★悟空Long Dream【Familyー固い絆ー】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
これは、悟空と名無しさんがバーダックとラディッツを復活させ、ブルマ邸宅のホームパーティーに参加した後のお話。
ある晩、夕食を終えて一息ついた悟空と名無しさんの間で、山桜が話題にのぼる。
話の流れで、悟空がベジータ夫妻、ピッコロとデンデをパオズ山に招待して花見をしようと提案した。
それに乗った名無しさんが早速ブルマに連絡し、悟空が天界に赴いてピッコロ達にその旨を伝えた翌日のこと。
ブルマらが孫宅に集合し、全員で例の場所に到着した。
「へえ、パオズ山にこんな綺麗な場所があったのねえ」
ブルマが周囲を見渡して感心すると、悟空と開けた場所に敷物を敷いていた名無しさんが顔を上げる。
「ですよね、私も初めてここに来た時は感動しましたよ。それに何と言っても、山桜は今が最高の見頃ですから」
「だろ? ここはパオズ山一の桜の名所だかんなあ。いつか皆を招待したかったんだよ」
悟空の発言通り、ここはパオズ山随一と言っても過言ではない、山桜の景勝だ。満開の山桜と辺り一面色鮮やかな花畑に囲まれ、心地好い香りに包まれて、紋白蝶が舞い、ウグイスがさえずる様はまるで理想郷そのものだった。
「ふん、悪くはねえな」
「確かに見事な景観だ」
「おっ、父ちゃんもピッコロもそう思うか? だよな、桜が嫌ぇなヤツなんていねえだろうしよ」
「見てるだけで心が洗われるわ」
「ホントですね。ね、デンデもそう思うよね?」
「はい、とても素晴らしいです。改めて感じますが、地球が美しいのは自然豊かな環境だからなんですね」
その時。
例によって、悟空の腹の虫が盛大に鳴り響く。
「は、腹減ったあ……」
「ちょっと孫くん! 少しは空気を読みなさいよ! せっかく皆でのびのびしてたのに、雰囲気ぶち壊しじゃないのっ!」
「ははは、わりぃわりぃ。でもよ、腹が減っちゃ戦はできねえってんだろ? まずはしっかり腹ごしらえしようぜ」
「アンタねえ、こんなとこに来てまでバトルする気なの? 冗談止めてよ。ねえ、名無しさんちゃん?」
「ホントですよ。お花見の時くらい、物騒な話は聞きたくないですもん」
「まあ、そういうなよ。今回はバトルじゃねえって……いや、ある意味バトルかもしんねえけどな」
「孫くん、どういうこと?」
「ちゃんと、オラなりの考えがあっからよ。まあ、楽しみにしててくれ」
「? 悟空、それって……」
「オレも腹が減ったな。早速で悪いが、名無しさん飯にしてくれねえか」
「あ、はい」
「ホントにサイヤ人は誰も彼も食いしん坊ね」
名無しさんの言葉を遮ったバーダックの鶴の一声で、名無しさんはブルマと二人で持ち寄った弁当を敷物の上に並べ始める。
それらは、花畑に引けを取らない色とりどりの豪華なおかずが、十五段重ねのお重にぎっしりと詰め込まれていた。
「おー美味そうだな! さすが名無しさんだ」
「ちょっと孫くん? 私も五時起きで、存分に腕を振るったんですけど、労いの言葉はないわけ?」
「ん? そうだな……もちろん、ブルマの飯もうめえよ。ただ、オラの好みは名無しさんの飯ってだけだ」
「あっそう。あーここだけ熱いわね。5℃くらい上昇したのかしら?」
「ブ、ブルマさん……」
「……」
その様子をバーダックが黙視していたが、彼女らは彼の視線に微塵も気づいていなかった。
「ん~んめえ! 鹿肉のステーキなんか最高だぞ!」
「もぐもぐ……ま、確かにな。飯の腕だけはオレも認めるぜ」
「ふん、名無しさんは器量好しでもあるだろうが。ラディッツは見る目ねえな」
「あ、あはは……」
(ちょっと気恥ずかしいかも……)
「あらら、名無しさんちゃんてばモテモテじゃないの。サイヤ人親子を虜にするなんて、実は魔性の女なのかしら?」
ブルマが名無しさんに流し目を送って見せる。
「ちょ、ブルマさんってば何言い出すんですか! 私は至って普通の人間ですよ!」
「名無しさん、それは少し語弊があるんじゃないか? 現にお前の勇気ある行動で、バーダックとラディッツが一年の期限つきではあるが復活した。お前が努力家なのは、ここにいる誰もが認めている」
「ピッコロさん……」
「そうだろう? バーダックにラディッツ」
「ああ、その通りだ」
「まぁな」
バーダックは口端を上げ、ラディッツは素っ気なく答えた。
それを横目に見たピッコロは、名無しさんにいつになく柔らかい視線を向け、言葉を紡ぐ。
「お前はまず希望を持つことだ。そうすれば、自然と前向きな思考になり、生き方にも良い影響をもたらすだろう」
「あ……ありがとうございます、ピッコロさん。とても勉強になります」
「ああ、あくまでもオレの持論だがな。少しでもお前の役に立つなら、それでいい」
ピッコロは口元に笑みを浮かべ、名無しさんからそっと視線を外す。
「さすがピッコロさんですね。ボクも勉強になりますよ」
「よせ、デンデ。オレはあくまでも戦闘タイプのナメック星人だ。龍族であるお前の優秀な頭脳には遠く及ばん」
キラキラと羨望の眼差しを送るデンデに対し、ピッコロは淡々と言って退ける。
「いえ、ボクはまだまだ経験不足です。経験豊富なピッコロさんの足元にも到底及びませんよ」
「……まぁ、いい。お前が己を未熟と思うのは、まだまだ伸びしろがあるということだ。お前のその謙虚さが、真の神たり得るのだろう」
「は、はい」
ピッコロはすっかり自分の世界に浸っているようだ。間違っても、誰も彼を邪魔立てできる雰囲気ではない。
「何か、しち面倒臭いこと話してるわね、あの人達」
「そ、そうですね。私には難しくて何がなんだか、さっぱりですよ」
「要するに、誠実に生きる努力をしろってことだろ。なあ、ピッコロ」
今まで無言だったバーダックが、徐に口を挟んだ。
「ま、そういうことだな。努力を怠れば、全て無に帰する。だからこそ、誰もが心身ともに鍛え抜く必要性があるのだ」
そう切り返したピッコロは腕を組んだまま、ゆっくりと閉眼する。
「ははは。おめえは相変わらずだなあ、ピッコロ」
最後のおかずを飲み込んだ悟空が豪快に笑い、緩めていた帯を結び直して立ち上がる。そして、全員を見渡した。
「難しい話はそれぐれえにしてよ。ブルマ、例のもんは用意してあっか?」
「ええ、孫くんに言われた通り、全員分用意したわよ」
「おし、そんじゃ腹ごなしに皆で釣り大会すっぞ!」
「えっ、釣り大会?」
「ああ、そこの渓流で釣りをする。イワナやヤマメがうんと釣れっからな。ルールは単純で、一時間以内に一番多く釣ったヤツの優勝だ。優勝者にはブルマから豪華な賞品が送られっぞ。ちゅうわけで、皆頑張ってな!」
「ちょっと待て、孫。それはオレとデンデも参加せんといかんのか?」
「もちろんだ。その為におめえ達を呼んだんだかんな」
訝しげな表情のピッコロの質問に、悟空はにこにこ顔で答える。
「だが、オレ達は……」
「知ってるさ。水以外口にしねえんだろ? ただ、おめえ達には、名無しさんの件で色々世話になってっしよ。たまにゃ、下界で気分転換してもらおうと思ってさ」
「ふん、そういうことか。余計な気を回しやがる」
ピッコロは口元に笑みを湛えた。
「ピッコロさん……」
「まあ、いい。それなら少しぐらい、茶番に付き合ってやるか。なあ、デンデ」
「はい!」
デンデは釣りに興味があるのか、瞳を輝かせて嬉しそうに頷いた。
かくして急遽、渓流釣り大会が幕を開けるのであった。
しかし。
「黙って聞いてりゃ何が釣りだ。オレは修業で忙しいんだ。くだらん茶番に付き合っている暇は、一秒足りともありはせん!」
ずっと沈黙していたベジータが底が知れたとばかりに怒鳴り、皆に背を向ける。
「おい、ベジータ!」
「カカロット、貴様とお遊びをする気はない。オレは一足先に帰らせてもらうぞ!」
ベジータがそう言い捨てて、その場を後にしようとした時だ。
「尻尾巻いて逃げんのか、ベジータ」
「何だと? 貴様、もう一度言ってみろ!」
「だからよ、釣りの経験がねえから勝てる気がしねえんだろ? ベジータともあろうもんが情けねえなと思ってよ」
悟空がわざと挑発すると、ベジータは分かりやすく拳をわなわな震わせる。
「貴様ぁ……黙って聞いていれば、小癪なことを吐かしやがって!」
「ん?」
「……いいだろう。釣り大会でも何でも、貴様ごときにオレ様が負けるなど、万に一つもありはせんのだからなっ!」
「そう来なくちゃな!」
悟空は口元にニッと笑みを刻み、ベジータに見えないよう、後ろ手にVサインした。
その後。
渓流釣りを始めた悟空一行の様子は……。
「ベジータ、釣りって基本的に静かに楽しむものでしょ? そんなに殺気立ってちゃ、せっかくの魚だって逃げちゃうわよ。もっと心をリラックスさせなくちゃね」
「やかましい、ブルマ。魚なんぞ、エネルギー弾を使えば、一匹残らず仕留められるだろうが。気合いが足りんのだ」
「おいおい、ベジータ。そりゃ、釣りって言わねえだろ。名目はあくまでも釣り大会だかんな」
「む……」
眉根を寄せるベジータ。
「釣りってのは、釣り竿使って魚を釣るのが醍醐味なんだぜ? エネルギー弾なんか邪道だぞ」
「うっ、煩い! だからオレは釣りなんぞ……」
「静かにしろって。渓魚は気配に敏感なんだよ。特にイワナは、えれぇ警戒心の強ぇ魚だかんな。そんなにうるせえとすぐ逃げられちまうぞ。魚に気づかれねえように自然な感じで餌を流せば、一発で食いつくからよ」
悟空は人差し指を口元に宛がい、ベジータを制して、渓流釣りのコツを伝授する。
「……分かった」
「おし、その調子だ……」
数分後。
「……まだか、カカロット」
痺れを切らしたらしいベジータが何度も悟空に視線を送るが、悟空は至って冷静沈着に事に当たっている。
「! 来たな……慌てるなよ、ベジータ。不自然な動きを見せたら、手首を素早く返して即合わせんのがポイントだぞ……今だ!」
「む……!」
悟空の声を合図に、ベジータがロッドを振り上げると、綺麗に弧を描きながら、比較的大きなサイズのイワナが釣れた。
「おっ、やるじゃねえか! 26㎝くれぇあるな。けど、オラは一尺程のイワナを釣ったことがあっぞ。釣りは狩りと違って、ただの力押しじゃねえんだよ」
「悟空は釣り名人だもんね。もしかしたら、世界一の腕前かもしれないよ」
悟空の左隣で釣りを楽しんでいた名無しさんが口を挟んだ。
彼女は釣りの経験はド素人だ。悟空に教わって、何とか素人レベルになったが、まだまだ彼の腕前には遠く足元にも及ばない。
「ふん……カカロットが名人だろうが何だろうが、貴様だけには絶対に負けんからな! 貴様より一匹でも多く釣り上げてやるぜ!」
「ははは、頑張れよな。オラはオラなりに楽しむからよ」
悟空は慣れた手つきでロッドを操り、順調に釣果を挙げている。
一方、ピッコロとデンデの様子はと言えば。
「やるな、デンデ。順調に釣れているじゃないか。もう10匹以上だな」
「いえ、たまたまコツを掴むのが早かっただけですよ。そういうピッコロさんも順調に釣り上げているじゃないですか。流石ですね」
「ああ、釣りは闘いと似ている所がある。所謂、兵法だな。バトルに身を置く者は、大抵釣りの上達が早い。そもそも、兵法というのは……」
「は、はぁ……」
ピッコロのウンチクが始まったところで、デンデは曖昧に頷きながら聞き流しているが、周囲の人間は気の毒に思うだけで、助け船を出すつもりはないらしい。ただ一人を除いては……。
「デーンデ! どう? いっぱい釣れてる?」
ちょうどデンデの右隣で釣っている名無しさんが、朗らかに話しかけた。
「あ、名無しさんさん。はい、お蔭様で順調ですよ。入れ食いって言うんでしょうか。ボク、釣りは初めてなんですが、何となくどうすれば釣れるのか、魚の気持ちが分かるみたいです」
「凄いね、そういうのを天才って言うんじゃないかな。何たって、神様だしね。不思議な力があるんじゃないかな、きっと。えーと……多分、洞察力に長けてるんだね」
「い、いえ。天才だなんてそんな……ただ、人よりほんの少し運がいいだけですよ」
デンデは頬を朱に染めて、照れ臭そうに俯く。
「……」
ウンチクを語っていたピッコロはデンデに相手にしてもらえず、わざとらしく咳払いをし、無言で釣りに集中し始めた。
肝心のバーダックとラディッツはと言えば……。
「……眠いな。ラディッツ、オレは適当に昼寝するからよ。てめえがオレの分まで釣りしとけ。いいな、これは命令だ」
「おいっ、親父!」
ラディッツが慌てて呼び止めるものの、バーダックは聞く耳持たずに林の中へ消えていった。
「ったく、自己中親父め……」
取り残されたラディッツは深い溜め息を漏らしつつ、独り静かに釣りをするのであった。
それから、一時間が経過した。
「私とブルマさんの釣果は、それぞれ3匹ずつですね。何だか、仲良し二人組って感じで嬉しいです」
「ホントね。私も釣りは殆ど未経験だけど、名無しさんちゃんと一緒だから、とっても楽しかったわ♪」
「私もですよ」
名無しさんとブルマは互いの顔を見合わせて、小さく笑い合っている。
「くそったれ、たったの5匹しか釣れんとは……だから、オレ様は釣りなんぞしたくなかったんだ」
「んなことねえって。素人にしては頑張った方だぞ、ベジータ。因みにオラは18匹だ。兄ちゃんはどうだ?」
「オレはちょうど10匹だ。釣りとは、なかなか奥深いな」
「へへ、だろ? そんで、ピッコロは何匹釣ったんだ?」
「オレは15匹だ。まあ、こんなもんだろう」
「んー今回の釣果は揃ったな……優勝はイワナやヤマメを合わせて20匹釣り上げた、デンデだな!」
「やったじゃないか、デンデ。お前の釣りの腕前は確かなものだな」
「はい! とても楽しかったです!」
デンデは満面に笑みを浮かべて、ピッコロに応える。
和やかなムードに包まれている時だった。
「ふぁ~……よく寝たぜ」
のんびりとした足取りで、バーダックが林の中から姿を現す。
「親父遅いぞ! もっと早く起きて来いよな! 釣り大会はとっくに終わっちまったぜ!」
「ああ、一時間経ったからな。で、お前の成果はどうだ?」
「10匹だ。優勝は20匹のデンデだとよ」
「何だ、オレの分まで頑張って、たったそれだけか。惨めなヤツだな」
「ぐっ、やかましい! 大体、全然釣らねえ親父が悪いんだろうがっ!」
とうとうラディッツの、バーダックへの鬱憤が爆発した瞬間だった。
そして、事の次第が収束した後。
「さあて、優勝したデンデには豪華賞品があっぞ。ブルマ、頼んだぜ」
「OK、優勝賞品は一年分の超高級天然水よ!」
「え……」
優勝賞品が意外だったのか、呆気に取られる名無しさん。
「わあ、嬉しいです! ありがとうございます、ブルマさん!」
「喜んでもらえて良かったわ。ピッコロ、後で家に取りに来てちょうだいね」
名無しさんが後に知った事実は、優勝者に一番相応しい物を贈る算段だったようだ。
「む、承知した」
「あ、そっか……ナメック星人は水だけで生きられるんだったね。うーちょっと羨ましいかも、いろんな意味で」
「そんじゃ、フィナーレは焚き火で焼き魚にして皆で食おうぜ!」
悟空の鶴の一声で全員で薪を集め、彼の気功波で焚き火をし、釣り上げた魚を串刺しにして次々に焼いていく。
「焼けた魚から、どんどん食ってくれ。何せ、70匹以上の釣果だからな。皆が満足するくれえの量はあんだろ」
「正確には74匹ね。ピッコロとデンデを除いても、6人だから単純計算で独り頭12匹は食べられるわよ」
「うわー私そんなに食べられないですよ」
「そうかあ? オラは余裕だぞ。なあ、父ちゃん?」
「ああ、寧ろ物足りんぐらいだ」
「親父が言うな! つーか、どの面下げて食ってんだよ!」
「あ? 誰か食って悪いって言ったのか?」
「くーっ、ああ言えば、こう言うんだからよ!」
「まあまあ。いいじゃねえか、兄ちゃん。皆で食った方が何十倍もうめえぞ」
どこまでも心優しい悟空の言葉に、最早押し黙るしかないラディッツは、苦虫を噛み潰したような面持ちで焼き魚に食らいついている。
「ふん……くだらんことでキレるとはラディッツめ、精神修業が全然足りんようだな。情けねえ野郎だぜ」
「全くだ、地球に襲来した時とは比べ物にならんほど、ヘタレになっているらしい。ま、あの時から既に根性なしだったがな」
ベジータとピッコロは存外、意気投合しているようだ。二人には相通ずる物があるらしい。
「ねえ、悟空。今日は充実した一日だったね。悟空のお蔭で、また一つ記念日が増えたよ」
「そりゃよかったな」
「うん。でも……出来れば、バーダックさんとラディッツと、もっとお喋りしたかったのが唯一の心残りだけどね」
「なーに、これから幾らでも話せるさ。まだまだ父ちゃん達との共同生活は始まったばっかだろ? それによ、オラがまたこういう機会作ってやっから、しんぺえすんなって。な?」
「そうだよね、また絶対にこんな機会作ろうね!」
「ああ!」
渓流の涼やかな水音を背に、賑やかな雰囲気のなか、悟空と名無しさんは満天の星空を見上げながら、新たな約束を交わした。
それを確約するかのごとく、一筋の流れ星が夜空を彩るのであった。
こうして、パオズ山の夜はゆったりと更けていった。
そして。
月日は流れに流れて明日を向かえれば、バーダックとラディッツは地獄へ戻らなければならない。
悟空と名無しさんは二人の為に細やかなお別れパーティーを開いた。
「これはオラと名無しさんからプレゼントだ」
悟空がバーダックとラディッツに、それぞれ小さな白い箱を渡す。
「プレゼント? まあ、一応貰っておくか」
ラディッツが箱を開けると、中にはアメジストのピアスが入っていた。
「ほう、ピアスか」
「なあ、名無しさん。何とか言葉っちゅうのが、あるんじゃなかったか?」
「宝石言葉ね。宝石にはそれぞれ意味があるの。アメジストの宝石言葉は、誠実で愛の悦びとか平和の心が得られるんだって」
「くくっ、平和の心か。ヘソ曲がりなラディッツくんには必要だよな?」
傍観していたバーダックが愉快そうに喉元で低く笑った。
「ぐっ……そういう親父のは何だよ?」
ラディッツはまだ開けていないバーダックの箱を指しながら問う。
「開けて見てくれ、父ちゃん」
皆が見守るなか、バーダックが開けた箱にはルビーのピアスが入っていた。
「オレのはルビーか。名無しさん、コイツの宝石言葉は何だ?」
「何でも、情熱と仁愛と威厳と色気だったかな。溢れるような活力とエネルギーが得られて、素直なセクシャリティを発揮出来るようになる……らしいですよ」
「何か、親父そのものだな」
「ほう、オレにピッタリじゃねえか」
ぽつりと呟くラディッツを無視して、バーダックはピアスを興味深そうに見つめる。
「……オレは無視か」
流されたラディッツはテーブルに頬杖をついて、そっぽを向いてしまう。
それを見た悟空がラディッツに腕を伸ばし、肩をぽんと叩く。
「まあまあ、兄ちゃん。せっかく最後の夜なんだから拗ねんなよ」
「ふん、ほっとけ」
素っ気なく答えるものの、ラディッツの口元には笑みが浮かんでいる。
「だが、何でプレゼントがピアスなんだ?」
「皆で過ごした証を贈りたいねって悟空と話し合って、ピアスならずっとつけていられるし、邪魔にならない物をプレゼントしようって決めたんですよ」
バーダックの問いかけに名無しさんが答えると、彼は納得したように頷いた。
「それなら、ありがたく貰っておくぜ。なあ、ラディッツ?」
「ああ、ありがとよ」
「喜んで貰えてよかったな、名無しさん」
悟空に頭を撫でられ、バーダックとラディッツの反応を見て「そうだね」と、満足そうに微笑む名無しさん。
その後、四人は名無しさんが腕を振るって作ったご馳走を食べ、最後の団らんのひとときを過ごすのだった。
夕食を終えて、名無しさんは後片付けに精を出していた。
「名無しさん、独りで大変そうだな」
名無しさんの背後からラディッツが顔を出す。
「そうなの、いつもより張り切って作ったから食器の数が多くて」
「だと思ってよ……ってやる」
「ごめん、何言ってるか聞こえないよ?」
水道で食器を洗い流している為、彼女にラディッツの声は届かない。
「……だから、手伝ってやるって言ってんだよ!」
ラディッツが顔を真っ赤に染めて叫ぶと、名無しさんは振り返って。
「えっ、手伝ってくれるの?」
「さっきからそう言ってるだろうが」
「でも今日の当番って悟空でしょ?」
悟空達親子は毎日交代で、食事の後片付けを手伝っている。本日の当番は悟空らしいのだが……。
「それがよ、親父がカカロットに野暮用があるとかで、さっき二人して外に出てっちまってな」
ラディッツは布巾を手に、名無しさんが洗った食器を一枚ずつ拭いていく。一年もやり続ければ手慣れたものだ。
「わざわざ外に出るなんて、何の用だろう?」
「さあな、何か親父に考えでもあるんだろ。それより早く片付けちまおうぜ」
「あ、そうだね」
ラディッツに促されるまま、彼女も片付けに専念する。
「手伝ってくれてありがとね、ラディッツ。お礼に特製チーズケーキをご馳走しちゃおうかな」
「このくらい構わんが、ケーキか。甘いのはどうも苦手でな」
「大丈夫。甘さ控え目にしてあるから、辛党なラディッツでも食べられるよ」
「ふーん、なら食ってやってもいいぜ」
(相変わらず素直じゃないんだから……ラディッツらしいけど。それより、悟空とバーダックさんのことも妙に気になるなあ……)
ラディッツが名無しさんの手伝いをしている頃。
悟空はバーダックに連れられ、家の近所を散歩していた。
「父ちゃんがオラに用なんて、修業以外じゃ珍しいよな。やっぱ明日で最後だからか?」
悟空は後頭部に両手を組み、一歩先を歩むバーダックに話しかける。
「ふん……オレは回りくどいのは嫌いなんでな。単刀直入に聞くが、カカロットは名無しさんが好きなんだろ?」
「いや、愛しいって方が合ってっかもな」
悟空は臆面なく、穏やかに笑って答えた。
「……お前、この先も名無しさんを守っていく覚悟はあるのか?」
バーダックは振り向くと、真摯な眼差しで悟空を見据えた。
「何でそんなこと聞くんだ?」
悟空も立ち止まり、眉間に皺を寄せる。
「聞かれたことに答えろ」
「……分かったよ。オラは名無しさんじゃなきゃ駄目だ。代わりなんて、どこにもいねえと思ってる。だから、命懸けで名無しさんを守り抜く覚悟は出来てっぞ」
悟空が真剣に答えると、バーダックは不敵な笑みを浮かべた。
「ふん、その答えを待ってたぜ。お前の覚悟とやらを見せて貰おうと思ってな。今すぐオレと決闘しろ、カカロット!」
「ああ、そういうことか。オラも父ちゃんと勝負してみたくて、ウズウズしてたんだよな」
「やるからには全力で来い!」
バーダックは咆哮を合図に超サイヤ人に変身を遂げ、悟空に向かって拳を繰り出した。
悟空も超サイヤ人になり、バーダックの素早い攻撃をすんでのところで華麗に躱す。
「やっぱ父ちゃんはすげえよ。この一年でスピードもパワーも格段にレベルアップしたもんな!」
「ありがたいことに、まだまだ成長期が続いてるってわけだ。ま、お前とは本気で遣り合いたいと思っていたからな。念願叶って嬉しいぜ!」
対話しつつ、激しい攻防戦が打ち続く。
「けどよ、今回の勝負は何が何でも勝たして貰うぞ。何たって名無しさんへの覚悟を示さなきゃなんねえんだもんな!」
「お前の実力を見せてみろ!」
親子の口元に薄らと笑みが浮かぶ。
「一気に片を付けるぞ!」
悟空がかめはめ波を撃つ為、脚を大きく広げ、腰を落とす型を取る。
「そうこねえとな、次の一撃で勝負だ!」
バーダックも右手にエネルギーを集中させ、その手中「全力で行くぞっ、かー……めー……はー……めー……波ぁっ!!!」
「こいつがオレのフルパワーだっ! 喰らえッ、カカロット!!!」
悟空のかめはめ波とバーダックのライオットジャベリンが真正面から激突するが、悟空のパワーが僅かに上回る。
「ぐぬうっ!」
周囲に閃光が放たれた刹那、諸に攻撃を受けてしまったバーダックはその場に倒れ伏し、彼等が生み出した衝撃波はパオズ山全体を揺るがした。
ダメージを受けたバーダックは腹部を押さえつつも、夜空を見上げた彼の口元には笑みさえ浮かんでいる。
「く……くく、やるじゃねえか……最下級戦士の息子にしては上出来だ。カカロット……一生、名無しさんを大事にしてやれよ?」
「もちろんだ。オラ達、愛し合ってっからな」
「けっ、惚気やがって……」
悟空はバーダックに歩み寄るとしゃがみ込んで、いつの間にか懐に忍ばせていた麻袋から仙豆を取り出す。
「そんじゃ、今度こそ仙豆食べてくれよ?」
「へっ、用意のいいこった。まさかお前、こうなることを見越していたのか?」
「ん? 念の為だ。深ぇ意味はねえさ」
「ふん、随分と親思いの倅を持ったもんだぜ」
バーダックは悪態をつきながらも、仙豆を受け取り咀嚼して飲み込んだ。
すると、名無しさんやラディッツの時と同様、悟空から受けたダメージが一瞬にして回復する。
「これで父ちゃんも仙豆の凄さが分かっただろ?」
悟空が手を差し延べると、バーダックはその手をひしと握って起き上がった。
「味はともかく、ラディッツが言っていた通り、メディカルマシーンより優れてるな。何より地球は自然が溢れてるし、宇宙で一番恵まれてるんじゃねえか?」
「オラもそう思うぞ。だからこそ、オラ達は地球を侵略したり滅ぼそうと襲って来る敵にゃ、何が何でも負けらんねえんだ」
悟空は夜空を仰いで目を細めた。そこにはまるで二人を見下ろすように、満天の星空が光り輝いている。
バーダックは悟空の横顔を眺めて、口を開いた。
「そうだとしても、地球が安全とは言い切れん。臥薪嘗胆、いかなる時も日々の努力を怠るな」
「分かってるさ。それとよ、父ちゃんも忘れねえでくれ。オラはカカロットじゃなくて、地球で育った孫悟空だからな?」
「ふん、生意気言いやがって。地球で育とうが、お前の故郷は惑星ベジータで戦闘民族サイヤ人だってことを忘れるなよ、カカロット」
「兄ちゃんやベジータにもカカロットって、呼ばれちまってんもんな。いいさ、オラはサイヤ人だろうと地球育ちだってのに変わりねえからな」
「だから、お前は……」
終わりのない会話を繰り返していると。
「悟空っ!」
パオズ山の地響きに驚いたのか、唐突に家中から飛び出して来た名無しさん、悟空とバーダックの目前に立ち塞がった。
「おっ、名無しさん!?」
「二人とも、こんな夜遅くに何やってるの!」
「名無しさん、これには深ぇ訳があってよ……」
悟空が言い訳をしようとすると、名無しさんは有無を言わさないとばかりに彼を睨みつけてから、バーダックに目を向ける。
「さっきの地響きは二人が関係してるんですよね!? どうして闘う必要があるんですか!?」
「どうしてと聞かれても、この世に滞在出来るのも明日で最後だしな。その前にカカロットと真剣勝負したかっただけだ」
「……でも私は親子で争って欲しくないです。最後くらい平和に過ごしましょうよ」
名無しさんの後からついて来たラディッツが、何とも言い難そうに複雑な表情を浮かべている。
「名無しさん、オレ達は戦闘民族だからな。惑星ベジータがあった当時も、身内での争いは当たり前に起こってたんだよ」
「でも、惑星ベジータはもう……」
「お前には分からねえかもしれんが、惑星ベジータが消滅しようと、オレ達は闘うことでしか生きられねえ。これは謂わば、サイヤ人の宿命なんだよ」
彼女の言葉を遮るように、バーダックが真剣な眼差しで答える。
「……分かりました。でも、明日でお別れなんですから、争いごとはこれで終わりにしてくださいね?」
「ああ、名無しさんには心配かけて悪かったな」
「オラも悪かったよ、名無しさん」
悟空やバーダックから彼女に真意を語られることはなく、最後の夜は更けていくのだった。
翌日。バーダックとラディッツの門出を導くような、春麗らかな陽気に包まれていた。
二人の耳には、昨夜身につけたピアスが光っている。何はともあれ、二人とも気に入ったようだ。
もうすぐ二人は地獄に戻らなくてはならない。刻一刻と占いババが迎えに来る時が迫っていた。
四人は家の前で、最期の別れを惜しんだ。
「長いようで短い一年間だったね」
彼女は寂しそうにバーダックとラディッツを見つめている。
「名無しさん、辛気臭い顔するな。ラディッツを見てみろよ。別れが惜しいくせに必死で我慢してるんだぜ?」
バーダックに言われて、彼女はラディッツに目を向ける。
「……んだよ、オレは何とも思ってないからな」
無愛想にしているが、彼は涙ぐんでいた。
「ラディッツ、今まで楽しかったよ。絶対に忘れないからね」
名無しさんはラディッツに歩み寄り、精一杯の笑顔で話しかけた。
「オラもだ。三人で修業出来て楽しかったぞ。なっ、兄ちゃん?」
悟空は唐突にラディッツの肩を抱き寄せる。
「なっ!? いきなり何するんだよ、このバカロットが!」
ラディッツは照れ隠しに、両手で力一杯悟空を押し退ける。
「柄にもなく照れやがって、バカ息子には似合わねえぜ?」
それを見ていたバーダックは鼻で笑った。
「やかましい、バカ親父!」
ラディッツが怒鳴り返した直後、空間にパッと占いババが現れた。
「占いババっ!?」
「ほっほっほっ、久しぶりじゃな」
「いきなり現れっからたまげたぞ、占いババ」
「ほっほっほ、すまんのう。しかし、突然現れるのはお互い様じゃろうて。それで、お主達。地獄に戻る準備は出来ておるか?」
悟空の言葉に形だけの謝罪をした占いババは、バーダックとラディッツに視線を向けた。
「十分……いや、五分でいいから待ってくれ」
バーダックが一歩前に出て、占いババに告げる。
「五分じゃな。まあいいじゃろう」
占いババは頷いて、後方へ下がった。
「恩に着る、占いババ。ラディッツ、ちゃんと挨拶しておけ」
バーダックは占いババに謝罪した後、そっぽを向いていたラディッツの背中を、彼女と悟空の方へ押しやった。
「うわっ……いきなり押すなって!」
前のめりになるのを堪え、バーダックを睨むラディッツ。
「ゴチャゴチャ吐かしてねえで早くしろ、バカ息子!」
挙げ句の果てに、頭を一発ぽかりと殴られてしまう。
「痛っ……分かった分かった、ちゃんとすればいいんだろ!?」
「だ、大丈夫?」
「……ああ、これくらい平気だ。名無しさんとカカロットには色々と世話になったな。それと、名無しさんのチーズケーキだが、なかなか美味かった。お前、その道で食っていけるぜ。オレが保証する」
「ふふ、ありがと」
ラディッツは名無しさんと悟空を交互に見つめて、感謝の気持ちなのか、両手で二人の頭をわしゃわしゃと撫でくり回した。
「生まれ変わったら、また逢おうな?」
「ふん、兄弟としてか。それも悪くないな」
悟空とラディッツは固い握手を交わす。
「ラディッツ……うっ……ぅ……」
それを見ていた名無しさんの瞳から涙が零れた。
「な、泣くなよ……親父、後は任せたからな!」
お手上げ状態のラディッツを目にした悟空は苦笑して、バーダックに視線を向ける。
「父ちゃんは名無しさんを気に入ってるもんな」
「お前……やはり気づいていたのか?」
「丸分かりだぞ。父ちゃん、いっつも名無しさんを気にかけてたじゃねえか」
瞠目するバーダックに、悟空はまるで悪戯が成功した子供のように笑いかけた。
「ったく、最後まで世話の焼けるヤツだな……おい、名無しさん」
「ひっく……な、なんですか?」
バーダックが声をかけても、一向に泣き止む様子のない名無しさん。
「チッ、泣くな!」
鳴咽する彼女の腕を引き寄せ、唇を深く重ねる。
「っ!?」
名無しさんは突然の出来事に瞠目した。
「とっ、父ちゃん!?」
「お、親父……」
悟空は真っ青、ラディッツは真っ赤。
「ん、んんっ……」
バーダックは名無しさんの後頭部を抱えると、薄く開いた唇の隙間に舌を捩込んで、口腔を蹂躙するとゆっくり唇を離した。
「……やっと泣き止んだな、名無しさん」
愚図る子供をあやすように彼女の頭を優しく撫でる。
「確かルビーは素直なセクシャリティを発揮するんだよな? 文句は言わせねえぜ、カカロット」
バーダックは悟空に視線を向けて、したたかに笑う。
悟空は開いた口が塞がらないといった様子。
「じゃあな、カカロット。くれぐれも名無しさんを頼んだぜ?」
勝ち誇った面差しで告げ、再度名無しさんの頭を撫でるバーダック。
「あ、ああ……」
半ば放心状態の悟空は生返事をした。
「そろそろ五分じゃぞ」
「ああ、待たせたな」
バーダックは踵を返し、占いババに歩み寄る。ラディッツもその後に続いた。
はっと我に返る名無しさん。
「バーダックさん! ラディッツ! 一年間の想い出、一生忘れないからね!」
バーダックとラディッツに向かって思いの丈をぶつける。
「オレもだ、名無しさん! 元気でな!」
バーダックが振り返って応える。この時、彼は初めて心から喜びの笑みを名無しさんに向けた。それは一点の曇りもない、至極晴れやかな面構えだった。
その余韻を遺したまま、二人は占いババに連れられてこの世から消え去り、あの世へと戻って行った。
「行っちゃったね、悟空」
(二人とも、さようなら……色々あったけど、とても楽しかったよ)
空を見上げ、バーダックとラディッツに遠く思いを馳せる名無しさん。
「オラ……やっと、父ちゃんの本心が分かったぞ。どんな想いで名無しさんをオラに託したのかも……きっと、オラと同じだったんだな」
悟空も空を見上げて、額に片手をかざしながら言葉を紡いだ。
「悟空、急にどうしたの?」
「きっと父ちゃんは、おめえを愛してたんだ」
「え……?」
悟空は昨日のバーダックとの出来事を有りの侭、聞かせる。
「そんな……それじゃあ、バーダックさんの言ってたことは……本気だった?」
『もしもオレが名無しさんを好きだと言ったら、どうする?』
彼女の耳朶に、バーダック独特の低音ボイスが響いた。
「……バーダックさん」
名無しさんには口元に笑みを浮かべて自分の頭を撫でる悟空の顔が一瞬、バーダックと重なって見えた。
「名無しさん……おめえ、ひょっとして父ちゃんに告白されたんか?」
悟空は名無しさんの頬を濡らす雫を優しく指で掬い、温かく逞しい腕で包み込んだ。
「ご、悟空……私っ……私は……バーダックさんの想いに……応えられなかった……!」
深い悲しみに襲われ、名無しさんの瞳からは止めどなく涙が溢れ出した。
「父ちゃんは名無しさんに逢えてよかったんだ。最後のあの嬉しそうな笑顔、心から満足してるって証拠だ。だからよ、無闇に悲しむ必要なんてねえさ」
悟空の穏やかな声音が名無しさんの心に響き渡る。
「……うん、そうだね」
(今なら分かる気がする……私は多分、悟空とバーダックさん親子の架け橋になる為に、この世界に来たんだと思う。だから、二人の記憶は大切な想い出として、ずっとずっと忘れず心に刻んでおこう)
何よりも忘れてはいけない大切なこと。
それは人と人の繋がりだ。
バーダックとラディッツは名無しさんと悟空に出逢い、一年という長いようで短い期間を四人で過ごした。
皆で苦楽を分かち合い、心に遺る想い出が積み重なって、本当の家族として絆を深めたのだ。
未来までも、この世とあの世を越えて、四人は切っても切れない固い絆で結ばれているであろう。
END
ある晩、夕食を終えて一息ついた悟空と名無しさんの間で、山桜が話題にのぼる。
話の流れで、悟空がベジータ夫妻、ピッコロとデンデをパオズ山に招待して花見をしようと提案した。
それに乗った名無しさんが早速ブルマに連絡し、悟空が天界に赴いてピッコロ達にその旨を伝えた翌日のこと。
ブルマらが孫宅に集合し、全員で例の場所に到着した。
「へえ、パオズ山にこんな綺麗な場所があったのねえ」
ブルマが周囲を見渡して感心すると、悟空と開けた場所に敷物を敷いていた名無しさんが顔を上げる。
「ですよね、私も初めてここに来た時は感動しましたよ。それに何と言っても、山桜は今が最高の見頃ですから」
「だろ? ここはパオズ山一の桜の名所だかんなあ。いつか皆を招待したかったんだよ」
悟空の発言通り、ここはパオズ山随一と言っても過言ではない、山桜の景勝だ。満開の山桜と辺り一面色鮮やかな花畑に囲まれ、心地好い香りに包まれて、紋白蝶が舞い、ウグイスがさえずる様はまるで理想郷そのものだった。
「ふん、悪くはねえな」
「確かに見事な景観だ」
「おっ、父ちゃんもピッコロもそう思うか? だよな、桜が嫌ぇなヤツなんていねえだろうしよ」
「見てるだけで心が洗われるわ」
「ホントですね。ね、デンデもそう思うよね?」
「はい、とても素晴らしいです。改めて感じますが、地球が美しいのは自然豊かな環境だからなんですね」
その時。
例によって、悟空の腹の虫が盛大に鳴り響く。
「は、腹減ったあ……」
「ちょっと孫くん! 少しは空気を読みなさいよ! せっかく皆でのびのびしてたのに、雰囲気ぶち壊しじゃないのっ!」
「ははは、わりぃわりぃ。でもよ、腹が減っちゃ戦はできねえってんだろ? まずはしっかり腹ごしらえしようぜ」
「アンタねえ、こんなとこに来てまでバトルする気なの? 冗談止めてよ。ねえ、名無しさんちゃん?」
「ホントですよ。お花見の時くらい、物騒な話は聞きたくないですもん」
「まあ、そういうなよ。今回はバトルじゃねえって……いや、ある意味バトルかもしんねえけどな」
「孫くん、どういうこと?」
「ちゃんと、オラなりの考えがあっからよ。まあ、楽しみにしててくれ」
「? 悟空、それって……」
「オレも腹が減ったな。早速で悪いが、名無しさん飯にしてくれねえか」
「あ、はい」
「ホントにサイヤ人は誰も彼も食いしん坊ね」
名無しさんの言葉を遮ったバーダックの鶴の一声で、名無しさんはブルマと二人で持ち寄った弁当を敷物の上に並べ始める。
それらは、花畑に引けを取らない色とりどりの豪華なおかずが、十五段重ねのお重にぎっしりと詰め込まれていた。
「おー美味そうだな! さすが名無しさんだ」
「ちょっと孫くん? 私も五時起きで、存分に腕を振るったんですけど、労いの言葉はないわけ?」
「ん? そうだな……もちろん、ブルマの飯もうめえよ。ただ、オラの好みは名無しさんの飯ってだけだ」
「あっそう。あーここだけ熱いわね。5℃くらい上昇したのかしら?」
「ブ、ブルマさん……」
「……」
その様子をバーダックが黙視していたが、彼女らは彼の視線に微塵も気づいていなかった。
「ん~んめえ! 鹿肉のステーキなんか最高だぞ!」
「もぐもぐ……ま、確かにな。飯の腕だけはオレも認めるぜ」
「ふん、名無しさんは器量好しでもあるだろうが。ラディッツは見る目ねえな」
「あ、あはは……」
(ちょっと気恥ずかしいかも……)
「あらら、名無しさんちゃんてばモテモテじゃないの。サイヤ人親子を虜にするなんて、実は魔性の女なのかしら?」
ブルマが名無しさんに流し目を送って見せる。
「ちょ、ブルマさんってば何言い出すんですか! 私は至って普通の人間ですよ!」
「名無しさん、それは少し語弊があるんじゃないか? 現にお前の勇気ある行動で、バーダックとラディッツが一年の期限つきではあるが復活した。お前が努力家なのは、ここにいる誰もが認めている」
「ピッコロさん……」
「そうだろう? バーダックにラディッツ」
「ああ、その通りだ」
「まぁな」
バーダックは口端を上げ、ラディッツは素っ気なく答えた。
それを横目に見たピッコロは、名無しさんにいつになく柔らかい視線を向け、言葉を紡ぐ。
「お前はまず希望を持つことだ。そうすれば、自然と前向きな思考になり、生き方にも良い影響をもたらすだろう」
「あ……ありがとうございます、ピッコロさん。とても勉強になります」
「ああ、あくまでもオレの持論だがな。少しでもお前の役に立つなら、それでいい」
ピッコロは口元に笑みを浮かべ、名無しさんからそっと視線を外す。
「さすがピッコロさんですね。ボクも勉強になりますよ」
「よせ、デンデ。オレはあくまでも戦闘タイプのナメック星人だ。龍族であるお前の優秀な頭脳には遠く及ばん」
キラキラと羨望の眼差しを送るデンデに対し、ピッコロは淡々と言って退ける。
「いえ、ボクはまだまだ経験不足です。経験豊富なピッコロさんの足元にも到底及びませんよ」
「……まぁ、いい。お前が己を未熟と思うのは、まだまだ伸びしろがあるということだ。お前のその謙虚さが、真の神たり得るのだろう」
「は、はい」
ピッコロはすっかり自分の世界に浸っているようだ。間違っても、誰も彼を邪魔立てできる雰囲気ではない。
「何か、しち面倒臭いこと話してるわね、あの人達」
「そ、そうですね。私には難しくて何がなんだか、さっぱりですよ」
「要するに、誠実に生きる努力をしろってことだろ。なあ、ピッコロ」
今まで無言だったバーダックが、徐に口を挟んだ。
「ま、そういうことだな。努力を怠れば、全て無に帰する。だからこそ、誰もが心身ともに鍛え抜く必要性があるのだ」
そう切り返したピッコロは腕を組んだまま、ゆっくりと閉眼する。
「ははは。おめえは相変わらずだなあ、ピッコロ」
最後のおかずを飲み込んだ悟空が豪快に笑い、緩めていた帯を結び直して立ち上がる。そして、全員を見渡した。
「難しい話はそれぐれえにしてよ。ブルマ、例のもんは用意してあっか?」
「ええ、孫くんに言われた通り、全員分用意したわよ」
「おし、そんじゃ腹ごなしに皆で釣り大会すっぞ!」
「えっ、釣り大会?」
「ああ、そこの渓流で釣りをする。イワナやヤマメがうんと釣れっからな。ルールは単純で、一時間以内に一番多く釣ったヤツの優勝だ。優勝者にはブルマから豪華な賞品が送られっぞ。ちゅうわけで、皆頑張ってな!」
「ちょっと待て、孫。それはオレとデンデも参加せんといかんのか?」
「もちろんだ。その為におめえ達を呼んだんだかんな」
訝しげな表情のピッコロの質問に、悟空はにこにこ顔で答える。
「だが、オレ達は……」
「知ってるさ。水以外口にしねえんだろ? ただ、おめえ達には、名無しさんの件で色々世話になってっしよ。たまにゃ、下界で気分転換してもらおうと思ってさ」
「ふん、そういうことか。余計な気を回しやがる」
ピッコロは口元に笑みを湛えた。
「ピッコロさん……」
「まあ、いい。それなら少しぐらい、茶番に付き合ってやるか。なあ、デンデ」
「はい!」
デンデは釣りに興味があるのか、瞳を輝かせて嬉しそうに頷いた。
かくして急遽、渓流釣り大会が幕を開けるのであった。
しかし。
「黙って聞いてりゃ何が釣りだ。オレは修業で忙しいんだ。くだらん茶番に付き合っている暇は、一秒足りともありはせん!」
ずっと沈黙していたベジータが底が知れたとばかりに怒鳴り、皆に背を向ける。
「おい、ベジータ!」
「カカロット、貴様とお遊びをする気はない。オレは一足先に帰らせてもらうぞ!」
ベジータがそう言い捨てて、その場を後にしようとした時だ。
「尻尾巻いて逃げんのか、ベジータ」
「何だと? 貴様、もう一度言ってみろ!」
「だからよ、釣りの経験がねえから勝てる気がしねえんだろ? ベジータともあろうもんが情けねえなと思ってよ」
悟空がわざと挑発すると、ベジータは分かりやすく拳をわなわな震わせる。
「貴様ぁ……黙って聞いていれば、小癪なことを吐かしやがって!」
「ん?」
「……いいだろう。釣り大会でも何でも、貴様ごときにオレ様が負けるなど、万に一つもありはせんのだからなっ!」
「そう来なくちゃな!」
悟空は口元にニッと笑みを刻み、ベジータに見えないよう、後ろ手にVサインした。
その後。
渓流釣りを始めた悟空一行の様子は……。
「ベジータ、釣りって基本的に静かに楽しむものでしょ? そんなに殺気立ってちゃ、せっかくの魚だって逃げちゃうわよ。もっと心をリラックスさせなくちゃね」
「やかましい、ブルマ。魚なんぞ、エネルギー弾を使えば、一匹残らず仕留められるだろうが。気合いが足りんのだ」
「おいおい、ベジータ。そりゃ、釣りって言わねえだろ。名目はあくまでも釣り大会だかんな」
「む……」
眉根を寄せるベジータ。
「釣りってのは、釣り竿使って魚を釣るのが醍醐味なんだぜ? エネルギー弾なんか邪道だぞ」
「うっ、煩い! だからオレは釣りなんぞ……」
「静かにしろって。渓魚は気配に敏感なんだよ。特にイワナは、えれぇ警戒心の強ぇ魚だかんな。そんなにうるせえとすぐ逃げられちまうぞ。魚に気づかれねえように自然な感じで餌を流せば、一発で食いつくからよ」
悟空は人差し指を口元に宛がい、ベジータを制して、渓流釣りのコツを伝授する。
「……分かった」
「おし、その調子だ……」
数分後。
「……まだか、カカロット」
痺れを切らしたらしいベジータが何度も悟空に視線を送るが、悟空は至って冷静沈着に事に当たっている。
「! 来たな……慌てるなよ、ベジータ。不自然な動きを見せたら、手首を素早く返して即合わせんのがポイントだぞ……今だ!」
「む……!」
悟空の声を合図に、ベジータがロッドを振り上げると、綺麗に弧を描きながら、比較的大きなサイズのイワナが釣れた。
「おっ、やるじゃねえか! 26㎝くれぇあるな。けど、オラは一尺程のイワナを釣ったことがあっぞ。釣りは狩りと違って、ただの力押しじゃねえんだよ」
「悟空は釣り名人だもんね。もしかしたら、世界一の腕前かもしれないよ」
悟空の左隣で釣りを楽しんでいた名無しさんが口を挟んだ。
彼女は釣りの経験はド素人だ。悟空に教わって、何とか素人レベルになったが、まだまだ彼の腕前には遠く足元にも及ばない。
「ふん……カカロットが名人だろうが何だろうが、貴様だけには絶対に負けんからな! 貴様より一匹でも多く釣り上げてやるぜ!」
「ははは、頑張れよな。オラはオラなりに楽しむからよ」
悟空は慣れた手つきでロッドを操り、順調に釣果を挙げている。
一方、ピッコロとデンデの様子はと言えば。
「やるな、デンデ。順調に釣れているじゃないか。もう10匹以上だな」
「いえ、たまたまコツを掴むのが早かっただけですよ。そういうピッコロさんも順調に釣り上げているじゃないですか。流石ですね」
「ああ、釣りは闘いと似ている所がある。所謂、兵法だな。バトルに身を置く者は、大抵釣りの上達が早い。そもそも、兵法というのは……」
「は、はぁ……」
ピッコロのウンチクが始まったところで、デンデは曖昧に頷きながら聞き流しているが、周囲の人間は気の毒に思うだけで、助け船を出すつもりはないらしい。ただ一人を除いては……。
「デーンデ! どう? いっぱい釣れてる?」
ちょうどデンデの右隣で釣っている名無しさんが、朗らかに話しかけた。
「あ、名無しさんさん。はい、お蔭様で順調ですよ。入れ食いって言うんでしょうか。ボク、釣りは初めてなんですが、何となくどうすれば釣れるのか、魚の気持ちが分かるみたいです」
「凄いね、そういうのを天才って言うんじゃないかな。何たって、神様だしね。不思議な力があるんじゃないかな、きっと。えーと……多分、洞察力に長けてるんだね」
「い、いえ。天才だなんてそんな……ただ、人よりほんの少し運がいいだけですよ」
デンデは頬を朱に染めて、照れ臭そうに俯く。
「……」
ウンチクを語っていたピッコロはデンデに相手にしてもらえず、わざとらしく咳払いをし、無言で釣りに集中し始めた。
肝心のバーダックとラディッツはと言えば……。
「……眠いな。ラディッツ、オレは適当に昼寝するからよ。てめえがオレの分まで釣りしとけ。いいな、これは命令だ」
「おいっ、親父!」
ラディッツが慌てて呼び止めるものの、バーダックは聞く耳持たずに林の中へ消えていった。
「ったく、自己中親父め……」
取り残されたラディッツは深い溜め息を漏らしつつ、独り静かに釣りをするのであった。
それから、一時間が経過した。
「私とブルマさんの釣果は、それぞれ3匹ずつですね。何だか、仲良し二人組って感じで嬉しいです」
「ホントね。私も釣りは殆ど未経験だけど、名無しさんちゃんと一緒だから、とっても楽しかったわ♪」
「私もですよ」
名無しさんとブルマは互いの顔を見合わせて、小さく笑い合っている。
「くそったれ、たったの5匹しか釣れんとは……だから、オレ様は釣りなんぞしたくなかったんだ」
「んなことねえって。素人にしては頑張った方だぞ、ベジータ。因みにオラは18匹だ。兄ちゃんはどうだ?」
「オレはちょうど10匹だ。釣りとは、なかなか奥深いな」
「へへ、だろ? そんで、ピッコロは何匹釣ったんだ?」
「オレは15匹だ。まあ、こんなもんだろう」
「んー今回の釣果は揃ったな……優勝はイワナやヤマメを合わせて20匹釣り上げた、デンデだな!」
「やったじゃないか、デンデ。お前の釣りの腕前は確かなものだな」
「はい! とても楽しかったです!」
デンデは満面に笑みを浮かべて、ピッコロに応える。
和やかなムードに包まれている時だった。
「ふぁ~……よく寝たぜ」
のんびりとした足取りで、バーダックが林の中から姿を現す。
「親父遅いぞ! もっと早く起きて来いよな! 釣り大会はとっくに終わっちまったぜ!」
「ああ、一時間経ったからな。で、お前の成果はどうだ?」
「10匹だ。優勝は20匹のデンデだとよ」
「何だ、オレの分まで頑張って、たったそれだけか。惨めなヤツだな」
「ぐっ、やかましい! 大体、全然釣らねえ親父が悪いんだろうがっ!」
とうとうラディッツの、バーダックへの鬱憤が爆発した瞬間だった。
そして、事の次第が収束した後。
「さあて、優勝したデンデには豪華賞品があっぞ。ブルマ、頼んだぜ」
「OK、優勝賞品は一年分の超高級天然水よ!」
「え……」
優勝賞品が意外だったのか、呆気に取られる名無しさん。
「わあ、嬉しいです! ありがとうございます、ブルマさん!」
「喜んでもらえて良かったわ。ピッコロ、後で家に取りに来てちょうだいね」
名無しさんが後に知った事実は、優勝者に一番相応しい物を贈る算段だったようだ。
「む、承知した」
「あ、そっか……ナメック星人は水だけで生きられるんだったね。うーちょっと羨ましいかも、いろんな意味で」
「そんじゃ、フィナーレは焚き火で焼き魚にして皆で食おうぜ!」
悟空の鶴の一声で全員で薪を集め、彼の気功波で焚き火をし、釣り上げた魚を串刺しにして次々に焼いていく。
「焼けた魚から、どんどん食ってくれ。何せ、70匹以上の釣果だからな。皆が満足するくれえの量はあんだろ」
「正確には74匹ね。ピッコロとデンデを除いても、6人だから単純計算で独り頭12匹は食べられるわよ」
「うわー私そんなに食べられないですよ」
「そうかあ? オラは余裕だぞ。なあ、父ちゃん?」
「ああ、寧ろ物足りんぐらいだ」
「親父が言うな! つーか、どの面下げて食ってんだよ!」
「あ? 誰か食って悪いって言ったのか?」
「くーっ、ああ言えば、こう言うんだからよ!」
「まあまあ。いいじゃねえか、兄ちゃん。皆で食った方が何十倍もうめえぞ」
どこまでも心優しい悟空の言葉に、最早押し黙るしかないラディッツは、苦虫を噛み潰したような面持ちで焼き魚に食らいついている。
「ふん……くだらんことでキレるとはラディッツめ、精神修業が全然足りんようだな。情けねえ野郎だぜ」
「全くだ、地球に襲来した時とは比べ物にならんほど、ヘタレになっているらしい。ま、あの時から既に根性なしだったがな」
ベジータとピッコロは存外、意気投合しているようだ。二人には相通ずる物があるらしい。
「ねえ、悟空。今日は充実した一日だったね。悟空のお蔭で、また一つ記念日が増えたよ」
「そりゃよかったな」
「うん。でも……出来れば、バーダックさんとラディッツと、もっとお喋りしたかったのが唯一の心残りだけどね」
「なーに、これから幾らでも話せるさ。まだまだ父ちゃん達との共同生活は始まったばっかだろ? それによ、オラがまたこういう機会作ってやっから、しんぺえすんなって。な?」
「そうだよね、また絶対にこんな機会作ろうね!」
「ああ!」
渓流の涼やかな水音を背に、賑やかな雰囲気のなか、悟空と名無しさんは満天の星空を見上げながら、新たな約束を交わした。
それを確約するかのごとく、一筋の流れ星が夜空を彩るのであった。
こうして、パオズ山の夜はゆったりと更けていった。
そして。
月日は流れに流れて明日を向かえれば、バーダックとラディッツは地獄へ戻らなければならない。
悟空と名無しさんは二人の為に細やかなお別れパーティーを開いた。
「これはオラと名無しさんからプレゼントだ」
悟空がバーダックとラディッツに、それぞれ小さな白い箱を渡す。
「プレゼント? まあ、一応貰っておくか」
ラディッツが箱を開けると、中にはアメジストのピアスが入っていた。
「ほう、ピアスか」
「なあ、名無しさん。何とか言葉っちゅうのが、あるんじゃなかったか?」
「宝石言葉ね。宝石にはそれぞれ意味があるの。アメジストの宝石言葉は、誠実で愛の悦びとか平和の心が得られるんだって」
「くくっ、平和の心か。ヘソ曲がりなラディッツくんには必要だよな?」
傍観していたバーダックが愉快そうに喉元で低く笑った。
「ぐっ……そういう親父のは何だよ?」
ラディッツはまだ開けていないバーダックの箱を指しながら問う。
「開けて見てくれ、父ちゃん」
皆が見守るなか、バーダックが開けた箱にはルビーのピアスが入っていた。
「オレのはルビーか。名無しさん、コイツの宝石言葉は何だ?」
「何でも、情熱と仁愛と威厳と色気だったかな。溢れるような活力とエネルギーが得られて、素直なセクシャリティを発揮出来るようになる……らしいですよ」
「何か、親父そのものだな」
「ほう、オレにピッタリじゃねえか」
ぽつりと呟くラディッツを無視して、バーダックはピアスを興味深そうに見つめる。
「……オレは無視か」
流されたラディッツはテーブルに頬杖をついて、そっぽを向いてしまう。
それを見た悟空がラディッツに腕を伸ばし、肩をぽんと叩く。
「まあまあ、兄ちゃん。せっかく最後の夜なんだから拗ねんなよ」
「ふん、ほっとけ」
素っ気なく答えるものの、ラディッツの口元には笑みが浮かんでいる。
「だが、何でプレゼントがピアスなんだ?」
「皆で過ごした証を贈りたいねって悟空と話し合って、ピアスならずっとつけていられるし、邪魔にならない物をプレゼントしようって決めたんですよ」
バーダックの問いかけに名無しさんが答えると、彼は納得したように頷いた。
「それなら、ありがたく貰っておくぜ。なあ、ラディッツ?」
「ああ、ありがとよ」
「喜んで貰えてよかったな、名無しさん」
悟空に頭を撫でられ、バーダックとラディッツの反応を見て「そうだね」と、満足そうに微笑む名無しさん。
その後、四人は名無しさんが腕を振るって作ったご馳走を食べ、最後の団らんのひとときを過ごすのだった。
夕食を終えて、名無しさんは後片付けに精を出していた。
「名無しさん、独りで大変そうだな」
名無しさんの背後からラディッツが顔を出す。
「そうなの、いつもより張り切って作ったから食器の数が多くて」
「だと思ってよ……ってやる」
「ごめん、何言ってるか聞こえないよ?」
水道で食器を洗い流している為、彼女にラディッツの声は届かない。
「……だから、手伝ってやるって言ってんだよ!」
ラディッツが顔を真っ赤に染めて叫ぶと、名無しさんは振り返って。
「えっ、手伝ってくれるの?」
「さっきからそう言ってるだろうが」
「でも今日の当番って悟空でしょ?」
悟空達親子は毎日交代で、食事の後片付けを手伝っている。本日の当番は悟空らしいのだが……。
「それがよ、親父がカカロットに野暮用があるとかで、さっき二人して外に出てっちまってな」
ラディッツは布巾を手に、名無しさんが洗った食器を一枚ずつ拭いていく。一年もやり続ければ手慣れたものだ。
「わざわざ外に出るなんて、何の用だろう?」
「さあな、何か親父に考えでもあるんだろ。それより早く片付けちまおうぜ」
「あ、そうだね」
ラディッツに促されるまま、彼女も片付けに専念する。
「手伝ってくれてありがとね、ラディッツ。お礼に特製チーズケーキをご馳走しちゃおうかな」
「このくらい構わんが、ケーキか。甘いのはどうも苦手でな」
「大丈夫。甘さ控え目にしてあるから、辛党なラディッツでも食べられるよ」
「ふーん、なら食ってやってもいいぜ」
(相変わらず素直じゃないんだから……ラディッツらしいけど。それより、悟空とバーダックさんのことも妙に気になるなあ……)
ラディッツが名無しさんの手伝いをしている頃。
悟空はバーダックに連れられ、家の近所を散歩していた。
「父ちゃんがオラに用なんて、修業以外じゃ珍しいよな。やっぱ明日で最後だからか?」
悟空は後頭部に両手を組み、一歩先を歩むバーダックに話しかける。
「ふん……オレは回りくどいのは嫌いなんでな。単刀直入に聞くが、カカロットは名無しさんが好きなんだろ?」
「いや、愛しいって方が合ってっかもな」
悟空は臆面なく、穏やかに笑って答えた。
「……お前、この先も名無しさんを守っていく覚悟はあるのか?」
バーダックは振り向くと、真摯な眼差しで悟空を見据えた。
「何でそんなこと聞くんだ?」
悟空も立ち止まり、眉間に皺を寄せる。
「聞かれたことに答えろ」
「……分かったよ。オラは名無しさんじゃなきゃ駄目だ。代わりなんて、どこにもいねえと思ってる。だから、命懸けで名無しさんを守り抜く覚悟は出来てっぞ」
悟空が真剣に答えると、バーダックは不敵な笑みを浮かべた。
「ふん、その答えを待ってたぜ。お前の覚悟とやらを見せて貰おうと思ってな。今すぐオレと決闘しろ、カカロット!」
「ああ、そういうことか。オラも父ちゃんと勝負してみたくて、ウズウズしてたんだよな」
「やるからには全力で来い!」
バーダックは咆哮を合図に超サイヤ人に変身を遂げ、悟空に向かって拳を繰り出した。
悟空も超サイヤ人になり、バーダックの素早い攻撃をすんでのところで華麗に躱す。
「やっぱ父ちゃんはすげえよ。この一年でスピードもパワーも格段にレベルアップしたもんな!」
「ありがたいことに、まだまだ成長期が続いてるってわけだ。ま、お前とは本気で遣り合いたいと思っていたからな。念願叶って嬉しいぜ!」
対話しつつ、激しい攻防戦が打ち続く。
「けどよ、今回の勝負は何が何でも勝たして貰うぞ。何たって名無しさんへの覚悟を示さなきゃなんねえんだもんな!」
「お前の実力を見せてみろ!」
親子の口元に薄らと笑みが浮かぶ。
「一気に片を付けるぞ!」
悟空がかめはめ波を撃つ為、脚を大きく広げ、腰を落とす型を取る。
「そうこねえとな、次の一撃で勝負だ!」
バーダックも右手にエネルギーを集中させ、その手中「全力で行くぞっ、かー……めー……はー……めー……波ぁっ!!!」
「こいつがオレのフルパワーだっ! 喰らえッ、カカロット!!!」
悟空のかめはめ波とバーダックのライオットジャベリンが真正面から激突するが、悟空のパワーが僅かに上回る。
「ぐぬうっ!」
周囲に閃光が放たれた刹那、諸に攻撃を受けてしまったバーダックはその場に倒れ伏し、彼等が生み出した衝撃波はパオズ山全体を揺るがした。
ダメージを受けたバーダックは腹部を押さえつつも、夜空を見上げた彼の口元には笑みさえ浮かんでいる。
「く……くく、やるじゃねえか……最下級戦士の息子にしては上出来だ。カカロット……一生、名無しさんを大事にしてやれよ?」
「もちろんだ。オラ達、愛し合ってっからな」
「けっ、惚気やがって……」
悟空はバーダックに歩み寄るとしゃがみ込んで、いつの間にか懐に忍ばせていた麻袋から仙豆を取り出す。
「そんじゃ、今度こそ仙豆食べてくれよ?」
「へっ、用意のいいこった。まさかお前、こうなることを見越していたのか?」
「ん? 念の為だ。深ぇ意味はねえさ」
「ふん、随分と親思いの倅を持ったもんだぜ」
バーダックは悪態をつきながらも、仙豆を受け取り咀嚼して飲み込んだ。
すると、名無しさんやラディッツの時と同様、悟空から受けたダメージが一瞬にして回復する。
「これで父ちゃんも仙豆の凄さが分かっただろ?」
悟空が手を差し延べると、バーダックはその手をひしと握って起き上がった。
「味はともかく、ラディッツが言っていた通り、メディカルマシーンより優れてるな。何より地球は自然が溢れてるし、宇宙で一番恵まれてるんじゃねえか?」
「オラもそう思うぞ。だからこそ、オラ達は地球を侵略したり滅ぼそうと襲って来る敵にゃ、何が何でも負けらんねえんだ」
悟空は夜空を仰いで目を細めた。そこにはまるで二人を見下ろすように、満天の星空が光り輝いている。
バーダックは悟空の横顔を眺めて、口を開いた。
「そうだとしても、地球が安全とは言い切れん。臥薪嘗胆、いかなる時も日々の努力を怠るな」
「分かってるさ。それとよ、父ちゃんも忘れねえでくれ。オラはカカロットじゃなくて、地球で育った孫悟空だからな?」
「ふん、生意気言いやがって。地球で育とうが、お前の故郷は惑星ベジータで戦闘民族サイヤ人だってことを忘れるなよ、カカロット」
「兄ちゃんやベジータにもカカロットって、呼ばれちまってんもんな。いいさ、オラはサイヤ人だろうと地球育ちだってのに変わりねえからな」
「だから、お前は……」
終わりのない会話を繰り返していると。
「悟空っ!」
パオズ山の地響きに驚いたのか、唐突に家中から飛び出して来た名無しさん、悟空とバーダックの目前に立ち塞がった。
「おっ、名無しさん!?」
「二人とも、こんな夜遅くに何やってるの!」
「名無しさん、これには深ぇ訳があってよ……」
悟空が言い訳をしようとすると、名無しさんは有無を言わさないとばかりに彼を睨みつけてから、バーダックに目を向ける。
「さっきの地響きは二人が関係してるんですよね!? どうして闘う必要があるんですか!?」
「どうしてと聞かれても、この世に滞在出来るのも明日で最後だしな。その前にカカロットと真剣勝負したかっただけだ」
「……でも私は親子で争って欲しくないです。最後くらい平和に過ごしましょうよ」
名無しさんの後からついて来たラディッツが、何とも言い難そうに複雑な表情を浮かべている。
「名無しさん、オレ達は戦闘民族だからな。惑星ベジータがあった当時も、身内での争いは当たり前に起こってたんだよ」
「でも、惑星ベジータはもう……」
「お前には分からねえかもしれんが、惑星ベジータが消滅しようと、オレ達は闘うことでしか生きられねえ。これは謂わば、サイヤ人の宿命なんだよ」
彼女の言葉を遮るように、バーダックが真剣な眼差しで答える。
「……分かりました。でも、明日でお別れなんですから、争いごとはこれで終わりにしてくださいね?」
「ああ、名無しさんには心配かけて悪かったな」
「オラも悪かったよ、名無しさん」
悟空やバーダックから彼女に真意を語られることはなく、最後の夜は更けていくのだった。
翌日。バーダックとラディッツの門出を導くような、春麗らかな陽気に包まれていた。
二人の耳には、昨夜身につけたピアスが光っている。何はともあれ、二人とも気に入ったようだ。
もうすぐ二人は地獄に戻らなくてはならない。刻一刻と占いババが迎えに来る時が迫っていた。
四人は家の前で、最期の別れを惜しんだ。
「長いようで短い一年間だったね」
彼女は寂しそうにバーダックとラディッツを見つめている。
「名無しさん、辛気臭い顔するな。ラディッツを見てみろよ。別れが惜しいくせに必死で我慢してるんだぜ?」
バーダックに言われて、彼女はラディッツに目を向ける。
「……んだよ、オレは何とも思ってないからな」
無愛想にしているが、彼は涙ぐんでいた。
「ラディッツ、今まで楽しかったよ。絶対に忘れないからね」
名無しさんはラディッツに歩み寄り、精一杯の笑顔で話しかけた。
「オラもだ。三人で修業出来て楽しかったぞ。なっ、兄ちゃん?」
悟空は唐突にラディッツの肩を抱き寄せる。
「なっ!? いきなり何するんだよ、このバカロットが!」
ラディッツは照れ隠しに、両手で力一杯悟空を押し退ける。
「柄にもなく照れやがって、バカ息子には似合わねえぜ?」
それを見ていたバーダックは鼻で笑った。
「やかましい、バカ親父!」
ラディッツが怒鳴り返した直後、空間にパッと占いババが現れた。
「占いババっ!?」
「ほっほっほっ、久しぶりじゃな」
「いきなり現れっからたまげたぞ、占いババ」
「ほっほっほ、すまんのう。しかし、突然現れるのはお互い様じゃろうて。それで、お主達。地獄に戻る準備は出来ておるか?」
悟空の言葉に形だけの謝罪をした占いババは、バーダックとラディッツに視線を向けた。
「十分……いや、五分でいいから待ってくれ」
バーダックが一歩前に出て、占いババに告げる。
「五分じゃな。まあいいじゃろう」
占いババは頷いて、後方へ下がった。
「恩に着る、占いババ。ラディッツ、ちゃんと挨拶しておけ」
バーダックは占いババに謝罪した後、そっぽを向いていたラディッツの背中を、彼女と悟空の方へ押しやった。
「うわっ……いきなり押すなって!」
前のめりになるのを堪え、バーダックを睨むラディッツ。
「ゴチャゴチャ吐かしてねえで早くしろ、バカ息子!」
挙げ句の果てに、頭を一発ぽかりと殴られてしまう。
「痛っ……分かった分かった、ちゃんとすればいいんだろ!?」
「だ、大丈夫?」
「……ああ、これくらい平気だ。名無しさんとカカロットには色々と世話になったな。それと、名無しさんのチーズケーキだが、なかなか美味かった。お前、その道で食っていけるぜ。オレが保証する」
「ふふ、ありがと」
ラディッツは名無しさんと悟空を交互に見つめて、感謝の気持ちなのか、両手で二人の頭をわしゃわしゃと撫でくり回した。
「生まれ変わったら、また逢おうな?」
「ふん、兄弟としてか。それも悪くないな」
悟空とラディッツは固い握手を交わす。
「ラディッツ……うっ……ぅ……」
それを見ていた名無しさんの瞳から涙が零れた。
「な、泣くなよ……親父、後は任せたからな!」
お手上げ状態のラディッツを目にした悟空は苦笑して、バーダックに視線を向ける。
「父ちゃんは名無しさんを気に入ってるもんな」
「お前……やはり気づいていたのか?」
「丸分かりだぞ。父ちゃん、いっつも名無しさんを気にかけてたじゃねえか」
瞠目するバーダックに、悟空はまるで悪戯が成功した子供のように笑いかけた。
「ったく、最後まで世話の焼けるヤツだな……おい、名無しさん」
「ひっく……な、なんですか?」
バーダックが声をかけても、一向に泣き止む様子のない名無しさん。
「チッ、泣くな!」
鳴咽する彼女の腕を引き寄せ、唇を深く重ねる。
「っ!?」
名無しさんは突然の出来事に瞠目した。
「とっ、父ちゃん!?」
「お、親父……」
悟空は真っ青、ラディッツは真っ赤。
「ん、んんっ……」
バーダックは名無しさんの後頭部を抱えると、薄く開いた唇の隙間に舌を捩込んで、口腔を蹂躙するとゆっくり唇を離した。
「……やっと泣き止んだな、名無しさん」
愚図る子供をあやすように彼女の頭を優しく撫でる。
「確かルビーは素直なセクシャリティを発揮するんだよな? 文句は言わせねえぜ、カカロット」
バーダックは悟空に視線を向けて、したたかに笑う。
悟空は開いた口が塞がらないといった様子。
「じゃあな、カカロット。くれぐれも名無しさんを頼んだぜ?」
勝ち誇った面差しで告げ、再度名無しさんの頭を撫でるバーダック。
「あ、ああ……」
半ば放心状態の悟空は生返事をした。
「そろそろ五分じゃぞ」
「ああ、待たせたな」
バーダックは踵を返し、占いババに歩み寄る。ラディッツもその後に続いた。
はっと我に返る名無しさん。
「バーダックさん! ラディッツ! 一年間の想い出、一生忘れないからね!」
バーダックとラディッツに向かって思いの丈をぶつける。
「オレもだ、名無しさん! 元気でな!」
バーダックが振り返って応える。この時、彼は初めて心から喜びの笑みを名無しさんに向けた。それは一点の曇りもない、至極晴れやかな面構えだった。
その余韻を遺したまま、二人は占いババに連れられてこの世から消え去り、あの世へと戻って行った。
「行っちゃったね、悟空」
(二人とも、さようなら……色々あったけど、とても楽しかったよ)
空を見上げ、バーダックとラディッツに遠く思いを馳せる名無しさん。
「オラ……やっと、父ちゃんの本心が分かったぞ。どんな想いで名無しさんをオラに託したのかも……きっと、オラと同じだったんだな」
悟空も空を見上げて、額に片手をかざしながら言葉を紡いだ。
「悟空、急にどうしたの?」
「きっと父ちゃんは、おめえを愛してたんだ」
「え……?」
悟空は昨日のバーダックとの出来事を有りの侭、聞かせる。
「そんな……それじゃあ、バーダックさんの言ってたことは……本気だった?」
『もしもオレが名無しさんを好きだと言ったら、どうする?』
彼女の耳朶に、バーダック独特の低音ボイスが響いた。
「……バーダックさん」
名無しさんには口元に笑みを浮かべて自分の頭を撫でる悟空の顔が一瞬、バーダックと重なって見えた。
「名無しさん……おめえ、ひょっとして父ちゃんに告白されたんか?」
悟空は名無しさんの頬を濡らす雫を優しく指で掬い、温かく逞しい腕で包み込んだ。
「ご、悟空……私っ……私は……バーダックさんの想いに……応えられなかった……!」
深い悲しみに襲われ、名無しさんの瞳からは止めどなく涙が溢れ出した。
「父ちゃんは名無しさんに逢えてよかったんだ。最後のあの嬉しそうな笑顔、心から満足してるって証拠だ。だからよ、無闇に悲しむ必要なんてねえさ」
悟空の穏やかな声音が名無しさんの心に響き渡る。
「……うん、そうだね」
(今なら分かる気がする……私は多分、悟空とバーダックさん親子の架け橋になる為に、この世界に来たんだと思う。だから、二人の記憶は大切な想い出として、ずっとずっと忘れず心に刻んでおこう)
何よりも忘れてはいけない大切なこと。
それは人と人の繋がりだ。
バーダックとラディッツは名無しさんと悟空に出逢い、一年という長いようで短い期間を四人で過ごした。
皆で苦楽を分かち合い、心に遺る想い出が積み重なって、本当の家族として絆を深めたのだ。
未来までも、この世とあの世を越えて、四人は切っても切れない固い絆で結ばれているであろう。
END