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惑星ベジータにある大衆酒場で、ある男が静かに酒を飲んでいた。
彼の名前はブロリー。伝説の超サイヤ人として成長を遂げ、圧倒的なパワーを備えている。
ブロリー自身そんな驚異的な存在の為、誰にも心を開かず、本能のまま殺戮を繰り返していた。同じサイヤ人でも、彼を怖れて近寄る者は殆どいない。
しかし、そんなブロリーにも気丈な振る舞いを見せる者がいた。それは、一人の女サイヤ人。彼女の名前は名無しさん。男勝りだが誰にでも優しく、ブロリーに対しても決して臆する色を見せない。
酒場にやって来た名無しさんは、素早く辺りを見回した。カウンター席に座るブロリーを見つけると、迷わず近づいていく。
「ブロリー、また独り酒か? 相変わらず孤独な男だな」
背後から声をかけ、ブロリーの肩に腕を回して、顔を覗き込んだ。
「何の用だ?」
ブロリーは名無しさんに視線を向けて眉を顰める。
「せっかく一緒に飲もうと思って話しかけたのに……相変わらず冷たいな」
小さく笑って隣のスツールに座る名無しさんに、「……好きにしろ」とブロリーは溜め息を吐いて無愛想に返事をする。
「珍しく嫌がらないんだな?」
名無しさんは心底嬉しそうに、満面の笑みを浮かべた。
「名無しさんには何を言っても無駄だからな」
無表情で視線を逸らすブロリー。
「そんなに卑屈だと幸せが逃げちまうぜ? 前向きに生きた方が、人生楽しいと思うけどな」
「放っておけ」
ブロリーの冷たく突き放す物言いに、名無しさんはがっくりと肩を落とした。
「……ったく、人の忠告は素直に聞けよ」
すると、漆黒の双眸が名無しさんを捉えて、「不思議な女だな、お前は……」と武骨な指で顎を掴み、徐に顔を近づけていく。
「おい……ブロリー?」
名無しさんは驚きを隠せず、澄んだ瞳が不安げに揺らいだ。
「何だ?」
「あんた……これは、一体どういうつもりなんだ?」
「何がだ?」
名無しさんが戸惑うのも無理はない。お互いの唇が今にも触れそうな距離だ。
ブロリーにしてみれば他意はなく、名無しさんの質問の意味が分かっていないらしい。
しかし、大胆な行動を取るブロリーに戸惑い、名無しさんは視線を泳がせる。
「何で、私の顎を掴んでるんだよ……?」
「お前はオレが怖くないのか? 何故オレに構う?」
名無しさんの質問には答えず、ブロリーは普段よりやや低い声音で問い質した。
「そりゃ皆が色々言ってるのは知ってるけど、私はいちいち左右されないっていうか……あんたを悪戯に怖がる理由がない。それにこんな寂しそうなヤツ、放っておけないからな」
「オレが寂しそうだと? 名無しさんはつくづく変わった女だな」
ブロリーはいつになく穏やかな瞳で名無しさんを見つめる。
「っ……ブロリー、そんな顔も見せるんだな」
「どういう意味だ?」
「あー……だから、あんたの仕草が私の心臓に悪いんだよ!」
名無しさんは咄嗟に誤魔化すと、頬を朱に染めて目を伏せた。
「名無しさん、顔が真っ赤だ」
眉間に皺を寄せ、名無しさんの額に手を当てる。
「今度は何がしたいんだよ?」
「熱はないな」
「は? 当たり前だろ」
「名無しさん、オレについて来い」
名無しさんの手首を掴んで、酒場を出ようとする。
「おいっ、急にどうしたんだ? 私、まだ酒飲んでない――」
「黙っていろ」
ブロリーは無理矢理外まで連れ出して、軽々と名無しさんを抱き上げた。
「ブロリー!? 一体何をするつもりなんだ!?」
ブロリーは名無しさんの言葉に聞く耳を持たず、しかめっ面のまま空に飛び立った。
「ホントに何考えてるんだよ?」
「いいからオレに任せておけ」
「……」
名無しさんは追及することを諦めて、大人しくブロリーに身を任せた。
数分後。
「着いたぞ」
彼が降り立った先は……。
「ここは、メディカルセンター?」
(あ、まさか……)
名無しさんは何となく嫌な予感がした。
「さっき、心臓が悪いと言っていただろう? ここで見て貰え」
(予感的中……まあ、その優しさは嬉しいんだけどな)
「私は心臓に悪いって言ったんだよ」
(あれは言葉のあやだと言っても、ブロリーには理解出来ないだろうな)
「だから、ここで見て貰えと言っている」
「そうじゃなくて……」
暫くの間、二人はメディカルセンターの前で、延々と押し問答を繰り返していた。
結局、名無しさんが折れてドクターに診察してもらったが、結果は案の定至って健康で、二人は冷やかすなと散々怒られて叩き出されるのであった。
数日後。
名無しさんは自室のベッドに寝転んで、ブロリーのことを考えていた。
(ブロリーは以前より、残虐さが薄れてきている気がする……)
名無しさんに対して優しさを見せるようになり、昨夜もズレてはいるものの真摯な態度が見て取れた。
(少しは私に心を開いてくれてるって証拠かもな……)
そんな風に思いながら微笑する。
「名無しさん……」
目を閉じて思考を巡らせていれば、不意にベッドのすぐ傍から耳慣れた声が聞こえた。
名無しさんが目を開けると、いつ侵入したのか、ブロリーが無表情で佇んでいた。
「ブロリー!?」
名無しさんは驚きの表情を浮かべ、勢いよく起き上がる。
「お、驚かせるなよ! 一体いつの間に入って来たんだ!?」
「ついさっきだ」
ブロリーは平然と言い切る。
「ついさっきって、あんた……」
ふと名無しさんは、ブロリーのこめかみから出血していることに気づく。
「おい、その怪我どうしたんだ? こめかみから血が出てるぞ……」
「怪我……?」
ブロリーは大して気にした風でもなく、こめかみに手を伸ばす。
名無しさんは咄嗟にブロリーの手首を掴んだ。
「触るな! バイ菌が入ったらどうするんだ!?」
「何故怒っている? こんなものは、かすり傷だ」
(無頓着と言うか何というか……)
名無しさんは呆れて、盛大な溜め息を吐く。
「もういい……手当てしてやるからここに座れ」
ブロリーの手首を離すと、ベッドを軽く叩いて隣に座るように促した。
「ああ」
ブロリーは素直に頷いて、促されるままベッドに腰掛ける。
いつもなら他人の言うことを訊かないブロリーの素直な態度に、名無しさんは拍子抜けしてしまう。
「あ……じゃあ、ちょっと待ってろよ」
名無しさんは救急箱を探し出すと、隣に座って、こめかみに化膿止めを塗り消毒液をつけてやる。
不意にブロリーがぽつりと呟いた。
「ついさっきまで近隣の惑星を侵略しに行っていた」
「え?」
「少し考え事をしていたら、虫けら共に不意打ちを喰らった……」
何よりも殺戮を好むブロリーが、やりそうもない失態だ。
「それで怪我したのか?」
「腹いせにその惑星のヤツらを皆殺しにしてやったがな」
名無しさんが首を傾げれば、ブロリーは不穏な笑みを見せる。
いかにもブロリーらしいが、名無しさんは先程の言葉が引っかかっていた。
「ブロリー、何を考えてたんだ?」
「……お前のことだ、名無しさん」
「は? 私……?」
ふとブロリーの手が、名無しさんの髪に触れる。
「何故だろうな。近頃お前のことが頭から離れなくてな」
髪に触れていた指先を輪郭に沿って滑らせ、そっと下唇をなぞった。
「っ……ブロリー……」
背筋がぞくりと粟立つのを感じた名無しさんは、思わず息を呑んだ。
(最近のブロリーはいつにも増しておかしい。スキンシップなんて、する男じゃなかった……)
しかしブロリーは何事もなかったかのように、名無しさんから手を離す。
「名無しさん、手当てとやらは終わったのか?」
「え? い、いや……まだ包帯をしないとな!」
すっかりブロリーのペースに呑まれていた名無しさんは焦った様子で答えると、救急箱の中から包帯を出して彼の頭部に巻いていく。
(昔からマイペースなヤツだったけど、普段とは何か違うっていうか……でも、自覚はないんだろうな)
「おい、前が見えん」
「あっ、悪い!」
名無しさんは考え事をしながら手当てしていた為、知らぬ間に包帯を使い切ってしまっていたようだ。
包帯はブロリーの目を覆い隠して、鼻から下しか見えていない状態だ。
(今なら……)
名無しさんはブロリーの顔を覗き込むと、一瞬だけ彼の唇に口づけた。
「名無しさん……今のは何だ? 何か柔らかい物が当たったぞ」
前が見えていないブロリーは何が起きたのか分からず、自分の唇に触れて首を捻る。
「……怪我が早く治る、おまじないみたいなもんだ」
名無しさんは誤魔化しながら余分な包帯を絡め取り、今度はブロリーの頭にしっかり巻きつけた。
「まじないか……なら、もう一度してくれ。一瞬で分からなかったからな」
「そんなの……無理に決まってんだろ!」
「何故だ?」
真顔で問うブロリーに「ふっ、普通は恋人同士がするからだよ! 私らはそんな関係じゃないだろ!」と名無しさんは赤顔を背ける。
「……そうか、無理を言って悪かったな」
ブロリーは立ち上がって、そのまま部屋を出て行く。その背中は心なしか寂しげだった。
「あ、ブロリー……」
名無しさんはその後ろ姿を呆然と見送った。
翌日。名無しさんは近隣に位置する星系へ侵略命令を下された。
ブロリーのことが頭から離れなかったが、命令に背くわけにはいかず。
仕方なく丸型ポッドに乗り込んで、チームの仲間とともに出発した。
数十分後、目的地に到着した名無しさんと仲間達は、手分けして攻撃を開始する。比較的小さな星で人口も少ない為、円滑に侵略を進めていった。
しかし、制圧寸前で超能力を扱う難敵に邪魔立てされ、戦いを余儀なくされる。相手の凄まじい超能力で仲間達は皆死に絶え、残るは名無しさんだけだった。
敵も残り一人だが、相手が超能力を使うとあっては、少々厳しい状況に置かれていた。
「何なんだ、こいつ……」
殆どパワーを使い果たした名無しさんは、身体のバランスを崩して地面に膝をついた。
「……勝手に人様の星を荒らした罰だ。貴様にも死の恐怖を味わってもらおうか」
「クソッ……まだだ……!」
それでも名無しさんは執念で立ち上がり、敵を睨みつける。
「貴様一人で何が出来る? もう諦めろ!」
「チッ……これでも喰らいやがれ!」
名無しさんは気力を振り絞り、フルパワーエネルギー弾を撃ち放った。
しかし敵の前にシールドを張られて、難なく攻撃を塞がれてしまう。
「無駄な抵抗は止めろ」
「そんなバカな……!」
(今のは渾身の一撃だった。それを、あっさりと防ぎやがって……)
名無しさんは強く拳を握り締めて、歯を食い縛った。
「今度はこちらの番だな」
敵は名無しさんに向かって両手を突き出すと、何やら呪文を唱え始める。
「ぐっぁ……か、身体が……動かないっ……!」
名無しさんは金縛りにかかってしまい、身動きが一切取れなくなった。
「これで、終わりだ」
敵の掌から光が溢れ出し、次の瞬間、エネルギー弾が放たれる。
「ぐっ……そんな攻撃、持ち堪えて見せるっ!」
避けられないなら敢えて攻撃を受け止めようと、イチかバチかの賭けに出る名無しさん。
名無しさんに迫り来るエネルギー弾を、真っすぐ視界に捉える。
「させるかあぁっ!」
その瞬間、黒い影が間に割り込み、気合いでエネルギー弾を掻き消した。
「あ、あんた……」
「名無しさん、無事か?」
名無しさんを庇ったのは、ここにいる筈のない人物だった。
「ブロリー……何でこんな所にいるんだ……?」
「名無しさんの戦闘力が著しく落ちているのが気になってな。急いで駆けつけて正解だった。後はオレに任せろ……!」
背中越しに聞こえてくるのは怒りに満ちた唸り声。
ブロリーは全身から殺気を放ち、敵の前に立ちはだかった。
既に超サイヤ人に変身しているブロリーからは、圧倒的パワーがみなぎっているのが見て取れる。
「な、何だ、貴様は!」
敵もブロリーが只者ではないと感じたらしく、顔を引き攣らせて一歩後ろへ下がった。
「オレは貴様を許さん……死ね!」
ブロリーは逃がさないとばかりに一気に間合いを詰め、造作なく敵の首を掴み締め上げる。
「ぐあぁっ!」
骨が砕ける鈍い音がすると、ブロリーは口元をニヤリと歪めた。
「消えろ」
片手を敵の腹部に宛がい、躊躇いもなく強力なエネルギー弾を撃ち込んだ。
「っ……!」
まともに攻撃を喰らった敵は、声も出せぬまま苦悶の面持ちで木っ端微塵に砕け散った。
「ふん、クズが……」
ブロリーは忌々しげにそう吐き捨てると、超化を解いた。
「ブロリー……」
やっとのことで金縛りから解放された名無しさんは、少し離れた場所で仰向けに倒れ込んだ。
「名無しさん」
ブロリーが名無しさんを振り返ると、彼女は苦しげに肩で息をしていた。
「大丈夫か?」
名無しさんに歩み寄り、上半身を抱き起こす。
「あ、ああ……助かったよ、ブロリー」
「全く、弱いくせに無茶をするな」
「なっ、私だって必死だったんだよ!」
「必死なのはいいが、死んだら意味がないだろう」
「ぐっ……」
ブロリーに最もなことを言われ、悔しげに唇を引き結ぶ名無しさん。
「名無しさんに死なれてはオレが困るからな」
「……私が死んだら、何でブロリーが困るんだ?」
名無しさんにはブロリーの意図がまるで分からなかった。
「やっと分かった。お前がオレの頭から離れないのは、名無しさんがオレにとって唯一無二の存在だからだ」
ブロリーはこれまで見せたことのない、優しげな瞳で名無しさんを見つめ、顔を寄せて唇に合わせるだけの口づけをした。
「んっ……」
ゆっくり唇を離したブロリーは、「まじないだ。名無しさんの怪我が早く治るようにな」と彼女を抱いたまま軽く笑う。
「っ……ブロリー……」
(気づいていたのか……)
「名無しさん、これからはオレがお前を守ってやる」
力強い声音で宣言したブロリーは、今度は荒々しく名無しさんの唇を奪った。
「んんっ……」
名無しさんは眉根を寄せて、ブロリーの逞しい腕にすがりつく。
それに応えるように、ブロリーは名無しさんの身体を優しく包み込んだ。
暫くして唇を離した彼は、「その代わり、名無しさんもずっと傍にいてくれ。オレにはお前が必要だ」と名無しさんの額に小音を立ててキスを落とす。
「ああ、傍にいるよ。私は誰よりもブロリーが好きだからな」
名無しさんは頬を朱に染めて、照れ隠しに視線を逸らした。
ふっと穏やかな笑みを浮かべるブロリー。
「名無しさんに好きだと言われるのは存外、心地好いものだな」
「自分は言わないくせにな」
その言葉にブロリーは口端を吊り上げて、名無しさんの首筋に唇を這わせる。
「ちょっ……何してんだよ!」
恥ずかしげに腕の中で暴れる名無しさんをいとも簡単に抑え込み、少し唇を離して「名無しさん、愛している。オレにはお前だけだ」と甘やかに囁いた。
「……それは、私もだ。ブロリーには前々から特別な感情を持っていたからな。あんたが堪らなく愛しいよ」
名無しさんは照れながらも、ブロリーへの素直な想いを紡いだ。
ブロリーは嬉しそうに微笑んで、名無しさんの愛らしい唇に三度 重ね合わせた。
若いサイヤ人の恋物語はまだまだ始まったばかり。ブロリーと名無しさんは芽生えたばかりの確かな愛情を、この先もゆっくりと大切に育んでいくであろう。
END
彼の名前はブロリー。伝説の超サイヤ人として成長を遂げ、圧倒的なパワーを備えている。
ブロリー自身そんな驚異的な存在の為、誰にも心を開かず、本能のまま殺戮を繰り返していた。同じサイヤ人でも、彼を怖れて近寄る者は殆どいない。
しかし、そんなブロリーにも気丈な振る舞いを見せる者がいた。それは、一人の女サイヤ人。彼女の名前は名無しさん。男勝りだが誰にでも優しく、ブロリーに対しても決して臆する色を見せない。
酒場にやって来た名無しさんは、素早く辺りを見回した。カウンター席に座るブロリーを見つけると、迷わず近づいていく。
「ブロリー、また独り酒か? 相変わらず孤独な男だな」
背後から声をかけ、ブロリーの肩に腕を回して、顔を覗き込んだ。
「何の用だ?」
ブロリーは名無しさんに視線を向けて眉を顰める。
「せっかく一緒に飲もうと思って話しかけたのに……相変わらず冷たいな」
小さく笑って隣のスツールに座る名無しさんに、「……好きにしろ」とブロリーは溜め息を吐いて無愛想に返事をする。
「珍しく嫌がらないんだな?」
名無しさんは心底嬉しそうに、満面の笑みを浮かべた。
「名無しさんには何を言っても無駄だからな」
無表情で視線を逸らすブロリー。
「そんなに卑屈だと幸せが逃げちまうぜ? 前向きに生きた方が、人生楽しいと思うけどな」
「放っておけ」
ブロリーの冷たく突き放す物言いに、名無しさんはがっくりと肩を落とした。
「……ったく、人の忠告は素直に聞けよ」
すると、漆黒の双眸が名無しさんを捉えて、「不思議な女だな、お前は……」と武骨な指で顎を掴み、徐に顔を近づけていく。
「おい……ブロリー?」
名無しさんは驚きを隠せず、澄んだ瞳が不安げに揺らいだ。
「何だ?」
「あんた……これは、一体どういうつもりなんだ?」
「何がだ?」
名無しさんが戸惑うのも無理はない。お互いの唇が今にも触れそうな距離だ。
ブロリーにしてみれば他意はなく、名無しさんの質問の意味が分かっていないらしい。
しかし、大胆な行動を取るブロリーに戸惑い、名無しさんは視線を泳がせる。
「何で、私の顎を掴んでるんだよ……?」
「お前はオレが怖くないのか? 何故オレに構う?」
名無しさんの質問には答えず、ブロリーは普段よりやや低い声音で問い質した。
「そりゃ皆が色々言ってるのは知ってるけど、私はいちいち左右されないっていうか……あんたを悪戯に怖がる理由がない。それにこんな寂しそうなヤツ、放っておけないからな」
「オレが寂しそうだと? 名無しさんはつくづく変わった女だな」
ブロリーはいつになく穏やかな瞳で名無しさんを見つめる。
「っ……ブロリー、そんな顔も見せるんだな」
「どういう意味だ?」
「あー……だから、あんたの仕草が私の心臓に悪いんだよ!」
名無しさんは咄嗟に誤魔化すと、頬を朱に染めて目を伏せた。
「名無しさん、顔が真っ赤だ」
眉間に皺を寄せ、名無しさんの額に手を当てる。
「今度は何がしたいんだよ?」
「熱はないな」
「は? 当たり前だろ」
「名無しさん、オレについて来い」
名無しさんの手首を掴んで、酒場を出ようとする。
「おいっ、急にどうしたんだ? 私、まだ酒飲んでない――」
「黙っていろ」
ブロリーは無理矢理外まで連れ出して、軽々と名無しさんを抱き上げた。
「ブロリー!? 一体何をするつもりなんだ!?」
ブロリーは名無しさんの言葉に聞く耳を持たず、しかめっ面のまま空に飛び立った。
「ホントに何考えてるんだよ?」
「いいからオレに任せておけ」
「……」
名無しさんは追及することを諦めて、大人しくブロリーに身を任せた。
数分後。
「着いたぞ」
彼が降り立った先は……。
「ここは、メディカルセンター?」
(あ、まさか……)
名無しさんは何となく嫌な予感がした。
「さっき、心臓が悪いと言っていただろう? ここで見て貰え」
(予感的中……まあ、その優しさは嬉しいんだけどな)
「私は心臓に悪いって言ったんだよ」
(あれは言葉のあやだと言っても、ブロリーには理解出来ないだろうな)
「だから、ここで見て貰えと言っている」
「そうじゃなくて……」
暫くの間、二人はメディカルセンターの前で、延々と押し問答を繰り返していた。
結局、名無しさんが折れてドクターに診察してもらったが、結果は案の定至って健康で、二人は冷やかすなと散々怒られて叩き出されるのであった。
数日後。
名無しさんは自室のベッドに寝転んで、ブロリーのことを考えていた。
(ブロリーは以前より、残虐さが薄れてきている気がする……)
名無しさんに対して優しさを見せるようになり、昨夜もズレてはいるものの真摯な態度が見て取れた。
(少しは私に心を開いてくれてるって証拠かもな……)
そんな風に思いながら微笑する。
「名無しさん……」
目を閉じて思考を巡らせていれば、不意にベッドのすぐ傍から耳慣れた声が聞こえた。
名無しさんが目を開けると、いつ侵入したのか、ブロリーが無表情で佇んでいた。
「ブロリー!?」
名無しさんは驚きの表情を浮かべ、勢いよく起き上がる。
「お、驚かせるなよ! 一体いつの間に入って来たんだ!?」
「ついさっきだ」
ブロリーは平然と言い切る。
「ついさっきって、あんた……」
ふと名無しさんは、ブロリーのこめかみから出血していることに気づく。
「おい、その怪我どうしたんだ? こめかみから血が出てるぞ……」
「怪我……?」
ブロリーは大して気にした風でもなく、こめかみに手を伸ばす。
名無しさんは咄嗟にブロリーの手首を掴んだ。
「触るな! バイ菌が入ったらどうするんだ!?」
「何故怒っている? こんなものは、かすり傷だ」
(無頓着と言うか何というか……)
名無しさんは呆れて、盛大な溜め息を吐く。
「もういい……手当てしてやるからここに座れ」
ブロリーの手首を離すと、ベッドを軽く叩いて隣に座るように促した。
「ああ」
ブロリーは素直に頷いて、促されるままベッドに腰掛ける。
いつもなら他人の言うことを訊かないブロリーの素直な態度に、名無しさんは拍子抜けしてしまう。
「あ……じゃあ、ちょっと待ってろよ」
名無しさんは救急箱を探し出すと、隣に座って、こめかみに化膿止めを塗り消毒液をつけてやる。
不意にブロリーがぽつりと呟いた。
「ついさっきまで近隣の惑星を侵略しに行っていた」
「え?」
「少し考え事をしていたら、虫けら共に不意打ちを喰らった……」
何よりも殺戮を好むブロリーが、やりそうもない失態だ。
「それで怪我したのか?」
「腹いせにその惑星のヤツらを皆殺しにしてやったがな」
名無しさんが首を傾げれば、ブロリーは不穏な笑みを見せる。
いかにもブロリーらしいが、名無しさんは先程の言葉が引っかかっていた。
「ブロリー、何を考えてたんだ?」
「……お前のことだ、名無しさん」
「は? 私……?」
ふとブロリーの手が、名無しさんの髪に触れる。
「何故だろうな。近頃お前のことが頭から離れなくてな」
髪に触れていた指先を輪郭に沿って滑らせ、そっと下唇をなぞった。
「っ……ブロリー……」
背筋がぞくりと粟立つのを感じた名無しさんは、思わず息を呑んだ。
(最近のブロリーはいつにも増しておかしい。スキンシップなんて、する男じゃなかった……)
しかしブロリーは何事もなかったかのように、名無しさんから手を離す。
「名無しさん、手当てとやらは終わったのか?」
「え? い、いや……まだ包帯をしないとな!」
すっかりブロリーのペースに呑まれていた名無しさんは焦った様子で答えると、救急箱の中から包帯を出して彼の頭部に巻いていく。
(昔からマイペースなヤツだったけど、普段とは何か違うっていうか……でも、自覚はないんだろうな)
「おい、前が見えん」
「あっ、悪い!」
名無しさんは考え事をしながら手当てしていた為、知らぬ間に包帯を使い切ってしまっていたようだ。
包帯はブロリーの目を覆い隠して、鼻から下しか見えていない状態だ。
(今なら……)
名無しさんはブロリーの顔を覗き込むと、一瞬だけ彼の唇に口づけた。
「名無しさん……今のは何だ? 何か柔らかい物が当たったぞ」
前が見えていないブロリーは何が起きたのか分からず、自分の唇に触れて首を捻る。
「……怪我が早く治る、おまじないみたいなもんだ」
名無しさんは誤魔化しながら余分な包帯を絡め取り、今度はブロリーの頭にしっかり巻きつけた。
「まじないか……なら、もう一度してくれ。一瞬で分からなかったからな」
「そんなの……無理に決まってんだろ!」
「何故だ?」
真顔で問うブロリーに「ふっ、普通は恋人同士がするからだよ! 私らはそんな関係じゃないだろ!」と名無しさんは赤顔を背ける。
「……そうか、無理を言って悪かったな」
ブロリーは立ち上がって、そのまま部屋を出て行く。その背中は心なしか寂しげだった。
「あ、ブロリー……」
名無しさんはその後ろ姿を呆然と見送った。
翌日。名無しさんは近隣に位置する星系へ侵略命令を下された。
ブロリーのことが頭から離れなかったが、命令に背くわけにはいかず。
仕方なく丸型ポッドに乗り込んで、チームの仲間とともに出発した。
数十分後、目的地に到着した名無しさんと仲間達は、手分けして攻撃を開始する。比較的小さな星で人口も少ない為、円滑に侵略を進めていった。
しかし、制圧寸前で超能力を扱う難敵に邪魔立てされ、戦いを余儀なくされる。相手の凄まじい超能力で仲間達は皆死に絶え、残るは名無しさんだけだった。
敵も残り一人だが、相手が超能力を使うとあっては、少々厳しい状況に置かれていた。
「何なんだ、こいつ……」
殆どパワーを使い果たした名無しさんは、身体のバランスを崩して地面に膝をついた。
「……勝手に人様の星を荒らした罰だ。貴様にも死の恐怖を味わってもらおうか」
「クソッ……まだだ……!」
それでも名無しさんは執念で立ち上がり、敵を睨みつける。
「貴様一人で何が出来る? もう諦めろ!」
「チッ……これでも喰らいやがれ!」
名無しさんは気力を振り絞り、フルパワーエネルギー弾を撃ち放った。
しかし敵の前にシールドを張られて、難なく攻撃を塞がれてしまう。
「無駄な抵抗は止めろ」
「そんなバカな……!」
(今のは渾身の一撃だった。それを、あっさりと防ぎやがって……)
名無しさんは強く拳を握り締めて、歯を食い縛った。
「今度はこちらの番だな」
敵は名無しさんに向かって両手を突き出すと、何やら呪文を唱え始める。
「ぐっぁ……か、身体が……動かないっ……!」
名無しさんは金縛りにかかってしまい、身動きが一切取れなくなった。
「これで、終わりだ」
敵の掌から光が溢れ出し、次の瞬間、エネルギー弾が放たれる。
「ぐっ……そんな攻撃、持ち堪えて見せるっ!」
避けられないなら敢えて攻撃を受け止めようと、イチかバチかの賭けに出る名無しさん。
名無しさんに迫り来るエネルギー弾を、真っすぐ視界に捉える。
「させるかあぁっ!」
その瞬間、黒い影が間に割り込み、気合いでエネルギー弾を掻き消した。
「あ、あんた……」
「名無しさん、無事か?」
名無しさんを庇ったのは、ここにいる筈のない人物だった。
「ブロリー……何でこんな所にいるんだ……?」
「名無しさんの戦闘力が著しく落ちているのが気になってな。急いで駆けつけて正解だった。後はオレに任せろ……!」
背中越しに聞こえてくるのは怒りに満ちた唸り声。
ブロリーは全身から殺気を放ち、敵の前に立ちはだかった。
既に超サイヤ人に変身しているブロリーからは、圧倒的パワーがみなぎっているのが見て取れる。
「な、何だ、貴様は!」
敵もブロリーが只者ではないと感じたらしく、顔を引き攣らせて一歩後ろへ下がった。
「オレは貴様を許さん……死ね!」
ブロリーは逃がさないとばかりに一気に間合いを詰め、造作なく敵の首を掴み締め上げる。
「ぐあぁっ!」
骨が砕ける鈍い音がすると、ブロリーは口元をニヤリと歪めた。
「消えろ」
片手を敵の腹部に宛がい、躊躇いもなく強力なエネルギー弾を撃ち込んだ。
「っ……!」
まともに攻撃を喰らった敵は、声も出せぬまま苦悶の面持ちで木っ端微塵に砕け散った。
「ふん、クズが……」
ブロリーは忌々しげにそう吐き捨てると、超化を解いた。
「ブロリー……」
やっとのことで金縛りから解放された名無しさんは、少し離れた場所で仰向けに倒れ込んだ。
「名無しさん」
ブロリーが名無しさんを振り返ると、彼女は苦しげに肩で息をしていた。
「大丈夫か?」
名無しさんに歩み寄り、上半身を抱き起こす。
「あ、ああ……助かったよ、ブロリー」
「全く、弱いくせに無茶をするな」
「なっ、私だって必死だったんだよ!」
「必死なのはいいが、死んだら意味がないだろう」
「ぐっ……」
ブロリーに最もなことを言われ、悔しげに唇を引き結ぶ名無しさん。
「名無しさんに死なれてはオレが困るからな」
「……私が死んだら、何でブロリーが困るんだ?」
名無しさんにはブロリーの意図がまるで分からなかった。
「やっと分かった。お前がオレの頭から離れないのは、名無しさんがオレにとって唯一無二の存在だからだ」
ブロリーはこれまで見せたことのない、優しげな瞳で名無しさんを見つめ、顔を寄せて唇に合わせるだけの口づけをした。
「んっ……」
ゆっくり唇を離したブロリーは、「まじないだ。名無しさんの怪我が早く治るようにな」と彼女を抱いたまま軽く笑う。
「っ……ブロリー……」
(気づいていたのか……)
「名無しさん、これからはオレがお前を守ってやる」
力強い声音で宣言したブロリーは、今度は荒々しく名無しさんの唇を奪った。
「んんっ……」
名無しさんは眉根を寄せて、ブロリーの逞しい腕にすがりつく。
それに応えるように、ブロリーは名無しさんの身体を優しく包み込んだ。
暫くして唇を離した彼は、「その代わり、名無しさんもずっと傍にいてくれ。オレにはお前が必要だ」と名無しさんの額に小音を立ててキスを落とす。
「ああ、傍にいるよ。私は誰よりもブロリーが好きだからな」
名無しさんは頬を朱に染めて、照れ隠しに視線を逸らした。
ふっと穏やかな笑みを浮かべるブロリー。
「名無しさんに好きだと言われるのは存外、心地好いものだな」
「自分は言わないくせにな」
その言葉にブロリーは口端を吊り上げて、名無しさんの首筋に唇を這わせる。
「ちょっ……何してんだよ!」
恥ずかしげに腕の中で暴れる名無しさんをいとも簡単に抑え込み、少し唇を離して「名無しさん、愛している。オレにはお前だけだ」と甘やかに囁いた。
「……それは、私もだ。ブロリーには前々から特別な感情を持っていたからな。あんたが堪らなく愛しいよ」
名無しさんは照れながらも、ブロリーへの素直な想いを紡いだ。
ブロリーは嬉しそうに微笑んで、名無しさんの愛らしい唇に
若いサイヤ人の恋物語はまだまだ始まったばかり。ブロリーと名無しさんは芽生えたばかりの確かな愛情を、この先もゆっくりと大切に育んでいくであろう。
END