【Cafe Kakarotへようこそ！】

　ここは、マスターである孫悟空が営むCafe Kakarot。
　今度の客も癒しを求めて来店した。

「よっ、おめえ一見さんだな？」

　悟空は初来店の客を見て、満面の笑みを浮かべる。

「は、はい。お洒落なお店なので、思わずふらっと入っちゃいました」

「来てくれてサンキューな。好きな席に座ってくれ」

「はい、お邪魔します」

　客は悟空の眼前のスツールに腰かけた。

「オラはマスターの孫悟空だ。よろしくな！」

　喜色を湛えるおおらかな悟空に、彼女も笑顔で返す。

「飲み物って言ってもよ、オラんとこは100%の人参ジュースしか扱ってねえんだ。それでもいいか？」

「はい、大丈夫です。私、人参大好きですから」

「へー人参が好物なんか。おめえのこと気に入ったぞ。一杯目はオラの奢りだ。遠慮なく飲んでくれ」

　気前がいい悟空に、「え……でも、本当にいいんですか？」と戸惑う彼女。

「もちろんだ。オラ、畑も持ってんだけどよ。人参も栽培してっから、それを調理して客に振る舞ってんだぜ？」

「自家栽培ですか、スゴいですね！」

「嬉しいけどよ、褒めるのは飲んでからにしてくれな？」

　おどけていう悟空に、彼女は「ふふ、はい」と口許を綻ばせる。

「お待ちどおさん」

　彼女の前に悟空が慣れた手つきでドリンクを置いた。

「わあ、美味しそう！　とても綺麗な色ですね♪」

「早速飲んでみてくれ」

「いただきます」

　悟空に促されるまま、彼女は一口、人参ジュースを嚥下した。

「美味しい！　コクがあってまろやかですね！」

「だろ？　オラの自信作だ。あと、これも食べてみてくれ」

　悟空は薄い橙色のケーキを彼女の前に差し出した。

「ケーキですか？」

「ああ、人参のシフォンケーキだ。食ったら頬っぺた落っこちるぞ？」

「あはは、悟空さんって面白いですね」

「そっか？」

「はい、こんなに素敵なお店を見つけてラッキーでした♪」

　悟空の心遣いに癒されている様子。

「そんなら、オラもラッキーだな。おめえと知り合いになれたんだからよ」

「ふふ、ありがとうございます」

「ほれ、ケーキも食べてみろよ？」

「はい」

　彼女はフォークでケーキを一口分掬い取り、口に運ぶ。

「……これも美味しい！　甘さも控えめで幾らでも食べれそうです！」

「そんなら、ワンホール食べっか？」

　悟空はニコニコしながら言う。

「まさか、そんなに食べられないですよ！」

「オラは食えっぞ。毎日、おやつとして食べてっからな。人参は身体にもいいしよ♪」

「え!?」

　大食いの片鱗を覗いた彼女は驚愕する。

「悟空さんは大食漢なんですか？」

「ああ、大飯食らいだ」

「特に何が大好物ですか？」

「食いもんなら何でも好きだぞ！」

　胸を張って答える悟空に妙に感心する彼女。

「それなら、今度差し入れさせてください。私、料理が趣味なので、悟空さんに食べて貰いたいです」

「もちろんだ！　今から期待してっからな？」

「はい！　これで、またここに来る口実が出来ました。嬉しいです♪」

「オラの店、気に入ってくれたんだな？」

「もちろんです！　悟空さんの笑顔とおもてなしに充分癒されました♪」

　喜色満面の彼女は、来店時に増して明るくなったようだ。

「なあ」

「はい？」

「この店の常連になるつもりならよ、オラのことは呼び捨てでいいぞ。敬語も要らねえ」

「う、うん、分かった。ありがとう、悟空」

「ああ、それでいいぞ。またいつでも来てくれよな？」

「うん！　絶対にまたお邪魔するね！」

　彼女は悟空に手を振り、足取り軽く店を後にした。
　本日も迷える子羊を明るい笑顔で癒した悟空は、鼻歌交じりにグラスを磨くのだった。