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ヒロイン

Desire―願う―

【羊でおやすみ】

 残暑厳しい9月上旬のある夜、私はつい興味本位で心霊番組の特番を観てしまった。
 この手のジャンルは苦手な部類に入るんだけど、バーダックがいるから大丈夫かなと高を括った結果。
 次から次に流れてくる恐怖映像が予想以上に怖くて、ベッドに入っても全く眠れずにいる。
 何であんなの観ちゃったんだろうと後悔の念に苛まれていると、隣で彼がもぞもぞと動く気配がした。

「まだ眠れねえのか?」

「う、うん……ゆ、幽霊が夢に出そうで、ちょっとね」

「ったく、だから止せっつっただろうが。それを観るって聞かなかったお前が悪い」

「う、だって……」

「何ならオレが取って置きの悪戯してやろうか。案外すぐ眠れるかもしれねえぜ」

 言葉に詰まった私を見て、彼はニヤリと危ない笑みを浮かべる。

「怒るわよ?」

「バーカ、冗談だっつーの。しょうがねえな。原始的な方法だが、オレが羊を100まで数えてやるから、その間に寝ちまえ」

「試してみる」

「じゃ、数えるぜ。羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹、羊が4匹、羊が5匹、羊が6匹、羊が7匹、羊が8匹、羊が9匹、羊が10匹」

 目を閉じて、バーダックの低音ボイスに耳を傾ける。
 彼は私を寝かしつけるため、ゆっくりと羊の数を1匹ずつ囁くように数えていく。
 それから、バーダックが羊を25匹まで数えた時だった。
 あーやっぱり、さっきの凄まじい映像が頭にこびりついて眠れない!
 私は堪らず、パッと目を開けた。

「おい、何でそこで目を開けるんだよ。オレはお前の寝顔が早く見てえんだから、さっさと寝ろよ。じゃねえと、こうやって頬っぺた摘んでマヌケ面にしてやるぜ?」

 バーダックはのび~っと私の頬を摘んだ。

「ひゃっ、ひゃひぇへ~!(やっ、止めて~!)」

「クククッ、お前の頬っぺた柔らかいから、どこまで伸びるか試してみるのも一興だな」

 バーダックの手を振り払い、直ぐさま抗議する。

「もうっ、余計眠れないから止めてってば!」

「分かった分かった、しょうがねえから止めてやるよ。じゃ、続きを数えてやるから早く寝ろ」

「分かってるわよ」

 それから、彼が数えた羊の数は50匹を超えたけど、私はまだ眠れずにいた。

「まだ眠くならねえのか。ったく……オレにここまでさせるのは、後にも先にもお前だけだぜ。本当に世話が焼ける奴だな」

「悪かったわね」

 もういいと断ろうとした時、彼が私の髪を手に取り、

「前から思ってたけどよ、お前の髪の毛って手触り良いよな。つい悪戯しちまいたくなるぜ」

 クルクルと自分の指に巻き付けて弄ぶ。

「ちょっと、悪戯は止めてって言ったでしょ?」

「ああ、もちろん今はしねえぜ? 但し、100まで数えてもまだ寝てねえ時の保証はしねえけどな」

 ……ホントに怖いのは幽霊じゃなくて、バーダックかも。
 これは何としても100までの間に寝なくちゃ。

「羊が51匹、羊が52匹、羊が53匹、羊が54匹、羊が55匹、羊が56匹、羊が57匹、羊が58匹、羊が59匹、羊が60匹……」

 バーダックが数える羊が75匹を超えたところで、段々眠気が差し始めた。

「ん? やっとウトウトしてきやがったな。羊の効果が出てきたか」

「う、ん……でも、このまま眠れるか、心配」

「大丈夫だ。いざとなったら、お前がびっくりして気絶しちまうくらいの悪戯してやるからよ」

「そんなの、お断りよ」

「それなら、さっさと寝ちまいな。お前が寝た後もオレが隣にいるんだから安心だろ」

「うん」

 私が頷いたのを確認した彼は、また羊を数え出した。
 そして90匹を超えた頃。
 もう少しで眠れそうなんだけど……もし眠れなかったら、彼の悪戯が待ってる。そうなったら、もう寝かせてもらえないかも……うん、この男なら有り得る。

「羊が96匹、羊が97匹、羊が98匹、羊が99匹、羊が100匹」

 とうとう100まで到達しちゃった。これは非常にヤバい。

「おい、100まで数えてやったのに、まだ眠れねえのか。100まで数えても眠れなかった時の保証はしねえって、さっき言ったよな」

「えー聞いたっけ?」

「とぼけても無駄だぜ。クククッ、覚悟しな。今更寝てももう遅いからな。それじゃ、宣言通り悪戯してやるよ」

「んんっ!?」

 言うが早いか、私の唇は彼の唇に奪われ、息をつくことも許されない。
 何度も深いキスを交わす間、次第に私の思考回路さえも奪い尽くされ、全身の力が抜けていく。
 完全に脳内が蕩けたところで、漸く唇が離れた。

「クククッ、お前の顔まるで茹で蛸だな」

 私の頬を彼が節くれ立った指で撫でていく。

「これがオレの取って置きの悪戯だ。また眠れなかったら羊でも何でも数えてやるぜ。じゃ、朝までぐっすり眠れよ。オレのお姫様」

 額に柔らかい感触を覚えつつ、私は眠りの世界へ誘われるのだった。
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