★バーダックLong Dream【Changes-ふたりの変化-】
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ブルマさん宅に着いて、リビングに通された私達は、テーブルを囲んでソファーに座っていた。
「それじゃ、名無しさんさん。詳しく話して貰えるかしら?」
ブルマさんに問われた私は、彼氏のことは触れず(今は詳しく聞かれたくないから)バーダックに出会うまでの経緯を掻い摘んで説明した。
話を聞いた皆は、信じられないとばかりの顔で私を見つめている。
当然だよね、あり得ないことなんだから。全部事実だけど。
そんな重い空気のなか、ブルマさんが徐に口を開いた。
「名無しさんさん、とっても言い難いことなんだけどね……さっき詳しく調べてみたけど、やっぱり日本なんて地名はどこにもないのよ」
「え……?」
自分の耳を疑う私に追い打ちをかけるように、ブルマさんが続ける。
「そもそも名無しさんさんは事故をきっかけにして、まったく別の世界から時空移動して来たのね。これも言い難いことだけど、この世界では異世界人ってことになるわ」
「そ、そんなっ……!」
途端、脳内がグチャグチャに掻き乱れていく。
私が異世界の人間だなんて……もしかしたら、もう二度と彼に逢えないかもしれないってこと? この世界にずっといなくちゃいけないの?
予想もしていなかった事実に、私はどうしようもない不安に襲われた。
……でも考えてみれば、バーダックもラディッツも皆空を飛べるんだもんね。ここが異世界って言われれば、自然と腑に落ちる。
「ねえ、名無しさんさん?」
ブルマさんの声で我に返った。
「名無しさんでえじょうぶか?」
悟空も心配そうに私を見ている。
私はぎこちなく返事するだけで精一杯だった。
「突然過ぎて混乱するのも、無理はないわ。でも大丈夫よ」
「どういうことだ?」
バーダックが眉間に皺を寄せて尋ねる。
「あ、そっか。ドラゴンボールを使うんだな?」
「孫くん、正解よ」
「「ドラゴンボール?」」
私とバーダックの声がハモッた。
バーダックも、ドラゴンボールのことは知らないのかな。
無知なのは私だけじゃないってことに、ちょっとだけ安心した。
「ドラゴンボールは、オレンジ色に光る小さい球なの。ほら、悟飯くんの帽子についているのがそうよ」
悟空の膝の上に座っている悟飯くんの帽子に、皆の視線が集まる。
それは大体、野球やテニスで使うボールより、少し大きめかなってぐらい。かなりアバウトだけど。
「綺麗、まるで宝石みたいね」
私はドラゴンボールが放つオレンジ色の淡い光に、思わず吸い込まれそうになる。
「ここからが本題だから、よく聞いてね。ドラゴンボールは七つあって、全部集めると神龍っていう龍の神様が現れて、願いごとを何でも一つだけ叶えてくれるのよ」
「えっ、何でも叶えてくれるの?」
「そんな都合のいいもんがあるのかよ」
今まで無言だったラディッツが眉をひそめて呟いた。
確かに、ちょっと信じられないかも。それこそ夢のような話だから。
「ドラゴンボールさえあれば、名無しさんの夢はバッチリ叶うぞ。だから、何も心配 すんな。オラ達みんな、おめえの味方だからよ」
隣に座っていた悟空が、笑顔で私の肩を叩いた。
ブルマさんの話はさながら“アラジンと魔法のランプ”みたいに奇妙だけど、私にとっては嬉しい事実だ。
私は緊張していた頬を緩める。
「ブルマさん、悟空、ありがとう。ちょっと希望が見えてきたよ」
ふとソファーの向かい側に座っている、バーダックと視線が合う。彼はじっと私を見つめていた。何故か、渋い顔で。
疑問に思い、声をかけようとすると、それに気づいたらしいバーダックは私から目線を逸らした。
「それで、肝心のドラゴンボールとやらはどこにあるんだ?」
まるで何事もなかったかのように、話を進めるバーダック。
さっきの視線の意味は何だったのか、ちょっと気になる。
「えーと、まず四星球がここにあんだろ。それと家に三星球と六星球が置いてあっぞ」
バーダックの問いかけに、悟空が答えた。
「ちょっと待てよ、親父。まさか、そのドラゴンボールってのを探してやる気なのか?」
「ああ……ちょうど退屈してた所だしな。ラディッツ、お前も付き合え」
「!?」
あの俺様なバーダックが手伝ってくれる……?
「オレもか!?」
「どうせ暇だろ」
まさか彼も手伝ってくれるなんて……でも確かに最初だって、手段は悪魔の所業って感じだったけど、サーベルタイガーから私を助けてくれた。なんだかんだ言ったって、優しいとこはあるんだよね。
「残りのドラゴンボールは四つか。世界中に散らばってるだろうから、全部集めるまでに何日かは掛かっちゃうわね」
ブルマさんの発言で、唖然としてしまう。
「世界中って……広範囲だよね? あんなに小さいボールを、どうやって探し出すの?」
「その心配はご無用よ。私が開発した、このドラゴンレーダーを使って探せるんだから!」
ブルマさんが不敵な笑みを浮かべて、掌サイズの丸い機械を見せてくれる。
「えっ、それをブルマさんが作ったの!?」
「まあね、この程度の物を作るのは朝飯前よ」
ブルマさんって、美人で手先も器用で性格だって明るいし、絶対モテるだろうなあ。
でも私にだって彼がいるんだし、ブルマさんにも負けてないよね、多分……。
「んで、今から探しに行くんか?」
「そうねえ……今日は家でゆっくり身体を休めてもらって、ドラゴンボール探しは、明日から始めても遅くはないと思うわ」
ブルマさんの提案は、私にとって物凄くありがたい申し出だった。疲労困憊で、ちょっとでも早く休みたかったから……。
あ、でも仕事はどうしよう。このままじゃ、上司に怒られてクビになるかもしれない。うーん、彼のこともあるし、でも無理に頼むこともできないし……はぁ、問題は山積みだなあ。
「そんじゃあ、オラは帰ぇるぞ。あんまり遅くなっと、チチが機嫌損ねて色々とうるせぇからさ」
悟空が悟飯くんを抱いたまま立ち上がった。
「ふふ、了解。じゃあ、残りの三人はさっき言った通り、家に泊まってって。独りずつ寝床を用意してあげるわ」
ブルマさんが、どんどん話を進める。
「あ……」
「名無しさんさん、どうかしたの?」
「う、ううん……何でもない」
結局、本音を言えなかった。
バーダックには何でも言えたのにな……。
でもドラゴンボールの件もあるし、希望が見えたんだから、絶対に帰れるってポジティブになろう!
「そんじゃあ、ドラゴンボールは明日纏めて持って来っからよ」
「悟空、ありがとう。悟飯くん、また遊ぼうね?」
「うん!」
満面の笑みで頷く悟飯くん。あり得ない展開が続くなか、彼の笑顔が唯一の癒しなのよね。
そういえば、バーダックは悟飯くんにも優しかったなあ。やっぱり、孫だから可愛いんだろうけど、彼はあんまりおじいちゃんって柄じゃないかも。
「じゃあ、また明日な!」
悟空は悟飯くんを連れて帰ってしまい、残った私達三人はブルマさんの厚意に甘えることになった。
その後。夕食をご馳走になった私はお風呂を借りた後、案内された客室のベッドの上に寝転んでいた。
「はあ~……やっと、人心地ついたって感じ」
ぼふっと枕に顔を埋めながら呟いた。
お腹いっぱいになって安心しちゃった……このまま寝ちゃおうかな。
そこへ、コンコンとドアをノックする音が聞こえて、一気に現実に引き戻された。
「もう少しで寝れたのに……誰よ?」
誰が訪ねて来たのか、深く考えずに返事する。
「どーぞ」
すると、ドアが開く音がして誰かが中に入って来た。
「えらく寛いでるようだな」
予想もしない、ハスキーボイスが届いた。
「え!?」
勢いよく振り向くと、そこには皮肉な笑みを浮かべて、頭上から私を眺めるバーダックがいた。
てっきりブルマさんかと思ったのに、よりによってこの男なの!?
「ちょっと、何入って来てんの!?」
「お前がどーぞって言うから入ったんだろうが。自分の言動には責任持ちやがれ」
「う……」
ちゃんと確認しなかった私が悪いんだし、反論する余地がない。
「……それで、何の用なの?」
「寝れねえから、しばらくオレの話し相手になれよ」
「何で私が?」
ガシガシと後頭部を掻いたバーダックは、ふいっと視線を逸らした。
「……ラディッツの野郎と話したって盛り上がらねぇし……まさか、あの女の所に行くわけにも、いかねぇしな。消去法でお前しかいなかったんだよ」
「あの女って、ブルマさんのこと? 別に気にしないで、話し相手になってもらえばいいじゃん」
「可愛げねえ女だな、てめえは……」
軽く舌打ちをしたバーダックが、ベッドの端に腰を下ろす。
「アンタに文句言われる筋合いないし! っていうか、何ちゃっかり座ってんの!?」
「うるせえな、少し静かにしろよ……」
バーダックがいきなり身を乗り上げて来て、ベッドが軋む音が響く。
次の瞬間、彼の手で両肩をベッドに押さえつけられた。
「えっ……ちょっと、バーダック?」
鼻先が触れそうな距離で、彼の吐息がかかる。
「ねえ、顔近いから!」
「名無しさん……」
「な、何よ?」
バーダックの片頬が吊り上がり、その瞳がギラリと光る。
「やっと大人しくなったな?」
また、あの目だ。獲物を狙い定める野獣の目付き。この目は苦手だ。
「……だったら、早く離れて」
物凄く居心地が悪くて、バーダックから顔を背けて呟いた。
「こんな美味しいシチュエーションで離れるなんざ、惜しいと思わねえか?」
バーダックが、どんどん目前に迫って来る。
さっきはせっかく見直したってのに、この俺様男は!
「知らない、つーのっ!」
「ぐっ!」
急所を思いっきり蹴り上げ、バーダックがベッドに蹲るのを横目にした私は急ぎ、ドアに向かって全力で走った。
「待ちやがれ!」
廊下に出ようとする直前で、ぐっと肩を掴まれた。
「何……!?」
振り向いた先には、至近距離で私を見下ろすバーダックがいる。
「いつの間に……」
「随分ナメた真似してくれるよな、名無しさん……」
もしかしなくても、急所蹴られて怒ってる、よね。でも、あれは節操ないバーダックが悪いんだから……。
そう心中で悪態をついていると「どこへ行こうとしていた? お前の部屋はここだろ」と耳朶にバーダックの怒気を含んだ声が響く。
「えーと……その、眠れないから散歩に行こうかなと思って!」
苦し紛れに出て来た台詞がこれ。
バーダックの目が再びギラリと光る。
身を寄せていたドアの、顔のすぐ横に彼が大きな音を立てて両手をついた。
「ひっ!」
背後から囲い込まれた形で、自分の身体がすっぽりと、バーダックの腕の中に収まっている。
「こんな夜中に徘徊するんじゃねえ。他のヤツらの迷惑になるだろうが……」
耳のすぐ傍に、彼の荒っぽい息がかかった。
「っ……」
ゾクゾクと震え上がった私は、正論なだけに何も言い返す言葉が見つからない。
この男と二人きりでいると、心臓が幾つあっても足りないって……。
「分かったら、部屋で大人しくしてやがれ……いいな?」
地を這うような声で凄まれ、反射的に背筋がゾクッと震える。
「っ……分かったから、早く離れてよ」
「生憎 だが、永久に離してやるつもりはねぇよ」
密やかに囁かれた声が、何となく寂しさを含んでいる気がした。
普段の俺様口調なのに、不覚にも心が揺れる。
「そう言ったら、どうする?」
「ふ、ふざけないでよ!」
咄嗟にしゃがみ込んだ私は、バーダックの足下から逃げ出して、充分な距離を取った。
あ、焦った……何を流されそうになってんの、私!
「別に、ふざけてねえよ。オレは至って真面目に言ってんだぜ」
そう答えたバーダックの唇には物騒な笑みが浮かんでいたけど、目は全然笑ってなかった。
ゆったりとした足取りで近づいて来る危険な俺様男から、本能的に逃げようとする。
「おっと、もう逃がさねえよ」
バーダックの右手が、私の左手を掴んだ。
「さっきの金的、さすがに痛かったぜ……油断したオレも悪いが、あんな悪戯をするヤツは懲らしめとかねえとな」
「な、何する気?」
私は身構えた。
「さあて、どう懲らしめてやろうか?」
漆黒の瞳が、私を射る。
正直、怖い。けど、怖がっていることを悟られたくなくて、わざと眉間に皺を寄せて不機嫌を装う。
「離してよ!」
バーダックの手を振り払おうとしたけど、それは許されなかった。
次の瞬間には、もう片方の腕によって、強引に腰を引き寄せられてしまう。
「やだっ、バーダック!?」
抵抗する私の首筋が急に熱くなり、濡れた感触が肌を這う。
その瞬間、舌で舐められたんだと分かった。ゾクゾクッと背中を走る感覚が怖くて、身体が縮こまる。
それでも何とか逃れようと身を捩らせるけど、バーダックはさらに強く抱きしめて離そうとしない。
「もう一度だけ言う。名無しさん、オレの女になれ」
「やだってば! 言ったでしょ!? 私には彼氏がいるって!」
「だが、そいつは別世界にいる。今お前の目の前にいるのはオレだ」
バーダックの言葉が、グサリと胸に突き刺さる。
「そんなの、ドラゴンボールを集めれば、神龍に願いを叶えて貰えるよ……それに彼だって、急に私がいなくなって心配してるに決まってるもの。絶対に自分の世界に帰って、いつもの生活を取り戻すんだから!」
私には大事な人がいる。諦めたら、そこで終わりだ。ブルマさんの話を聞いてからは、諦めないで絶対彼に逢うと決めていた。
「……」
「バーダックだって、ドラゴンボール探しの協力してくれるって言ってくれたでしょ? 私、ホントに嬉しかったんだから。それに奥さんのこと、裏切っちゃ駄目だよ」
「!?」
目を見張ったバーダックは、やがて気まずそうに顔を伏せた。
軽く舌打ちをして、あっさりと私の身体から離れていく。
「バーダック?」
呆気に取られている間、ドアまで歩いて行った彼が肩越しに振り返る。
「今日は疲れただろ。ゆっくり休め」
そう言い残して、彼は部屋から出て行った。
「何なのよ、もう……訳分かんない」
独りになった私は袖口で首筋を拭い、ベッドに近寄ると、真新しいシーツの上に寝そべった。
急に泣きたくなるような心細い気分になって、代わりに深い溜め息が零れる。
まさか、異世界に飛ばされてたなんて……あの鉄材事件がこんな大事を引き起こすなんて、夢にも思わなかった。そのお蔭で死なずにすんだけど。
こういう状況になって、思い浮かぶのは彼氏のことばっかり。
「彼に逢いたい……」
数時間前には、あんなに意気込んでた気持ちが嘘みたいに萎んでる。
だけど、落ち込んでばかりもいられない。私にはまだ、元の世界に帰れる望みがある。
それに、バーダック達が協力するって言ってくれてるんだし、明日は皆に迷惑かけないようにしなくちゃね。
そんなことを思いながら、ゆっくり眠りの世界に落ちていった。
「それじゃ、名無しさんさん。詳しく話して貰えるかしら?」
ブルマさんに問われた私は、彼氏のことは触れず(今は詳しく聞かれたくないから)バーダックに出会うまでの経緯を掻い摘んで説明した。
話を聞いた皆は、信じられないとばかりの顔で私を見つめている。
当然だよね、あり得ないことなんだから。全部事実だけど。
そんな重い空気のなか、ブルマさんが徐に口を開いた。
「名無しさんさん、とっても言い難いことなんだけどね……さっき詳しく調べてみたけど、やっぱり日本なんて地名はどこにもないのよ」
「え……?」
自分の耳を疑う私に追い打ちをかけるように、ブルマさんが続ける。
「そもそも名無しさんさんは事故をきっかけにして、まったく別の世界から時空移動して来たのね。これも言い難いことだけど、この世界では異世界人ってことになるわ」
「そ、そんなっ……!」
途端、脳内がグチャグチャに掻き乱れていく。
私が異世界の人間だなんて……もしかしたら、もう二度と彼に逢えないかもしれないってこと? この世界にずっといなくちゃいけないの?
予想もしていなかった事実に、私はどうしようもない不安に襲われた。
……でも考えてみれば、バーダックもラディッツも皆空を飛べるんだもんね。ここが異世界って言われれば、自然と腑に落ちる。
「ねえ、名無しさんさん?」
ブルマさんの声で我に返った。
「名無しさんでえじょうぶか?」
悟空も心配そうに私を見ている。
私はぎこちなく返事するだけで精一杯だった。
「突然過ぎて混乱するのも、無理はないわ。でも大丈夫よ」
「どういうことだ?」
バーダックが眉間に皺を寄せて尋ねる。
「あ、そっか。ドラゴンボールを使うんだな?」
「孫くん、正解よ」
「「ドラゴンボール?」」
私とバーダックの声がハモッた。
バーダックも、ドラゴンボールのことは知らないのかな。
無知なのは私だけじゃないってことに、ちょっとだけ安心した。
「ドラゴンボールは、オレンジ色に光る小さい球なの。ほら、悟飯くんの帽子についているのがそうよ」
悟空の膝の上に座っている悟飯くんの帽子に、皆の視線が集まる。
それは大体、野球やテニスで使うボールより、少し大きめかなってぐらい。かなりアバウトだけど。
「綺麗、まるで宝石みたいね」
私はドラゴンボールが放つオレンジ色の淡い光に、思わず吸い込まれそうになる。
「ここからが本題だから、よく聞いてね。ドラゴンボールは七つあって、全部集めると神龍っていう龍の神様が現れて、願いごとを何でも一つだけ叶えてくれるのよ」
「えっ、何でも叶えてくれるの?」
「そんな都合のいいもんがあるのかよ」
今まで無言だったラディッツが眉をひそめて呟いた。
確かに、ちょっと信じられないかも。それこそ夢のような話だから。
「ドラゴンボールさえあれば、名無しさんの夢はバッチリ叶うぞ。だから、何も
隣に座っていた悟空が、笑顔で私の肩を叩いた。
ブルマさんの話はさながら“アラジンと魔法のランプ”みたいに奇妙だけど、私にとっては嬉しい事実だ。
私は緊張していた頬を緩める。
「ブルマさん、悟空、ありがとう。ちょっと希望が見えてきたよ」
ふとソファーの向かい側に座っている、バーダックと視線が合う。彼はじっと私を見つめていた。何故か、渋い顔で。
疑問に思い、声をかけようとすると、それに気づいたらしいバーダックは私から目線を逸らした。
「それで、肝心のドラゴンボールとやらはどこにあるんだ?」
まるで何事もなかったかのように、話を進めるバーダック。
さっきの視線の意味は何だったのか、ちょっと気になる。
「えーと、まず四星球がここにあんだろ。それと家に三星球と六星球が置いてあっぞ」
バーダックの問いかけに、悟空が答えた。
「ちょっと待てよ、親父。まさか、そのドラゴンボールってのを探してやる気なのか?」
「ああ……ちょうど退屈してた所だしな。ラディッツ、お前も付き合え」
「!?」
あの俺様なバーダックが手伝ってくれる……?
「オレもか!?」
「どうせ暇だろ」
まさか彼も手伝ってくれるなんて……でも確かに最初だって、手段は悪魔の所業って感じだったけど、サーベルタイガーから私を助けてくれた。なんだかんだ言ったって、優しいとこはあるんだよね。
「残りのドラゴンボールは四つか。世界中に散らばってるだろうから、全部集めるまでに何日かは掛かっちゃうわね」
ブルマさんの発言で、唖然としてしまう。
「世界中って……広範囲だよね? あんなに小さいボールを、どうやって探し出すの?」
「その心配はご無用よ。私が開発した、このドラゴンレーダーを使って探せるんだから!」
ブルマさんが不敵な笑みを浮かべて、掌サイズの丸い機械を見せてくれる。
「えっ、それをブルマさんが作ったの!?」
「まあね、この程度の物を作るのは朝飯前よ」
ブルマさんって、美人で手先も器用で性格だって明るいし、絶対モテるだろうなあ。
でも私にだって彼がいるんだし、ブルマさんにも負けてないよね、多分……。
「んで、今から探しに行くんか?」
「そうねえ……今日は家でゆっくり身体を休めてもらって、ドラゴンボール探しは、明日から始めても遅くはないと思うわ」
ブルマさんの提案は、私にとって物凄くありがたい申し出だった。疲労困憊で、ちょっとでも早く休みたかったから……。
あ、でも仕事はどうしよう。このままじゃ、上司に怒られてクビになるかもしれない。うーん、彼のこともあるし、でも無理に頼むこともできないし……はぁ、問題は山積みだなあ。
「そんじゃあ、オラは帰ぇるぞ。あんまり遅くなっと、チチが機嫌損ねて色々とうるせぇからさ」
悟空が悟飯くんを抱いたまま立ち上がった。
「ふふ、了解。じゃあ、残りの三人はさっき言った通り、家に泊まってって。独りずつ寝床を用意してあげるわ」
ブルマさんが、どんどん話を進める。
「あ……」
「名無しさんさん、どうかしたの?」
「う、ううん……何でもない」
結局、本音を言えなかった。
バーダックには何でも言えたのにな……。
でもドラゴンボールの件もあるし、希望が見えたんだから、絶対に帰れるってポジティブになろう!
「そんじゃあ、ドラゴンボールは明日纏めて持って来っからよ」
「悟空、ありがとう。悟飯くん、また遊ぼうね?」
「うん!」
満面の笑みで頷く悟飯くん。あり得ない展開が続くなか、彼の笑顔が唯一の癒しなのよね。
そういえば、バーダックは悟飯くんにも優しかったなあ。やっぱり、孫だから可愛いんだろうけど、彼はあんまりおじいちゃんって柄じゃないかも。
「じゃあ、また明日な!」
悟空は悟飯くんを連れて帰ってしまい、残った私達三人はブルマさんの厚意に甘えることになった。
その後。夕食をご馳走になった私はお風呂を借りた後、案内された客室のベッドの上に寝転んでいた。
「はあ~……やっと、人心地ついたって感じ」
ぼふっと枕に顔を埋めながら呟いた。
お腹いっぱいになって安心しちゃった……このまま寝ちゃおうかな。
そこへ、コンコンとドアをノックする音が聞こえて、一気に現実に引き戻された。
「もう少しで寝れたのに……誰よ?」
誰が訪ねて来たのか、深く考えずに返事する。
「どーぞ」
すると、ドアが開く音がして誰かが中に入って来た。
「えらく寛いでるようだな」
予想もしない、ハスキーボイスが届いた。
「え!?」
勢いよく振り向くと、そこには皮肉な笑みを浮かべて、頭上から私を眺めるバーダックがいた。
てっきりブルマさんかと思ったのに、よりによってこの男なの!?
「ちょっと、何入って来てんの!?」
「お前がどーぞって言うから入ったんだろうが。自分の言動には責任持ちやがれ」
「う……」
ちゃんと確認しなかった私が悪いんだし、反論する余地がない。
「……それで、何の用なの?」
「寝れねえから、しばらくオレの話し相手になれよ」
「何で私が?」
ガシガシと後頭部を掻いたバーダックは、ふいっと視線を逸らした。
「……ラディッツの野郎と話したって盛り上がらねぇし……まさか、あの女の所に行くわけにも、いかねぇしな。消去法でお前しかいなかったんだよ」
「あの女って、ブルマさんのこと? 別に気にしないで、話し相手になってもらえばいいじゃん」
「可愛げねえ女だな、てめえは……」
軽く舌打ちをしたバーダックが、ベッドの端に腰を下ろす。
「アンタに文句言われる筋合いないし! っていうか、何ちゃっかり座ってんの!?」
「うるせえな、少し静かにしろよ……」
バーダックがいきなり身を乗り上げて来て、ベッドが軋む音が響く。
次の瞬間、彼の手で両肩をベッドに押さえつけられた。
「えっ……ちょっと、バーダック?」
鼻先が触れそうな距離で、彼の吐息がかかる。
「ねえ、顔近いから!」
「名無しさん……」
「な、何よ?」
バーダックの片頬が吊り上がり、その瞳がギラリと光る。
「やっと大人しくなったな?」
また、あの目だ。獲物を狙い定める野獣の目付き。この目は苦手だ。
「……だったら、早く離れて」
物凄く居心地が悪くて、バーダックから顔を背けて呟いた。
「こんな美味しいシチュエーションで離れるなんざ、惜しいと思わねえか?」
バーダックが、どんどん目前に迫って来る。
さっきはせっかく見直したってのに、この俺様男は!
「知らない、つーのっ!」
「ぐっ!」
急所を思いっきり蹴り上げ、バーダックがベッドに蹲るのを横目にした私は急ぎ、ドアに向かって全力で走った。
「待ちやがれ!」
廊下に出ようとする直前で、ぐっと肩を掴まれた。
「何……!?」
振り向いた先には、至近距離で私を見下ろすバーダックがいる。
「いつの間に……」
「随分ナメた真似してくれるよな、名無しさん……」
もしかしなくても、急所蹴られて怒ってる、よね。でも、あれは節操ないバーダックが悪いんだから……。
そう心中で悪態をついていると「どこへ行こうとしていた? お前の部屋はここだろ」と耳朶にバーダックの怒気を含んだ声が響く。
「えーと……その、眠れないから散歩に行こうかなと思って!」
苦し紛れに出て来た台詞がこれ。
バーダックの目が再びギラリと光る。
身を寄せていたドアの、顔のすぐ横に彼が大きな音を立てて両手をついた。
「ひっ!」
背後から囲い込まれた形で、自分の身体がすっぽりと、バーダックの腕の中に収まっている。
「こんな夜中に徘徊するんじゃねえ。他のヤツらの迷惑になるだろうが……」
耳のすぐ傍に、彼の荒っぽい息がかかった。
「っ……」
ゾクゾクと震え上がった私は、正論なだけに何も言い返す言葉が見つからない。
この男と二人きりでいると、心臓が幾つあっても足りないって……。
「分かったら、部屋で大人しくしてやがれ……いいな?」
地を這うような声で凄まれ、反射的に背筋がゾクッと震える。
「っ……分かったから、早く離れてよ」
「
密やかに囁かれた声が、何となく寂しさを含んでいる気がした。
普段の俺様口調なのに、不覚にも心が揺れる。
「そう言ったら、どうする?」
「ふ、ふざけないでよ!」
咄嗟にしゃがみ込んだ私は、バーダックの足下から逃げ出して、充分な距離を取った。
あ、焦った……何を流されそうになってんの、私!
「別に、ふざけてねえよ。オレは至って真面目に言ってんだぜ」
そう答えたバーダックの唇には物騒な笑みが浮かんでいたけど、目は全然笑ってなかった。
ゆったりとした足取りで近づいて来る危険な俺様男から、本能的に逃げようとする。
「おっと、もう逃がさねえよ」
バーダックの右手が、私の左手を掴んだ。
「さっきの金的、さすがに痛かったぜ……油断したオレも悪いが、あんな悪戯をするヤツは懲らしめとかねえとな」
「な、何する気?」
私は身構えた。
「さあて、どう懲らしめてやろうか?」
漆黒の瞳が、私を射る。
正直、怖い。けど、怖がっていることを悟られたくなくて、わざと眉間に皺を寄せて不機嫌を装う。
「離してよ!」
バーダックの手を振り払おうとしたけど、それは許されなかった。
次の瞬間には、もう片方の腕によって、強引に腰を引き寄せられてしまう。
「やだっ、バーダック!?」
抵抗する私の首筋が急に熱くなり、濡れた感触が肌を這う。
その瞬間、舌で舐められたんだと分かった。ゾクゾクッと背中を走る感覚が怖くて、身体が縮こまる。
それでも何とか逃れようと身を捩らせるけど、バーダックはさらに強く抱きしめて離そうとしない。
「もう一度だけ言う。名無しさん、オレの女になれ」
「やだってば! 言ったでしょ!? 私には彼氏がいるって!」
「だが、そいつは別世界にいる。今お前の目の前にいるのはオレだ」
バーダックの言葉が、グサリと胸に突き刺さる。
「そんなの、ドラゴンボールを集めれば、神龍に願いを叶えて貰えるよ……それに彼だって、急に私がいなくなって心配してるに決まってるもの。絶対に自分の世界に帰って、いつもの生活を取り戻すんだから!」
私には大事な人がいる。諦めたら、そこで終わりだ。ブルマさんの話を聞いてからは、諦めないで絶対彼に逢うと決めていた。
「……」
「バーダックだって、ドラゴンボール探しの協力してくれるって言ってくれたでしょ? 私、ホントに嬉しかったんだから。それに奥さんのこと、裏切っちゃ駄目だよ」
「!?」
目を見張ったバーダックは、やがて気まずそうに顔を伏せた。
軽く舌打ちをして、あっさりと私の身体から離れていく。
「バーダック?」
呆気に取られている間、ドアまで歩いて行った彼が肩越しに振り返る。
「今日は疲れただろ。ゆっくり休め」
そう言い残して、彼は部屋から出て行った。
「何なのよ、もう……訳分かんない」
独りになった私は袖口で首筋を拭い、ベッドに近寄ると、真新しいシーツの上に寝そべった。
急に泣きたくなるような心細い気分になって、代わりに深い溜め息が零れる。
まさか、異世界に飛ばされてたなんて……あの鉄材事件がこんな大事を引き起こすなんて、夢にも思わなかった。そのお蔭で死なずにすんだけど。
こういう状況になって、思い浮かぶのは彼氏のことばっかり。
「彼に逢いたい……」
数時間前には、あんなに意気込んでた気持ちが嘘みたいに萎んでる。
だけど、落ち込んでばかりもいられない。私にはまだ、元の世界に帰れる望みがある。
それに、バーダック達が協力するって言ってくれてるんだし、明日は皆に迷惑かけないようにしなくちゃね。
そんなことを思いながら、ゆっくり眠りの世界に落ちていった。