★Short Dream
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ここは自然豊かな小惑星。
私の家はいわゆるログハウスで、物心ついた頃から、ここに独りで住み着いていた。
ずっと前から、もう家族はいない。多分だけど、自宅は父母が遺してくれたのかもしれない。私のただの憶測だけどね。
けれど、ホントの孤独じゃなかった。それは、いつも相棒のシマリス――ムーンが居てくれるからだ。
しかも不思議なことに、幼少時から彼の心の声が聞こえるようになった。
だから、少しも寂しさを感じなかった。
――明け方。ふと目が覚めると、それに気づいたらしい、ムーンが私の肩口に小さな体躯を寄せて来る。
《どうしたの、名無しさん?》
《ううん、何でもない。心配させてごめんね、ムーン》
《そっか。それなら、いいんだ》
そう言って、ふにふにと私の頬っぺに擦り寄るムーン。
相変わらず、愛くるしくて可愛いなあ。
その間際、突然お腹の底に鳴り響く様な地響きが起こった。
「な、何!?」
その瞬間、窓外で小鳥達の鳴き声が一斉に響き渡り、激しく羽ばたく音が聴こえた。
「あ、ムーン!」
途端、相棒が私から離れて、戸口まで走り出したのだ。
私は慌ててベッドから飛び降りると、ムーンを掬い上げて左肩に乗せる。
《もう逃げちゃ駄目だよ?》
《だって、ビックリしたんだもん。仕方ないでしょ》
相棒は可愛らしく鼻先をヒクヒクと私の鼻先に寄せて来た。
「すぐ誤魔化すんだから」
私はムーンを伴い、戸口を開けて辺り一面を見渡してみる。
すると、東の方角でモクモクと煙が上がっていた。
あそこは森の中心部だ。私自身、幾度も足を運んでいる。私が水浴びする湖があったり、樹の実が豊富に摘める憩いと食料調達の場だ。
不思議に思いながら、その方向に歩み出す。
ちょっと嫌な予感がしながらも、歩みだけは止めない。
「ムーン、どう思う?」
《う〜ん、きな臭いね》
「事件の予感かな?」
《そうだね、ボクもそう思う》
そんな会話をしつつも、目的地に向かい、辿り着いたのは湖から数十メートル離れた地面に大きな穴が空いていて、恐る恐る覗き込んでみると、丸くて大きな物体から延々と黒煙が立ち昇っている。
《名無しさん、あれ何だろう?》
「私にも分からない」
次の瞬間、物体の中央部分が開いた。
そして、中から見知らぬ人が現れた。
それは、長身で鍛え抜かれた体躯の男の人だった。
《誰だろうね?》
「分からない。けど、神秘的な人だね」
《惚れたの?》
「う〜ん、どうだろう……」
よく観察すると、身体中に怪我を負ってるみたい。
あ、目が合った。
漆黒の髪と眼差しに自然と惹きつけられる。
単純に美麗だと思った。
《名無しさん?》
「ムーン、私何か変……」
《何が?》
「心がいつもと違う……とてもざわつく」
《一体どうしたんだろうね》
その間、男の人は呻きながら片膝をついてしまう。
それを目視した私は慌てて彼に走り寄った。
「あの、お兄さん大丈夫?」
顔を上げた男性は、より間近で見ると端正な面差しで、黒のロングヘアを一つに束ねた美男子だ。
けれど、あちこちに怪我を負っていて、とても痛ましい。
「誰だ、アンタ……」
顔を上げた彼の瞳に思わず吸い込まれてしまう。
「あ……私はこの惑星の住人で、名前は名無しさん」
「そうか、名無しさんか。美しい響きだな」
彼は徐に片腕を伸ばして、私の頬に手を添えてくる。
温かい。初めて人の温もりに触れて、こんなにも豊かな心地になれるなんて、少なからず感動を覚えた。
「あ、ありがとう……そうだ、あなたのお名前は?」
「オレはブロリーという者だ」
ブロリーと名乗った男の人は、何故怪我をしているんだろう?
思い切って質問してみると、彼は硬く口を閉ざしてしまった。
このままだと拉致もあかないし、取り敢えず自宅に招いて怪我の手当を施してあげた。
「すまない、名無しさん。お前まで巻き込み事故だな」
「そんなの気にしないで。お互い様だよ」
私はそれより、ムーン以外の話し相手が出来たことに、大きな歓びを感じていた。
「あなたはどこから来たの?」
「惑星ベジータという星だ」
「そこはどんな星なの?」
「あまり環境は良くなかった。オレ好みじゃない」
これは、あんまり触れて欲しくないみたい。これ以上踏み込まない方がいいかも。
《ねえねえ、名無しさん。ボクも紹介して欲しいな》
《うん、いいよ》
ブロリーは不思議そうに首を傾げる。
「どうした?」
「うんとね、ブロリーに私の相棒を紹介したいの」
ムーンが私の肩口でブロリーにぺこりとお辞儀をする。
「そいつはシマリスか?」
「よく知ってるね。そっか、ブロリーは博識なんだ、スゴいスゴい!」
「別に普通だと思うがな。だが、悪い気はしない」
彼の微笑む姿が美しくて絵になる。思わず胸が高鳴った。
「あ……それでね、名前はムーンていうの。私、月明かりが好きだから、そう名付けたの」
「ムーンか。名無しさんの大事な相棒なんだな」
「うん! とっても可愛いでしょ?」
「オレは名無しさんも充分可愛いと思うぞ」
そう言われて、髪を優しく撫でられた。
どうしよう、胸がキュンとしちゃう。
ドキドキして、心臓の鼓動が早鐘を打つみたいだ。
「ちょっと恥ずかしいかも……」
「それぐらいで照れたのか。益々可愛いな、名無しさんは……」
「!?」
途端、片腕を掴まれて背後から抱き込まれてしまう。
「わ、ビックリしちゃった……」
「何がだ?」
「だって、私誰かに抱き締めて貰ったことなんてないの。これが初めてなの」
「オレも誰かを抱き締めたのは初めてだ。名無しさんといると不思議と心が安らぐ」
その時、首筋に何か柔らかい感触が伝わった。
それが、彼の唇だと気づくまで数秒かかった。
「擽ったいよ、ブロリー」
「名無しさんは柔肌だな。ずっと触れていたくなる」
次の瞬間、生温かい感触を肌に感じて変な声が洩れてしまう。
もしや舌で舐められたのかな……?
少し恥ずかしくなって、身体が火照る……。
「本当に可愛いな……その声をもっと聴きたい」
「ブロリー恥ずかしいよ……もう止めて?」
「イヤだ、もっと名無しさんに触れていたい」
「ブロリーの意地悪……」
「これがオレの本音だ」
彼の舌先は首筋から耳にまで到達して、耳朶を甘咬みされてしまった。
「私、何か変な気分になっちゃう……」
「何がだ?」
「何だかふわふわするの……」
「そうか、もっとして欲しいか?」
私は素直にこくんと頷いた。
ふっと笑うブロリー。
「正直者は好きだ」
次の瞬間、耳孔にブロリーの舌が侵入してきた。
またしても、変な声が出てしまうぐらい快い感じ。
私、どうしちゃったんだろう?
ブロリーが丹念に耳の中を舐め回すから、私の体躯が熱を帯びる。
「ブロリー……もっと……」
すると、ブロリーは一旦顔を離して、「名無しさん、こっちを向け」と私の顔を後ろに向かせる。
そして、ゆっくり唇同士が重なり合った。
ホントに気持ちいい……その柔らかな感触に思わず夢中になっちゃうかも。
まるで、お互いの存在を確かめ合うように唇を重ねて、それが段々深くなっていく。
粘性の水音が部屋中に届き、瞳がとろんとしちゃう。
その間、唇の隙間からブロリーの舌が入ってきて、私の舌を絡め取られた。
途端、背筋がゾクゾクする程の快感を覚えてしまう。
彼の舌は熱を孕んでいて、いつまでも繋がっていたいと思う程、心地よい。
と、その時。
《名無しさん、そろそろ食事の時間だよ》
《え……やだ、もっとブロリーと触れ合ってたい》
《だーめ、名無しさんは少食なんだから一食でも抜かしたらボクが怒るよ。もし食べないなら、ブロリーの顔を引っ掻いちゃうんだから》
《それは駄目!》
私が心で叫ぶと、それを感じ取ったらしいブロリーが唇を離して、自身の口端をペロリと舐めた。
それが堪らなくセクシーで思わず見惚れちゃう。
「名無しさん、今はここで終いだな」
「うん……」
名残惜しいけど、仕方ないか。
またブロリーと触れ合いたいなあ。
そんなことを願いつつ、食事の支度に取りかかった。
「これは何だ、名無しさん」
「樹の実のサラダと薬草のスープと茸のおひたしと魚の塩焼きだよ」
私から説明を受けたブロリーは眉間に皺を寄せた。
「肉はないのか?」
「時々食べるけど、基本こんな感じかな。ブロリーは気に入らない?」
「そういう訳でもないがな。オレは狩りをしてカロリー摂取している分、筋肉をつけるために、どんな肉でも主食としている」
「そっか、だから筋骨隆々なんだね」
私が納得すると、ブロリーはこくりと頷いた。
「しかし文句を言っても仕方ないか。名無しさんが作ってくれた物は何でも食おうと思う」
「ありがとう、ブロリー」
私が笑うと、彼も微笑み、合掌して食事を始める。
「意外と美味いな。野草も魚も悪くない」
「嬉しい! どんどん食べてね?」
ブロリーはああと応えて、残さず綺麗に食べてくれた。
因みにムーンの餌は毎食、野苺だから用意するのも簡単で、いつも美味しそうに食べてくれる、とっても可愛らしい子だ。
――後片付けの後。
《名無しさん、そろそろ水浴びの時間だよ》
《もうそんな時間か。早いね》
「名無しさん?」
「ブロリー今から水浴びしに行こうよ」
私はブロリーの片手を取って、左右に揺らす。
「例の湖でか?」
「うん。あの湖は私の一番お気に入りの場所なんだ。近くに色んな花が咲いているから、目の保養にもなるんだよ」
「そうか。じゃあ、行くか?」
「うん♪」
私はバスタオルと着替えを用意すると、二人と一匹で湖に足を運んだ。
――数分後。
まずは桟橋に座ると、服のまま両脚を湖面に沈めた。
うーん、冷たくて気持ちいい。
ムーンはあんまり水が得意じゃないから、樹の実を食べにどこかに行っちゃったみたい。
ブロリーは躊躇いなく湖面に入り、優雅に泳いでる。その姿がとても美しくて、うっとりと魅入った。
「やっぱり様になるなあ……文句なしにカッコいいよ」
脚をポチャポチャ遊ばせていると、突然顔に水飛沫がかかった。
「キャッ、何!?」
「驚いたか、名無しさん」
いつの間にか、傍に来ていたらしいブロリーが私に水を浴びせたみたい。
「もう、ブロリーはヤンチャな子供みたい……」
それにしても、彼を改めて見ると。
水も滴るイイ男だ。
私照れちゃって、どこを見ていいか分からない。
「名無しさん……」
「え!?」
名前を呼ばれて、片腕を掴まれ、湖に引っ張り込まれてしまう。
私の身体は水面に浸かり、ブロリーと隙間なく密着した。
「は、恥ずかしいよぉ……」
「恥ずかしがる様もグッとくるな」
「もう……あんまり見ないで」
「イヤだ。名無しさんの愛らしい姿をとくと魅せてくれ……」
耳元でセクシーボイスで囁かれ、序におでこにキスを貰ったら、あっという間に腰砕けになっちゃう。
ブロリーに抱き締められている私は、彼の胸元に両手を添えて、浅く呼吸するので精一杯。
「ブロリー……」
「どうした?」
「私、あなたといると変になる……けど、安心感もあるんだ」
「奇遇だな、オレもだ。名無しさんに触れれば、心地好いし癒やされる。同時に、オレ自身が男だと再認識させられる。お前を心から欲しいと想うからだろうな」
熱を帯びた眼差しを受けて、躰ごと蕩けそうになる。
そっか、私……。
「ブロリーお願いがあるんだけど、いいかな?」
「何だ?」
「このまま、ずっとこの星に居てくれないかな?」
私が問うと、彼は穏やかな表情になる。
「ああ、もちろんだ。オレもそのつもりでいたから、ちょうどいい」
「わあ、嬉しい!」
思わず感嘆の声を上げ、ブロリーの胸板に頰を寄せた。
すると、ギュッとされて、彼の鼓動を間近に感じた私は、胸がとくんとなる。
「オレも死ぬまで名無しさんと居たいと願っていた。普段は神なんぞ全く信じない質だが、今なら素直に感謝出来るな」
本当にブロリーは私が欲しい言葉をくれる。
これが夢じゃないといいな。
「ブロリー……大好きだよ」
「オレも名無しさんが大好きだ」
二人は引き寄せ合うように、ゆっくりと唇を重ねた。
彼との二度目のキスは甘酸っぱくて、
胸がキュンとしちゃう。
カッコよさの中に可愛らしさを備えたブロリーを好きにならない訳がない。
こんなにも愛しいと想えるのは、相棒のムーンのお蔭かな。
そんなことを感じながら、甘いひと時に浸っていた時だ。
《名無しさん、そろそろ上がってきて?》
《もうかあ、残念……》
「どうした?」
私から唇を離したブロリーが尋ねてくる。
「そろそろ上がらないと」
「そうか、躯は平気か?」
「うん、大丈夫だよ」
昔からムーンは時計の代わりを果たしてくれてる。彼は体内時計が発達してるみたいね。
年中、私のサポート役をしてくれてるから助かるんだけど、もう少し甘い時間が欲しかったなあ。
でもね、ブロリーとこれからも一緒に過ごせるのは、手放しで嬉しい。
とっても素敵なプレゼントを貰った気分。
この先の未来が、とっても愉しみだ。
――その晩。
就寝前、ベッドに横たわったブロリーと私は身を寄せ合っていた。
ムーンは自分専用の寝床でぐっすり夢の中だ。
夜更けの窓の外では、引っ切り無しに土砂降りの音がする。
「かなり降ってるな」
「たまにこういう降り方するの」
遠くで雷鳴も聴こえる。
「名無しさん、怖くはないか?」
「ちょっと怖い……でも、ブロリーとムーンが居てくれるから大丈夫だよ」
「可愛いことを言ってくれるな」
「だってブロリーといると安心するんだもん」
「それは何よりだ」
ブロリーに後頭部を抱えられて、グッと引き寄せられた。
「ブロリー?」
「名無しさんの香りは癒されるな。仄かな甘い匂いがする。思わず食べたくなるな」
「ふふ、ブロリーは可愛いね」
「何を言う、可愛いのは名無しさんだ」
さらっと男前なセリフをくれるブロリーに、またしてもキュンとなる。
「ムーンと二人だけの時は何も感じなかったのに、ブロリーと過ごす時が増える度に、あなたに自然と惹かれる私がいるんだ。なんだか、私らしくないや……」
「それはオレもだ。お前との時間は何物にも代えがたい貴重なひとときだ。人の生き様とは存外、利他との関わり合いが密接なんだろう。到底独りで生きるのは困難だ」
オレは真逆だったがなと、微苦笑するブロリーに感心してしまう。
「孤独だったオレに生きる意味を教えてくれたのは、他でもない名無しさんだ。改めて言うが、オレの命は全てお前のために使おうと想う。もちろん、お前の相棒も含めてな」
「ありがとう、ブロリー。とっても嬉しい。私もあなたの為に一生懸命生きるね。もちろん、ムーンの為にも」
「それでいい。何より、自分らしく生きることが大事だ。その為にも、日々生き甲斐を感じながら、お前とともに歩んでいこうと想うぞ。こんなにも名無しさんへの愛しさが溢れ出る気持ちは初体験だ。もうこれ以上は言葉にならないな」
ブロリーがくれる一つ一つのセリフが、ダイレクトに心に響く。
大好きな人と相棒と一緒に生きて、いつか命が潰えるその時まで、勇気を出して未来への希望を胸に抱きながら前に進んでいこう。
偶然にも愛しいブロリーと私の人生が交錯したのは、きっと大きな意味があるに違いない。
「ねえ、ブロリー?」
「何だ」
「私、あなたに出逢えて最高に幸せだよ。だから、未来はもっともっと幸せだと思う。これからがホントに楽しみだね」
「ああ、その通りだな」
窓を叩く雨音を聴きつつ、お互い引き寄せ合うように心まで蕩けるような、深い口づけを交わした。
今この瞬間瞬間を大切にしながら、明るい未来に想いを馳せつつ、二人だけの濃蜜なひとときは悠然と流れていった。
この夜の甘やかな出来事は生涯忘れない筈がない。
END
私の家はいわゆるログハウスで、物心ついた頃から、ここに独りで住み着いていた。
ずっと前から、もう家族はいない。多分だけど、自宅は父母が遺してくれたのかもしれない。私のただの憶測だけどね。
けれど、ホントの孤独じゃなかった。それは、いつも相棒のシマリス――ムーンが居てくれるからだ。
しかも不思議なことに、幼少時から彼の心の声が聞こえるようになった。
だから、少しも寂しさを感じなかった。
――明け方。ふと目が覚めると、それに気づいたらしい、ムーンが私の肩口に小さな体躯を寄せて来る。
《どうしたの、名無しさん?》
《ううん、何でもない。心配させてごめんね、ムーン》
《そっか。それなら、いいんだ》
そう言って、ふにふにと私の頬っぺに擦り寄るムーン。
相変わらず、愛くるしくて可愛いなあ。
その間際、突然お腹の底に鳴り響く様な地響きが起こった。
「な、何!?」
その瞬間、窓外で小鳥達の鳴き声が一斉に響き渡り、激しく羽ばたく音が聴こえた。
「あ、ムーン!」
途端、相棒が私から離れて、戸口まで走り出したのだ。
私は慌ててベッドから飛び降りると、ムーンを掬い上げて左肩に乗せる。
《もう逃げちゃ駄目だよ?》
《だって、ビックリしたんだもん。仕方ないでしょ》
相棒は可愛らしく鼻先をヒクヒクと私の鼻先に寄せて来た。
「すぐ誤魔化すんだから」
私はムーンを伴い、戸口を開けて辺り一面を見渡してみる。
すると、東の方角でモクモクと煙が上がっていた。
あそこは森の中心部だ。私自身、幾度も足を運んでいる。私が水浴びする湖があったり、樹の実が豊富に摘める憩いと食料調達の場だ。
不思議に思いながら、その方向に歩み出す。
ちょっと嫌な予感がしながらも、歩みだけは止めない。
「ムーン、どう思う?」
《う〜ん、きな臭いね》
「事件の予感かな?」
《そうだね、ボクもそう思う》
そんな会話をしつつも、目的地に向かい、辿り着いたのは湖から数十メートル離れた地面に大きな穴が空いていて、恐る恐る覗き込んでみると、丸くて大きな物体から延々と黒煙が立ち昇っている。
《名無しさん、あれ何だろう?》
「私にも分からない」
次の瞬間、物体の中央部分が開いた。
そして、中から見知らぬ人が現れた。
それは、長身で鍛え抜かれた体躯の男の人だった。
《誰だろうね?》
「分からない。けど、神秘的な人だね」
《惚れたの?》
「う〜ん、どうだろう……」
よく観察すると、身体中に怪我を負ってるみたい。
あ、目が合った。
漆黒の髪と眼差しに自然と惹きつけられる。
単純に美麗だと思った。
《名無しさん?》
「ムーン、私何か変……」
《何が?》
「心がいつもと違う……とてもざわつく」
《一体どうしたんだろうね》
その間、男の人は呻きながら片膝をついてしまう。
それを目視した私は慌てて彼に走り寄った。
「あの、お兄さん大丈夫?」
顔を上げた男性は、より間近で見ると端正な面差しで、黒のロングヘアを一つに束ねた美男子だ。
けれど、あちこちに怪我を負っていて、とても痛ましい。
「誰だ、アンタ……」
顔を上げた彼の瞳に思わず吸い込まれてしまう。
「あ……私はこの惑星の住人で、名前は名無しさん」
「そうか、名無しさんか。美しい響きだな」
彼は徐に片腕を伸ばして、私の頬に手を添えてくる。
温かい。初めて人の温もりに触れて、こんなにも豊かな心地になれるなんて、少なからず感動を覚えた。
「あ、ありがとう……そうだ、あなたのお名前は?」
「オレはブロリーという者だ」
ブロリーと名乗った男の人は、何故怪我をしているんだろう?
思い切って質問してみると、彼は硬く口を閉ざしてしまった。
このままだと拉致もあかないし、取り敢えず自宅に招いて怪我の手当を施してあげた。
「すまない、名無しさん。お前まで巻き込み事故だな」
「そんなの気にしないで。お互い様だよ」
私はそれより、ムーン以外の話し相手が出来たことに、大きな歓びを感じていた。
「あなたはどこから来たの?」
「惑星ベジータという星だ」
「そこはどんな星なの?」
「あまり環境は良くなかった。オレ好みじゃない」
これは、あんまり触れて欲しくないみたい。これ以上踏み込まない方がいいかも。
《ねえねえ、名無しさん。ボクも紹介して欲しいな》
《うん、いいよ》
ブロリーは不思議そうに首を傾げる。
「どうした?」
「うんとね、ブロリーに私の相棒を紹介したいの」
ムーンが私の肩口でブロリーにぺこりとお辞儀をする。
「そいつはシマリスか?」
「よく知ってるね。そっか、ブロリーは博識なんだ、スゴいスゴい!」
「別に普通だと思うがな。だが、悪い気はしない」
彼の微笑む姿が美しくて絵になる。思わず胸が高鳴った。
「あ……それでね、名前はムーンていうの。私、月明かりが好きだから、そう名付けたの」
「ムーンか。名無しさんの大事な相棒なんだな」
「うん! とっても可愛いでしょ?」
「オレは名無しさんも充分可愛いと思うぞ」
そう言われて、髪を優しく撫でられた。
どうしよう、胸がキュンとしちゃう。
ドキドキして、心臓の鼓動が早鐘を打つみたいだ。
「ちょっと恥ずかしいかも……」
「それぐらいで照れたのか。益々可愛いな、名無しさんは……」
「!?」
途端、片腕を掴まれて背後から抱き込まれてしまう。
「わ、ビックリしちゃった……」
「何がだ?」
「だって、私誰かに抱き締めて貰ったことなんてないの。これが初めてなの」
「オレも誰かを抱き締めたのは初めてだ。名無しさんといると不思議と心が安らぐ」
その時、首筋に何か柔らかい感触が伝わった。
それが、彼の唇だと気づくまで数秒かかった。
「擽ったいよ、ブロリー」
「名無しさんは柔肌だな。ずっと触れていたくなる」
次の瞬間、生温かい感触を肌に感じて変な声が洩れてしまう。
もしや舌で舐められたのかな……?
少し恥ずかしくなって、身体が火照る……。
「本当に可愛いな……その声をもっと聴きたい」
「ブロリー恥ずかしいよ……もう止めて?」
「イヤだ、もっと名無しさんに触れていたい」
「ブロリーの意地悪……」
「これがオレの本音だ」
彼の舌先は首筋から耳にまで到達して、耳朶を甘咬みされてしまった。
「私、何か変な気分になっちゃう……」
「何がだ?」
「何だかふわふわするの……」
「そうか、もっとして欲しいか?」
私は素直にこくんと頷いた。
ふっと笑うブロリー。
「正直者は好きだ」
次の瞬間、耳孔にブロリーの舌が侵入してきた。
またしても、変な声が出てしまうぐらい快い感じ。
私、どうしちゃったんだろう?
ブロリーが丹念に耳の中を舐め回すから、私の体躯が熱を帯びる。
「ブロリー……もっと……」
すると、ブロリーは一旦顔を離して、「名無しさん、こっちを向け」と私の顔を後ろに向かせる。
そして、ゆっくり唇同士が重なり合った。
ホントに気持ちいい……その柔らかな感触に思わず夢中になっちゃうかも。
まるで、お互いの存在を確かめ合うように唇を重ねて、それが段々深くなっていく。
粘性の水音が部屋中に届き、瞳がとろんとしちゃう。
その間、唇の隙間からブロリーの舌が入ってきて、私の舌を絡め取られた。
途端、背筋がゾクゾクする程の快感を覚えてしまう。
彼の舌は熱を孕んでいて、いつまでも繋がっていたいと思う程、心地よい。
と、その時。
《名無しさん、そろそろ食事の時間だよ》
《え……やだ、もっとブロリーと触れ合ってたい》
《だーめ、名無しさんは少食なんだから一食でも抜かしたらボクが怒るよ。もし食べないなら、ブロリーの顔を引っ掻いちゃうんだから》
《それは駄目!》
私が心で叫ぶと、それを感じ取ったらしいブロリーが唇を離して、自身の口端をペロリと舐めた。
それが堪らなくセクシーで思わず見惚れちゃう。
「名無しさん、今はここで終いだな」
「うん……」
名残惜しいけど、仕方ないか。
またブロリーと触れ合いたいなあ。
そんなことを願いつつ、食事の支度に取りかかった。
「これは何だ、名無しさん」
「樹の実のサラダと薬草のスープと茸のおひたしと魚の塩焼きだよ」
私から説明を受けたブロリーは眉間に皺を寄せた。
「肉はないのか?」
「時々食べるけど、基本こんな感じかな。ブロリーは気に入らない?」
「そういう訳でもないがな。オレは狩りをしてカロリー摂取している分、筋肉をつけるために、どんな肉でも主食としている」
「そっか、だから筋骨隆々なんだね」
私が納得すると、ブロリーはこくりと頷いた。
「しかし文句を言っても仕方ないか。名無しさんが作ってくれた物は何でも食おうと思う」
「ありがとう、ブロリー」
私が笑うと、彼も微笑み、合掌して食事を始める。
「意外と美味いな。野草も魚も悪くない」
「嬉しい! どんどん食べてね?」
ブロリーはああと応えて、残さず綺麗に食べてくれた。
因みにムーンの餌は毎食、野苺だから用意するのも簡単で、いつも美味しそうに食べてくれる、とっても可愛らしい子だ。
――後片付けの後。
《名無しさん、そろそろ水浴びの時間だよ》
《もうそんな時間か。早いね》
「名無しさん?」
「ブロリー今から水浴びしに行こうよ」
私はブロリーの片手を取って、左右に揺らす。
「例の湖でか?」
「うん。あの湖は私の一番お気に入りの場所なんだ。近くに色んな花が咲いているから、目の保養にもなるんだよ」
「そうか。じゃあ、行くか?」
「うん♪」
私はバスタオルと着替えを用意すると、二人と一匹で湖に足を運んだ。
――数分後。
まずは桟橋に座ると、服のまま両脚を湖面に沈めた。
うーん、冷たくて気持ちいい。
ムーンはあんまり水が得意じゃないから、樹の実を食べにどこかに行っちゃったみたい。
ブロリーは躊躇いなく湖面に入り、優雅に泳いでる。その姿がとても美しくて、うっとりと魅入った。
「やっぱり様になるなあ……文句なしにカッコいいよ」
脚をポチャポチャ遊ばせていると、突然顔に水飛沫がかかった。
「キャッ、何!?」
「驚いたか、名無しさん」
いつの間にか、傍に来ていたらしいブロリーが私に水を浴びせたみたい。
「もう、ブロリーはヤンチャな子供みたい……」
それにしても、彼を改めて見ると。
水も滴るイイ男だ。
私照れちゃって、どこを見ていいか分からない。
「名無しさん……」
「え!?」
名前を呼ばれて、片腕を掴まれ、湖に引っ張り込まれてしまう。
私の身体は水面に浸かり、ブロリーと隙間なく密着した。
「は、恥ずかしいよぉ……」
「恥ずかしがる様もグッとくるな」
「もう……あんまり見ないで」
「イヤだ。名無しさんの愛らしい姿をとくと魅せてくれ……」
耳元でセクシーボイスで囁かれ、序におでこにキスを貰ったら、あっという間に腰砕けになっちゃう。
ブロリーに抱き締められている私は、彼の胸元に両手を添えて、浅く呼吸するので精一杯。
「ブロリー……」
「どうした?」
「私、あなたといると変になる……けど、安心感もあるんだ」
「奇遇だな、オレもだ。名無しさんに触れれば、心地好いし癒やされる。同時に、オレ自身が男だと再認識させられる。お前を心から欲しいと想うからだろうな」
熱を帯びた眼差しを受けて、躰ごと蕩けそうになる。
そっか、私……。
「ブロリーお願いがあるんだけど、いいかな?」
「何だ?」
「このまま、ずっとこの星に居てくれないかな?」
私が問うと、彼は穏やかな表情になる。
「ああ、もちろんだ。オレもそのつもりでいたから、ちょうどいい」
「わあ、嬉しい!」
思わず感嘆の声を上げ、ブロリーの胸板に頰を寄せた。
すると、ギュッとされて、彼の鼓動を間近に感じた私は、胸がとくんとなる。
「オレも死ぬまで名無しさんと居たいと願っていた。普段は神なんぞ全く信じない質だが、今なら素直に感謝出来るな」
本当にブロリーは私が欲しい言葉をくれる。
これが夢じゃないといいな。
「ブロリー……大好きだよ」
「オレも名無しさんが大好きだ」
二人は引き寄せ合うように、ゆっくりと唇を重ねた。
彼との二度目のキスは甘酸っぱくて、
胸がキュンとしちゃう。
カッコよさの中に可愛らしさを備えたブロリーを好きにならない訳がない。
こんなにも愛しいと想えるのは、相棒のムーンのお蔭かな。
そんなことを感じながら、甘いひと時に浸っていた時だ。
《名無しさん、そろそろ上がってきて?》
《もうかあ、残念……》
「どうした?」
私から唇を離したブロリーが尋ねてくる。
「そろそろ上がらないと」
「そうか、躯は平気か?」
「うん、大丈夫だよ」
昔からムーンは時計の代わりを果たしてくれてる。彼は体内時計が発達してるみたいね。
年中、私のサポート役をしてくれてるから助かるんだけど、もう少し甘い時間が欲しかったなあ。
でもね、ブロリーとこれからも一緒に過ごせるのは、手放しで嬉しい。
とっても素敵なプレゼントを貰った気分。
この先の未来が、とっても愉しみだ。
――その晩。
就寝前、ベッドに横たわったブロリーと私は身を寄せ合っていた。
ムーンは自分専用の寝床でぐっすり夢の中だ。
夜更けの窓の外では、引っ切り無しに土砂降りの音がする。
「かなり降ってるな」
「たまにこういう降り方するの」
遠くで雷鳴も聴こえる。
「名無しさん、怖くはないか?」
「ちょっと怖い……でも、ブロリーとムーンが居てくれるから大丈夫だよ」
「可愛いことを言ってくれるな」
「だってブロリーといると安心するんだもん」
「それは何よりだ」
ブロリーに後頭部を抱えられて、グッと引き寄せられた。
「ブロリー?」
「名無しさんの香りは癒されるな。仄かな甘い匂いがする。思わず食べたくなるな」
「ふふ、ブロリーは可愛いね」
「何を言う、可愛いのは名無しさんだ」
さらっと男前なセリフをくれるブロリーに、またしてもキュンとなる。
「ムーンと二人だけの時は何も感じなかったのに、ブロリーと過ごす時が増える度に、あなたに自然と惹かれる私がいるんだ。なんだか、私らしくないや……」
「それはオレもだ。お前との時間は何物にも代えがたい貴重なひとときだ。人の生き様とは存外、利他との関わり合いが密接なんだろう。到底独りで生きるのは困難だ」
オレは真逆だったがなと、微苦笑するブロリーに感心してしまう。
「孤独だったオレに生きる意味を教えてくれたのは、他でもない名無しさんだ。改めて言うが、オレの命は全てお前のために使おうと想う。もちろん、お前の相棒も含めてな」
「ありがとう、ブロリー。とっても嬉しい。私もあなたの為に一生懸命生きるね。もちろん、ムーンの為にも」
「それでいい。何より、自分らしく生きることが大事だ。その為にも、日々生き甲斐を感じながら、お前とともに歩んでいこうと想うぞ。こんなにも名無しさんへの愛しさが溢れ出る気持ちは初体験だ。もうこれ以上は言葉にならないな」
ブロリーがくれる一つ一つのセリフが、ダイレクトに心に響く。
大好きな人と相棒と一緒に生きて、いつか命が潰えるその時まで、勇気を出して未来への希望を胸に抱きながら前に進んでいこう。
偶然にも愛しいブロリーと私の人生が交錯したのは、きっと大きな意味があるに違いない。
「ねえ、ブロリー?」
「何だ」
「私、あなたに出逢えて最高に幸せだよ。だから、未来はもっともっと幸せだと思う。これからがホントに楽しみだね」
「ああ、その通りだな」
窓を叩く雨音を聴きつつ、お互い引き寄せ合うように心まで蕩けるような、深い口づけを交わした。
今この瞬間瞬間を大切にしながら、明るい未来に想いを馳せつつ、二人だけの濃蜜なひとときは悠然と流れていった。
この夜の甘やかな出来事は生涯忘れない筈がない。
END