【Cafe Kakarotへようこそ！２】

　ここは、マスターである孫悟空が営むCafe Kakarot。
　店のドアベルが軽快に鳴り、客の来店を報せる。

「こんにちは！」

「ああ、よく来たな！　おめえが来るのを心待ちにしてたぞ！」

「私も早く悟空に逢いたかったよ♪」

　悟空はニコニコしながら「早速、座ってくれ」と客を促す。

「うん、お邪魔します」

　スツールに腰掛ける彼女に、悟空は「注文は？」と問いかけた。

「人参ジュースをお願いします」

「了解だ。あと、今回はサラダも食ってみねえか？」

「サラダ？」

「ああ、人参たっぷりのサラダだ。美味くて美容にも良いぞ」

「うん、それも頂いちゃおうかな」

　彼女は嬉しそうに応えた。

「はいよ、ちょっくら待っててくれ」

　注文を受けた悟空は手際良く人参サラダを調理する。彼のピーラーを扱う手付きは鮮やかだ。

「ほいよ、お待ちどおさん」

　客の前に人参のサラダとジュースを置くマスター。

「わあ、美味しそう♪」

　彼女が早速サラダを味わうと、途端に満面の笑みを浮かべた。

「これ、優しい味で私大好きかも♡」

「そっか、苦労して考えた甲斐があったぞ」

「え？」

「そのサラダはおめえが帰ぇった後に編み出したレシピなんだよ。おめえ、人参が好物って言ってたかんな。どうしても喜ばしたくて生み出した、オラ特製の人参サラダだ。味付けはシンプルに塩麹とオリーブオイルだけだぞ」

「それで、こんなに優しい味になるんだね。さすが悟空、天才だね」

「へへへ、アクセントに白ごまとブロッコリースプラウトも使ってっかんな。これなら人参本来の甘味も楽しめっし、どんだけ食っても太らねえぞ？」

　悟空は得意気に裏話をして、ウインクした。

「私のために……ありがとう、悟空！」

「オラが好きでやったことだかんな。気にしねえでどんどん食ってくれ。なんなら、お代わりすっか？」

「うん♪」

　彼女はサラダを存分に堪能し、ジュースも残さず嚥下した。

「ご馳走様でした。ホントに美味しかったよ♡」

「お粗末さん。残さず食ってくれてオラも嬉しいぞ♪」

　二人は互いに微笑み合った。

「そうだ、悟空。私約束通り、差し入れ持って来たの」

「ん？　何だ？」

「鶏肉のトマト煮込みを作ってみたよ。実は私の得意料理なの」

　客はタッパーに入ったトマト料理を悟空に差し出した。

「おう、サンキューな。食いもんはありがたく貰うぞ♪」

　悟空は笑顔で受け取る。

「口に合うか分からないけど、良かったら食べてみてね？」

「オラは好き嫌ぇねえから、でえじょうぶだ。今は仕事中だからよ、さすがに客の前じゃ食わねえけど、後で味わって食うかんな？」

「うん！　……それとね、図々しいかもって思ったんだけど、人参を使ったレシピを私なりにメモってみたんだ」

「そうなんか？」

「迷惑だったかな？」

「そんなことねえよ。おめえの優しさは純粋に嬉しいぞ」

　そう言って、レシピのメモも受け取る悟空は本当に嬉しそうに笑っている。
　そうして、メモにざっと目を通す。

「煮込み系か、なるほどな」

「やっぱり使えないかな？」

「いんや？　挑み甲斐のあるレシピばっかだ。これでレパートリーが増えっぞ。ホントにサンキューな！」

「ああ良かった。悟空のファンとしては、次も楽しみだよ♪」

　満面の笑みで告げる彼女に、悟空も「オラのファンか、何か照れちまうな」と笑顔で返す。

「ふふ。それじゃあ、そろそろ失礼するね？」

「また絶対ぇ来てくれよな？」

「うん。必ずまた悟空の人参料理、食べに来るよ。約束ね？」

「ああ、約束だ！」

　本日もお気に入りの客を笑顔で送り出した悟空は、ご機嫌でグラスをピカピカに磨くのだった。