★Short Dream
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
広い宇宙には、まだまだ数え切れない惑星がある。
その中で一つの星が、今まさに滅びようとしていた。大地に深く根づいた神精樹に生命を吸い上げられて。
降り頻る雨の中、独りの男が半壊した街を歩いている。
彼の名前はターレス。サイヤ人の戦士であるターレスは、幾人かの部下を率いて宇宙を暴れ回る日々を送っていた。
彼等はクラッシャー軍団と恐れられ、行く行くは銀河をその手中に収めようと目論んでいるのだ。
「ククッ……この星も終わりだな。早く神精樹の実を味わいたいもんだぜ」
ターレスは辺りを見渡して、満足そうに笑みを浮かべる。
「ん?」
路地を抜けようとした時、スカウターが生命反応を知らせた。
しかし、それは微々たる数値に過ぎない。
小動物か何かだろうと通り過ぎようとした時、対象の戦闘力が僅かに上昇した。
「戦闘力が上がった?」
不審に思ったターレスは、反応を見せた場所へ足を運ぶ。
(この辺りには、もう誰も生き残っていない筈だ)
歩を進めれば、路地裏の片隅に少女が蹲っていた。
「何だ、ガキか」
「あ……!」
ゆっくり頭を上げた少女は、ターレスの顔を見て険しい表情を浮かべる。
一歩ずつゆっくり歩み寄るターレスに、少女は鋭い瞳と殺気を向けた。
「……お前」
(コイツはオレの手元に置いて、飼い馴らせば役に立つかもしれんな)
そんな恐ろしい考えが浮かんだターレスは、口端を吊り上げる。
「お前、オレについて来ないか? ついて来るなら、命だけは助けてやる」
ターレスは少女に向けて、右手を差し出した。
少女は無言で、ターレスを見つめている。その眼差しは拒絶の意味を現しているようだ。
「この星には他に生き残りなんていないんだぜ? 今さら強がりは止せよ」
「アンタ達がお父さん達や皆を殺したくせに……この人殺し!」
少女は勢いよく立ち上がり、大声で叫ぶと、路地裏を走り抜けて行った。
ターレスは少女が走り去った方角を見つめる。
(オレを見た時のあの鋭い目つき、気に入ったぜ。絶対モノにしてやる……)
スカウターで少女を捉えたまま、ゆっくり上昇していく。
「あの向こうは崖か」
妖しく口元を歪めて、宙から少女を追い掛ける。
「おい、待てよ!」
必死で駆ける少女に余裕で追いついた。
「こ、来ないで!」
ターレスを引き離そうと疾走する少女。
しかし、前方は崖っぷちで道が途切れてしまっている。
「あっ!」
崖に阻まれた少女は膝に手をついて、苦しげに肩で呼吸を繰り返した。
「どこへ逃げたって無駄だ。お前の負けだぜ、仔猫ちゃん」
逃げ場を失った少女を、さらに追い詰めていく。
「あ……」
少女は後退るが、背後は崖――もう逃げ場はない。
「もう観念しな」
もうすぐ少女を捕まえられる距離だ。ターレスは不敵な笑みを浮かべて、少女を捕えようと手を伸ばす。
「アンタに捕まるくらいなら、私も皆の所に逝く!」
次の瞬間、少女は躊躇いなく崖から飛び下りた。
「何だと!?」
少女を捕まえ損ねたターレスは焦りながら、崖を急降下していく。
「くっ……!」
地面にぶつかるすんでのところで、ターレスは腕の中に少女を捕えた。
「……ったく、冷やっとさせやがって。手間かけさせるなよ。おい、聞いてるのか?」
しかし、少女は少しも動かない。崖から飛び下りた衝撃で気を失っていたのだ。
「……これからがお愉しみだな」
ターレスは少女を抱えて、宇宙船がある場所へ飛び立った。
少女が目を覚ました時、全く見覚えのない部屋にいた。
上半身を起こせば、ベッドに寝かされていたことに気づく。
部屋の中は薄暗くて、自分がどこにいるのかも分からない。
その時、少女の眼前が明るくなった。誰かが電気を点けたらしい。
少女は眩しさのあまり咄嗟に目を瞑ると、頭上に影が覆い被さった。
そっと目を開ければ、自分を追いかけ回した男――ターレスが見下ろしていた。
少女の顔が強張る。
未だ警戒心を持つ少女は後ろに下がって、少しでもターレスとの距離を取ろうとした。
「おいおい、そんなに怯えるなよ。何も取って食ったりするんじゃないんだぜ? オレが食らうのはコイツだからな」
ターレスはベッドに腰を下ろして、手にしているオレンジくらいの大きさの――神精樹の実を丸齧 りした。
「あ……」
少女は暫く何も食べていないことに気づいた。
夕飯の直前で、惑星がターレス軍団に襲われたからだ。
視線は自ずと、ターレスが食らう神精樹の実に注がれる。
「これが食いたいのか? この実は貴重なんだがな。特別にお前にくれてやる。ほら、受け取れよ」
ターレスはかじりかけの神精樹の実を、少女に向けて放り投げた。
「わっ……あ、あ!」
少女は落としそうになった神精樹の実を間一髪、胸の前で受け止める。
「ククッ、鈍臭いヤツだな」
ターレスに喉元で低く笑われた少女は、頬を赤く染めて俯いた。
「ところで――お前の名前を教えろよ?」
大人しく神精樹の実をかじる少女に、好奇の視線を向けるターレス。
「……チチ」
少女――チチは、か細い声で呟いた。
「チチか。オレはターレスだ」
「ターレス?」
名前を呼ばれたターレスは、チチに顔を近づける。
「チチ、勝手に部屋の外には出るなよ? この船にはオレの部下がいるんだが、アイツ等はやたらと血の気が多い。女子供だろうが、容赦なく狩っちまうんだぜ?」
部下達がチチを狩るというのは、単に独占欲から生まれたターレスの嘘なのだが……。
ターレスの言葉を鵜呑みにしたチチの口元が引き攣る。
「そんな顔するなよ。この部屋から出なければ、安全は保証するぜ」
「……」
微々たるものだが、緊張の糸を緩めるチチの様子を見たターレスは満足そうに笑った。
「ここは、どこなの?」
「オレの宇宙船だ。そして、ここはプライベートルームってところか」
キングサイズのベッドにソファー等の家具はあるが、チチの目から見ても全く飾り気のない部屋だ。
「……私をどうするつもり?」
「それはな、チチをオレの色にするんだよ」
「……イロ?」
チチは理解出来ないらしく、不思議そうに自分の腕や脚を眺めている。
「フッ……その内チチにも分かるさ」
ターレスはチチに真意を話す気はないらしく、喉元で低く笑うだけ。
「……ふーん」
チチは神精樹の実を一口食べ、白く細い喉に飲み込んでいく。
ターレスは彼女を食い入るように見つめた。
「あの時、確かに戦闘力が上がったよな」
チチをの数値を示すスカウターの反応を思い出したターレス。
(確か、アモンドの報告だと……危険を察知した時に、戦闘力が上がる種族だったな。何しても神精樹の実を与え続けて鍛えれば、いずれは部下として遣えるか)
ターレスは密かに笑みを浮かべた。
そして。
数年の月日が流れ。
チチの戦闘力はターレスに匹敵するまでになり、彼の右腕としての働きをするようになっていた。
しかし相変わらず、行動を制限されているチチは、任務外の暇を持て余す日々が続いている。
「チチ、大人しくしてたか?」
部屋のドアが開いて、中に入って来たターレスがチチに声をかけた。
彼女は黙ったまま、首を縦に振る。
それを見たターレスは、ソファーへと歩を進めた。
「こっちに来い、チチ」
チチはソファーに座ったターレスの傍に寄って、背後から抱き締めた。
そして、徐に両手をターレスの首に絡める。
「……ごめんなさい、ターレス」
「オレを殺る気か?」
冷静なターレスの声に、チチの動きが止まった。
「残念ながら、その程度でオレは殺れないぜ?」
ターレスはされるがまま抵抗する様子はなく。
「本気でオレを殺るなら、もっと他の方法があるだろ? この数年で、チチは他の部下達を凌ぐ程の力を手に入れたんだからな」
真っすぐ前を向いたまま、淡々とした口調で言い放った。
「ぐっ……」
悔しそうに歯を噛み締めて俯くチチ。
「ターレスを殺して……私も死のうと思ってた」
喉から絞り出すように呟いた彼女は、ターレスから手を放してその場にしゃがみ込んだ。
「何故、お前まで死ぬ必要がある?」
ターレスが眉間に皺を寄せて背後を向いた途端、チチは耳まで赤く染めて俯いた。
「……ターレスが、好きだから。大事な家族を殺されたのに、貴方を愛してしまった自分が許せなくて……でも、やっぱり殺せない」
「オレが好き? 愛してるだと?」
「そうよ」
「……そうか」
微笑したターレスは、俯いたままのチチの脇の下に手を差し込んで抱き上げた。
「やっ、ターレス!?」
チチは抵抗したがターレスは物ともせず、彼女をソファーに押し倒して組み敷いた。
「故郷の仇 で――しかも好き放題に抱いた男を、お前は本気で好きになれるのか?」
戸惑いの色を見せるチチに構わず、ターレスは耳元で囁いた。
「好きになったのは、どうしようもないじゃない! この想いが消えるように努力した。でも、私は貴方を憎み切れない!」
瞳に涙を湛えて、ターレスの首にしがみつくチチ――まるで幼子のように。
「……チチ」
「私を殺して? 貴方を殺そうとした罪は重いでしょう? せめて愛する人の手で殺されたい」
ターレスから腕を離したチチは、全身の力を抜いた。
「それがチチの望みなのか?」
「最期まで生意気な部下で、ごめんなさい……」
彼女はゆっくりと目を閉じて、最期の時を待つ。
……だが、いつまで立っても痛みも何も感じない。
「ターレス――あっ……」
突然、耳朶を甘噛みされたチチの身体が小さく震えた。
ターレスは彼女の頬を優しく撫でる。
「オレも、チチを独りの女として愛してるぜ」
チチはターレスの掌の温もりを頬に感じながら、吐息混じりの甘い囁きに瞠目した。
「え……?」
「今さら、手放す訳ないだろ。オレの望みは生涯、チチを傍に置いておく――それだけだ」
「んっ……」
チチの桜色の唇を塞いだ。
ターレスとのキスは、これが初めてではない。
今までは乱暴に奪うだけだったターレスからの甘くて優しい口づけ。
「チチ、今なら色の意味が分かるか?」
チチが目を開けると、優しく微笑むターレスと目が合った。
「色って……もしかして、恋人のこと?」
「ご名答。お前はオレの何より大事な色だ」
ターレスにとってチチは可憐な一輪の華であり、神精樹の実よりも夢中になれる魅惑的な果実。
(オレは死ぬまでチチを喰らい続けるだろう……)
END
その中で一つの星が、今まさに滅びようとしていた。大地に深く根づいた神精樹に生命を吸い上げられて。
降り頻る雨の中、独りの男が半壊した街を歩いている。
彼の名前はターレス。サイヤ人の戦士であるターレスは、幾人かの部下を率いて宇宙を暴れ回る日々を送っていた。
彼等はクラッシャー軍団と恐れられ、行く行くは銀河をその手中に収めようと目論んでいるのだ。
「ククッ……この星も終わりだな。早く神精樹の実を味わいたいもんだぜ」
ターレスは辺りを見渡して、満足そうに笑みを浮かべる。
「ん?」
路地を抜けようとした時、スカウターが生命反応を知らせた。
しかし、それは微々たる数値に過ぎない。
小動物か何かだろうと通り過ぎようとした時、対象の戦闘力が僅かに上昇した。
「戦闘力が上がった?」
不審に思ったターレスは、反応を見せた場所へ足を運ぶ。
(この辺りには、もう誰も生き残っていない筈だ)
歩を進めれば、路地裏の片隅に少女が蹲っていた。
「何だ、ガキか」
「あ……!」
ゆっくり頭を上げた少女は、ターレスの顔を見て険しい表情を浮かべる。
一歩ずつゆっくり歩み寄るターレスに、少女は鋭い瞳と殺気を向けた。
「……お前」
(コイツはオレの手元に置いて、飼い馴らせば役に立つかもしれんな)
そんな恐ろしい考えが浮かんだターレスは、口端を吊り上げる。
「お前、オレについて来ないか? ついて来るなら、命だけは助けてやる」
ターレスは少女に向けて、右手を差し出した。
少女は無言で、ターレスを見つめている。その眼差しは拒絶の意味を現しているようだ。
「この星には他に生き残りなんていないんだぜ? 今さら強がりは止せよ」
「アンタ達がお父さん達や皆を殺したくせに……この人殺し!」
少女は勢いよく立ち上がり、大声で叫ぶと、路地裏を走り抜けて行った。
ターレスは少女が走り去った方角を見つめる。
(オレを見た時のあの鋭い目つき、気に入ったぜ。絶対モノにしてやる……)
スカウターで少女を捉えたまま、ゆっくり上昇していく。
「あの向こうは崖か」
妖しく口元を歪めて、宙から少女を追い掛ける。
「おい、待てよ!」
必死で駆ける少女に余裕で追いついた。
「こ、来ないで!」
ターレスを引き離そうと疾走する少女。
しかし、前方は崖っぷちで道が途切れてしまっている。
「あっ!」
崖に阻まれた少女は膝に手をついて、苦しげに肩で呼吸を繰り返した。
「どこへ逃げたって無駄だ。お前の負けだぜ、仔猫ちゃん」
逃げ場を失った少女を、さらに追い詰めていく。
「あ……」
少女は後退るが、背後は崖――もう逃げ場はない。
「もう観念しな」
もうすぐ少女を捕まえられる距離だ。ターレスは不敵な笑みを浮かべて、少女を捕えようと手を伸ばす。
「アンタに捕まるくらいなら、私も皆の所に逝く!」
次の瞬間、少女は躊躇いなく崖から飛び下りた。
「何だと!?」
少女を捕まえ損ねたターレスは焦りながら、崖を急降下していく。
「くっ……!」
地面にぶつかるすんでのところで、ターレスは腕の中に少女を捕えた。
「……ったく、冷やっとさせやがって。手間かけさせるなよ。おい、聞いてるのか?」
しかし、少女は少しも動かない。崖から飛び下りた衝撃で気を失っていたのだ。
「……これからがお愉しみだな」
ターレスは少女を抱えて、宇宙船がある場所へ飛び立った。
少女が目を覚ました時、全く見覚えのない部屋にいた。
上半身を起こせば、ベッドに寝かされていたことに気づく。
部屋の中は薄暗くて、自分がどこにいるのかも分からない。
その時、少女の眼前が明るくなった。誰かが電気を点けたらしい。
少女は眩しさのあまり咄嗟に目を瞑ると、頭上に影が覆い被さった。
そっと目を開ければ、自分を追いかけ回した男――ターレスが見下ろしていた。
少女の顔が強張る。
未だ警戒心を持つ少女は後ろに下がって、少しでもターレスとの距離を取ろうとした。
「おいおい、そんなに怯えるなよ。何も取って食ったりするんじゃないんだぜ? オレが食らうのはコイツだからな」
ターレスはベッドに腰を下ろして、手にしているオレンジくらいの大きさの――神精樹の実を
「あ……」
少女は暫く何も食べていないことに気づいた。
夕飯の直前で、惑星がターレス軍団に襲われたからだ。
視線は自ずと、ターレスが食らう神精樹の実に注がれる。
「これが食いたいのか? この実は貴重なんだがな。特別にお前にくれてやる。ほら、受け取れよ」
ターレスはかじりかけの神精樹の実を、少女に向けて放り投げた。
「わっ……あ、あ!」
少女は落としそうになった神精樹の実を間一髪、胸の前で受け止める。
「ククッ、鈍臭いヤツだな」
ターレスに喉元で低く笑われた少女は、頬を赤く染めて俯いた。
「ところで――お前の名前を教えろよ?」
大人しく神精樹の実をかじる少女に、好奇の視線を向けるターレス。
「……チチ」
少女――チチは、か細い声で呟いた。
「チチか。オレはターレスだ」
「ターレス?」
名前を呼ばれたターレスは、チチに顔を近づける。
「チチ、勝手に部屋の外には出るなよ? この船にはオレの部下がいるんだが、アイツ等はやたらと血の気が多い。女子供だろうが、容赦なく狩っちまうんだぜ?」
部下達がチチを狩るというのは、単に独占欲から生まれたターレスの嘘なのだが……。
ターレスの言葉を鵜呑みにしたチチの口元が引き攣る。
「そんな顔するなよ。この部屋から出なければ、安全は保証するぜ」
「……」
微々たるものだが、緊張の糸を緩めるチチの様子を見たターレスは満足そうに笑った。
「ここは、どこなの?」
「オレの宇宙船だ。そして、ここはプライベートルームってところか」
キングサイズのベッドにソファー等の家具はあるが、チチの目から見ても全く飾り気のない部屋だ。
「……私をどうするつもり?」
「それはな、チチをオレの色にするんだよ」
「……イロ?」
チチは理解出来ないらしく、不思議そうに自分の腕や脚を眺めている。
「フッ……その内チチにも分かるさ」
ターレスはチチに真意を話す気はないらしく、喉元で低く笑うだけ。
「……ふーん」
チチは神精樹の実を一口食べ、白く細い喉に飲み込んでいく。
ターレスは彼女を食い入るように見つめた。
「あの時、確かに戦闘力が上がったよな」
チチをの数値を示すスカウターの反応を思い出したターレス。
(確か、アモンドの報告だと……危険を察知した時に、戦闘力が上がる種族だったな。何しても神精樹の実を与え続けて鍛えれば、いずれは部下として遣えるか)
ターレスは密かに笑みを浮かべた。
そして。
数年の月日が流れ。
チチの戦闘力はターレスに匹敵するまでになり、彼の右腕としての働きをするようになっていた。
しかし相変わらず、行動を制限されているチチは、任務外の暇を持て余す日々が続いている。
「チチ、大人しくしてたか?」
部屋のドアが開いて、中に入って来たターレスがチチに声をかけた。
彼女は黙ったまま、首を縦に振る。
それを見たターレスは、ソファーへと歩を進めた。
「こっちに来い、チチ」
チチはソファーに座ったターレスの傍に寄って、背後から抱き締めた。
そして、徐に両手をターレスの首に絡める。
「……ごめんなさい、ターレス」
「オレを殺る気か?」
冷静なターレスの声に、チチの動きが止まった。
「残念ながら、その程度でオレは殺れないぜ?」
ターレスはされるがまま抵抗する様子はなく。
「本気でオレを殺るなら、もっと他の方法があるだろ? この数年で、チチは他の部下達を凌ぐ程の力を手に入れたんだからな」
真っすぐ前を向いたまま、淡々とした口調で言い放った。
「ぐっ……」
悔しそうに歯を噛み締めて俯くチチ。
「ターレスを殺して……私も死のうと思ってた」
喉から絞り出すように呟いた彼女は、ターレスから手を放してその場にしゃがみ込んだ。
「何故、お前まで死ぬ必要がある?」
ターレスが眉間に皺を寄せて背後を向いた途端、チチは耳まで赤く染めて俯いた。
「……ターレスが、好きだから。大事な家族を殺されたのに、貴方を愛してしまった自分が許せなくて……でも、やっぱり殺せない」
「オレが好き? 愛してるだと?」
「そうよ」
「……そうか」
微笑したターレスは、俯いたままのチチの脇の下に手を差し込んで抱き上げた。
「やっ、ターレス!?」
チチは抵抗したがターレスは物ともせず、彼女をソファーに押し倒して組み敷いた。
「故郷の
戸惑いの色を見せるチチに構わず、ターレスは耳元で囁いた。
「好きになったのは、どうしようもないじゃない! この想いが消えるように努力した。でも、私は貴方を憎み切れない!」
瞳に涙を湛えて、ターレスの首にしがみつくチチ――まるで幼子のように。
「……チチ」
「私を殺して? 貴方を殺そうとした罪は重いでしょう? せめて愛する人の手で殺されたい」
ターレスから腕を離したチチは、全身の力を抜いた。
「それがチチの望みなのか?」
「最期まで生意気な部下で、ごめんなさい……」
彼女はゆっくりと目を閉じて、最期の時を待つ。
……だが、いつまで立っても痛みも何も感じない。
「ターレス――あっ……」
突然、耳朶を甘噛みされたチチの身体が小さく震えた。
ターレスは彼女の頬を優しく撫でる。
「オレも、チチを独りの女として愛してるぜ」
チチはターレスの掌の温もりを頬に感じながら、吐息混じりの甘い囁きに瞠目した。
「え……?」
「今さら、手放す訳ないだろ。オレの望みは生涯、チチを傍に置いておく――それだけだ」
「んっ……」
チチの桜色の唇を塞いだ。
ターレスとのキスは、これが初めてではない。
今までは乱暴に奪うだけだったターレスからの甘くて優しい口づけ。
「チチ、今なら色の意味が分かるか?」
チチが目を開けると、優しく微笑むターレスと目が合った。
「色って……もしかして、恋人のこと?」
「ご名答。お前はオレの何より大事な色だ」
ターレスにとってチチは可憐な一輪の華であり、神精樹の実よりも夢中になれる魅惑的な果実。
(オレは死ぬまでチチを喰らい続けるだろう……)
END
