくなるのは当然だろ。最後なんだから、このぐらい許せよ」
オレは堪え切れずに、本音を洩らしていた。
「バーダック……?」
「!?」
名無しさんがオレを呼ぶのとほぼ同時に、今までにねえでかい気を感じ取った。コイツは紛れもなく、ベジータとナッパだ。
「どうやら客人が来やがったようだ。名無しさん、お前はここで待ってろ。さっさと片を付けて戻って来る。その後は、ドラゴンボール集めを再開するぞ!」
早口で捲し立てたオレは急いでカプセルハウスを後にし、宙に舞い上がった。
「どっちの方角だ?」
「バーダック!」
真下を見ると、いつの間にか名無しさんがこっちを見上げている。
「絶対に無事で帰って来て!」
「ああ、約束してやる!」
オレは名無しさんにそう言い返すと、直ちにヤツらの反応位置を探った。
「……ん!?」
東の方角で一気にエネルギーが膨れやがった。どっちかが、衝撃波でも起こしたようだな。
オレは猛スピードで現地へと向かった。
「親父ぃっ!」
「父ちゃ――ん!」
倅共が後方から、こっちへ向かって飛んで来ていた。
「お前らっ! 仙豆とやらは手に入ったのか?」
二人がオレに追いつき、両側に並んだ。
「それがよ、二粒しかなかったんだ」
カカロットが懐から麻袋を取り出して見せる。
「ふん、それで充分だ。オレには必要ねえからな。ラディッツ、ベジータは確かナッパの戦闘力を一万以上は超えているんだったな?」
ラディッツが頷く。
「よし、雑魚のナッパから先に始末するぞ」
単純に戦闘力だけじゃ、ベジータの力量は計り兼ねる。何せ、サイヤ人の戦闘能力は未知数だからな。
「ナッパを雑魚呼ばわりか。アイツは一応名門出のエリート戦士なんだぜ、親父」
「最早階級なんざ関係ねえよ。強い者が勝つ、それだけだ」
オレがそう言った時、戦闘力の高いヤツらが、猛スピードでこっちへ向かって来ていることに感づいた。
「ヤツらだ」
「ああ!」
二人もヤツらの気配を感じ取ったらしく、険しい面持ちでオレに視線を送ってくる。
「わざわざ出向く手間が省けたな」
オレは眼下に見た。
ちょうど真下は切り立った岩壁に囲まれている。誰にも邪魔されず、闘いには最適な場所だ。
「ここでヤツらを迎撃する」
二人が頷いたのを合図に、オレ達は地上に降り立った。
「お出ましのようだな」
程なくして、オレ達の頭上に目標の敵が現れた。ナッパの野郎が下品に笑い、隣でベジータが薄ら笑いを浮かべてやがる。
二人は言葉を交わした後、地上に降りて来た。
ベジータはオレを一瞥すると、ラディッツに視線を戻して口を開いた。
「ラディッツよ、貴様がオレ達を裏切るとは予想外だったぜ。だが、オレ様は寛大だからな。今回だけは許してやってもいいぞ」
「分かっているとは思うが、ドラゴンボールってヤツが一番の目的だ。大人しくオレ達に寄越すんだな。そうすりゃ、また仲間として迎え入れてやるぜ?」
ニヤニヤと笑いながら、左手を差し出すナッパ。
「お断りだ。ドラゴンボールが欲しいなら、自力で探せよ。オレは貴様らとつるんで、無意味な戦闘をすることに嫌気が差したんだ」
ラディッツがそう言い切った途端、ナッパが怪訝な面に変わる。
「本気で言っているのか? オレ達の中で一番弱いお前が、表立って刃向かうとは正気の沙汰じゃないぜ。ええ? 弱虫ラディッツよぉ?」
「何か勘違いしているようだから教えてやろう。オレはサイヤ人の真の強さを取り戻しただけだ」
ニヤリと口元を歪めるラディッツ。
オレが例の事件を話してやった時から、ヤツは目の色を変えて阿修羅のごとく修業に励むようになった。
幾ら戦闘民族とはいえ、何の為に闘うのかを見失ったサイヤ人の末路は悲惨だ。オレはそういう連中を、何人も見てきた。
今のラディッツは一年前と見違える程、凛々しい面構えをしてやがる。それこそが、サイヤ人本来の姿だ。
「そういうわけだ。今後一切、オレに関わるな」
「なっ、何だと!? 貴様ぁ、ナメた口利きやがって……おい、ベジータ! ラディッツの始末はオレがするぜ! いいよなっ!?」
「ふん、好きにしろ。そんな役立たずは、もう必要ない」
下卑た口調で声を荒げるナッパに、素っ気なく答えるベジータ。
「よっしゃあ! 貴様はオレが血祭りに上げてやるぜ。有り難く思えよ、ラディッツ!」
「まだ勝負も決まってないうちから、よく言うぜ」
肩を回しながら啖呵を切るナッパに、ラディッツは平然と答えた。
まだ故郷が存在していた頃から、ナッパはベジータの側近として働いていた。
オレは殆ど接触がなかったが、サイヤ人の中でも剛腕だという噂はあった。
最下級戦士とエリート戦士の扱いなんざ、雲泥の差があったが……ナッパがエリートってのは、面と向かっている今でも全然そんな気がしねえけどな。
「父ちゃん、オラ達は加勢しねえでもいいんか?」
カカロットが闘いたい気持ちは分かるが。
「今のアイツなら、ナッパぐらい捻り潰せるだろう。見届けてやろうぜ、生まれ変わったラディッツの勇姿をよ」
「ちぇっ、オラも闘ってみたかったのによ」
オレは口角を上げる。
「ガッカリするな。まだベジータが残ってるだろ。お前がアイツと闘えばいい」
「そっか! ナッパってヤツより強そうだもんな。早く闘ってみてえ!」
対峙して知り得たが、恐らくカカロットはベジータを凌ぐパワーを持っているだろう。
ヤツには他のサイヤ人にはねえ、負けじ魂があるからな。万が一にも負けることはねえだろうが……。
「さあ、ラディッツ。楽しい殺戮ショーの始まりだぜ!」
ナッパは指の間接を鳴らし、卑しい笑みを浮かべる。
「いつでも来い、ナッパ。オレは貴様の野蛮な態度が目障りだったんだよ。今こそ、どっちが上か決着をつけようぜ」
ラディッツはナッパを挑発し、わざと怒りを煽ってやがる。
「ぐっ……言わせておけば、調子に乗りやがって!」
案の定、怒りで面を茹で蛸みてえにしたナッパがラディッツに詰め寄り、拳を振り上げた。素早くナッパの左に避けたラディッツが、無防備な脇腹に蹴りを入れる。
「ぐふっ!」
バランスを崩したナッパは、よろめきながら脇腹を押さえた。
「脇ががら空きだ、ナッパ。油断してる場合じゃないだろ」
「こ、こんなバカな……貴様、戦闘力は以前のまま変わらないのに、何故だ……」
ラディッツはナッパに攻撃する際、ほんの一瞬だけ戦闘力を上昇させている。
これは、無駄なエネルギー消費を避ける為の戦術だ。あまりにも素早い出来事の為、スカウターじゃ拾いきれんだろう。
いつまでもスカウターに頼っている連中には、何が起きているのか微塵も理解出来ねえだろうな。
「以前のオレと一緒にされちゃ困るぜ。この際だから、はっきり言ってやろうか。今の貴様じゃオレを倒すことは出来んぞ」
「な、何だと……ふざけたこと吐かしてんじゃねえぞ、この腰抜けが!」
再び突進して振り上げたナッパの腕を咄嗟に腰を屈めて躱 したラディッツが、逆にナッパの下顎に拳を喰らわせる。
「ぐっあ……」
ナッパはくぐもった声を洩らすと、その場に崩れ落ちた。
「その程度か。腰抜けは貴様だろ、ナッパ」
「ヘタレの分際でふざけやがって、この野郎!」
さらに頭に血が上ったらしいナッパは左手でラディッツの右足首を掴み、右手に気を溜め始めた。
「何をする気だ?」
「へへへ、こうするんだよ!」
ナッパはラディッツの顔面に向かって、エネルギー弾を放った。
「ぐっ……」
ラディッツは自分に当たる直前、左肘で顔面を防いだ。
「へへっ、ちょっとは堪えただ……ぐはっ!」
ナッパの戯れ言を遮るようにヤツの頭を、ラディッツが容赦なく踏みつける。
「全然利かないぜ。今度は、こっちの番だな。一発でかいのをお見舞いしてやるよ」
さらにナッパの首根っ子を掴み、宙に放り出したヤツに向け、強烈なエネルギー弾を繰り出した。
「うぐあっ!」
ナッパは避ける暇もなく、ラディッツからの攻撃を諸に受けて落下していく。今のでヤツの戦闘力は、がた落ちだ。期待はしてなかったが、ここまで呆気なく片がつくとはな。所詮、エリート戦士ってのは名ばかりか。
ボロ雑巾のようになったナッパが、ベジータの前に倒れ伏す。
「あ……あうう……べ……ベジータ……」
震える腕をベジータに伸ばすナッパ。
ベジータは焦りの表情を浮かべてやがる。ラディッツの強さをようやく痛感したようだ。
「あ……うう……ち、畜生」
「これで分かっただろう、ナッパ。オレとお前の力の差ってヤツをよ」
不敵に笑むラディッツに対し、歯を食い縛るナッパ。
「ベ、ベジータ……た、助けてくれ」
ベジータは無言で、差し出したナッパの腕を掴んだ。
「す、すまねえな……ベジータ」
「なあに……」
ニヤッと笑ったベジータがナッパの腕を力任せに引き上げ、空に向けて放り投げる。
「むっ……!」
まさか、ベジータのヤツ……。
「わあああ――っ! なっ何を……ベジータ! ベジータ――ッ!」
「動けないサイヤ人など必要ない!」
拳を握り締め、全身に気を溜め始める。
「死ねッ!」
ベジータが叫んだ瞬間、全身から爆発波を発動してナッパに直撃させる。
「ベ……ベジー……!」
ナッパはなす術もなくベジータの攻撃の前に砕け散り、周囲に凄まじい爆風が巻き起こった。
やがて事態が収まると、ベジータがラディッツを忌々しげに睨んだ。
……所詮、ヤツにとっちゃ捨て駒か。
「……なんて野郎だ。自分の仲間を簡単に殺しちまうなんてよ」
カカロットは唖然として、ベジータを見てやがる。
サイヤ人の間では珍しい光景でもねえが、オレはああいうやり方が気に入らねえ。自分の仲間をゴミみてえに扱うなんざ、外道のすることだ。チッ、胸クソ悪いぜ……。
「邪魔者が消えた所で、本番といこうじゃないか。ラディッツ、このオレはナッパのように容易く勝てると思うなよ?」
「アンタは惑星ベジータの王子だからな。軽くなんて見てないぜ」
「ふん、それを聞いて安心したぞ。下級戦士ごときにナメられたくはないからな」
双方が臨戦態勢を取った時だ。
「兄ちゃん、ちょっと待ってくれ! オラも闘うぞっ!」
猛スピードで飛び出したカカロットが、両者の間に割って入る。
「カカロット、だが……」
言い渋るラディッツに対し、ベジータが「待て」と割り込んだ。
「クズが一匹増えたところで、オレには何の支障もない。二人纏めて相手になってやる。くっくっくっ……喜ぶがいい、カカロット。貴様のような下級戦士が、超エリートに遊んでもらえるんだからな」
そう宣い、嘲笑うベジータ。
どこまでもプライドの高い王子様だ。
これならオレの愚息共の方が、よっぽど可愛いげがあるってもんだぜ。
「サイヤ人は生まれてすぐ、戦士の素質を検査される。その時の数値が低いクズ野郎がカカロット、貴様のように大した敵のいない星へ送り込まれるのだ……要するに貴様は落ちこぼれだ」
「そのお蔭で、オラはこの地球に来れたんだ。感謝しなきゃな」
カカロット、そこまで地球に執着しているのか。
確かに、オレ自身も居心地の良さを感じている。それに、名無しさんと出逢った星でもあるからな。オレにも多少なりとも思い入れはある。
「それによ……落ちこぼれだって必死で努力すりゃエリートを超えることがあるかもよ」
「くっくっくっ……面白い冗談だ。では努力だけではどうやっても超えられぬ壁を見せてやろう」
ベジータが腰を落として、攻撃の構えを見せた。
大層な自信だな。お坊っちゃまの実力、じっくりと拝ませてもらうか。
「さあ、ラディッツにカカロット! どこからでも、掛かって来い!」
二人も臨戦態勢を取る。
「オラから行くぞっ!」
最初に動いたのはカカロットだ。瞬時にベジータとの間合いを詰め、拳を繰り出すが、ヤツは難なく避ける。
熾烈な攻防戦が続くなか、ラディッツもベジータへの攻撃を加える。だが、まるで霞か幻でも相手にしているかのように、一発たりとも掠りもしねえ。
「どうした、ラディッツ! そんな程度じゃないだろう! ナッパのヤツを倒した時はこんなもんじゃなかった筈だ! カカロット、さっきまでの威勢はどこへ行った!?」
ベジータが倅共への猛攻を繰り広げる。
ヤツの攻撃は瞬きをする間もなく、二人の顔面や腹部に拳で衝撃を与えている。
ふん、口で言うだけのことはあるじゃねえか。
「ぐわぁっ!」
「かはっ!」
倒れた二人が湿った土を舐めるようにして呻いた。
「ガッカリだぜ。所詮、貴様らのパワーはそんな程度か。もう少しオレを楽しませてくれると思ったが、どうやらここまでのようだな」
ベジータは吐き捨てるように言い、両手に気を溜め始める。
「サイヤ人の恥さらしが! とっとと死にやがれ――ッ!」
「そうはさせるか!」
強烈なエネルギー弾がベジータの両手から放たれる瞬間、オレは二人の前に立ち塞がり、バリアを張って攻撃を防いだ。
「何だと!?」
まさかオレが間に入るとは思っていなかったのか、目を見張るベジータ。
やがて爆風が収まり、肩越しに背後を見ると、二人は何とか生きているようだ。
オレは倅共に向けて怒鳴りつける。
「てめえら! その程度でくたばるタマじゃねえだろ! 今までの厳しい修業を思い出して、ベジータにてめえらの本気を見せやがれ! 真のサイヤ人としての強さをな!」
「父ちゃん……」
「親父……」
二人は顔を上げてオレを呼んだ。
「貴様……さっきから気になっていたが、コイツらの父親のバーダックだろう。何故、邪魔をする? こんなクズ共に生きている価値などなかろうが!」
罵声を浴びせるベジータに視線を戻す。
……フリーザやチルドの時以来だな、こんなに腸が煮えくり返るのはよ。
「オレの名を覚えて下さっているとは、光栄の至り。だがな、コイツらは曲がりなりにもオレの倅だ……相手が王子だろうと何だろうと、愚弄される謂れなんざねえんだよっ!」
オレの怒号に一瞬怯んだ様子のベジータだったが、思い直したかのごとく鼻先で笑いやがった。
「くくくっ……親子揃って愚か者だな、バーダック。貴様ら下級戦士と超エリートのオレとでは、天と地の差があるんだ。いい加減、身の程を知りやがれ!」
「身の程を知るのは、アンタじゃねえのか? さっき、カカロットが言っていただろう。落ちこぼれでも必死で努力すりゃ、エリートを超えることがあるってな」
皮肉を込めて言ってやると、ベジータの眉が吊り上がった。
「ふざけるな! この超エリート戦士ベジータ様が負けるわけがない!」
ベジータが虚空を切るように、右手を後ろへ振り払う動作を見せる。
「じゃあ、試してみるか?」
オレは口角を上げた。
「何だと?」
「てめえら! さっさと起きやがれ!」
振り向き様、倅共に発破をかける。
「親父……!」
「分かったぜ、父ちゃん……!」
俯せから仰向けになったカカロットが懐から麻袋を取り出し、「兄ちゃん、仙豆だ……!」とラディッツに例の物 を投げ、二人はそいつを口にした。
すると、瞬時に体力を回復した倅共は威勢よく起き上がり、再びその目に闘志を燃やす。
「何!?」
二人の様子に怯むベジータ。
「こっからが本番だ。行くぜ、兄ちゃん!」
「ああ、分かってる!」
オレが見守るなか、二人は集中して増幅していた気を一気に開放する。
「なっ……ぐっ!」
今までの闘いが嘘のように、ベジータに攻撃が当たるようなった。二人の猛攻が打ち続くなか、ベジータも何とか応戦している。
「よく聞けよ、ベジータ!」
ベジータの拳を片手で受け止めたラディッツが口速に喋る。
「っ……何をだ!?」
「惑星ベジータ消失の真実をだ」
「真実、だと?」
ベジータが眉をひそめる。
ラディッツはオレが教えたように、惑星ベジータの事件を王子に聞かせた。
すると、見る間にベジータが驚愕の表情に変わっていく。
だが、それを否定するように首を激しく振ったベジータは、「まさか、そんな戯れ言を信じろとでも言うのか!」とラディッツの話を拒んだ。
「だが、それが真実だ。惑星ベジータはフリーザに破壊されたんだよ。木っ端微塵にな」
「っ……なら、オレはフリーザに利用されていただけなのか……!」
「そうなるな。オレも真実を知った時、鈍器で頭を殴られた気分だったぜ」
ラディッツが返答すると、ベジータは「くそったれが! このオレ様があんな陰険野郎に踊らされていたとはなっ!」と歯噛みして悔しがった。
「!?」
次の瞬間、身体中に戦慄が走る。この粘りつくような不快感、忘れる筈もねえでかい気を肌でビリビリと感じ取った。
コイツは……この気は、まさか!?
「父ちゃん、何かでかい気が近づいて来っぞ!」
「この気は、ヤツしかいねえ!」
頭上を仰ぐと、いつの間にか見覚えのある宇宙船が、どんどん目前まで迫って来ていた。
あの宇宙船、オレが見間違う筈もねえ。ヤツの船だ!
大方、どこぞからドラゴンボールの存在を嗅ぎつけて、のこのこ湧いて出て来やがったんだろうが……!
オレは全身の血液が沸騰するような、抑えがたい怒りが込み上げていた。
「とうとう親玉の登場か。この時を待ってたぜ……フリーザッ!」
やがて、宇宙船は地上に着陸し、上部ハッチが開くと同時に、雑魚共が一斉に飛び出して来やがった。
「ベジータ! 曲がりなりにも戦闘民族の王子なら、サイヤ人の誇りにかけて尽力しやがれっ!」
「!?」
熱 り立ったオレはベジータに怒声を発し、敵に突撃していく。
「雑魚に用はねえ! 退きやがれ!」
群がる雑魚敵を片っ端から薙ぎ倒し、オレは船の天辺に位置取る。
「フリーザッ! さっさと出て来てオレと勝負しやがれっ!」
オレは怒り狂い、声の限りフリーザへ怒号を浴びせる。
すると、船の中央から諸悪の根源――フリーザが不敵な笑みを浮かべ、姿を現した。傍らにドドリアとザーボンも従えてやがる。進歩のねえヤツらだ。
フリーザの野郎は、以前目にした小型ポッドには乗ってやがらねえ。闘う気満々だな。へっ、こっちとしちゃ願ってもねえぜ。
「随分煩いハエが飛んでいると思ったら、アナタでしたか。全くもって鬱陶しいですね。私はしつこい下等生物が嫌いなんです。どうやって生き延びたのかは知りませんが、死ぬ時間がほんの少し延びただけに過ぎませんよ?」
フリーザは高笑いしながら、皮肉たっぷりに宣った。
チッ、いちいち癪に障る野郎だ。だが、同じ過ちは繰り返さねえ。今度こそ、死んでいった仲間の為にも、名無しさんの夢を叶える為にも、オレの手でヤツを地獄に葬ってやる!
オレは仲間と名無しさんへの誓いを胸に秘め、フリーザを真っ向から睨み据える。
「……フリーザ。今こそ戦友の恨み、晴らさせて貰うぞ!」
「……ほう?」
「……」
ヤツは以前のオレと違う雰囲気に勘づいたのか、しばらく腹の探り合いが続く。
こうしてフリーザと対峙しているオレは、最早仇敵を撃ち倒すことしか頭になかった。
「フリーザ様、この愚か者の相手は我々が致します」
「いいえ結構です、ザーボンさん。どうやら、このおバカさんは未だに懲りていないようですね。この際、私が直々にお灸を据えて差し上げますから、ドドリアさんも他の連中を頼みますよ?」
「御意!」
ザーボンとドドリアが散り散りになり、倅共に襲い掛かる。
「さて、こちらも始めましょうか。どこからでも掛かって来なさい」
フリーザは余裕綽々で、オレを挑発しやがる。
「お望み通り、こっちから行くぞ!」
戦闘は先手必勝。それを熟知していたオレは、即座に攻撃を仕掛ける。
右手に気を集中させ、渾身の拳をヤツに見舞ってやる。オレの強烈な右ストレートを喰らったフリーザは、何事もなかったかのごとく嘲りやがった。
「どうも以前と雰囲気が違うと思いましたが、戦闘力も上がったようですね。ですが、その程度で私に勝てると思ったら大間違いですよ?」
コイツ、わざと喰らってオレの力量を試しやがったのか!
どこまでも、いけ好かねえ野郎だ!
「お次は私の番ですか。では、行きますよっ!」
ぬけぬけとほざいたフリーザは、オレに向け尻尾を一気に振り下ろすが、そいつを瞬時に躱した。
「ほう、これを躱しますか」
「けっ、んなチンケな攻撃喰らうかよ!」
オレが罵ると、ヤツは「威勢の良さは以前と何ら変わりませんね。大変目障りですが……」とほざき、ところでと唐突に話を切り出した。
「どこかのおマヌケさんのスカウターから、地球には何でも願いを叶えてくれるドラゴンボールがあると、貴重な情報を手に入れましてね。私も永遠の命を授かる為に、喉から手が出るほど欲しいのですよ」
「何だと?」
「ですから、大人しくドラゴンボールを渡していただけませんか? ああ……何なら、命だけは助けてあげてもよろしいのですよ? 今回だけは特別に、ね……」
案の定、コイツもラディッツのスカウターを傍受してやがったのか。オレの読みは間違っちゃいねえようだが。やはり、このクソ野郎はいけ好かねえ……!
「ふざけるなっ! 誰が貴様なんざに渡すか! 勝負の途中で私情挟んでんじゃねえ!」
フリーザの腑抜けな問いに怒りを募らせたオレは、ヤツの顔面にエネルギー弾を連続で見舞い、怯んだ隙に中段回し蹴りを喰らわす。
「ぐぅっ……!」
ヤツは後方に吹っ飛ぶが、しぶとく宙で受け身を取った。
「……そうですか、大人しく教えてくださる気はないと……では、意地でも話したくなるようにして差し上げましょうか。アナタに良いものをお見せしますよ」
「良いもん、だと?」
オレが片眉を上げると、ヤツは口元を歪めた。
「私は変身型の宇宙人なんですが、手っ取り早くアナタ方と決着をつけて、ドラゴンボールを集めなくてはなりません。なので、特別に最終形態をご覧に入れましょう」
そう宣ったフリーザは「がああああ……!」と叫び出して、空気が震え、大地を切り裂く。
ヤツの気が瞬時に跳ね上がり、瞬く間に姿を変えただけじゃなく、気も大幅にレベルアップしやがった。
「これがヤツの真の力か……」
カカロットには悪いが、オレは本気のフリーザとサシで闘いたいと武者震いして勇み立つ。
「おや、震えてどうしたのかな? もしかして、ボクが怖いのかい? だけど、この姿になった以上は独りも生かしておかないよ」
フリーザは厭味に笑い、超スピードでオレに突撃してくる。
「があっ!」
諸に攻撃を喰らったオレの身体は、くの字に折り曲がった。
……ぐっ、息が出来ん。ヤツの強さは本物だ……だが、そうじゃねえと面白くねえ。
一瞬息が止まったオレだが、何とか態勢を立て直す。
甘いな、切り札は最後まで取って置くもんだ。
「……フリーザさんよ、何も変身出来るのはてめえだけじゃねえんだぜ?」
「何だって?」
フリーザが怪訝な面に変わった。
「信じられんか? なら、今から拝ませてやろう」
オレは幾分平静を取り戻し、口角を上げる。
「何を生意気な……」
「貴様は今度こそ、オレがぶっ潰す!」
「君がボクを潰す? 本当に冗談きついね」
フリーザが口元に手を当て、余裕の笑みを浮かべてやがる。
いつまでも自分が宇宙最強だと勘違いしてやがる、その鼻っ柱をへし折ってやるぜ……。
オレは両拳を握り、フリーザへの純粋な怒りを糧にして大地を震わせ、チルドの時以上の力を発揮し、超サイヤ人2に変貌を遂げた。周囲に烈々とスパークを纏い、怒りが頂点に達したオレはヤツを真っ向からねめつける。
「これが超サイヤ人を更に超えた、超サイヤ人2だ。こいつに変身した以上は自分でも制御出来ねえ……するつもりもねえがな。全力で行くぞ、フリーザッ!」
「戯れ言を……超サイヤ人なんて、簡単に捻り潰してあげるよ。所詮サイヤ人ごときが、無敵のボクに敵う筈がないんだからねえ」
「分かってねえな、フリーザ。サイヤ人の憎しみを……貴様だけは絶対許さねえ!」
オレは勢いをつけ、フリーザに攻め掛かる。
「ふん、小癪な!」
ヤツも迎撃態勢についた。
正面衝突したオレ達は火花を散らし、肉弾戦を繰り広げる。
予想外に苦戦を強いられ、全身に痛撃を喰らいながらも、何とか一瞬の隙をつく。ヤツの顔面に渾身の上段回し蹴りを与え、その憎たらしい横っ面に傷をつけてやる。
フリーザは顔面を歪め、舌打ちした。
「忌々しい猿めが!」
「へっ、油断してんじゃねえよ!」
ふん、ちったあ効いたみてえだな。
汚ぇ血を拭い、睥睨 するヤツに対し、オレは再び口角を上げた。
「やっぱ父ちゃんはすげえな!」
「ああ、無茶な重力を克服した結果だろう。超サイヤ人の限界を更に超えた、超サイヤ人2か。親父の本領発揮って所だな!」
「バカな、超サイヤ人2だと!? 下級戦士ごときがふざけやがって!」
雑魚やザーボン、ドドリアを相手していた倅共やベジータが、それぞれ反応は違うがオレの姿に驚いているようだ。
だが、今はそんな悠長なことを言っている場合じゃねえ。今は目前にいる、この腐れ外道を何とかしねえとな!
「認めん……超サイヤ人なんか認めんぞ! 宇宙一の帝王フリーザ様に誰も敵うわけがないんだっ!!」
フリーザは喚き、オレに連続エネルギー弾を浴びせてくる。
満身創痍のオレは、既に体力の限界を超えていた。それでも尚、捨て身の覚悟で闘志を燃やし、一歩も怯まずヤツへと接近していく。
「……宇宙一の帝王だと? それがどうした?」
フリーザは「何だと!?」と一瞬怯むが、オレとの間合いを一気に詰め、性懲りもなく拳を繰り出す。オレはそれを片手で受け止めた。
「覚悟するんだな、フリーザッ!」
ヤツの腕を掴み、気力だけでジャイアントスイングを見舞ってやる。
「ぐっ!」
フリーザの身体が投げ出され、オレは先んじて天高く蹴り上げたが、ヤツはまたしてもしぶとく宙に留まった。
「クソッ、絶対に認めんぞ! オレより強いヤツなんて、この世にいるわけがないっ!」
フリーザは両手を空に掲げ、巨大なエネルギーボールを生み出す。
その様を目にしたオレは舌打ちする。
「……貴様はチルドと同レベルだな。くだらねえ寝言ばっかほざきやがって!」
オレは義憤に燃え、満身の力を振り絞った気弾を右手に生み出した。
「貴様ら全員消えてなくなれええっ!」
ヤツは絶叫しながら、オレに向けエネルギーボールを繰り出す。
「消えるのはてめえだっ!」
オレも怒号をあげ、振りかぶって全魂込めた気弾を撃ち放つ。
双方のエネルギー弾が真っ向から激突し合い、凄まじいパワーの攻防戦を巻き起こす。
ヤツの力も驚異的だが、オレは右手に注力し、渾身のエネルギー弾を幾度となく撃ち込んだ。
「てめえもこれで終わりだあああっ!!」
立て続けて起こる轟音に空気全体が膨張し、一瞬音も消え失せるが、次の瞬間、凄まじい鳴動と爆風が周囲に巻き起こる。
「ぐぬぬ……このオレがああっ!!」
激闘の末、辛くもオレが競り勝つと、フリーザは断末魔を上げながら、一気に大気圏を離脱していきやがった。
あの様じゃ、太陽まで一直線だな。まず助からねえだろう。
ヤツを撃破した後、ようやく怒りが収まったオレは無念の死を遂げた仲間を想った。
「……」
トーマ達の仇討ちを遂げ、少しは気が晴れるかと思ったが、オレの心に空いた穴は埋まらねえ。所詮、仇討ちなんざ、己のエゴが生んだ恨みの塊なんだろうと悟った。
それでも、アイツらの為に死力を尽くしてやりたかったのは事実だがな。
「父ちゃーん!」
「親父!」
超化を解いたところで、残党を片付けたらしい倅共がオレの元に駆けつける。
「お前ら……」
「父ちゃんすげえな! さっすがオラの自慢の父ちゃんだ!」
「親父、よくやってくれた!」
倅共は喜んでいるが、オレは気が咎めていた。
「いや……それよりカカロット、悪かったな」
「ん? 何がだ?」
「お前もフリーザと闘いたかっただろうが、断りなく始末しちまったからよ……」
「オラは気にしてねえって。そりゃあ、確かに闘ってみたかったけどよ。それより父ちゃんから物凄ぇ気迫を感じたからな。オラの出る幕じゃねえと思ったんだ。だからよ、父ちゃんもそんなに気にしねえでくれよな!」
倅は満面の笑みで応えた。
オレも釣られて笑みを浮かべる。
「そうか。なら代わりに、これからも毎日、地獄の特訓を強いてやろう」
「おう、望むところだ!」
カカロットの意気込みは大したもんだぜ。オレも気合いを入れ直すか。
「ラディッツ、お前も今から覚悟しとけよ?」
「オレもかよ!」
「当然だろ」
倅が騒ぎ立てるなか、ふと機械音が耳に届いた。
「ん?」
オレは頭上を振り仰ぐ。
その時、一機のジェット機が降下するのが目に入った。
やがて中から、よく見知ったヤツが姿を現す。
「名無しさん……」
「バーダック!」
名無しさんはオレを見つけるなり、飛びついて来た。
……ったく、待ってろって言ったのによ。まあ、コイツが大人しく待つタマじゃねえか。
「やっと、全部終わったんでしょ?」
「どうして分かった?」
「ブルマさんとジェット機でギリギリまで近づいて、空から様子を見てたら、閃光が見えて物凄い爆音がしたでしょ。その後急に静かになったから、全部終わったと思ったの」
名無しさんはオレを見上げながら、今までの状況を聞かせてくれた。
オレは「そうか」と応え、彼女を自分から引き離す。
「バーダック?」
「残念ながら、まだ終わってねえ……」
オレがある一点を見据えながら言うと、名無しさんは「え?」とオレの視線の先を辿る。
「ベジータだ」
ベジータはオレに、あからさまな敵意を向けてくる。
「バーダック……貴様ごとき下級戦士があろうことか伝説の超サイヤ人、それも2などとオレは認めんぞっ!」
「認めるも認めねえもてめえの勝手だが、オレに突っ掛かるのは筋違いじゃねえか?」
「何だと?」
ベジータが眉間に皺を寄せる。オレの言葉の意味が理解出来ねえようだ。
「超サイヤ人はオレの仲間をフリーザに殺された怒りや自分の不甲斐なさを糧にして、初めて変身出来たもんだ。それはてめえが何かを守りてえと想う信義、どこまでも己を信じる道だ」
「ふん、戯れ言だな」
やはり、コイツは何も分かってねえな。
「そう思うか? だが、てめえがそれを理解出来ねえうちは、どう足掻いても超サイヤ人にはなれねえぜ」
「下級戦士の貴様が超サイヤ人になれて、このオレにはなれんだと!? ふざけるなっ!」
ベジータは懲りずに牙を剥いた。
「別にふざけてねえよ。今やカカロットのパワーはラディッツの上を行く。コイツには超サイヤ人になれる素質が充分ある。言っとくが、今のてめえじゃカカロットどころか、ラディッツにも勝てねえだろうな」
オレはベジータを見据え、にべもなく返事する。
「クソッ、やってみなければ分からんだろうが! オレと勝負しろ、バーダック!」
怒号を放ち、突撃してくるベジータ。
オレが咄嗟に構えた時、瞬時にカカロットが間に入り、ベジータの拳を難なく片手で受け止めた。
「何っ!?」
カカロットは真剣な眼差しで、ベジータを見やる。
「止めろ、ベジータ。父ちゃんとフリーザとの闘いを見ただろ。今のおめえじゃ、父ちゃんにゃ到底敵わねえぞ」
「ぐっ……」
ベジータは顔面を歪めた。
「それと、ドラゴンボールも潔く諦めるんだな」
歯噛みするベジータに対し、名無しさんに目線を向けたカカロットはさらに続ける。
「ドラゴンボールはそこにいる名無しさんの為に使うんだ。おめえの私利私欲の為に、利用させるわけにゃいかねえ!」
「ぐぁっ!」
カカロットがベジータの拳を握り潰すと、ヤツは面を歪めて呻いた。
オレの想いを代弁したカカロットに、心底感心していた。
今、ようやくはっきりと分かった。カカロットには他のサイヤ人に欠落している、絶対悪を許さねえ正義と相手を思いやる心があることを。
「くそったれが……!」
ベジータはまだ諦めがつかないらしく、しぶとく膝蹴りを喰らわそうとするが、それもカカロットに阻まれた。ヤツは完全に力負けしている。勝敗は決していた。
「このオレ様が、カカロットごときにも敵わんのか……!」
負け惜しみが強いヤツに向け、オレは口を開く。
「王子よ、てめえ以外の人間を見下しているうちは、何をしたって上手くいかねえぜ」
それは、うちのバカ息子にも言えることだがな。
「何……?」
「ベジータ、地球に留まれ。どうせもう行く当てなんざねえだろ」
ヤツの片眉が動く。
「それが、どうした……」
「だったら、この地球に残ってカカロット達と修業しろ。そして、己の信じる道を歩め」
「……」
ベジータは無言でオレを睨むが、構わず続ける。
「王子、もう一度だけ言う。この地球で一から修業して、自分の信じる道を行け」
「父ちゃんの言う通りだ、ベジータ。オラ達と一緒に稽古しようぜ」
「……」
カカロットがベジータを解放すると、自由になったヤツはしばらく思案していたが、やがて徐に口を開いた。
「……ふん、下級戦士ごときに指図されるのは癪だが、そこまで言うならばよかろう。だが、勘違いするなよ? 貴様ら親子を叩き潰すまで、オレの気が済まんからな。バーダック、必ずや貴様の超サイヤ人2とやらを超えた存在になってやる。覚悟しておくんだな!」
ベジータは叩き潰すなどと発言とは裏腹に、オレの言葉が通じたのか、その目には今までの邪悪さは影を潜めていた。
オレを超えようとする目標が出来た今、ヤツは生まれ変わったかのごとく真のサイヤ人としての素質、意志の強さを宿しているようだ。
オレは「楽しみにしてるぜ」と頷いて見せる。
その後、ベジータはオレの言葉通り地球に留まったが、カカロットの家には行かず、意外にもブルマの誘いで西の都に住むことになる。
残る課題は全てのドラゴンボールを集め、名無しさんの夢を叶えるだけだ。
永遠の別れは、いよいよ間近に迫っていた。
一年前、カカロットからブルマの親父が天才だと聞いていたオレは、カカロットの丸型の改造を依頼し、最大重力数、千倍の重力装置を設置して貰った。
そして約一年間、倅共を基礎から徹底的に鍛え上げた結果、戦闘力を大幅に上昇させることに成功した。
さらにオレ自身も厳しい修業に励み、ベジータ共を迎え撃つ準備は整った。
いつどのポイントに到着するかは、ヤツらほどの戦闘力なら地球に到着した時点で、すぐに感知できるだろう。
熱いシャワーを浴びて、いつもより遅めの朝飯を食った後、真新しい戦闘服に身を包んだ。
親父同様、ブルマも天才だと聞いていたオレは、一年前から戦闘服の開発を依頼して作らせた物だ。
オレが以前着ていたプロテクターを再現させたんだが、惑星ベジータで支給されていた物より若干質は劣る。ま、この際贅沢は言ってられねえか。
しかしコイツを着ると、昔トーマ達と宇宙を暴れ回っていた頃を思い出して、サイヤ人の血が騒ぎやがる。
最下級戦士だったオレが、サイヤ人の王子と遣り合う。前代未聞だが、相手が王子様だろうとなんだろうと関係ねえ。
オレは自分の役目を果たすだけだ。
リビングに戻ると、倅共がオレを待ち受けていた。
「おっ! 父ちゃん、カッコいいじゃねえか!」
「やっぱり親父には戦闘服が、一番しっくりくるよな」
「へっ、ありがとよ」
「ほら、名無しさんも見てみろよ」
カカロットの背後から名無しさんが面を覗かせ、笑顔でオレに近寄って来た。
「うん、よく似合ってるよ。やっぱりブルマさんに頼んで正解だったね」
「……」
オレがあんな態度を取ったってのに、何の躊躇いもなく普通に接してやがる。まったく、神経が図太いというか、肝が据わった女だぜ。どうやら、オレは名無しさんを見くびっていたようだ。
オレも彼女に敬意を払わねえとな。
「ああ、戦闘服を着ると身が引き締まるぜ。お蔭で誰にも負ける気がしねえよ」
オレは口角を上げ、名無しさんの頭をくしゃりと撫でてやると、彼女は頬っぺたを微かに赤くして俯いた。
名無しさんの反応が以前に比べ、
「ラディッツ、カカロット。今後の予定だが、ベジータ共が地球に到着次第、現地に向かうぜ。それまで各自待機しとけ」
「それはいいとして、親父。名無しさんと万事仲直りしたんだな?」
「あ? 何のことだ?」
「隠しても無駄だぜ。この一年、親父と名無しさんの仲がギクシャクしてたのはお見通しだからな」
コイツ、気づいてやがったのか。まあ、オレもあからさまだったから、それも当然か。
「ラディッツ……」
名無しさんは複雑な面をしてやがる。
「……お前の気のせいだ、ラディッツ。オレらはいつも通りだぜ。なあ、名無しさん」
「う、うん」
「ほう? 限りなく黒だが……まあ、そういうことにしとくか」
しかしラディッツめ、妙な所で勘が働く野郎だ。そいつをもっと戦闘にも生かせればいいものをよ。
「なあ。父ちゃんと名無しさん、喧嘩してたんか?」
「カカロット、てめえは口を挟むな。余計こじれるからよ」
オレは透かさず釘を刺す。
「ん? ま、いっか」
相変わらず、能天気なヤツだな。ま、それぐらいあっけらかんとしている方が幸せか。
「それより、父ちゃん。オラ、ちょっとカリン塔に行って仙豆貰って来っぞ」
「仙豆?」
「簡単に説明すっと、腹が膨れて体力が回復する豆のことだ」
「そんな便利な物があるのか。分かった、さっさと貰いに行って来い。もし、その間ヤツらが現れたら、迷わず現場に直行しろ」
カカロットが頷いて、慌ただしく出て行った。
「親父、オレもカカロットと一緒に行くぜ。特にやることもないしな」
ラディッツは片手を上げ、カカロットの後を追って飛び出して行きやがった。
「ったく、騒がしいヤツらだ」
倅共が一年前より遥かに強くなっているのは確かだが、問題はどの程度ベジータに通用するかだ。
「二人共、生き生きしてるね。これは、やっぱりバーダックの影響かな」
「それは買い被りだ。どうせ早く自分達の力を試したくて、いても立ってもいられねえだけだろう」
名無しさんは一年前、オレ達をサポートすると言ってこの世界に留まった。
だが、オレ達がベジータ共を始末すれば、役目を終えた彼女は恐らく元の世界に帰るだろう。
この一年、名無しさんと過ごして分かったことがある。オレが手段を選ばず、彼女を無理に支配しようとしても、名無しさんの心は手に入らねえ。悔しいが、他の野郎の女だ。いや、支配ってのは語弊があるか。
何しろ男ってのは、例外なく女の涙には弱いからな。それが惚れた女なら尚更だ……。
何にせよ、彼女がオレを選ぶことはねえだろう。いくら本気で迫ろうとも、名無しさんの心がオレに向かねえことは頭の片隅で理解していた。
分かっていることだったが、長くいればいるほどに別れが辛くなる。オレにとっちゃ生殺しも同然の幕引きだ。
だが、それでもオレは……。
「バーダック、難しい顔してどうしたの? もしかして、怖じ気づいたとか?」
気づけば、名無しさんが心配そうにオレを見上げていた。
オレは咄嗟に彼女の左腕を掴んで、強引に抱き寄せる。
「ちょっと! いきなり、何する――」
「お前の言う通りかもな。だから、少しの間こうさせろ」
不満げにオレを睨む名無しさんの頭部を掻き抱くと、観念したのか、彼女は身体の力を抜いてオレの胴にそっと腕を回した。
「……バーダックなら大丈夫だよ。今まで必死に修業してきたんだから絶対勝てる。それは私が保証するよ」
違う、戦闘が怖いわけじゃねえ。むしろ、ベジータ達と闘えるなんざ、滅多にねえチャンスだからな。思う存分暴れてやるつもりだ。
オレが闘いより夢中になるとすれば、名無しさんだけだ。正直お前を失うことほど、怖いもんなんざねえよ。
「名無しさん……」
名無しさんの後頭部に手を添えたオレは、薄紅の唇を荒々しく奪った。
突然のことで驚いたらしく、僅かに強張るのが伝わってきたが、それでも彼女はされるがままだった。
そんな反応をされたら、もしかすると名無しさんは、オレを好きになったんじゃねえのかと勘違いしちまう。
このまま離したくねえ。叶うなら、名無しさんの全てが欲しい。その想いをぶつけるように、彼女の唇を深く貪る。
絡めた舌を何度か甘噛みしてやると、甘い吐息が洩れた。それを聞くだけで、オレの心は満たされていく。戦闘と似た高揚感、いやそれ以上の心地好い気分に包まれた。
静寂なリビングには、オレと名無しさんの吐息だけが聞こえている。
このまま押し倒したいところだが、そうもいかねえ。オレはどうにか欲望を押さえ込んで、彼女から唇を離した。
「……もうっ、いきなりキスしないで! これから闘いに行く人間のすることじゃないでしょ!」
開口一番、名無しさんがオレを怒鳴りつけやがった。
相変わらず勝ち気な女だな……だが、オレは彼女の豪胆な性格も気に入っている。
名無しさんが去った後は、色褪せた物足りねえ日々が続くんだろうよ。
戦闘第一のオレが人生で二人目の、それも地球人の女に
手触りのいい髪の毛に指を絡める。こうやって名無しさんに触れるのも、残り僅か……いや、これで最後だ。
「何とか言ったら――」
「惚れた女に触れたくなるのは当然だろ。最後なんだから、このぐらい許せよ」
オレは堪え切れずに、本音を洩らしていた。
「バーダック……?」
「!?」
名無しさんがオレを呼ぶのとほぼ同時に、今までにねえでかい気を感じ取った。コイツは紛れもなく、ベジータとナッパだ。
「どうやら客人が来やがったようだ。名無しさん、お前はここで待ってろ。さっさと片を付けて戻って来る。その後は、ドラゴンボール集めを再開するぞ!」
早口で捲し立てたオレは急いでカプセルハウスを後にし、宙に舞い上がった。
「どっちの方角だ?」
「バーダック!」
真下を見ると、いつの間にか名無しさんがこっちを見上げている。
「絶対に無事で帰って来て!」
「ああ、約束してやる!」
オレは名無しさんにそう言い返すと、直ちにヤツらの反応位置を探った。
「……ん!?」
東の方角で一気にエネルギーが膨れやがった。どっちかが、衝撃波でも起こしたようだな。
オレは猛スピードで現地へと向かった。
「親父ぃっ!」
「父ちゃ――ん!」
倅共が後方から、こっちへ向かって飛んで来ていた。
「お前らっ! 仙豆とやらは手に入ったのか?」
二人がオレに追いつき、両側に並んだ。
「それがよ、二粒しかなかったんだ」
カカロットが懐から麻袋を取り出して見せる。
「ふん、それで充分だ。オレには必要ねえからな。ラディッツ、ベジータは確かナッパの戦闘力を一万以上は超えているんだったな?」
ラディッツが頷く。
「よし、雑魚のナッパから先に始末するぞ」
単純に戦闘力だけじゃ、ベジータの力量は計り兼ねる。何せ、サイヤ人の戦闘能力は未知数だからな。
「ナッパを雑魚呼ばわりか。アイツは一応名門出のエリート戦士なんだぜ、親父」
「最早階級なんざ関係ねえよ。強い者が勝つ、それだけだ」
オレがそう言った時、戦闘力の高いヤツらが、猛スピードでこっちへ向かって来ていることに感づいた。
「ヤツらだ」
「ああ!」
二人もヤツらの気配を感じ取ったらしく、険しい面持ちでオレに視線を送ってくる。
「わざわざ出向く手間が省けたな」
オレは眼下に見た。
ちょうど真下は切り立った岩壁に囲まれている。誰にも邪魔されず、闘いには最適な場所だ。
「ここでヤツらを迎撃する」
二人が頷いたのを合図に、オレ達は地上に降り立った。
「お出ましのようだな」
程なくして、オレ達の頭上に目標の敵が現れた。ナッパの野郎が下品に笑い、隣でベジータが薄ら笑いを浮かべてやがる。
二人は言葉を交わした後、地上に降りて来た。
ベジータはオレを一瞥すると、ラディッツに視線を戻して口を開いた。
「ラディッツよ、貴様がオレ達を裏切るとは予想外だったぜ。だが、オレ様は寛大だからな。今回だけは許してやってもいいぞ」
「分かっているとは思うが、ドラゴンボールってヤツが一番の目的だ。大人しくオレ達に寄越すんだな。そうすりゃ、また仲間として迎え入れてやるぜ?」
ニヤニヤと笑いながら、左手を差し出すナッパ。
「お断りだ。ドラゴンボールが欲しいなら、自力で探せよ。オレは貴様らとつるんで、無意味な戦闘をすることに嫌気が差したんだ」
ラディッツがそう言い切った途端、ナッパが怪訝な面に変わる。
「本気で言っているのか? オレ達の中で一番弱いお前が、表立って刃向かうとは正気の沙汰じゃないぜ。ええ? 弱虫ラディッツよぉ?」
「何か勘違いしているようだから教えてやろう。オレはサイヤ人の真の強さを取り戻しただけだ」
ニヤリと口元を歪めるラディッツ。
オレが例の事件を話してやった時から、ヤツは目の色を変えて阿修羅のごとく修業に励むようになった。
幾ら戦闘民族とはいえ、何の為に闘うのかを見失ったサイヤ人の末路は悲惨だ。オレはそういう連中を、何人も見てきた。
今のラディッツは一年前と見違える程、凛々しい面構えをしてやがる。それこそが、サイヤ人本来の姿だ。
「そういうわけだ。今後一切、オレに関わるな」
「なっ、何だと!? 貴様ぁ、ナメた口利きやがって……おい、ベジータ! ラディッツの始末はオレがするぜ! いいよなっ!?」
「ふん、好きにしろ。そんな役立たずは、もう必要ない」
下卑た口調で声を荒げるナッパに、素っ気なく答えるベジータ。
「よっしゃあ! 貴様はオレが血祭りに上げてやるぜ。有り難く思えよ、ラディッツ!」
「まだ勝負も決まってないうちから、よく言うぜ」
肩を回しながら啖呵を切るナッパに、ラディッツは平然と答えた。
まだ故郷が存在していた頃から、ナッパはベジータの側近として働いていた。
オレは殆ど接触がなかったが、サイヤ人の中でも剛腕だという噂はあった。
最下級戦士とエリート戦士の扱いなんざ、雲泥の差があったが……ナッパがエリートってのは、面と向かっている今でも全然そんな気がしねえけどな。
「父ちゃん、オラ達は加勢しねえでもいいんか?」
カカロットが闘いたい気持ちは分かるが。
「今のアイツなら、ナッパぐらい捻り潰せるだろう。見届けてやろうぜ、生まれ変わったラディッツの勇姿をよ」
「ちぇっ、オラも闘ってみたかったのによ」
オレは口角を上げる。
「ガッカリするな。まだベジータが残ってるだろ。お前がアイツと闘えばいい」
「そっか! ナッパってヤツより強そうだもんな。早く闘ってみてえ!」
対峙して知り得たが、恐らくカカロットはベジータを凌ぐパワーを持っているだろう。
ヤツには他のサイヤ人にはねえ、負けじ魂があるからな。万が一にも負けることはねえだろうが……。
「さあ、ラディッツ。楽しい殺戮ショーの始まりだぜ!」
ナッパは指の間接を鳴らし、卑しい笑みを浮かべる。
「いつでも来い、ナッパ。オレは貴様の野蛮な態度が目障りだったんだよ。今こそ、どっちが上か決着をつけようぜ」
ラディッツはナッパを挑発し、わざと怒りを煽ってやがる。
「ぐっ……言わせておけば、調子に乗りやがって!」
案の定、怒りで面を茹で蛸みてえにしたナッパがラディッツに詰め寄り、拳を振り上げた。素早くナッパの左に避けたラディッツが、無防備な脇腹に蹴りを入れる。
「ぐふっ!」
バランスを崩したナッパは、よろめきながら脇腹を押さえた。
「脇ががら空きだ、ナッパ。油断してる場合じゃないだろ」
「こ、こんなバカな……貴様、戦闘力は以前のまま変わらないのに、何故だ……」
ラディッツはナッパに攻撃する際、ほんの一瞬だけ戦闘力を上昇させている。
これは、無駄なエネルギー消費を避ける為の戦術だ。あまりにも素早い出来事の為、スカウターじゃ拾いきれんだろう。
いつまでもスカウターに頼っている連中には、何が起きているのか微塵も理解出来ねえだろうな。
「以前のオレと一緒にされちゃ困るぜ。この際だから、はっきり言ってやろうか。今の貴様じゃオレを倒すことは出来んぞ」
「な、何だと……ふざけたこと吐かしてんじゃねえぞ、この腰抜けが!」
再び突進して振り上げたナッパの腕を咄嗟に腰を屈めて
「ぐっあ……」
ナッパはくぐもった声を洩らすと、その場に崩れ落ちた。
「その程度か。腰抜けは貴様だろ、ナッパ」
「ヘタレの分際でふざけやがって、この野郎!」
さらに頭に血が上ったらしいナッパは左手でラディッツの右足首を掴み、右手に気を溜め始めた。
「何をする気だ?」
「へへへ、こうするんだよ!」
ナッパはラディッツの顔面に向かって、エネルギー弾を放った。
「ぐっ……」
ラディッツは自分に当たる直前、左肘で顔面を防いだ。
「へへっ、ちょっとは堪えただ……ぐはっ!」
ナッパの戯れ言を遮るようにヤツの頭を、ラディッツが容赦なく踏みつける。
「全然利かないぜ。今度は、こっちの番だな。一発でかいのをお見舞いしてやるよ」
さらにナッパの首根っ子を掴み、宙に放り出したヤツに向け、強烈なエネルギー弾を繰り出した。
「うぐあっ!」
ナッパは避ける暇もなく、ラディッツからの攻撃を諸に受けて落下していく。今のでヤツの戦闘力は、がた落ちだ。期待はしてなかったが、ここまで呆気なく片がつくとはな。所詮、エリート戦士ってのは名ばかりか。
ボロ雑巾のようになったナッパが、ベジータの前に倒れ伏す。
「あ……あうう……べ……ベジータ……」
震える腕をベジータに伸ばすナッパ。
ベジータは焦りの表情を浮かべてやがる。ラディッツの強さをようやく痛感したようだ。
「あ……うう……ち、畜生」
「これで分かっただろう、ナッパ。オレとお前の力の差ってヤツをよ」
不敵に笑むラディッツに対し、歯を食い縛るナッパ。
「ベ、ベジータ……た、助けてくれ」
ベジータは無言で、差し出したナッパの腕を掴んだ。
「す、すまねえな……ベジータ」
「なあに……」
ニヤッと笑ったベジータがナッパの腕を力任せに引き上げ、空に向けて放り投げる。
「むっ……!」
まさか、ベジータのヤツ……。
「わあああ――っ! なっ何を……ベジータ! ベジータ――ッ!」
「動けないサイヤ人など必要ない!」
拳を握り締め、全身に気を溜め始める。
「死ねッ!」
ベジータが叫んだ瞬間、全身から爆発波を発動してナッパに直撃させる。
「ベ……ベジー……!」
ナッパはなす術もなくベジータの攻撃の前に砕け散り、周囲に凄まじい爆風が巻き起こった。
やがて事態が収まると、ベジータがラディッツを忌々しげに睨んだ。
……所詮、ヤツにとっちゃ捨て駒か。
「……なんて野郎だ。自分の仲間を簡単に殺しちまうなんてよ」
カカロットは唖然として、ベジータを見てやがる。
サイヤ人の間では珍しい光景でもねえが、オレはああいうやり方が気に入らねえ。自分の仲間をゴミみてえに扱うなんざ、外道のすることだ。チッ、胸クソ悪いぜ……。
「邪魔者が消えた所で、本番といこうじゃないか。ラディッツ、このオレはナッパのように容易く勝てると思うなよ?」
「アンタは惑星ベジータの王子だからな。軽くなんて見てないぜ」
「ふん、それを聞いて安心したぞ。下級戦士ごときにナメられたくはないからな」
双方が臨戦態勢を取った時だ。
「兄ちゃん、ちょっと待ってくれ! オラも闘うぞっ!」
猛スピードで飛び出したカカロットが、両者の間に割って入る。
「カカロット、だが……」
言い渋るラディッツに対し、ベジータが「待て」と割り込んだ。
「クズが一匹増えたところで、オレには何の支障もない。二人纏めて相手になってやる。くっくっくっ……喜ぶがいい、カカロット。貴様のような下級戦士が、超エリートに遊んでもらえるんだからな」
そう宣い、嘲笑うベジータ。
どこまでもプライドの高い王子様だ。
これならオレの愚息共の方が、よっぽど可愛いげがあるってもんだぜ。
「サイヤ人は生まれてすぐ、戦士の素質を検査される。その時の数値が低いクズ野郎がカカロット、貴様のように大した敵のいない星へ送り込まれるのだ……要するに貴様は落ちこぼれだ」
「そのお蔭で、オラはこの地球に来れたんだ。感謝しなきゃな」
カカロット、そこまで地球に執着しているのか。
確かに、オレ自身も居心地の良さを感じている。それに、名無しさんと出逢った星でもあるからな。オレにも多少なりとも思い入れはある。
「それによ……落ちこぼれだって必死で努力すりゃエリートを超えることがあるかもよ」
「くっくっくっ……面白い冗談だ。では努力だけではどうやっても超えられぬ壁を見せてやろう」
ベジータが腰を落として、攻撃の構えを見せた。
大層な自信だな。お坊っちゃまの実力、じっくりと拝ませてもらうか。
「さあ、ラディッツにカカロット! どこからでも、掛かって来い!」
二人も臨戦態勢を取る。
「オラから行くぞっ!」
最初に動いたのはカカロットだ。瞬時にベジータとの間合いを詰め、拳を繰り出すが、ヤツは難なく避ける。
熾烈な攻防戦が続くなか、ラディッツもベジータへの攻撃を加える。だが、まるで霞か幻でも相手にしているかのように、一発たりとも掠りもしねえ。
「どうした、ラディッツ! そんな程度じゃないだろう! ナッパのヤツを倒した時はこんなもんじゃなかった筈だ! カカロット、さっきまでの威勢はどこへ行った!?」
ベジータが倅共への猛攻を繰り広げる。
ヤツの攻撃は瞬きをする間もなく、二人の顔面や腹部に拳で衝撃を与えている。
ふん、口で言うだけのことはあるじゃねえか。
「ぐわぁっ!」
「かはっ!」
倒れた二人が湿った土を舐めるようにして呻いた。
「ガッカリだぜ。所詮、貴様らのパワーはそんな程度か。もう少しオレを楽しませてくれると思ったが、どうやらここまでのようだな」
ベジータは吐き捨てるように言い、両手に気を溜め始める。
「サイヤ人の恥さらしが! とっとと死にやがれ――ッ!」
「そうはさせるか!」
強烈なエネルギー弾がベジータの両手から放たれる瞬間、オレは二人の前に立ち塞がり、バリアを張って攻撃を防いだ。
「何だと!?」
まさかオレが間に入るとは思っていなかったのか、目を見張るベジータ。
やがて爆風が収まり、肩越しに背後を見ると、二人は何とか生きているようだ。
オレは倅共に向けて怒鳴りつける。
「てめえら! その程度でくたばるタマじゃねえだろ! 今までの厳しい修業を思い出して、ベジータにてめえらの本気を見せやがれ! 真のサイヤ人としての強さをな!」
「父ちゃん……」
「親父……」
二人は顔を上げてオレを呼んだ。
「貴様……さっきから気になっていたが、コイツらの父親のバーダックだろう。何故、邪魔をする? こんなクズ共に生きている価値などなかろうが!」
罵声を浴びせるベジータに視線を戻す。
……フリーザやチルドの時以来だな、こんなに腸が煮えくり返るのはよ。
「オレの名を覚えて下さっているとは、光栄の至り。だがな、コイツらは曲がりなりにもオレの倅だ……相手が王子だろうと何だろうと、愚弄される謂れなんざねえんだよっ!」
オレの怒号に一瞬怯んだ様子のベジータだったが、思い直したかのごとく鼻先で笑いやがった。
「くくくっ……親子揃って愚か者だな、バーダック。貴様ら下級戦士と超エリートのオレとでは、天と地の差があるんだ。いい加減、身の程を知りやがれ!」
「身の程を知るのは、アンタじゃねえのか? さっき、カカロットが言っていただろう。落ちこぼれでも必死で努力すりゃ、エリートを超えることがあるってな」
皮肉を込めて言ってやると、ベジータの眉が吊り上がった。
「ふざけるな! この超エリート戦士ベジータ様が負けるわけがない!」
ベジータが虚空を切るように、右手を後ろへ振り払う動作を見せる。
「じゃあ、試してみるか?」
オレは口角を上げた。
「何だと?」
「てめえら! さっさと起きやがれ!」
振り向き様、倅共に発破をかける。
「親父……!」
「分かったぜ、父ちゃん……!」
俯せから仰向けになったカカロットが懐から麻袋を取り出し、「兄ちゃん、仙豆だ……!」とラディッツに例の
すると、瞬時に体力を回復した倅共は威勢よく起き上がり、再びその目に闘志を燃やす。
「何!?」
二人の様子に怯むベジータ。
「こっからが本番だ。行くぜ、兄ちゃん!」
「ああ、分かってる!」
オレが見守るなか、二人は集中して増幅していた気を一気に開放する。
「なっ……ぐっ!」
今までの闘いが嘘のように、ベジータに攻撃が当たるようなった。二人の猛攻が打ち続くなか、ベジータも何とか応戦している。
「よく聞けよ、ベジータ!」
ベジータの拳を片手で受け止めたラディッツが口速に喋る。
「っ……何をだ!?」
「惑星ベジータ消失の真実をだ」
「真実、だと?」
ベジータが眉をひそめる。
ラディッツはオレが教えたように、惑星ベジータの事件を王子に聞かせた。
すると、見る間にベジータが驚愕の表情に変わっていく。
だが、それを否定するように首を激しく振ったベジータは、「まさか、そんな戯れ言を信じろとでも言うのか!」とラディッツの話を拒んだ。
「だが、それが真実だ。惑星ベジータはフリーザに破壊されたんだよ。木っ端微塵にな」
「っ……なら、オレはフリーザに利用されていただけなのか……!」
「そうなるな。オレも真実を知った時、鈍器で頭を殴られた気分だったぜ」
ラディッツが返答すると、ベジータは「くそったれが! このオレ様があんな陰険野郎に踊らされていたとはなっ!」と歯噛みして悔しがった。
「!?」
次の瞬間、身体中に戦慄が走る。この粘りつくような不快感、忘れる筈もねえでかい気を肌でビリビリと感じ取った。
コイツは……この気は、まさか!?
「父ちゃん、何かでかい気が近づいて来っぞ!」
「この気は、ヤツしかいねえ!」
頭上を仰ぐと、いつの間にか見覚えのある宇宙船が、どんどん目前まで迫って来ていた。
あの宇宙船、オレが見間違う筈もねえ。ヤツの船だ!
大方、どこぞからドラゴンボールの存在を嗅ぎつけて、のこのこ湧いて出て来やがったんだろうが……!
オレは全身の血液が沸騰するような、抑えがたい怒りが込み上げていた。
「とうとう親玉の登場か。この時を待ってたぜ……フリーザッ!」
やがて、宇宙船は地上に着陸し、上部ハッチが開くと同時に、雑魚共が一斉に飛び出して来やがった。
「ベジータ! 曲がりなりにも戦闘民族の王子なら、サイヤ人の誇りにかけて尽力しやがれっ!」
「!?」
「雑魚に用はねえ! 退きやがれ!」
群がる雑魚敵を片っ端から薙ぎ倒し、オレは船の天辺に位置取る。
「フリーザッ! さっさと出て来てオレと勝負しやがれっ!」
オレは怒り狂い、声の限りフリーザへ怒号を浴びせる。
すると、船の中央から諸悪の根源――フリーザが不敵な笑みを浮かべ、姿を現した。傍らにドドリアとザーボンも従えてやがる。進歩のねえヤツらだ。
フリーザの野郎は、以前目にした小型ポッドには乗ってやがらねえ。闘う気満々だな。へっ、こっちとしちゃ願ってもねえぜ。
「随分煩いハエが飛んでいると思ったら、アナタでしたか。全くもって鬱陶しいですね。私はしつこい下等生物が嫌いなんです。どうやって生き延びたのかは知りませんが、死ぬ時間がほんの少し延びただけに過ぎませんよ?」
フリーザは高笑いしながら、皮肉たっぷりに宣った。
チッ、いちいち癪に障る野郎だ。だが、同じ過ちは繰り返さねえ。今度こそ、死んでいった仲間の為にも、名無しさんの夢を叶える為にも、オレの手でヤツを地獄に葬ってやる!
オレは仲間と名無しさんへの誓いを胸に秘め、フリーザを真っ向から睨み据える。
「……フリーザ。今こそ戦友の恨み、晴らさせて貰うぞ!」
「……ほう?」
「……」
ヤツは以前のオレと違う雰囲気に勘づいたのか、しばらく腹の探り合いが続く。
こうしてフリーザと対峙しているオレは、最早仇敵を撃ち倒すことしか頭になかった。
「フリーザ様、この愚か者の相手は我々が致します」
「いいえ結構です、ザーボンさん。どうやら、このおバカさんは未だに懲りていないようですね。この際、私が直々にお灸を据えて差し上げますから、ドドリアさんも他の連中を頼みますよ?」
「御意!」
ザーボンとドドリアが散り散りになり、倅共に襲い掛かる。
「さて、こちらも始めましょうか。どこからでも掛かって来なさい」
フリーザは余裕綽々で、オレを挑発しやがる。
「お望み通り、こっちから行くぞ!」
戦闘は先手必勝。それを熟知していたオレは、即座に攻撃を仕掛ける。
右手に気を集中させ、渾身の拳をヤツに見舞ってやる。オレの強烈な右ストレートを喰らったフリーザは、何事もなかったかのごとく嘲りやがった。
「どうも以前と雰囲気が違うと思いましたが、戦闘力も上がったようですね。ですが、その程度で私に勝てると思ったら大間違いですよ?」
コイツ、わざと喰らってオレの力量を試しやがったのか!
どこまでも、いけ好かねえ野郎だ!
「お次は私の番ですか。では、行きますよっ!」
ぬけぬけとほざいたフリーザは、オレに向け尻尾を一気に振り下ろすが、そいつを瞬時に躱した。
「ほう、これを躱しますか」
「けっ、んなチンケな攻撃喰らうかよ!」
オレが罵ると、ヤツは「威勢の良さは以前と何ら変わりませんね。大変目障りですが……」とほざき、ところでと唐突に話を切り出した。
「どこかのおマヌケさんのスカウターから、地球には何でも願いを叶えてくれるドラゴンボールがあると、貴重な情報を手に入れましてね。私も永遠の命を授かる為に、喉から手が出るほど欲しいのですよ」
「何だと?」
「ですから、大人しくドラゴンボールを渡していただけませんか? ああ……何なら、命だけは助けてあげてもよろしいのですよ? 今回だけは特別に、ね……」
案の定、コイツもラディッツのスカウターを傍受してやがったのか。オレの読みは間違っちゃいねえようだが。やはり、このクソ野郎はいけ好かねえ……!
「ふざけるなっ! 誰が貴様なんざに渡すか! 勝負の途中で私情挟んでんじゃねえ!」
フリーザの腑抜けな問いに怒りを募らせたオレは、ヤツの顔面にエネルギー弾を連続で見舞い、怯んだ隙に中段回し蹴りを喰らわす。
「ぐぅっ……!」
ヤツは後方に吹っ飛ぶが、しぶとく宙で受け身を取った。
「……そうですか、大人しく教えてくださる気はないと……では、意地でも話したくなるようにして差し上げましょうか。アナタに良いものをお見せしますよ」
「良いもん、だと?」
オレが片眉を上げると、ヤツは口元を歪めた。
「私は変身型の宇宙人なんですが、手っ取り早くアナタ方と決着をつけて、ドラゴンボールを集めなくてはなりません。なので、特別に最終形態をご覧に入れましょう」
そう宣ったフリーザは「がああああ……!」と叫び出して、空気が震え、大地を切り裂く。
ヤツの気が瞬時に跳ね上がり、瞬く間に姿を変えただけじゃなく、気も大幅にレベルアップしやがった。
「これがヤツの真の力か……」
カカロットには悪いが、オレは本気のフリーザとサシで闘いたいと武者震いして勇み立つ。
「おや、震えてどうしたのかな? もしかして、ボクが怖いのかい? だけど、この姿になった以上は独りも生かしておかないよ」
フリーザは厭味に笑い、超スピードでオレに突撃してくる。
「があっ!」
諸に攻撃を喰らったオレの身体は、くの字に折り曲がった。
……ぐっ、息が出来ん。ヤツの強さは本物だ……だが、そうじゃねえと面白くねえ。
一瞬息が止まったオレだが、何とか態勢を立て直す。
甘いな、切り札は最後まで取って置くもんだ。
「……フリーザさんよ、何も変身出来るのはてめえだけじゃねえんだぜ?」
「何だって?」
フリーザが怪訝な面に変わった。
「信じられんか? なら、今から拝ませてやろう」
オレは幾分平静を取り戻し、口角を上げる。
「何を生意気な……」
「貴様は今度こそ、オレがぶっ潰す!」
「君がボクを潰す? 本当に冗談きついね」
フリーザが口元に手を当て、余裕の笑みを浮かべてやがる。
いつまでも自分が宇宙最強だと勘違いしてやがる、その鼻っ柱をへし折ってやるぜ……。
オレは両拳を握り、フリーザへの純粋な怒りを糧にして大地を震わせ、チルドの時以上の力を発揮し、超サイヤ人2に変貌を遂げた。周囲に烈々とスパークを纏い、怒りが頂点に達したオレはヤツを真っ向からねめつける。
「これが超サイヤ人を更に超えた、超サイヤ人2だ。こいつに変身した以上は自分でも制御出来ねえ……するつもりもねえがな。全力で行くぞ、フリーザッ!」
「戯れ言を……超サイヤ人なんて、簡単に捻り潰してあげるよ。所詮サイヤ人ごときが、無敵のボクに敵う筈がないんだからねえ」
「分かってねえな、フリーザ。サイヤ人の憎しみを……貴様だけは絶対許さねえ!」
オレは勢いをつけ、フリーザに攻め掛かる。
「ふん、小癪な!」
ヤツも迎撃態勢についた。
正面衝突したオレ達は火花を散らし、肉弾戦を繰り広げる。
予想外に苦戦を強いられ、全身に痛撃を喰らいながらも、何とか一瞬の隙をつく。ヤツの顔面に渾身の上段回し蹴りを与え、その憎たらしい横っ面に傷をつけてやる。
フリーザは顔面を歪め、舌打ちした。
「忌々しい猿めが!」
「へっ、油断してんじゃねえよ!」
ふん、ちったあ効いたみてえだな。
汚ぇ血を拭い、
「やっぱ父ちゃんはすげえな!」
「ああ、無茶な重力を克服した結果だろう。超サイヤ人の限界を更に超えた、超サイヤ人2か。親父の本領発揮って所だな!」
「バカな、超サイヤ人2だと!? 下級戦士ごときがふざけやがって!」
雑魚やザーボン、ドドリアを相手していた倅共やベジータが、それぞれ反応は違うがオレの姿に驚いているようだ。
だが、今はそんな悠長なことを言っている場合じゃねえ。今は目前にいる、この腐れ外道を何とかしねえとな!
「認めん……超サイヤ人なんか認めんぞ! 宇宙一の帝王フリーザ様に誰も敵うわけがないんだっ!!」
フリーザは喚き、オレに連続エネルギー弾を浴びせてくる。
満身創痍のオレは、既に体力の限界を超えていた。それでも尚、捨て身の覚悟で闘志を燃やし、一歩も怯まずヤツへと接近していく。
「……宇宙一の帝王だと? それがどうした?」
フリーザは「何だと!?」と一瞬怯むが、オレとの間合いを一気に詰め、性懲りもなく拳を繰り出す。オレはそれを片手で受け止めた。
「覚悟するんだな、フリーザッ!」
ヤツの腕を掴み、気力だけでジャイアントスイングを見舞ってやる。
「ぐっ!」
フリーザの身体が投げ出され、オレは先んじて天高く蹴り上げたが、ヤツはまたしてもしぶとく宙に留まった。
「クソッ、絶対に認めんぞ! オレより強いヤツなんて、この世にいるわけがないっ!」
フリーザは両手を空に掲げ、巨大なエネルギーボールを生み出す。
その様を目にしたオレは舌打ちする。
「……貴様はチルドと同レベルだな。くだらねえ寝言ばっかほざきやがって!」
オレは義憤に燃え、満身の力を振り絞った気弾を右手に生み出した。
「貴様ら全員消えてなくなれええっ!」
ヤツは絶叫しながら、オレに向けエネルギーボールを繰り出す。
「消えるのはてめえだっ!」
オレも怒号をあげ、振りかぶって全魂込めた気弾を撃ち放つ。
双方のエネルギー弾が真っ向から激突し合い、凄まじいパワーの攻防戦を巻き起こす。
ヤツの力も驚異的だが、オレは右手に注力し、渾身のエネルギー弾を幾度となく撃ち込んだ。
「てめえもこれで終わりだあああっ!!」
立て続けて起こる轟音に空気全体が膨張し、一瞬音も消え失せるが、次の瞬間、凄まじい鳴動と爆風が周囲に巻き起こる。
「ぐぬぬ……このオレがああっ!!」
激闘の末、辛くもオレが競り勝つと、フリーザは断末魔を上げながら、一気に大気圏を離脱していきやがった。
あの様じゃ、太陽まで一直線だな。まず助からねえだろう。
ヤツを撃破した後、ようやく怒りが収まったオレは無念の死を遂げた仲間を想った。
「……」
トーマ達の仇討ちを遂げ、少しは気が晴れるかと思ったが、オレの心に空いた穴は埋まらねえ。所詮、仇討ちなんざ、己のエゴが生んだ恨みの塊なんだろうと悟った。
それでも、アイツらの為に死力を尽くしてやりたかったのは事実だがな。
「父ちゃーん!」
「親父!」
超化を解いたところで、残党を片付けたらしい倅共がオレの元に駆けつける。
「お前ら……」
「父ちゃんすげえな! さっすがオラの自慢の父ちゃんだ!」
「親父、よくやってくれた!」
倅共は喜んでいるが、オレは気が咎めていた。
「いや……それよりカカロット、悪かったな」
「ん? 何がだ?」
「お前もフリーザと闘いたかっただろうが、断りなく始末しちまったからよ……」
「オラは気にしてねえって。そりゃあ、確かに闘ってみたかったけどよ。それより父ちゃんから物凄ぇ気迫を感じたからな。オラの出る幕じゃねえと思ったんだ。だからよ、父ちゃんもそんなに気にしねえでくれよな!」
倅は満面の笑みで応えた。
オレも釣られて笑みを浮かべる。
「そうか。なら代わりに、これからも毎日、地獄の特訓を強いてやろう」
「おう、望むところだ!」
カカロットの意気込みは大したもんだぜ。オレも気合いを入れ直すか。
「ラディッツ、お前も今から覚悟しとけよ?」
「オレもかよ!」
「当然だろ」
倅が騒ぎ立てるなか、ふと機械音が耳に届いた。
「ん?」
オレは頭上を振り仰ぐ。
その時、一機のジェット機が降下するのが目に入った。
やがて中から、よく見知ったヤツが姿を現す。
「名無しさん……」
「バーダック!」
名無しさんはオレを見つけるなり、飛びついて来た。
……ったく、待ってろって言ったのによ。まあ、コイツが大人しく待つタマじゃねえか。
「やっと、全部終わったんでしょ?」
「どうして分かった?」
「ブルマさんとジェット機でギリギリまで近づいて、空から様子を見てたら、閃光が見えて物凄い爆音がしたでしょ。その後急に静かになったから、全部終わったと思ったの」
名無しさんはオレを見上げながら、今までの状況を聞かせてくれた。
オレは「そうか」と応え、彼女を自分から引き離す。
「バーダック?」
「残念ながら、まだ終わってねえ……」
オレがある一点を見据えながら言うと、名無しさんは「え?」とオレの視線の先を辿る。
「ベジータだ」
ベジータはオレに、あからさまな敵意を向けてくる。
「バーダック……貴様ごとき下級戦士があろうことか伝説の超サイヤ人、それも2などとオレは認めんぞっ!」
「認めるも認めねえもてめえの勝手だが、オレに突っ掛かるのは筋違いじゃねえか?」
「何だと?」
ベジータが眉間に皺を寄せる。オレの言葉の意味が理解出来ねえようだ。
「超サイヤ人はオレの仲間をフリーザに殺された怒りや自分の不甲斐なさを糧にして、初めて変身出来たもんだ。それはてめえが何かを守りてえと想う信義、どこまでも己を信じる道だ」
「ふん、戯れ言だな」
やはり、コイツは何も分かってねえな。
「そう思うか? だが、てめえがそれを理解出来ねえうちは、どう足掻いても超サイヤ人にはなれねえぜ」
「下級戦士の貴様が超サイヤ人になれて、このオレにはなれんだと!? ふざけるなっ!」
ベジータは懲りずに牙を剥いた。
「別にふざけてねえよ。今やカカロットのパワーはラディッツの上を行く。コイツには超サイヤ人になれる素質が充分ある。言っとくが、今のてめえじゃカカロットどころか、ラディッツにも勝てねえだろうな」
オレはベジータを見据え、にべもなく返事する。
「クソッ、やってみなければ分からんだろうが! オレと勝負しろ、バーダック!」
怒号を放ち、突撃してくるベジータ。
オレが咄嗟に構えた時、瞬時にカカロットが間に入り、ベジータの拳を難なく片手で受け止めた。
「何っ!?」
カカロットは真剣な眼差しで、ベジータを見やる。
「止めろ、ベジータ。父ちゃんとフリーザとの闘いを見ただろ。今のおめえじゃ、父ちゃんにゃ到底敵わねえぞ」
「ぐっ……」
ベジータは顔面を歪めた。
「それと、ドラゴンボールも潔く諦めるんだな」
歯噛みするベジータに対し、名無しさんに目線を向けたカカロットはさらに続ける。
「ドラゴンボールはそこにいる名無しさんの為に使うんだ。おめえの私利私欲の為に、利用させるわけにゃいかねえ!」
「ぐぁっ!」
カカロットがベジータの拳を握り潰すと、ヤツは面を歪めて呻いた。
オレの想いを代弁したカカロットに、心底感心していた。
今、ようやくはっきりと分かった。カカロットには他のサイヤ人に欠落している、絶対悪を許さねえ正義と相手を思いやる心があることを。
「くそったれが……!」
ベジータはまだ諦めがつかないらしく、しぶとく膝蹴りを喰らわそうとするが、それもカカロットに阻まれた。ヤツは完全に力負けしている。勝敗は決していた。
「このオレ様が、カカロットごときにも敵わんのか……!」
負け惜しみが強いヤツに向け、オレは口を開く。
「王子よ、てめえ以外の人間を見下しているうちは、何をしたって上手くいかねえぜ」
それは、うちのバカ息子にも言えることだがな。
「何……?」
「ベジータ、地球に留まれ。どうせもう行く当てなんざねえだろ」
ヤツの片眉が動く。
「それが、どうした……」
「だったら、この地球に残ってカカロット達と修業しろ。そして、己の信じる道を歩め」
「……」
ベジータは無言でオレを睨むが、構わず続ける。
「王子、もう一度だけ言う。この地球で一から修業して、自分の信じる道を行け」
「父ちゃんの言う通りだ、ベジータ。オラ達と一緒に稽古しようぜ」
「……」
カカロットがベジータを解放すると、自由になったヤツはしばらく思案していたが、やがて徐に口を開いた。
「……ふん、下級戦士ごときに指図されるのは癪だが、そこまで言うならばよかろう。だが、勘違いするなよ? 貴様ら親子を叩き潰すまで、オレの気が済まんからな。バーダック、必ずや貴様の超サイヤ人2とやらを超えた存在になってやる。覚悟しておくんだな!」
ベジータは叩き潰すなどと発言とは裏腹に、オレの言葉が通じたのか、その目には今までの邪悪さは影を潜めていた。
オレを超えようとする目標が出来た今、ヤツは生まれ変わったかのごとく真のサイヤ人としての素質、意志の強さを宿しているようだ。
オレは「楽しみにしてるぜ」と頷いて見せる。
その後、ベジータはオレの言葉通り地球に留まったが、カカロットの家には行かず、意外にもブルマの誘いで西の都に住むことになる。
残る課題は全てのドラゴンボールを集め、名無しさんの夢を叶えるだけだ。
永遠の別れは、いよいよ間近に迫っていた。