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※この作品は『まっしぐらの恋のお題』の続編ですが、前作のネタはあまり関係性がないので、『永遠を誓った二人のお題』単体でも楽しめると思います。
【第一話 健やかなるときも、病めるときも】
名無しさんと結婚して、半年経った。
オラは新しい家を建てるため、近所の農家のおっちゃんの手伝いをしていた。いわゆる野良仕事だな。
オラが毎日精を出して働くもんだから(修業も合間にしてっぞ)ひと月の給金てのか、オラの感覚じゃそこそこ貰ってんじゃねえかな。
名無しさんは近所の農家レストランで腕を振るう毎日だ。
そこそこ金も貯まってきたし、新しい家が建つのも時間の問題だろうな。
そんなある日のことだ。
「悟空、私ちょっと体調良くないから、朝ご飯簡単な物で良いかな?」
「それぐれえ平気だけどよ。確かにちょっと顔色悪ぃなあ。仕事行けそうか?」
「それは大丈夫、熱も平熱だしね。新居のためにもバリバリ働かなくちゃ」
「そっか、無理すんなよ?」
「ありがとう、悟空。ご飯はテーブルの上に用意してあるからね」
名無しさんはオラに礼を言って、職場に出掛けて行った。
その日は、飛びっきり天気が良くてオラの頭を太陽がジリジリと照りつけてくる。
首に掛けていたタオルで汗を拭きながら、トラクターを操縦する。
滞りなく仕事が進むが、オラは何となく嫌な予感がしていた。
その時だった。
「悟空さーん! 名無しさんちゃんぶっ倒れたそうだぞ!」
あーやっぱしか。
オラは名無しさんの元へ急いだ。
店に着いたオラがオーナーに案内されっと、スタッフルームのベンチで、仰向けの嫁さんが青白い顔で寝ていた。
「最近、昼食を残すことが何回かあったんですよ。聞いたら、食欲がないらしくて……恐らく貧血だと思います」
「そっか。オラがあんまり無理させ過ぎたんだな」
「悟空さんのせいじゃありませんよ。奥さんは根が真面目な方ですから」
「んで、どうすりゃいい? このまんま連れて帰っても良いんか?」
オラがそう言うと「もちろんです。二三日休養を取ってください。有給休暇にしておきますから」と返ってきた。
「悪ぃな、言葉に甘えっぞ」
オラは名無しさんを姫抱っこして職場に戻り、有給休暇の許可を貰った。
「よし、後は帰ぇるだけだな」
嫁さんを抱えて一気にオラんちへ舞い戻り、寝室に名無しさんを寝かせる。
「ん、悟空……?」
オラが部屋を出ようとすっと、嫁さんが目を覚ました。
「でえじょうぶか?」
「うん……」
「オラ、ちっとばっかし電話してくっから、名無しさんは大人しく寝てろよ?」
「うん……」
連絡先はブルマだ。粥も何も作れねえオラは、頼みの綱でアイツを要請するつもりでいた。
だが、ブルマもここ最近忙しいらしく、とてもじゃねえけどオラんちには来れねえようだ。
一応粥の作り方は教わったけど、オラに出来っかな。
ま、何とかなっか。
一時間後。
オラが粥作りに悪戦苦闘してっと、名無しさんが姿を見せる。
「悟空、随分騒がしいけど大丈夫?」
「ああ、でえじょうぶだ。それより、粥作ったから食ってみろよ」
「悟空が作ったの? 凄いね」
テーブルに器を置いてスプーンを添えてやると、名無しさんは嬉しそうに白粥を食べ始めた。
「どうだ? 美味えか?」
「ちょっと塩気が多いけど、美味しいよ。ありがとう、悟空♡」
「そっか、良かったな。オラ、ちょっくら森で果物採ってくっからよ。おめえ、食いてえだろ?」
「ううん……出来れば今は独りになりたくない……」
名無しさんはかぶりを振って、オラを引き留めようとする。
「んじゃ、ベッドに戻っか? 添い寝してやっぞ」
「うん、ありがとう」
名無しさんはめんごい顔で笑う。
ちょい生気が足りねえが、やっぱ別嬪の嫁さんに少しばっか照れちまう。
ベッドに横になった名無しさんはオラに顔を向ける。
「ワガママ言ってごめんね。悟空のご飯も作れそうもなくて……」
「んなこと気にすんな。オラは狩りで腹ぁ満たすからよ、名無しさんは自分の身体を労 れって。な?」
「悟空、頼もしいね」
「嫁さんの一大事だかんな。心配すんのも当然だ」
「悟空と夫婦になれて良かった……早く元気になって、美味しい物たくさん作るね?」
「おう、期待してっぞ!」
それから、二三日で嫁さんの体調は無事良くなった。夫婦揃って仕事出来るって、当たりめえじゃねえんだな。
今頃、天界からデンデも見守ってんだろうな。
ホントに大事に至らなくて良かったぞ。サンキューなデンデ。
心んなかで神様に礼を言い、また仕事と修業に明け暮れる日常が始まろうとしていた。
【第二話 「おいで」とその目に導かれ】
その日風呂から上がっと、ソファーで名無しさんが寝息を立てていた。
「名無しさん、風呂空いたぞ」
オラは歩み寄って、嫁さんの肩を揺らす。
「ん~どーしても眠いの……」
オラの嫁さんは眠り姫か?
どう考えても、オラはベジータみてえな王子にゃなれねえぞ。
こうなりゃ、あの手しかねえな。
「名無しさん、オラを見ろよ」
「ん?」
薄ら目を開ける嫁さんに「オラが風呂場に連れてってやるよ」と囁く。
「ん~」
「名無しさん」
オラが腕を広げっと、名無しさんは素直に体躯を預けてくる。
「よしよし偉いぞ」
嫁さんを姫抱っこして、浴槽に連れていく。
オラは名無しさんの服を脱がして、湯加減を見てから浴槽に入れてやる。
「悟空、気持ちいい……」
名無しさんは浴槽の縁に両腕を預けて、気持ち良さげに浸かっている。
上気した頬が艶を帯びて、まるで薔薇の花みてえだ。
「そうか、良かったな。少しは目ぇ覚めたか?」
「うん、前の日に悟空から求められちゃうと身体が眠りを欲しがるの。それだけ体力に差があるんだね」
「まあな、単純に男と女の違いもあんだろ。それにオラはサイヤ人だしな」
浴槽に浸かる名無しさんの白肌が月の光に照らされ、何だか色っぽく見えちまう。
嫁さんの艶っぽい姿を見たオラは生唾を呑んだ。
丸ごとオラのモンにしちまいてえ……。
「何か言った?」
「いんや? それより、そろそろ上がっか?」
「うん、気持ち良かった。ありがとう、悟空」
「おめえが満足なら良かったぞ」
湯浴みを終えた名無しさんをバスタオルで包み込み、そのまま抱き締める。
「名無しさん、綺麗だ。このまま喰っちまいてえ……」
「だーめ、寝室までお預けだよ?」
「殺生だな」
オラは素直に引き下がる、わけねえ。
「寝室まで一直線だ、しっかり掴まっとけよ!」
「え?」
その直後、嫁さんの悲鳴が辺りに木霊する。
数分後。名無しさんをベッドに組み敷いたオラは、嫁さんを見下ろした。
オラ自身、今日はあんま余裕ねえみてえだ。
「名無しさん、なるべく優しくすっけど、多少お預け食らったからな。今夜は寝かせてやれねえ」
「ご、悟空……野獣みたい」
「ある意味そうかもな。覚悟は出来てっか?」
「う、うん……」
名無しさんが欲しいと、オラの中の雄の血が騒ぐ。
夜が更けるなか、一晩中オラ達の部屋の灯りが消えることはなかった。
【第三話 記念日じゃなくても】
「悟空はお酒呑める?」
夕飯の支度をしていた名無しさんが、そんなことを聞いてきた。
「オラはビールはあんまり得意じゃねえけどな」
「なら、ワインは?」
「どうだろな、呑んでみなきゃ分かんねえよ」
「じゃあ試してみようよ。今日、職場で食前酒の赤ワインを貰ったんだけど、独り酒も寂しいしね」
名無しさんはオラにウインクする。
ん? どういう意味だ?
誘われてんのか、オラは……?
「名無しさん、誘ってんのか?」
「違います! ホントに悟空は人畜無害な顔して意外と肉食系なんだから」
「オラ、肉は大好物だぞ」
「……肉食獣の間違いね」
「オラ、地球育ちのサイヤ人だぞ」
「はいはい」
嫁さんはオラを気にも留めず、食器や酒をテーブルセッティングしていく。
いまいちノリが分かんねえ、名無しさんは天然なんかな。
「肉食獣の悟空にはステーキが一番ね。赤ワインと一緒に召し上がれ」
「お! 美味そうだな、もう食って良いんか?」
オラの腹の虫も待ちきれねえとばかりに鳴いている。
名無しさんも席について「どうぞ召し上がれ?」と促した。
オラは挨拶もそこそこに、ステーキにがっつき始めた。
「ん~美味え!」
頭んなかに、血湧き肉躍るなんて言葉が浮かぶ。オラにとって修業も食事も戦いだかんな。
一回一回が真剣勝負だ。
「名無しさん、乾杯すんだろ?」
「普通は食前酒なんだけどね」
「気にすんなって。作法なんて、あってねえようなもんだ」
「あはは……悟空に至ってはそうかもね」
オラがワイングラスを寄せっと、名無しさんはグラスの縁をカチンと合わせる。
「ゴクンッ……」
ん? ビール程苦くねえ。それよりも葡萄本来の甘さと軽さがオラの口いっぱいに広がる。世辞抜きに美味え。
「味はどう?」
「この葡萄酒甘えな、オラでも平気で呑めっぞ」
「そっか、口に合って良かったね」
思わずワインをがぶ飲みすっと、身体中の血が沸き上がりそうだ。
不意に名無しさんを見っと、何だかキラキラと輝いて見える。光のオーラってヤツか?
「……なあ、名無しさん。おめえ、いつにも増して別嬪だな」
「え?」
オラは椅子ごと名無しさんを引き寄せ、嫁さんの顎に手を添える。
「やっぱ綺麗だ、おめえの瞳から目が逸らせねえ」
「ちょ、悟空酔ってるの?」
「ああ、名無しさんの瞳に酔ってっぞ。キスさせてくれ……」
オラは躊躇わず、名無しさんの目蓋に唇を落とす。
「ん、悟空まるでケダモノみたい……」
「愛してっぞ、名無しさん……おめえがこの世で一等大事だ」
嫁さんを抱き竦めっと、ぽかぽかと心地良い気分になる。
あー駄目だ、このまんま寝ちまうか。
そこで、オラの意識はブラックアウトした。
翌朝、頭がズキズキすっと思えば、名無しさんが二日酔いだと教えてくれた。
酒は呑んでも呑まれるな。
だが、名無しさんは二日酔いに効く薬と朝飯を用意してくれ、どこまでも優しかった。
オラのめんごい名無しさんに感謝しつつ、今日からまたシャキッとして修業と仕事に精を出すか!
【第四話 日頃の感謝を込めて】
仕事終わり、農家のおっちゃんが作りすぎたからって野菜の土産をくれた。
帰宅すっと、土産を嫁さんに手渡す。
すると、名無しさんは喜んで飯の支度に取り掛かった。
「女って何で野菜が好きなんだろうな?」
「それはヘルシーで美味しいからじゃないかな。お肉とか魚だけじゃ飽きちゃうもん」
「オラは野菜より断然肉だな。それは譲れねえ」
「ふーん?」
名無しさんはいかにも不満げだ。
ん~でも、嫁さんにゃ日頃から世話になりっぱなしだかんな。
オラから何か贈り物でもすりゃ喜ばすこと出来っかな?
女といや、花が好きだよな。昔、チチに教わったアレをプレゼントすりゃ名無しさんも喜んでくれっかもしんねえ!
おし、早速明日から始めっか!
翌日。オラは仕事が終わると、ある場所に足を運んだ。
目当ての物を手に入れ、黙々と作業に取り掛かる。
「確か、ここをこうやって、と……ムズいけど、案外手は覚えてるもんだな」
没頭すること一時間。
「おし、出来たぞ!」
プレゼントを手に帰宅する。
「名無しさん、ただいま!」
「遅かったね、悟空。何かあったの?」
名無しさんは曇り顔だ。
ありゃ、心配掛けちまったか?
「悪ぃな、名無しさん。どうしても、おめえにプレゼント渡したくてよ」
オラは言うが早いか、シロツメクサの花冠を名無しさんの頭にそっと乗せる。
「これって、花冠? 急にどうしたの?」
「おめえにゃいっつも何かと世話になってからな。名無しさんに似合うと思って作ったんだぞ」
「悟空の手作りなの?」
「ああ、めんごいぞ。どっかのお姫様みてえだな」
オラがニカッと笑うと、名無しさんは頬を薔薇みてえに赤く染めた。
「ええーと……シロツメクサの花言葉って、確か約束だよね」
「そうなんか」
約束か、単純に良い花言葉だと思った。
「よく作り方が分かったね?」
「ああ、昔──」
「昔?」
「知り合いに教わった。意外と覚えてるもんだと思ってよ。名無しさんの笑顔を浮かべながらこしらえたぞ」
チチの話はあんましねえ方が良いかと思ってはぐらかしちまった。
名無しさんを傷つけたくねえもんな。
「そう。ありがとう、悟空からの贈り物なら何でも嬉しいよ。枯れても大切にするね」
「枯れたら何度でも作ってやっぞ。ちゅうか、一緒に作ってみっか? 案外楽しかったぞ」
「うん、私も作りたい。悟空には日頃からお世話になってるんだから、私からも花冠贈りたいもの」
「決まりだな。早速明日にしようぜ」
「うん♪」
翌日。仕事が終わると名無しさんを迎えに行き、花畑に向かった。
そこで、オラ達は仲良く花冠を作って、互いにプレゼントし合った。
名無しさんはオラに花冠を乗せて「似合ってるよ」と笑った。
何気ねえ日常のひとコマかもしんねえけど、夫婦の時間を大事にするって良いもんだな。心が癒されっぞ。
シロツメクサみてえに可憐な嫁さんが、オラは宇宙一でえ好きだ。
【第五話 雨の休日の過ごし方】
今日は仕事が休みだってのに生憎の雨だ。修業にゃ天候は関係ねえから、一通りのことは済ませたけどな。
名無しさんは洗濯しても外に干せねえからって、渋々部屋干ししてるようだ。
オラは身体が鈍らねえように筋トレに勤しんだ。
腹筋軽く一万回超えたところで、腹の虫が鳴る。
「腹減ったな」
「なら、お昼にしようか? 職場で簡単で美味しいレシピ教わったからご馳走するよ」
「そりゃ楽しみだ、名無しさんの飯は何でも美味えからよ!」
「ふふ、ちょっと待っててね。すぐ作るから」
名無しさんは気に入りのエプロンを身につけて、飯作りに取り掛かった。
「あ、野菜足りないかも」
「貯蔵庫になら、まだまだいっぺえあっぞ。オラ取ってくる」
「ありがとう、悟空。じゃあ、フルーツトマトを幾つか持ってきてくれる?」
「任せろ!」
オラは貯蔵庫に向かい、到着すっと、中に入って目当てのモンを見繕って外に出る。
その間も、雨はしとしと降っていた。
「まだ止まねえな」
山の天候は変わりやすい。これで虹でも出てくれりゃ、名無しさんが喜ぶんだけどな。
「おっと、急がねえと!」
オラは急いで家に舞い戻る。
「名無しさん、持ってきたぞ!」
「助かったよ、悟空。髪の毛濡れたでしょ、このタオル使って」
玄関で待っててくれたらしい嫁さんからタオルを受け取り、ガシガシと頭を拭く。
「止みそうにないね」
「ああ、たまの雨も良いもんだろ。オラ、雨音好きだぞ」
「あ、私も。心に響くのよね。大雨は困るけど」
「ああ、命に関わるかんな」
昔、ピッコロと二人で幼稚園バスを助けたことを思い出しちまった。災害は皆の笑顔を奪っちまう、人間にとっては驚異的な問題だ。
パオズ山は比較的、災害が少ねえが用心するに越したことはねえ。
「悟空、怖い顔してどうしたの?」
「あ、ああ。災害にゃ気を付けねえとなって思ってよ」
「うん、そうだね。でも、私は悟空がいてくれるから怖くないよ?」
「そっか? 名無しさんからの信頼は絶大だな。こりゃ、気を引き締めねえと!」
その後、オラからフルーツトマトを受け取った名無しさんは、飛びきり美味え濃厚トマトパスタを作ってくれた。
オラ、パスタなんてあんま食ったことねえから、フォークの使い方はメチャクチャだった。
けど、たらふく食えて満足満足。
名無しさんはそんなオラを笑顔で見守っていた。
嫁さん曰く、飯時のオラを見てても飽きねえんだと。それは褒め言葉か訊いてみっと、「もちろん!」と微笑んでいた。
よく分かんねえけど、背中がこそばゆかった。
それから雨が上がり、窓の外を見っと、青空にでっけえ虹が出ていた。
オラの願いが天に通じたようだな。
「綺麗だね、虹。幸せの象徴って分かる気がする」
「そうだな、オラは何回も見てっけど、名無しさんと見る虹が一等かもしんねえ」
「私も同じ気持ち……最愛の人との何気ない時間が一番の贅沢だね」
こうして、愛妻名無しさんと一緒に過ごすことが、オラにとって一番の元気の源だ。
そう痛感した一日だった。
【第六話 それでも溢れる独占欲】
仕事を終えたオラは、名無しさんを迎えに農家レストランに来ていた。
「悟空、ちょっと待っててね」
「ああ」
こうして迎えに来て思うことがある。
レストランのオーナーの息子が名無しさんにやけに優しいんだ。
オラと嫁さんとあんま年の差はねえらしいが、名無しさんは息子の態度に何も言わねえ。仕事上の付き合いだから仕方ねえと思うけど、オラに言わせりゃ隙だらけだ。
あ、肩に手ぇ置きやがった。
それでも、オラは見て見ねえ振りをした。
数分後。
無事帰宅すっとオラは早速名無しさんを抱き寄せる。
アイツに触られた場所を消毒しねえと。
「悟空、機嫌悪い?」
「そうでもねえよ」
「嘘」
「嘘じゃねえよ」
そうだ、オラの愛妻に触ったアイツにムカついてるだけだ。
名無しさんにゃ何の罪もねえ。
「ごめんね?」
「何で謝るんだ?」
「悟空がピリピリしてるからだよ」
オラの纏うオーラがそうさせてんのか。
「機嫌直して」
名無しさんはオラに顔を近づけっと、触れるだけのチューをくれた。
「直った?」
「まだだ」
「え!?」
オラは名無しさんを姫抱っこしてベッドに向かう。
嫁さんは慌てふためくがオラの耳にゃ聞こえねえ。
「悟空、お腹空いてないの?」
「ああ、減ってっぞ。けど、オラの一等大事な嫁さんの肩に触れたアイツの痕跡を消さねえと」
「アイツって、もしかしてオーナーの息子さん?」
「ああ、ちゃんと消毒しねえとな」
オラは名無しさんの服を脱がせに掛かる。
「ちょっと待って! あの人奥さんいるんだよ?」
「ん?」
「だから、結婚してるの! 悟空が怒る理由はないの!」
「そうなんか?」
アイツ、結婚してたのか。それでも名無しさんに気安く触れやがって……。
「悟空サン、目が据わってるけど」
「それでもだ」
「ん?」
「やっぱ気安く触ったことは許せねえ。飯の前に消毒すっぞ、名無しさん」
オラは止めていた手で嫁さんの服を脱がしていく。
肩が露になっと、躊躇いなく肩口に唇を這わせる。敏感な名無しさんは息を詰めた。
念入りに唇で消毒し、満足したオラの機嫌がやっと直った。
「もう……強引なんだから」
「なあ、名無しさん」
「なあに?」
「もうアイツに隙見せんなよ?」
オラがしっかり釘を刺すと、名無しさんは盛大な溜め息をついていた。
オーナーの息子、アイツの動向は今後も要チェックだな。
【最終話 この命ある限り】
ある晩。ベッドに横たわり、オラ達は寝る前に対話していた。
「なあ、名無しさん」
「なあに?」
オラの腕に包まれた名無しさんがこっちを見上げる。
「おめえ、オラの嫁になって幸せか?」
「突然だね?」
「いや、山は都と違って遊ぶ場所もねえしよ。不自由な暮らしさせてんのかなって思ってさ」
「そんなことないよ。パオズ山は空気が美味しいし、川も綺麗だし、可愛い花もたくさん咲いてるし、食べ物だって豊富にあるし、それで満足出来ないなんて言ったら罰が当たっちゃうよ」
名無しさんの台詞から、パオズ山をどんだけ愛してんのかが充分伝わってきた。
オラの故郷だから、手放しで褒められっと照れちまうな。
「そんなら良かった。オラも気に入ってる場所だから、おめえがそう言ってくれっと、すんげえ嬉しいぞ」
「パオズ山で生きて死ぬ覚悟がないと、悟空とは一緒になれないもん。悟空とこれからも、たくさん想い出作りたいよ……たまにはブルマさん達とも会いたいなって思うけど、やっぱり旦那さんが元気でいてくれることが一番の願いかな」
「オラもだ。名無しさんがいっつも笑顔で生きてることが、オラにとって何より大事だ。おめえはオラの宝物だかんな」
「悟空……」
オラは名無しさんの瞳を真剣に見つめた。
「オラのこの命ある限り、大事な名無しさんと地球を守る覚悟だ。何なら、シロツメクサに誓っても良いぞ?」
「ふふ、うん」
「オラはおめえ以外に必要な存在なんていねえ。そう思ったのは、悟飯じいちゃん以来だ。名無しさんはオラの命より大切だかんな」
「そこまで言われちゃったら、女冥利に尽きるね。私、男に生まれなくて良かった……ホントに悟空が旦那さんで良かった。私、宇宙一幸せな女房だよ」
名無しさんは泣き笑いしながら、オラの胸板に顔を寄せてくる。
こんなめんごい嫁さん貰って、これ以上の幸せってあんのかと思ったが、名無しさんが傍にいるだけで何倍もの勇気が湧いてくる。
この先、どんな試練や逆境が起ころうが、名無しさんへの愛情で全部乗り越えられる気がすっぞ。
オラの名無しさん。いつかこの命が終わっても、未来永遠オラはおめえを想い続けっぞ。
それまでは新居を構える夢もあっしよ、この先も気張ってかねえとな!
オラはそう心に固く誓った。
今夜は夢見が良さそうだ。
愛妻の名無しさんをこの腕に閉じ込め、眠りに誘われたオラはゆっくり瞼を閉じた。
END
【第一話 健やかなるときも、病めるときも】
名無しさんと結婚して、半年経った。
オラは新しい家を建てるため、近所の農家のおっちゃんの手伝いをしていた。いわゆる野良仕事だな。
オラが毎日精を出して働くもんだから(修業も合間にしてっぞ)ひと月の給金てのか、オラの感覚じゃそこそこ貰ってんじゃねえかな。
名無しさんは近所の農家レストランで腕を振るう毎日だ。
そこそこ金も貯まってきたし、新しい家が建つのも時間の問題だろうな。
そんなある日のことだ。
「悟空、私ちょっと体調良くないから、朝ご飯簡単な物で良いかな?」
「それぐれえ平気だけどよ。確かにちょっと顔色悪ぃなあ。仕事行けそうか?」
「それは大丈夫、熱も平熱だしね。新居のためにもバリバリ働かなくちゃ」
「そっか、無理すんなよ?」
「ありがとう、悟空。ご飯はテーブルの上に用意してあるからね」
名無しさんはオラに礼を言って、職場に出掛けて行った。
その日は、飛びっきり天気が良くてオラの頭を太陽がジリジリと照りつけてくる。
首に掛けていたタオルで汗を拭きながら、トラクターを操縦する。
滞りなく仕事が進むが、オラは何となく嫌な予感がしていた。
その時だった。
「悟空さーん! 名無しさんちゃんぶっ倒れたそうだぞ!」
あーやっぱしか。
オラは名無しさんの元へ急いだ。
店に着いたオラがオーナーに案内されっと、スタッフルームのベンチで、仰向けの嫁さんが青白い顔で寝ていた。
「最近、昼食を残すことが何回かあったんですよ。聞いたら、食欲がないらしくて……恐らく貧血だと思います」
「そっか。オラがあんまり無理させ過ぎたんだな」
「悟空さんのせいじゃありませんよ。奥さんは根が真面目な方ですから」
「んで、どうすりゃいい? このまんま連れて帰っても良いんか?」
オラがそう言うと「もちろんです。二三日休養を取ってください。有給休暇にしておきますから」と返ってきた。
「悪ぃな、言葉に甘えっぞ」
オラは名無しさんを姫抱っこして職場に戻り、有給休暇の許可を貰った。
「よし、後は帰ぇるだけだな」
嫁さんを抱えて一気にオラんちへ舞い戻り、寝室に名無しさんを寝かせる。
「ん、悟空……?」
オラが部屋を出ようとすっと、嫁さんが目を覚ました。
「でえじょうぶか?」
「うん……」
「オラ、ちっとばっかし電話してくっから、名無しさんは大人しく寝てろよ?」
「うん……」
連絡先はブルマだ。粥も何も作れねえオラは、頼みの綱でアイツを要請するつもりでいた。
だが、ブルマもここ最近忙しいらしく、とてもじゃねえけどオラんちには来れねえようだ。
一応粥の作り方は教わったけど、オラに出来っかな。
ま、何とかなっか。
一時間後。
オラが粥作りに悪戦苦闘してっと、名無しさんが姿を見せる。
「悟空、随分騒がしいけど大丈夫?」
「ああ、でえじょうぶだ。それより、粥作ったから食ってみろよ」
「悟空が作ったの? 凄いね」
テーブルに器を置いてスプーンを添えてやると、名無しさんは嬉しそうに白粥を食べ始めた。
「どうだ? 美味えか?」
「ちょっと塩気が多いけど、美味しいよ。ありがとう、悟空♡」
「そっか、良かったな。オラ、ちょっくら森で果物採ってくっからよ。おめえ、食いてえだろ?」
「ううん……出来れば今は独りになりたくない……」
名無しさんはかぶりを振って、オラを引き留めようとする。
「んじゃ、ベッドに戻っか? 添い寝してやっぞ」
「うん、ありがとう」
名無しさんはめんごい顔で笑う。
ちょい生気が足りねえが、やっぱ別嬪の嫁さんに少しばっか照れちまう。
ベッドに横になった名無しさんはオラに顔を向ける。
「ワガママ言ってごめんね。悟空のご飯も作れそうもなくて……」
「んなこと気にすんな。オラは狩りで腹ぁ満たすからよ、名無しさんは自分の身体を
「悟空、頼もしいね」
「嫁さんの一大事だかんな。心配すんのも当然だ」
「悟空と夫婦になれて良かった……早く元気になって、美味しい物たくさん作るね?」
「おう、期待してっぞ!」
それから、二三日で嫁さんの体調は無事良くなった。夫婦揃って仕事出来るって、当たりめえじゃねえんだな。
今頃、天界からデンデも見守ってんだろうな。
ホントに大事に至らなくて良かったぞ。サンキューなデンデ。
心んなかで神様に礼を言い、また仕事と修業に明け暮れる日常が始まろうとしていた。
【第二話 「おいで」とその目に導かれ】
その日風呂から上がっと、ソファーで名無しさんが寝息を立てていた。
「名無しさん、風呂空いたぞ」
オラは歩み寄って、嫁さんの肩を揺らす。
「ん~どーしても眠いの……」
オラの嫁さんは眠り姫か?
どう考えても、オラはベジータみてえな王子にゃなれねえぞ。
こうなりゃ、あの手しかねえな。
「名無しさん、オラを見ろよ」
「ん?」
薄ら目を開ける嫁さんに「オラが風呂場に連れてってやるよ」と囁く。
「ん~」
「名無しさん」
オラが腕を広げっと、名無しさんは素直に体躯を預けてくる。
「よしよし偉いぞ」
嫁さんを姫抱っこして、浴槽に連れていく。
オラは名無しさんの服を脱がして、湯加減を見てから浴槽に入れてやる。
「悟空、気持ちいい……」
名無しさんは浴槽の縁に両腕を預けて、気持ち良さげに浸かっている。
上気した頬が艶を帯びて、まるで薔薇の花みてえだ。
「そうか、良かったな。少しは目ぇ覚めたか?」
「うん、前の日に悟空から求められちゃうと身体が眠りを欲しがるの。それだけ体力に差があるんだね」
「まあな、単純に男と女の違いもあんだろ。それにオラはサイヤ人だしな」
浴槽に浸かる名無しさんの白肌が月の光に照らされ、何だか色っぽく見えちまう。
嫁さんの艶っぽい姿を見たオラは生唾を呑んだ。
丸ごとオラのモンにしちまいてえ……。
「何か言った?」
「いんや? それより、そろそろ上がっか?」
「うん、気持ち良かった。ありがとう、悟空」
「おめえが満足なら良かったぞ」
湯浴みを終えた名無しさんをバスタオルで包み込み、そのまま抱き締める。
「名無しさん、綺麗だ。このまま喰っちまいてえ……」
「だーめ、寝室までお預けだよ?」
「殺生だな」
オラは素直に引き下がる、わけねえ。
「寝室まで一直線だ、しっかり掴まっとけよ!」
「え?」
その直後、嫁さんの悲鳴が辺りに木霊する。
数分後。名無しさんをベッドに組み敷いたオラは、嫁さんを見下ろした。
オラ自身、今日はあんま余裕ねえみてえだ。
「名無しさん、なるべく優しくすっけど、多少お預け食らったからな。今夜は寝かせてやれねえ」
「ご、悟空……野獣みたい」
「ある意味そうかもな。覚悟は出来てっか?」
「う、うん……」
名無しさんが欲しいと、オラの中の雄の血が騒ぐ。
夜が更けるなか、一晩中オラ達の部屋の灯りが消えることはなかった。
【第三話 記念日じゃなくても】
「悟空はお酒呑める?」
夕飯の支度をしていた名無しさんが、そんなことを聞いてきた。
「オラはビールはあんまり得意じゃねえけどな」
「なら、ワインは?」
「どうだろな、呑んでみなきゃ分かんねえよ」
「じゃあ試してみようよ。今日、職場で食前酒の赤ワインを貰ったんだけど、独り酒も寂しいしね」
名無しさんはオラにウインクする。
ん? どういう意味だ?
誘われてんのか、オラは……?
「名無しさん、誘ってんのか?」
「違います! ホントに悟空は人畜無害な顔して意外と肉食系なんだから」
「オラ、肉は大好物だぞ」
「……肉食獣の間違いね」
「オラ、地球育ちのサイヤ人だぞ」
「はいはい」
嫁さんはオラを気にも留めず、食器や酒をテーブルセッティングしていく。
いまいちノリが分かんねえ、名無しさんは天然なんかな。
「肉食獣の悟空にはステーキが一番ね。赤ワインと一緒に召し上がれ」
「お! 美味そうだな、もう食って良いんか?」
オラの腹の虫も待ちきれねえとばかりに鳴いている。
名無しさんも席について「どうぞ召し上がれ?」と促した。
オラは挨拶もそこそこに、ステーキにがっつき始めた。
「ん~美味え!」
頭んなかに、血湧き肉躍るなんて言葉が浮かぶ。オラにとって修業も食事も戦いだかんな。
一回一回が真剣勝負だ。
「名無しさん、乾杯すんだろ?」
「普通は食前酒なんだけどね」
「気にすんなって。作法なんて、あってねえようなもんだ」
「あはは……悟空に至ってはそうかもね」
オラがワイングラスを寄せっと、名無しさんはグラスの縁をカチンと合わせる。
「ゴクンッ……」
ん? ビール程苦くねえ。それよりも葡萄本来の甘さと軽さがオラの口いっぱいに広がる。世辞抜きに美味え。
「味はどう?」
「この葡萄酒甘えな、オラでも平気で呑めっぞ」
「そっか、口に合って良かったね」
思わずワインをがぶ飲みすっと、身体中の血が沸き上がりそうだ。
不意に名無しさんを見っと、何だかキラキラと輝いて見える。光のオーラってヤツか?
「……なあ、名無しさん。おめえ、いつにも増して別嬪だな」
「え?」
オラは椅子ごと名無しさんを引き寄せ、嫁さんの顎に手を添える。
「やっぱ綺麗だ、おめえの瞳から目が逸らせねえ」
「ちょ、悟空酔ってるの?」
「ああ、名無しさんの瞳に酔ってっぞ。キスさせてくれ……」
オラは躊躇わず、名無しさんの目蓋に唇を落とす。
「ん、悟空まるでケダモノみたい……」
「愛してっぞ、名無しさん……おめえがこの世で一等大事だ」
嫁さんを抱き竦めっと、ぽかぽかと心地良い気分になる。
あー駄目だ、このまんま寝ちまうか。
そこで、オラの意識はブラックアウトした。
翌朝、頭がズキズキすっと思えば、名無しさんが二日酔いだと教えてくれた。
酒は呑んでも呑まれるな。
だが、名無しさんは二日酔いに効く薬と朝飯を用意してくれ、どこまでも優しかった。
オラのめんごい名無しさんに感謝しつつ、今日からまたシャキッとして修業と仕事に精を出すか!
【第四話 日頃の感謝を込めて】
仕事終わり、農家のおっちゃんが作りすぎたからって野菜の土産をくれた。
帰宅すっと、土産を嫁さんに手渡す。
すると、名無しさんは喜んで飯の支度に取り掛かった。
「女って何で野菜が好きなんだろうな?」
「それはヘルシーで美味しいからじゃないかな。お肉とか魚だけじゃ飽きちゃうもん」
「オラは野菜より断然肉だな。それは譲れねえ」
「ふーん?」
名無しさんはいかにも不満げだ。
ん~でも、嫁さんにゃ日頃から世話になりっぱなしだかんな。
オラから何か贈り物でもすりゃ喜ばすこと出来っかな?
女といや、花が好きだよな。昔、チチに教わったアレをプレゼントすりゃ名無しさんも喜んでくれっかもしんねえ!
おし、早速明日から始めっか!
翌日。オラは仕事が終わると、ある場所に足を運んだ。
目当ての物を手に入れ、黙々と作業に取り掛かる。
「確か、ここをこうやって、と……ムズいけど、案外手は覚えてるもんだな」
没頭すること一時間。
「おし、出来たぞ!」
プレゼントを手に帰宅する。
「名無しさん、ただいま!」
「遅かったね、悟空。何かあったの?」
名無しさんは曇り顔だ。
ありゃ、心配掛けちまったか?
「悪ぃな、名無しさん。どうしても、おめえにプレゼント渡したくてよ」
オラは言うが早いか、シロツメクサの花冠を名無しさんの頭にそっと乗せる。
「これって、花冠? 急にどうしたの?」
「おめえにゃいっつも何かと世話になってからな。名無しさんに似合うと思って作ったんだぞ」
「悟空の手作りなの?」
「ああ、めんごいぞ。どっかのお姫様みてえだな」
オラがニカッと笑うと、名無しさんは頬を薔薇みてえに赤く染めた。
「ええーと……シロツメクサの花言葉って、確か約束だよね」
「そうなんか」
約束か、単純に良い花言葉だと思った。
「よく作り方が分かったね?」
「ああ、昔──」
「昔?」
「知り合いに教わった。意外と覚えてるもんだと思ってよ。名無しさんの笑顔を浮かべながらこしらえたぞ」
チチの話はあんましねえ方が良いかと思ってはぐらかしちまった。
名無しさんを傷つけたくねえもんな。
「そう。ありがとう、悟空からの贈り物なら何でも嬉しいよ。枯れても大切にするね」
「枯れたら何度でも作ってやっぞ。ちゅうか、一緒に作ってみっか? 案外楽しかったぞ」
「うん、私も作りたい。悟空には日頃からお世話になってるんだから、私からも花冠贈りたいもの」
「決まりだな。早速明日にしようぜ」
「うん♪」
翌日。仕事が終わると名無しさんを迎えに行き、花畑に向かった。
そこで、オラ達は仲良く花冠を作って、互いにプレゼントし合った。
名無しさんはオラに花冠を乗せて「似合ってるよ」と笑った。
何気ねえ日常のひとコマかもしんねえけど、夫婦の時間を大事にするって良いもんだな。心が癒されっぞ。
シロツメクサみてえに可憐な嫁さんが、オラは宇宙一でえ好きだ。
【第五話 雨の休日の過ごし方】
今日は仕事が休みだってのに生憎の雨だ。修業にゃ天候は関係ねえから、一通りのことは済ませたけどな。
名無しさんは洗濯しても外に干せねえからって、渋々部屋干ししてるようだ。
オラは身体が鈍らねえように筋トレに勤しんだ。
腹筋軽く一万回超えたところで、腹の虫が鳴る。
「腹減ったな」
「なら、お昼にしようか? 職場で簡単で美味しいレシピ教わったからご馳走するよ」
「そりゃ楽しみだ、名無しさんの飯は何でも美味えからよ!」
「ふふ、ちょっと待っててね。すぐ作るから」
名無しさんは気に入りのエプロンを身につけて、飯作りに取り掛かった。
「あ、野菜足りないかも」
「貯蔵庫になら、まだまだいっぺえあっぞ。オラ取ってくる」
「ありがとう、悟空。じゃあ、フルーツトマトを幾つか持ってきてくれる?」
「任せろ!」
オラは貯蔵庫に向かい、到着すっと、中に入って目当てのモンを見繕って外に出る。
その間も、雨はしとしと降っていた。
「まだ止まねえな」
山の天候は変わりやすい。これで虹でも出てくれりゃ、名無しさんが喜ぶんだけどな。
「おっと、急がねえと!」
オラは急いで家に舞い戻る。
「名無しさん、持ってきたぞ!」
「助かったよ、悟空。髪の毛濡れたでしょ、このタオル使って」
玄関で待っててくれたらしい嫁さんからタオルを受け取り、ガシガシと頭を拭く。
「止みそうにないね」
「ああ、たまの雨も良いもんだろ。オラ、雨音好きだぞ」
「あ、私も。心に響くのよね。大雨は困るけど」
「ああ、命に関わるかんな」
昔、ピッコロと二人で幼稚園バスを助けたことを思い出しちまった。災害は皆の笑顔を奪っちまう、人間にとっては驚異的な問題だ。
パオズ山は比較的、災害が少ねえが用心するに越したことはねえ。
「悟空、怖い顔してどうしたの?」
「あ、ああ。災害にゃ気を付けねえとなって思ってよ」
「うん、そうだね。でも、私は悟空がいてくれるから怖くないよ?」
「そっか? 名無しさんからの信頼は絶大だな。こりゃ、気を引き締めねえと!」
その後、オラからフルーツトマトを受け取った名無しさんは、飛びきり美味え濃厚トマトパスタを作ってくれた。
オラ、パスタなんてあんま食ったことねえから、フォークの使い方はメチャクチャだった。
けど、たらふく食えて満足満足。
名無しさんはそんなオラを笑顔で見守っていた。
嫁さん曰く、飯時のオラを見てても飽きねえんだと。それは褒め言葉か訊いてみっと、「もちろん!」と微笑んでいた。
よく分かんねえけど、背中がこそばゆかった。
それから雨が上がり、窓の外を見っと、青空にでっけえ虹が出ていた。
オラの願いが天に通じたようだな。
「綺麗だね、虹。幸せの象徴って分かる気がする」
「そうだな、オラは何回も見てっけど、名無しさんと見る虹が一等かもしんねえ」
「私も同じ気持ち……最愛の人との何気ない時間が一番の贅沢だね」
こうして、愛妻名無しさんと一緒に過ごすことが、オラにとって一番の元気の源だ。
そう痛感した一日だった。
【第六話 それでも溢れる独占欲】
仕事を終えたオラは、名無しさんを迎えに農家レストランに来ていた。
「悟空、ちょっと待っててね」
「ああ」
こうして迎えに来て思うことがある。
レストランのオーナーの息子が名無しさんにやけに優しいんだ。
オラと嫁さんとあんま年の差はねえらしいが、名無しさんは息子の態度に何も言わねえ。仕事上の付き合いだから仕方ねえと思うけど、オラに言わせりゃ隙だらけだ。
あ、肩に手ぇ置きやがった。
それでも、オラは見て見ねえ振りをした。
数分後。
無事帰宅すっとオラは早速名無しさんを抱き寄せる。
アイツに触られた場所を消毒しねえと。
「悟空、機嫌悪い?」
「そうでもねえよ」
「嘘」
「嘘じゃねえよ」
そうだ、オラの愛妻に触ったアイツにムカついてるだけだ。
名無しさんにゃ何の罪もねえ。
「ごめんね?」
「何で謝るんだ?」
「悟空がピリピリしてるからだよ」
オラの纏うオーラがそうさせてんのか。
「機嫌直して」
名無しさんはオラに顔を近づけっと、触れるだけのチューをくれた。
「直った?」
「まだだ」
「え!?」
オラは名無しさんを姫抱っこしてベッドに向かう。
嫁さんは慌てふためくがオラの耳にゃ聞こえねえ。
「悟空、お腹空いてないの?」
「ああ、減ってっぞ。けど、オラの一等大事な嫁さんの肩に触れたアイツの痕跡を消さねえと」
「アイツって、もしかしてオーナーの息子さん?」
「ああ、ちゃんと消毒しねえとな」
オラは名無しさんの服を脱がせに掛かる。
「ちょっと待って! あの人奥さんいるんだよ?」
「ん?」
「だから、結婚してるの! 悟空が怒る理由はないの!」
「そうなんか?」
アイツ、結婚してたのか。それでも名無しさんに気安く触れやがって……。
「悟空サン、目が据わってるけど」
「それでもだ」
「ん?」
「やっぱ気安く触ったことは許せねえ。飯の前に消毒すっぞ、名無しさん」
オラは止めていた手で嫁さんの服を脱がしていく。
肩が露になっと、躊躇いなく肩口に唇を這わせる。敏感な名無しさんは息を詰めた。
念入りに唇で消毒し、満足したオラの機嫌がやっと直った。
「もう……強引なんだから」
「なあ、名無しさん」
「なあに?」
「もうアイツに隙見せんなよ?」
オラがしっかり釘を刺すと、名無しさんは盛大な溜め息をついていた。
オーナーの息子、アイツの動向は今後も要チェックだな。
【最終話 この命ある限り】
ある晩。ベッドに横たわり、オラ達は寝る前に対話していた。
「なあ、名無しさん」
「なあに?」
オラの腕に包まれた名無しさんがこっちを見上げる。
「おめえ、オラの嫁になって幸せか?」
「突然だね?」
「いや、山は都と違って遊ぶ場所もねえしよ。不自由な暮らしさせてんのかなって思ってさ」
「そんなことないよ。パオズ山は空気が美味しいし、川も綺麗だし、可愛い花もたくさん咲いてるし、食べ物だって豊富にあるし、それで満足出来ないなんて言ったら罰が当たっちゃうよ」
名無しさんの台詞から、パオズ山をどんだけ愛してんのかが充分伝わってきた。
オラの故郷だから、手放しで褒められっと照れちまうな。
「そんなら良かった。オラも気に入ってる場所だから、おめえがそう言ってくれっと、すんげえ嬉しいぞ」
「パオズ山で生きて死ぬ覚悟がないと、悟空とは一緒になれないもん。悟空とこれからも、たくさん想い出作りたいよ……たまにはブルマさん達とも会いたいなって思うけど、やっぱり旦那さんが元気でいてくれることが一番の願いかな」
「オラもだ。名無しさんがいっつも笑顔で生きてることが、オラにとって何より大事だ。おめえはオラの宝物だかんな」
「悟空……」
オラは名無しさんの瞳を真剣に見つめた。
「オラのこの命ある限り、大事な名無しさんと地球を守る覚悟だ。何なら、シロツメクサに誓っても良いぞ?」
「ふふ、うん」
「オラはおめえ以外に必要な存在なんていねえ。そう思ったのは、悟飯じいちゃん以来だ。名無しさんはオラの命より大切だかんな」
「そこまで言われちゃったら、女冥利に尽きるね。私、男に生まれなくて良かった……ホントに悟空が旦那さんで良かった。私、宇宙一幸せな女房だよ」
名無しさんは泣き笑いしながら、オラの胸板に顔を寄せてくる。
こんなめんごい嫁さん貰って、これ以上の幸せってあんのかと思ったが、名無しさんが傍にいるだけで何倍もの勇気が湧いてくる。
この先、どんな試練や逆境が起ころうが、名無しさんへの愛情で全部乗り越えられる気がすっぞ。
オラの名無しさん。いつかこの命が終わっても、未来永遠オラはおめえを想い続けっぞ。
それまでは新居を構える夢もあっしよ、この先も気張ってかねえとな!
オラはそう心に固く誓った。
今夜は夢見が良さそうだ。
愛妻の名無しさんをこの腕に閉じ込め、眠りに誘われたオラはゆっくり瞼を閉じた。
END