★バーダックLong Dream【Changes-ふたりの変化-】
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バーダックSide
オレと名無しさんの前に現れたのは、倅のラディッツだった。
ヤツは妙な帽子を被ったガキを小脇に抱えながら、アホ面でオレを眺めてやがる。
「まさか、嘘だろ!?」
まさかはこっちの台詞だ。カカロットの面を見にわざわざ地球まで来たってのに、ヤツと対面するなんざ、予想外だったぜ。
しかしラディッツの野郎、何であんなガキを連れてやがるんだ?
「親父……何だよ、その格好は」
ラディッツが面食らった様子で、オレを指す。
オレは今、世話になった種族の民族衣装を身に纏っている。戦闘服はもうボロボロで着られなくなったからな……。
「オレがどんな格好だろうと、お前には関係ねえだろ。そんなことより、こんな辺境の惑星に何か用でもあるのか、ラディッツ」
オレが睨みを利かせると、ヤツは居心地悪そうに俯いた。
「……オレは、カカロットを味方に引き入れに来た」
「それはお前の独断なのか?」
「っ……それは、別に親父には関係ないだろ。そういう親父こそ生きてたんだな」
やけに早口で答えたラディッツは、オレと視線を合わせようともしねえ。どうも様子がおかしい。
「ふん、オレが死んだとでも思ってやがったのか。随分と親不幸なガキを持ったもんだ」
「そんなこと言われたってよ! オレ達の故郷は巨大隕石の衝突で爆発して、殆どのサイヤ人は宇宙の塵になっちまったんじゃないのか!?」
「そんな与太話を本気で信じるなんてな。だから、お前はいつまで経っても大成しねえんだよ」
オレがそう言い放つと、ラディッツの面がカッと赤く染まる。
「親父には分からんだろうが、オレにだって立場ってもんがあるんだよ!」
「へっ、半人前が偉そうなこと言いやがる」
「半人前って言うな!」
やれやれ、いちいちガキみてえに突っ掛かる所が半人前なんだよ。
「あのーお取り込み中悪いんだけど……その人、バーダックの息子さんなの?」
今までオレ達のやり取りを傍観していた名無しさんを見やれば、目を白黒させてオレ達を交互に凝視していた。
「まあな。一応オレの血を引いている、愚息のラディッツだ」
ラディッツから不満げな視線を感じたが、オレはあえて無視を決め込んだ。言ってることは間違っちゃいねえからな。
「で、それがどうした?」
「だって、どう見ても親子には見えないんだけど……バーダックって若く見えるし」
「そうか? これでも結構年食ってるんだぜ。まあ、サイヤ人は青年期が長いらしいから、その影響かもな」
「またサイヤ人って……っていうか、奥さんいるなら軽々しく口説かないでよ」
名無しさんはあからさまに不服そうな顔をしていた。
「何だ、嫁に嫉妬してるのか?」
オレは片頬を上げて笑う。
「はあ!? 何でそうなるの!? 自分の都合のいいように解釈しないでよ!」
目尻を吊り上げて不平を鳴らす名無しさん。
オレの言葉一つでここまで感情を剥き出しにするとは、とことん弄りがいのある女だ。
「親父。さっきからずっと気になってたんだが、その女って地球人だろ?」
眉を顰めたラディッツが、名無しさんを指しながら問いかけてくる。
「だったら、何だ?」
「何で親父が地球人と一緒にいるんだよ」
確かにラディッツからすればサイヤ人のオレが、地球人の名無しさんと行動を共にしている姿は異様だろう。
面倒だが、簡潔にこれまでの経緯を話してやった。
「それで、地球人と仲良くイチャついていやがったのか」
ラディッツは、名無しさんを無遠慮に眺めながら呟いた。
「イチャ……!?」
「親父も地に落ちたな」
半人前が偉そうな口利きやがる。
「ふん、てめえにだけは言われたくねえな。それより、何でお前が身も知らねえガキを連れてやがる。正直に答えろ」
オレは、さっきからずっと気になっていたガキのことを詰問した。
「このガキは――ん?」
突如、ラディッツの台詞を遮るように、ヤツのスカウターから生命反応を知らせる警戒信号が鳴った。
「む? 妙だな……警戒信号が……戦闘力710! 近いぞ! どこだ!?」
ヤツは焦った様子で周囲を見渡す。
「落ち着け。反応はそのガキからだ」
オレは至って冷静に切り返した。
「何だと!? クソ……故障か……脅かしやがって!」
「いや、故障なんかじゃねえ」
「親父?」
ガキは歯を食い縛りながら、ラディッツをじっと睨みつけている。
しかし、地球人のガキにしちゃ戦闘力が異様に高い。さっきまでは、何の反応もなかった筈だ。コイツも、戦闘力が変動する能力を持っているのか?
ふと服の間から、サイヤ人特有の尻尾が揺れているのを見つけた。
このガキ、サイヤ人の血を引いているのか!? どうりで戦闘力がずば抜けているわけだ。ならまさか、このガキは!
「おい、ラディッツ! そのガキの親は――」
ラディッツを問い詰めようとした時、ヤツのスカウターが敵の接近を知らせる警告音を発した。
「反応がもう一つ……! ここに向かって来る! 一つ……二つ……! 戦闘力322と334! 片方はカカロットと同じ戦闘力だ」
「カカロット、だと?」
これが、カカロットの戦闘力か。瞬時に上がったガキのパワーに比べれば、全然大したことねえな。
だが思った通り、あのガキの親はカカロットに間違いねえ。しかし、何だってコイツはカカロットのガキを連れてやがるんだ?
オレの疑問は、ラディッツの次の台詞で解消される。
「しかし、アイツが来る筈はない。勝てる見込みが0に近いのは、よく分かった筈だ……第一この場所が分かるわけがない」
「何だと?」
ラディッツはカカロットを、味方に引き入れに来たと吐かしやがった。それをカカロットが拒否したとすれば……ラディッツの野郎はヤツを無理やり味方にするために、カカロットのガキを人質に取りやがったと考えられる。
「来やがった!」
ラディッツが天を仰いで叫び、オレも宙を見据えるとほぼ同時に、妙な雲から飛び降りるカカロット。もう一人は風体から察するに、ナメック星人か。
それにしてもカカロットは勝算が限りなく0にも拘らず、自分のガキを助けに来るとはなかなかの見上げた度胸だ。
戦闘力も赤ん坊の頃よりか幾分マシになっているが、残念ながらまだまだオレの足元にも及ばねえな。
「なるほど、もう一匹の方は貴様だったか」
どうやら、ラディッツは既にナメック星人と面識があるらしい。
「お父さーん! 助けてっ!」
「悟飯!? 父ちゃんが来たから、もうでえじょうぶだ!」
しかし、最悪だ。地球に来て、こんな光景を目の当たりにするとはな……。
「どうやって、ここを知った?」
「教えてやるもんか!」
「よかろう。では、違う質問をしてやる……貴様ら、一体ここへ何しに来た?」
コイツは、本気で愚かだな。オレでさえ、カカロットの目的は容易く想像できるってのによ……。
「決まってるだろ! オラの子を取り返しに来たんだ!」
つーか、それしかねえだろ。
「と、いうことは同じサイヤ人でありながら、仲間に加わるのは嫌だということか?」
「そう言った筈だ!」
父親を目の前にして、堂々と弟を脅す兄貴がどこにいやがる。サイヤ人の風上にも置けねえ不貞野郎だぜ……。
オレが頭を痛めている間も、話の展開は続く。
「兄に逆らうつもりなんだな?」
「オラに兄貴なんていねえさ!」
偉そうな口調のわりに、言ってることは情けねえ。その上、カカロットに兄弟の否定までされてるじゃねえか。
「カカロット……貴様、もう少し頭が切れると思っていたのだがな。ここまでマヌケだったとはガッカリしたぞ」
ラディッツの台詞を耳にしたオレの中で、堪忍袋の緒がブチ切れる音がした。
「いい加減にしやがれ……この腐れ息子が――っ!!」
「なっ!?」
怒号を放ったオレに、全員の注目が集まる。
それを気にする余裕はなく、一気にラディッツとの間合いを詰めた。
「は、速い!」
恐怖におののくラディッツ。
「すげえ、何モンだ?」
怒りに任せたオレは、ラディッツの喉元を片手で掴み上げた。
「うぐっ……!」
ヤツの面が歪んだ。
「さっきから黙って聞いてりゃあ、親の顔に泥を塗るようなことばっかり言いやがって!」
「お、親!?」
カカロットが驚くのも無理はねえが、今はんなこた知ったこっちゃねえ。
「親父には……ぐっ……関係、ないだろ」
クソガキが、ナメた口利きやがって……。
「関係ねえ、だと? なら聞くが、そのガキはオレの孫なんじゃねえのか?」
「うっ!?」
ラディッツの面がさらに歪み、オレの台詞を肯定する。
「今すぐガキをカカロットに返してやれ! 分かったかっ!?」
さらに強く喉元を締め上げてやれば、ラディッツのバカは顔面を歪ませたまま「わ、かった……」と呻くように答えた。
ラディッツが掴んでいた手を離せば、小僧は泣きべそをかきながらカカロットの元へ駆けていく。
「お父さ――んっ!」
「悟飯っ、怪我はねえか!?」
「うん、平気……でも、怖かったよぉ!」
カカロットはガキを片腕で抱いてやり、何度も頭を撫でてやっている。
これで、ひとまず一件落着だな。
「ねえ! そろそろ離してあげないと、その人本気でヤバいよ!?」
名無しさんの叫び声で、ラディッツを未だ解放していないことに気づいた。
「おっと、そうだったな……おらよっ!」
ラディッツの喉元を掴んだまま、オレは手近な岩石に向け、力任せに放り投げる。
「ぐはあっ!」
くの字に吹き飛んだラディッツは、派手な音を立てて岩石に激突した。勢いが強すぎたのか、ヤツがぶつかった岩は砕け、瓦礫 の山に埋もれる始末だ。
「ごほっ、ごほっ……!」
ラディッツが激しく噎せながら、瓦礫を掻き分け、よろよろと起き上がってくる。
「このクソ親父、オレを殺す気かよ……!」
「自業自得だ。殺されなかっただけ有り難く思え」
不意に視線を感じた先を見やれば、カカロットが神妙な顔つきでオレを見ていた。
「なあ、おめえ……ラディッツの父ちゃん、なのか?」
「ふん、認めたくねえがそうなるな」
「じゃあよ、オラの父ちゃんでもあるんだよな!?」
何故かは知らんが、カカロットはこれでもかってぐらい目を輝かせてやがる。
「必然的にそうなるだろ」
「すっげえ! オラの父ちゃんが、こんな強ぇヤツだったなんて感激だ! オラ、父ちゃんに逢えて嬉しいぞ!」
「お前は……そんな小っ恥ずかしい台詞、よく面と向かって言えるな」
その無邪気な様を見て、サイヤ人らしい威厳が微塵も感じられねえカカロットに、オレは正直どう反応していいか分からなかった。
一体誰に似たのか……。
いや、純粋な性格はアイツに似たのかもしれんな。
「ふ~ん。道着の人はバーダックに似てるし、何となく予想してたけど、息子さんがもう独りいたんだね」
名無しさんが、オレとカカロットを交互に見ながら漏らした。
「棘のある言い方だな。何か文句でもあるのか?」
「別に。ただ、家族がいるなら私に構わないで、もっと奥さんを大事にしてあげればいいのになって思っただけ」
「……そいつは無理だ」
アイツは、とっくの昔にこの世から消えちまった。惑星ベジータと共に……。
「アンタって、かなり薄情なんだね。奥さんが可哀相だよ」
「薄情、か。そうかもしれん。オレはサイヤ人の未来を変えようとしたが、結局それは叶わなかった。そう言われても、反論できねぇよ」
「それ、どういうこと?」
不審な目を向けてくる名無しさんから面を背け、オレは口を開く。
「全てが自分の望むままに、ならねえこともあるってこった」
「何それ? ますます意味が分からないよ」
「いつか気が向いたら話してやる」
過去に起きた事実を覆せるとは思っちゃいねえ。オレ達サイヤ人が、己の欲望で招いた末路だからな。
「なあなあ、おめえ誰なんだ? ちゅうか、いつからいたんだっけ?」
いつの間にか、カカロットが名無しさんに近寄り、不思議そうに眺めてやがる。
名無しさんは最初からいたじゃねえか。幾ら何でも気づくのが遅すぎだろ。
息子がバカ(ラディッツ)とマヌケ(カカロット)だとは、情けなくて泣けてくるぜ……。
これは愚息共の根性を一から叩き直してやるのが、親としての役目かもしれん。
機会があれば、嫌という程みっちり扱いてやるか。
「あっ、分かったぞ! おめえ、オラの母ちゃんだろ!?」
カカロットが名無しさんを指しながら叫んだ。
「は? 絶対違うから! この男とはさっき出会ったばっかりの赤の他人だしっ!」
お袋と間違われたのがそんなに嫌だったのか、名無しさんは全否定しやがった。
あんまり必死に否定するもんだから、ちょっとからかってやりたくなったオレは「それはあんまりだろ。キスした仲じゃねえか」と名無しさんの肩を抱き寄せ、頬に軽くキスしてやった。
すると、頬っぺたを赤くした名無しさんの拳が、わなわなと震え出す。
「調子に乗るな! アンタが勝手にやったんだろうがっ!」
案の定つったらいいのかどうか、オレは今日二度目の平手打ちを喰らった。
痛くも痒くもなかったが、全力で拒否されるってのは案外きついもんだ。
「いやあ、てっきりおめえがオラの母ちゃんかと思ってよ。誤解しちまったみてえで、悪かったな」
後頭部に手を当てながら謝るカカロットに対し、名無しさんはオレを一瞥して口を開いた。
「ホント、誤解が解けてよかった。こんな俺様男と夫婦なんて、あり得ないから」
「オレは別に構わねえがな」
「何か言ったかな、バーダック?」
「……さあな?」
オレは素知らぬ振りをした。
しばらく無言で睨んでくる名無しさんに反し、オレは無視を決め込んだ。
「ところで、おめえは何てぇんだ?」
「あ、私は名無しさんっていうの。改めて、よろしくね」
「名無しさんだな。オラは孫悟空ってんだ。そんで、こっちが息子の悟飯だ」
孫悟空――カカロットの、地球での名前か。
「へえ、いい名前だね。よろしくね、悟飯くん!」
名無しさんが微笑みかけると、カカロットの脚にしがみついていた悟飯は面を真っ赤にして俯く。
「カカロット、その小僧はオレの孫なんだろ。だったら、ちゃんと紹介しろよ」
「ああ、そうだっけ! 悟飯、この人がおめえのもう一人のじいちゃんなんだぞ」
悟飯を怖がらせねえように歩み寄り、帽子の上から頭を撫でてやる。
「よろしくな、悟飯」
「う、うん」
上目遣いでオレを見た後、よっぽどラディッツが怖かったのか、ヤツをチラチラ気にしながら頷く悟飯。
「あの髪の長い男は、お前の伯父だ。悟飯に酷いことをしたヤツだが、オレが懲らしめてやったから許してやってくれ」
「っ……うん、分かった。おじいちゃんがそう言うなら、髪の長いおじさんは怖いけど許してあげる」
オレの台詞で一安心したのか、悟飯が控え目に頷いて応えた。
「カカロットもそれで文句ねえな?」
「ああ、オラは悟飯が無事ならそれで良いさ」
へえ、随分と素直に成長したもんだ。
「聞いたか、ラディッツ? これに懲りたら、二度と悪さすんじゃねえぞ」
「勝手なこと言いやがって。人の気も知らないでよ……」
「何か言ったか?」
「わっ、分かったって言ったんだよ!」
ふん、可愛げねえ野郎だ。
「ったく。おい、そこのアンタは?」
オレは今の今まで、ずっと無言のナメック星人に視線を移す。
しかし地球にナメック星人がいるとは驚きだな。
「ああ、コイツはピッコロだ。元々は敵だったんだけどよ。オラと共闘してくれるってんで、ついて来てくれたんだ」
カカロットがナメック星人もとい、ピッコロに目線を向けてオレらに紹介した。
「……ようやく茶番が終わったか。結局、オレと孫の出る幕はなかったがな。それと勘違いするなよ。オレは貴様らと馴れ合うつもりはない」
ピッコロは一匹狼なのか。まあ、そういうヤツに限って、寂しがり屋だったりするんだがよ。
「そう硬いこと言うなよ。オレはバーダックだ。よろしく頼むぜ、ピッコロ」
「……バーダック、貴様は地球に何の目的で来たんだ?」
ああ、なるほどな。ラディッツの蛮行が原因で、オレまで警戒されてるってわけか。
「オレは息子に会いに来ただけだ。ま、思わぬ収穫もあったがな」
チラリと名無しさんに視線を向けると、悟飯とカカロットの三人で仲良く戯れている。
オレの視線の先に気づいたピッコロが、口を開いた。
「あの女が収穫だと?」
「ああ、色々と興味をそそられる要素が満載だからな」
「言ってることはよく分からんが、要はあの女に惚れたのか?」
「へえ、驚きだな。そっち方面には疎そうに見えるのによ」
オレがからかい口調で言うと、ピッコロの緑色の肌が見る間に赤くなっていく。
「う、煩い! オレはただ思ったことを言っただけで……特に意味はないからな!」
面を真っ赤にしながら怒鳴ったピッコロは、マントを翻してオレから離れていった。
あんなんで赤面するなんざ、ナメック星人ってのは案外純情なのかもな。
一息ついたところで、何者かが接近する気配を感じた。戦闘力は、然程高くねえな。
「おい、誰かこっちに来るぞ」
「おっ! ありゃあ、クリリン達じゃねえか!」
振り仰ぐと、ジェット機が真っ直ぐこっちに向かって来ている。
どうやら、カカロットの仲間らしい。
やがてジェット機は、オレ達の前に降り立った。
「クリリンにブルマ、亀仙人のじっちゃんもついて来たんか!」
ジェット機の中から、坊主頭のチビとショートヘアの女、サングラスをしたじいさんが出て来た。
待てよ……あの三人見覚えがある。遠い昔の朧げな記憶が、頭の片隅に引っ掛かっていた。
「あれ? 人数が増えてるぞ」
坊主頭のチビが言う。
「よかった、悟飯くんは無事だったのね」
ショートヘアの女だ。
「あれから、一体何があったんじゃ?」
最後にじいさんが、しゃしゃり出る。
状況を把握出来てねえ三人にカカロットが、これまでの経緯を喋り出す。
その間、三人の面を眺めていたオレの頭の中で朧げだった記憶が、徐々にはっきりと浮かび上がる。
思い出したぜ。昔、カナッサ星人から未来を予知する幻の拳とやらを喰らった時に見た、幼いカカロットと一緒にいたヤツらだ。そういや、よくよく思い出してみれば、ピッコロの面も予知していたな。
そうか、どうりでコイツらに見覚えがあると思ったぜ。連中はカカロットが、ガキの頃からの付き合いってわけか。
「なるほど、そんなことがあったのね」
「ああ、だからオラもビックリしちまってよ」
カカロットがオレを見ながら口に出す。
目が合うや否や、ヤツは満面の笑みを向けてくる。オレは口端を吊り上げた。
不思議だが、ヤツにはサイヤ人に欠けている、何かが備わっているような気がする。それが、何なのかまでは分からんが……。
「おい、ラディッツって言ったか! お前、まだ悟空をどうにかして取り込もうなんて、企んでないだろうな!?」
ツルツル頭の――クリリンってヤツが、ラディッツに吠えてやがる。
「企むか! 黙ってろ、このハゲ頭!」
「オレの頭はハゲてるんじゃなくて、あえて剃ってるんだ!」
ガキどもが低レベルな言い合いなんざしやがって……。
「ふむ、して――そちらの娘さんは、何者なんじゃ?」
亀仙人とかいうじいさんの発言で、全員の視線が名無しさんに集まる。
「あの、私はただの迷子というか……聞きたいんですけど、ここって日本のどの辺なんですか?」
「日本? 初めて聞いた地名だわね」
青髪の――ブルマとかいう女がそう答えると、それを聞いた名無しさんの顔が一瞬にして青ざめる。
「そんな!? 明日は仕事だから、今日中に帰らなくちゃいけないのに……」
名無しさんのヤツ、何か訳ありのようだな。まあ、こんな辺鄙な場所に女が独りでいること自体、妙だとは思っていたが。
「とにかく、もう少し詳しく聞かせて貰えるかしら?」
ブルマの問いかけに、名無しさんが力なく頷いた。
「それじゃ、この人数でカメハウスに行くと窮屈そうだし……悪いけど皆、私の家に来てちょうだい」
「ワシは遠慮させて貰うぞい。少し疲れたからのう」
亀仙人のじいさんだ。
「じゃあ、オレも武天老師様と一緒に帰ろうかな」
クリリンも便乗する。
「オレも遠慮する。孫のガキは、無事だったわけだからな。修業の続きをせねばならん」
ピッコロはあくまで孤独を選ぶのか。
結局、亀仙人とクリリン、ピッコロ以外のメンバーがブルマの家に行くこととなった。
この時、オレはまったく気づいていなかった。地球での名無しさんとの出逢いと、ラディッツとの再会をきっかけに、サイヤ人の真価を問われる、命懸けの闘いが待ち受けていることに。
オレと名無しさんの前に現れたのは、倅のラディッツだった。
ヤツは妙な帽子を被ったガキを小脇に抱えながら、アホ面でオレを眺めてやがる。
「まさか、嘘だろ!?」
まさかはこっちの台詞だ。カカロットの面を見にわざわざ地球まで来たってのに、ヤツと対面するなんざ、予想外だったぜ。
しかしラディッツの野郎、何であんなガキを連れてやがるんだ?
「親父……何だよ、その格好は」
ラディッツが面食らった様子で、オレを指す。
オレは今、世話になった種族の民族衣装を身に纏っている。戦闘服はもうボロボロで着られなくなったからな……。
「オレがどんな格好だろうと、お前には関係ねえだろ。そんなことより、こんな辺境の惑星に何か用でもあるのか、ラディッツ」
オレが睨みを利かせると、ヤツは居心地悪そうに俯いた。
「……オレは、カカロットを味方に引き入れに来た」
「それはお前の独断なのか?」
「っ……それは、別に親父には関係ないだろ。そういう親父こそ生きてたんだな」
やけに早口で答えたラディッツは、オレと視線を合わせようともしねえ。どうも様子がおかしい。
「ふん、オレが死んだとでも思ってやがったのか。随分と親不幸なガキを持ったもんだ」
「そんなこと言われたってよ! オレ達の故郷は巨大隕石の衝突で爆発して、殆どのサイヤ人は宇宙の塵になっちまったんじゃないのか!?」
「そんな与太話を本気で信じるなんてな。だから、お前はいつまで経っても大成しねえんだよ」
オレがそう言い放つと、ラディッツの面がカッと赤く染まる。
「親父には分からんだろうが、オレにだって立場ってもんがあるんだよ!」
「へっ、半人前が偉そうなこと言いやがる」
「半人前って言うな!」
やれやれ、いちいちガキみてえに突っ掛かる所が半人前なんだよ。
「あのーお取り込み中悪いんだけど……その人、バーダックの息子さんなの?」
今までオレ達のやり取りを傍観していた名無しさんを見やれば、目を白黒させてオレ達を交互に凝視していた。
「まあな。一応オレの血を引いている、愚息のラディッツだ」
ラディッツから不満げな視線を感じたが、オレはあえて無視を決め込んだ。言ってることは間違っちゃいねえからな。
「で、それがどうした?」
「だって、どう見ても親子には見えないんだけど……バーダックって若く見えるし」
「そうか? これでも結構年食ってるんだぜ。まあ、サイヤ人は青年期が長いらしいから、その影響かもな」
「またサイヤ人って……っていうか、奥さんいるなら軽々しく口説かないでよ」
名無しさんはあからさまに不服そうな顔をしていた。
「何だ、嫁に嫉妬してるのか?」
オレは片頬を上げて笑う。
「はあ!? 何でそうなるの!? 自分の都合のいいように解釈しないでよ!」
目尻を吊り上げて不平を鳴らす名無しさん。
オレの言葉一つでここまで感情を剥き出しにするとは、とことん弄りがいのある女だ。
「親父。さっきからずっと気になってたんだが、その女って地球人だろ?」
眉を顰めたラディッツが、名無しさんを指しながら問いかけてくる。
「だったら、何だ?」
「何で親父が地球人と一緒にいるんだよ」
確かにラディッツからすればサイヤ人のオレが、地球人の名無しさんと行動を共にしている姿は異様だろう。
面倒だが、簡潔にこれまでの経緯を話してやった。
「それで、地球人と仲良くイチャついていやがったのか」
ラディッツは、名無しさんを無遠慮に眺めながら呟いた。
「イチャ……!?」
「親父も地に落ちたな」
半人前が偉そうな口利きやがる。
「ふん、てめえにだけは言われたくねえな。それより、何でお前が身も知らねえガキを連れてやがる。正直に答えろ」
オレは、さっきからずっと気になっていたガキのことを詰問した。
「このガキは――ん?」
突如、ラディッツの台詞を遮るように、ヤツのスカウターから生命反応を知らせる警戒信号が鳴った。
「む? 妙だな……警戒信号が……戦闘力710! 近いぞ! どこだ!?」
ヤツは焦った様子で周囲を見渡す。
「落ち着け。反応はそのガキからだ」
オレは至って冷静に切り返した。
「何だと!? クソ……故障か……脅かしやがって!」
「いや、故障なんかじゃねえ」
「親父?」
ガキは歯を食い縛りながら、ラディッツをじっと睨みつけている。
しかし、地球人のガキにしちゃ戦闘力が異様に高い。さっきまでは、何の反応もなかった筈だ。コイツも、戦闘力が変動する能力を持っているのか?
ふと服の間から、サイヤ人特有の尻尾が揺れているのを見つけた。
このガキ、サイヤ人の血を引いているのか!? どうりで戦闘力がずば抜けているわけだ。ならまさか、このガキは!
「おい、ラディッツ! そのガキの親は――」
ラディッツを問い詰めようとした時、ヤツのスカウターが敵の接近を知らせる警告音を発した。
「反応がもう一つ……! ここに向かって来る! 一つ……二つ……! 戦闘力322と334! 片方はカカロットと同じ戦闘力だ」
「カカロット、だと?」
これが、カカロットの戦闘力か。瞬時に上がったガキのパワーに比べれば、全然大したことねえな。
だが思った通り、あのガキの親はカカロットに間違いねえ。しかし、何だってコイツはカカロットのガキを連れてやがるんだ?
オレの疑問は、ラディッツの次の台詞で解消される。
「しかし、アイツが来る筈はない。勝てる見込みが0に近いのは、よく分かった筈だ……第一この場所が分かるわけがない」
「何だと?」
ラディッツはカカロットを、味方に引き入れに来たと吐かしやがった。それをカカロットが拒否したとすれば……ラディッツの野郎はヤツを無理やり味方にするために、カカロットのガキを人質に取りやがったと考えられる。
「来やがった!」
ラディッツが天を仰いで叫び、オレも宙を見据えるとほぼ同時に、妙な雲から飛び降りるカカロット。もう一人は風体から察するに、ナメック星人か。
それにしてもカカロットは勝算が限りなく0にも拘らず、自分のガキを助けに来るとはなかなかの見上げた度胸だ。
戦闘力も赤ん坊の頃よりか幾分マシになっているが、残念ながらまだまだオレの足元にも及ばねえな。
「なるほど、もう一匹の方は貴様だったか」
どうやら、ラディッツは既にナメック星人と面識があるらしい。
「お父さーん! 助けてっ!」
「悟飯!? 父ちゃんが来たから、もうでえじょうぶだ!」
しかし、最悪だ。地球に来て、こんな光景を目の当たりにするとはな……。
「どうやって、ここを知った?」
「教えてやるもんか!」
「よかろう。では、違う質問をしてやる……貴様ら、一体ここへ何しに来た?」
コイツは、本気で愚かだな。オレでさえ、カカロットの目的は容易く想像できるってのによ……。
「決まってるだろ! オラの子を取り返しに来たんだ!」
つーか、それしかねえだろ。
「と、いうことは同じサイヤ人でありながら、仲間に加わるのは嫌だということか?」
「そう言った筈だ!」
父親を目の前にして、堂々と弟を脅す兄貴がどこにいやがる。サイヤ人の風上にも置けねえ不貞野郎だぜ……。
オレが頭を痛めている間も、話の展開は続く。
「兄に逆らうつもりなんだな?」
「オラに兄貴なんていねえさ!」
偉そうな口調のわりに、言ってることは情けねえ。その上、カカロットに兄弟の否定までされてるじゃねえか。
「カカロット……貴様、もう少し頭が切れると思っていたのだがな。ここまでマヌケだったとはガッカリしたぞ」
ラディッツの台詞を耳にしたオレの中で、堪忍袋の緒がブチ切れる音がした。
「いい加減にしやがれ……この腐れ息子が――っ!!」
「なっ!?」
怒号を放ったオレに、全員の注目が集まる。
それを気にする余裕はなく、一気にラディッツとの間合いを詰めた。
「は、速い!」
恐怖におののくラディッツ。
「すげえ、何モンだ?」
怒りに任せたオレは、ラディッツの喉元を片手で掴み上げた。
「うぐっ……!」
ヤツの面が歪んだ。
「さっきから黙って聞いてりゃあ、親の顔に泥を塗るようなことばっかり言いやがって!」
「お、親!?」
カカロットが驚くのも無理はねえが、今はんなこた知ったこっちゃねえ。
「親父には……ぐっ……関係、ないだろ」
クソガキが、ナメた口利きやがって……。
「関係ねえ、だと? なら聞くが、そのガキはオレの孫なんじゃねえのか?」
「うっ!?」
ラディッツの面がさらに歪み、オレの台詞を肯定する。
「今すぐガキをカカロットに返してやれ! 分かったかっ!?」
さらに強く喉元を締め上げてやれば、ラディッツのバカは顔面を歪ませたまま「わ、かった……」と呻くように答えた。
ラディッツが掴んでいた手を離せば、小僧は泣きべそをかきながらカカロットの元へ駆けていく。
「お父さ――んっ!」
「悟飯っ、怪我はねえか!?」
「うん、平気……でも、怖かったよぉ!」
カカロットはガキを片腕で抱いてやり、何度も頭を撫でてやっている。
これで、ひとまず一件落着だな。
「ねえ! そろそろ離してあげないと、その人本気でヤバいよ!?」
名無しさんの叫び声で、ラディッツを未だ解放していないことに気づいた。
「おっと、そうだったな……おらよっ!」
ラディッツの喉元を掴んだまま、オレは手近な岩石に向け、力任せに放り投げる。
「ぐはあっ!」
くの字に吹き飛んだラディッツは、派手な音を立てて岩石に激突した。勢いが強すぎたのか、ヤツがぶつかった岩は砕け、
「ごほっ、ごほっ……!」
ラディッツが激しく噎せながら、瓦礫を掻き分け、よろよろと起き上がってくる。
「このクソ親父、オレを殺す気かよ……!」
「自業自得だ。殺されなかっただけ有り難く思え」
不意に視線を感じた先を見やれば、カカロットが神妙な顔つきでオレを見ていた。
「なあ、おめえ……ラディッツの父ちゃん、なのか?」
「ふん、認めたくねえがそうなるな」
「じゃあよ、オラの父ちゃんでもあるんだよな!?」
何故かは知らんが、カカロットはこれでもかってぐらい目を輝かせてやがる。
「必然的にそうなるだろ」
「すっげえ! オラの父ちゃんが、こんな強ぇヤツだったなんて感激だ! オラ、父ちゃんに逢えて嬉しいぞ!」
「お前は……そんな小っ恥ずかしい台詞、よく面と向かって言えるな」
その無邪気な様を見て、サイヤ人らしい威厳が微塵も感じられねえカカロットに、オレは正直どう反応していいか分からなかった。
一体誰に似たのか……。
いや、純粋な性格はアイツに似たのかもしれんな。
「ふ~ん。道着の人はバーダックに似てるし、何となく予想してたけど、息子さんがもう独りいたんだね」
名無しさんが、オレとカカロットを交互に見ながら漏らした。
「棘のある言い方だな。何か文句でもあるのか?」
「別に。ただ、家族がいるなら私に構わないで、もっと奥さんを大事にしてあげればいいのになって思っただけ」
「……そいつは無理だ」
アイツは、とっくの昔にこの世から消えちまった。惑星ベジータと共に……。
「アンタって、かなり薄情なんだね。奥さんが可哀相だよ」
「薄情、か。そうかもしれん。オレはサイヤ人の未来を変えようとしたが、結局それは叶わなかった。そう言われても、反論できねぇよ」
「それ、どういうこと?」
不審な目を向けてくる名無しさんから面を背け、オレは口を開く。
「全てが自分の望むままに、ならねえこともあるってこった」
「何それ? ますます意味が分からないよ」
「いつか気が向いたら話してやる」
過去に起きた事実を覆せるとは思っちゃいねえ。オレ達サイヤ人が、己の欲望で招いた末路だからな。
「なあなあ、おめえ誰なんだ? ちゅうか、いつからいたんだっけ?」
いつの間にか、カカロットが名無しさんに近寄り、不思議そうに眺めてやがる。
名無しさんは最初からいたじゃねえか。幾ら何でも気づくのが遅すぎだろ。
息子がバカ(ラディッツ)とマヌケ(カカロット)だとは、情けなくて泣けてくるぜ……。
これは愚息共の根性を一から叩き直してやるのが、親としての役目かもしれん。
機会があれば、嫌という程みっちり扱いてやるか。
「あっ、分かったぞ! おめえ、オラの母ちゃんだろ!?」
カカロットが名無しさんを指しながら叫んだ。
「は? 絶対違うから! この男とはさっき出会ったばっかりの赤の他人だしっ!」
お袋と間違われたのがそんなに嫌だったのか、名無しさんは全否定しやがった。
あんまり必死に否定するもんだから、ちょっとからかってやりたくなったオレは「それはあんまりだろ。キスした仲じゃねえか」と名無しさんの肩を抱き寄せ、頬に軽くキスしてやった。
すると、頬っぺたを赤くした名無しさんの拳が、わなわなと震え出す。
「調子に乗るな! アンタが勝手にやったんだろうがっ!」
案の定つったらいいのかどうか、オレは今日二度目の平手打ちを喰らった。
痛くも痒くもなかったが、全力で拒否されるってのは案外きついもんだ。
「いやあ、てっきりおめえがオラの母ちゃんかと思ってよ。誤解しちまったみてえで、悪かったな」
後頭部に手を当てながら謝るカカロットに対し、名無しさんはオレを一瞥して口を開いた。
「ホント、誤解が解けてよかった。こんな俺様男と夫婦なんて、あり得ないから」
「オレは別に構わねえがな」
「何か言ったかな、バーダック?」
「……さあな?」
オレは素知らぬ振りをした。
しばらく無言で睨んでくる名無しさんに反し、オレは無視を決め込んだ。
「ところで、おめえは何てぇんだ?」
「あ、私は名無しさんっていうの。改めて、よろしくね」
「名無しさんだな。オラは孫悟空ってんだ。そんで、こっちが息子の悟飯だ」
孫悟空――カカロットの、地球での名前か。
「へえ、いい名前だね。よろしくね、悟飯くん!」
名無しさんが微笑みかけると、カカロットの脚にしがみついていた悟飯は面を真っ赤にして俯く。
「カカロット、その小僧はオレの孫なんだろ。だったら、ちゃんと紹介しろよ」
「ああ、そうだっけ! 悟飯、この人がおめえのもう一人のじいちゃんなんだぞ」
悟飯を怖がらせねえように歩み寄り、帽子の上から頭を撫でてやる。
「よろしくな、悟飯」
「う、うん」
上目遣いでオレを見た後、よっぽどラディッツが怖かったのか、ヤツをチラチラ気にしながら頷く悟飯。
「あの髪の長い男は、お前の伯父だ。悟飯に酷いことをしたヤツだが、オレが懲らしめてやったから許してやってくれ」
「っ……うん、分かった。おじいちゃんがそう言うなら、髪の長いおじさんは怖いけど許してあげる」
オレの台詞で一安心したのか、悟飯が控え目に頷いて応えた。
「カカロットもそれで文句ねえな?」
「ああ、オラは悟飯が無事ならそれで良いさ」
へえ、随分と素直に成長したもんだ。
「聞いたか、ラディッツ? これに懲りたら、二度と悪さすんじゃねえぞ」
「勝手なこと言いやがって。人の気も知らないでよ……」
「何か言ったか?」
「わっ、分かったって言ったんだよ!」
ふん、可愛げねえ野郎だ。
「ったく。おい、そこのアンタは?」
オレは今の今まで、ずっと無言のナメック星人に視線を移す。
しかし地球にナメック星人がいるとは驚きだな。
「ああ、コイツはピッコロだ。元々は敵だったんだけどよ。オラと共闘してくれるってんで、ついて来てくれたんだ」
カカロットがナメック星人もとい、ピッコロに目線を向けてオレらに紹介した。
「……ようやく茶番が終わったか。結局、オレと孫の出る幕はなかったがな。それと勘違いするなよ。オレは貴様らと馴れ合うつもりはない」
ピッコロは一匹狼なのか。まあ、そういうヤツに限って、寂しがり屋だったりするんだがよ。
「そう硬いこと言うなよ。オレはバーダックだ。よろしく頼むぜ、ピッコロ」
「……バーダック、貴様は地球に何の目的で来たんだ?」
ああ、なるほどな。ラディッツの蛮行が原因で、オレまで警戒されてるってわけか。
「オレは息子に会いに来ただけだ。ま、思わぬ収穫もあったがな」
チラリと名無しさんに視線を向けると、悟飯とカカロットの三人で仲良く戯れている。
オレの視線の先に気づいたピッコロが、口を開いた。
「あの女が収穫だと?」
「ああ、色々と興味をそそられる要素が満載だからな」
「言ってることはよく分からんが、要はあの女に惚れたのか?」
「へえ、驚きだな。そっち方面には疎そうに見えるのによ」
オレがからかい口調で言うと、ピッコロの緑色の肌が見る間に赤くなっていく。
「う、煩い! オレはただ思ったことを言っただけで……特に意味はないからな!」
面を真っ赤にしながら怒鳴ったピッコロは、マントを翻してオレから離れていった。
あんなんで赤面するなんざ、ナメック星人ってのは案外純情なのかもな。
一息ついたところで、何者かが接近する気配を感じた。戦闘力は、然程高くねえな。
「おい、誰かこっちに来るぞ」
「おっ! ありゃあ、クリリン達じゃねえか!」
振り仰ぐと、ジェット機が真っ直ぐこっちに向かって来ている。
どうやら、カカロットの仲間らしい。
やがてジェット機は、オレ達の前に降り立った。
「クリリンにブルマ、亀仙人のじっちゃんもついて来たんか!」
ジェット機の中から、坊主頭のチビとショートヘアの女、サングラスをしたじいさんが出て来た。
待てよ……あの三人見覚えがある。遠い昔の朧げな記憶が、頭の片隅に引っ掛かっていた。
「あれ? 人数が増えてるぞ」
坊主頭のチビが言う。
「よかった、悟飯くんは無事だったのね」
ショートヘアの女だ。
「あれから、一体何があったんじゃ?」
最後にじいさんが、しゃしゃり出る。
状況を把握出来てねえ三人にカカロットが、これまでの経緯を喋り出す。
その間、三人の面を眺めていたオレの頭の中で朧げだった記憶が、徐々にはっきりと浮かび上がる。
思い出したぜ。昔、カナッサ星人から未来を予知する幻の拳とやらを喰らった時に見た、幼いカカロットと一緒にいたヤツらだ。そういや、よくよく思い出してみれば、ピッコロの面も予知していたな。
そうか、どうりでコイツらに見覚えがあると思ったぜ。連中はカカロットが、ガキの頃からの付き合いってわけか。
「なるほど、そんなことがあったのね」
「ああ、だからオラもビックリしちまってよ」
カカロットがオレを見ながら口に出す。
目が合うや否や、ヤツは満面の笑みを向けてくる。オレは口端を吊り上げた。
不思議だが、ヤツにはサイヤ人に欠けている、何かが備わっているような気がする。それが、何なのかまでは分からんが……。
「おい、ラディッツって言ったか! お前、まだ悟空をどうにかして取り込もうなんて、企んでないだろうな!?」
ツルツル頭の――クリリンってヤツが、ラディッツに吠えてやがる。
「企むか! 黙ってろ、このハゲ頭!」
「オレの頭はハゲてるんじゃなくて、あえて剃ってるんだ!」
ガキどもが低レベルな言い合いなんざしやがって……。
「ふむ、して――そちらの娘さんは、何者なんじゃ?」
亀仙人とかいうじいさんの発言で、全員の視線が名無しさんに集まる。
「あの、私はただの迷子というか……聞きたいんですけど、ここって日本のどの辺なんですか?」
「日本? 初めて聞いた地名だわね」
青髪の――ブルマとかいう女がそう答えると、それを聞いた名無しさんの顔が一瞬にして青ざめる。
「そんな!? 明日は仕事だから、今日中に帰らなくちゃいけないのに……」
名無しさんのヤツ、何か訳ありのようだな。まあ、こんな辺鄙な場所に女が独りでいること自体、妙だとは思っていたが。
「とにかく、もう少し詳しく聞かせて貰えるかしら?」
ブルマの問いかけに、名無しさんが力なく頷いた。
「それじゃ、この人数でカメハウスに行くと窮屈そうだし……悪いけど皆、私の家に来てちょうだい」
「ワシは遠慮させて貰うぞい。少し疲れたからのう」
亀仙人のじいさんだ。
「じゃあ、オレも武天老師様と一緒に帰ろうかな」
クリリンも便乗する。
「オレも遠慮する。孫のガキは、無事だったわけだからな。修業の続きをせねばならん」
ピッコロはあくまで孤独を選ぶのか。
結局、亀仙人とクリリン、ピッコロ以外のメンバーがブルマの家に行くこととなった。
この時、オレはまったく気づいていなかった。地球での名無しさんとの出逢いと、ラディッツとの再会をきっかけに、サイヤ人の真価を問われる、命懸けの闘いが待ち受けていることに。