★バーダックLong Dream【Changes-ふたりの変化-】
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ある朝。
「名無しさん、そろそろ起きろ」
耳元でバーダックの声が届いた。
「んー眠い……」
「ったく、しょうがねえな」
彼の溜め息が聞こえたかと思うと、今度は眉間に何か柔らかい感触を覚えた。
それは鼻梁を通り、やがて唇まで到達する。
「んんっ!?」
いきなり口を塞がれた私は一気に目が覚め、バーダックとドアップで対面する。何と彼も目を細めて私を見ていた。
これって、もしかしてキス顔をバッチリ見られてた!? もう信じらんない!
「……っ」
バーダックは唇を離して、「……やっと起きたか、憐れな子羊ちゃん。あんまり無防備だからよ、そのまま喰っちまおうかと思ったぜ」と大胆不敵に笑った。
物騒な発言をする彼を、怖いもの見たさに恐る恐る目視する。
視線がかち合った瞬間、バーダックが肉食動物よろしく獰猛な顔つきに変わった。
「!?」
私は反射的にぶるりと震え上がる。
こ、怖すぎでしょ……なんて恐ろしい形相だろう……こんなに怖れたのは、初対面の時と彼に襲われた時以来だわ……。
「何なら、今からでも喰ってやろうか?」
「アンタは狼か!」
「違う、サイヤ人の正体は大猿だ。いたいけな獲物を狙い定める、凶暴な希少動物なんだぜ?」
いかにも楽しげに、くつくつと笑うバーダック。
「そんなこと、知らないってば」
「ふん……それより、さっさと起きて朝飯作れ。オレはとっくに朝稽古を終えて帰って来たんだからよ」
彼は私の頭をポンポンと叩いて行動を促した。
「はいはい……」
今日も新しい一日が始まる。私は起床するとダイニングに移動して冷蔵庫を漁り、朝ご飯を作り始めた。
「ところで、悟空達は?」
「カカロット達はまだ鍛練中だ。チチは知らねえが、オレが帰宅した時はいなかったぜ」
「そうなんだ」
二人で過ごす時間は少ないけど、私自身それほど寂しさを感じない……っていうか、悟空やチチさんと悟飯くんもいてくれるから毎日賑やかに暮らしている。
何よりブルマさん宅で私の家事力を大いに振るう多忙な日々を送っているから、バーダックに逢えない時も寂しいと思う暇がない。
その反面、彼と一緒にいるひとときは大切に過ごす。そんな最高の幸せに包まれていた私に、バーダックからの更なるサプライズが待っていた。
「名無しさん」
「ん?」
私は支度の手を止めて振り返った。すると、バーダックがいつにも増して真摯な眼差しを向けてくる。
そんな彼を見て、一体何を言われるんだろうと思い、固唾を呑んで様子を窺う。
真剣さを帯びたバーダックは、徐に口を開いた。
「オレの嫁になれ」
「え……?」
唐突すぎて、一瞬呼吸が止まるかと思った。
「オレは残りの人生を懸けて、名無しさんと過ごしたい。お前にしてやれることなんざ、雀の涙だろうが……それでも、名無しさん。お前はギネの分までオレが守る」
「あ……」
あの俺様が“守ってやる”じゃなくて“守る”って言った?
そんな殊勝な台詞に胸を打たれ、言葉じゃとても言い尽くすことができない。
「おい、ちゃんと聞いてんのか?」
「……嬉しい」
無意識に本音を漏らしていた。
「名無しさん」
まさか、ホントにバーダックの口から夢に夢見ていたプロポーズが聞けるなんて……。
天にも昇る心地で「私でよければ、是非よろしくお願いします!」と歓喜のあまり、嬉し涙を流しながら受け入れた。
「ったく、お前は泣き虫だな。事あるごとに泣いてるぜ?」
バーダックは私を抱き寄せ、頭を撫でてくれる。まるで親が我が子をあやすように優しく。
……ちょっと照れるけど、私はバーダックの無骨な手が大好きだ。彼の温もりは、絶大な安心感を与えてくれるから。
私は満面に喜色を湛えて、愛しい人に告げる。
「だって、今日まで怒涛の連続だったでしょ? だから、今が幸せで凄く嬉しいの」
「確かに今でも幸せだが、もっとそうなれるぜ。オレらの旅路は始まったばっかだからな」
「バーダック、何気にクサいよ?」
「うっせえ、柄じゃなくて悪かったな!」
「あはは!」
ムキになる彼が、とても可愛いと思う時点でベタ惚れだな、私。
バーダックと婚約した一年後、私達はこれまで私の稼いだお金で、西の都に一軒家を購入した。それくらい、ブルマさんからのお給金がよかったわけで、彼女には幾ら感謝してもしきれない程だ。
ホントはパオズ山に建てればよかったんだろうけど、バーダックが「お前がブルマの家に通いやすいだろ」と言ってくれて。それは彼なりの愛情なんだろう。
孫家で過ごした最後の夜、悟空達がお別れ会を開いてくれて、特に悟飯くんが泣いて別れを惜しんでくれた。
こんなにも懐いてくれるなんて……健気な悟飯くんをぎゅっと抱き締めたまま、私は思わず貰い泣きしてしまった。
悟空に似て気は優しくて力持ちで、改めて素直ないい子だと思う。
そんなこんなで、私達は想い出がいっぱい詰まった孫家を後にした。
その後。厳かな結婚式と盛大な披露宴を催して、私達は晴れて夫婦の契りを結んだ。
新婚初夜、夢と現実の狭間で、バーダックに抱き締められながら思う。
俺様だけど不器用ながら溢れんばかりの愛情を、これでもかってほど注いでくれるバーダックが堪らなく愛しい。こんな風に想える時が来るなんて、想像もしなかったな。
そんな夫の温もりを一身に感じながら、夢路をたどるのだった。
時は巡り、桜花 の季節。仕事がオフの今日、悟空一家とラディッツ、クリリンや亀仙人さん、ブルマさんと意外にもベジータを含めて、都一の公園にお花見に来ていた。
ブルーシートを敷いて持ち寄った料理や飲み物を並べれば、わいわい賑やかな宴会の始まりだ。
「ん~やっぱり名無しさんさんの作ったお弁当は格別ね! 鶏の唐揚げなんか、もう最高よ!」
「それ二度揚げしてるの。サクサクっと揚がるから、誰でも美味しく出来るんだよ?」
「そうだとしても、名無しさんさんの腕がいいから特別に美味しいのよ。でしょ、バーダック?」
ブルマさんは意味深な笑みを浮かべて、バーダックに視線を移す。
「まあな、名無しさんの飯はそんじょそこらの料理人より美味い。それはオレが保証するぜ」
カップ酒を口にしていたバーダックが、ブルマさんからの振りに不敵な笑みで返す。
「!?」
珍しい、バーダックが手放しで褒めてくれるなんて。それも、皆の前で……。
私は嬉しいのと気恥ずかしいので、いっぱいいっぱい。
「まあ、お熱いわね。これだから、新婚さんは妬けちゃうわ。ねえ、チチさん?」
「んだな、さっすが悟空さのおっ父だ。自分に素直なとこは、悟空さそっくりだべ」
「ついでに顔もね」
ブルマさんが、さらりとつけ加える。
「そっかあ? オラは自分じゃ分かんねえけどな」
そう返事しつつ、私とブルマさんにチチさん合作のお弁当を悟空が片っ端から平らげていく。
「ちょっと、孫くん! 私達が作った最高傑作なんだから、もっと味わって食べなさいよ!」
「そうだべ、悟空さ! ちっとはオラ達の分も残しといてけれ!」
「んなこと言ってもよー、もう残らず食っちまったぞ」
二人の抗議も虚しく、悟空は空っぽになったお弁当箱を左右に振って見せる。
「トホホ、オラの最高傑作が……」
「諦めるのはまだ早いわよ、チチさん。こんなこともあるかと思って、ラディッツとクリリンを買い出しに行かせてるから安心して!」
「え? それはまた意外な組み合わせだね」
「ええ、何と言っても片方は居候ですからね、こんな時こそ役に立って貰わなくちゃでしょ!」
私の台詞に、ブルマさんが得意げに鼻を鳴らした。
「ごめんね、ブルマさん。ラディッツも新居で一緒にって提案したんだけど、バーダックが融通利かないばっかりに……」
「てめえなあ……」
私を横目で凄むバーダック。
「いいのよ、新婚なら当然だし。それに家は両親がオープンだから、どれだけ居候がいようと問題ないもの」
「ありがとう、ブルマさん。このお礼は、きっちり働いて返すね」
「ええ、大いに期待してるわよ、名無しさんさん!」
ブルマさんに発破をかけられた私は「任せといて!」と笑って応える。
「名無しさんさん」
ふと今までバーダックと私の間で、大人しく飲み食いしていた悟飯くんが、ジュース両手に私をニコニコ顔で見つめている。
「なぁに、悟飯くん?」
「ボク、バーダックおじいちゃんが強くて優しくて大好きなんです。修業の時はすごく厳しいけど、それはボクのためだって分かってるから耐えられるし、頑張れるんです」
「そっかあ、悟飯くんはバーダックがホントに大好きなんだね」
やっぱり可愛いし癒されるなあ、悟飯くんの笑顔。
「名無しさんさんは、バーダックおじいちゃんのどこが好きで結婚したの?」
「え……?」
悟飯くんからの唐突な質問に、私は困ってバーダックに助けを求める。けど、彼はニヤリと笑って声には出さず「答えてやれよ」と唇を動かした。
もうバーダックってば、他人事みたいに……。
「それ、私も訊きたいわ。ねえ、チチさん?」
「んだんだ、オラも訊きてぇべ」
何故かブルマさんとチチさんまで会話に混ざる。
もう、しょうがないな……。
私は思い巡らせ、ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「えっと……私も悟飯くんと同じだよ。誰よりも強いのはもちろん、不器用だけど、心の痛みを分かち合える優しい所かな。だから、結婚するならこの人しかいないって思ったの」
自分で言ってて、かなり照れる……。
「へえ、そうなのね」
「名無しさんさんは、なかなか見る目あるだな」
妙に感心するブルマさんとチチさん。
「あはは……これでいいかな、悟飯くん」
「うん。良かったね、バーダックおじいちゃん」
悟飯くんはバーダックに満面の笑みを向けている。
「?」
「ああ。よく出来たな、悟飯」
夫は事もなげに、満足げな表情で悟飯くんの頭を撫でてあげていた。
「エヘヘ」
「なっ!?」
照れている悟飯くんを見て、ようやく悟った。
「なるほど、バーダックの差し金だったわけね」
「確信犯だべ」
ブルマさんとチチさんが納得したように頷いた。
事もあろうに、私の気持ちを聞き出すために孫を出しにするなんて!
そういえば、バーダックが悟飯くんに何か耳打ちしてたっけ……その時にあらぬことを吹き込んだのか!
バーダックめ、この憤りどうしてくれよう……でも、まさか皆の前で怒鳴るわけにもいかないし……あ! それが狙いか!
ホントにとんでもない確信犯だ。
バーダックを睨むけど、夫は意に介した様子もない。
自分は私の質問に答えてくれなかったくせに、ホントに狡いんだから!
そうこうしてる間に、ラディッツ達が買い出しから戻って来たり、亀仙人さんが酔っ払って踊り始めたりと、一段と騒がしくなる。
「おい、名無しさん。抜けるぞ」
「え? あ、ちょっと待って」
突然、バーダックに誘われて、お花見の場を抜け出した。
途中、少し離れた桜の木の下に寄りかかっているベジータと目線が合う。彼は何故か面白いものでも見るような、楽しそうな顔をしている。
私は不思議に思いながらも、バーダックの背中を追いかけた。
バーダックは皆の輪からどんどん離れていき、やがて人気のない場所まで連れて来られた。
満開の桜を眺めながら、夫が口を開く。
「しかし、見事なもんだ。ここまで咲き誇ると、いっそ清々しいな」
「だよね、惑星ベジータじゃ咲いてなかったの?」
「そうだな、植物が育つ土地じゃなかったからな。野菜なんかは全て工場栽培で機密管理だったぜ。ま、環境が環境だっただけにな」
バーダックは以前から惑星ベジータについて、必要以上に話したがらない。だから、ギネさんの件は別として、無理に聞き出そうとは思わなかったけど。
「こっちに来いよ、名無しさん」
「あ……」
バーダックに手を引かれ、中でも一際目立つ桜の木の下に攫われて、大木を背にしつつ、夫が私の横に片手をついた。
ちょっとだけドキドキしながら振り仰ぐと、「以前お前を散歩に誘ったことが、遠い昔のように感じるな」と夫が懐かしげな面差しで囁いた。
「うん、確かにね。あれから色々と様変わりしたもんね。私達の関係も」
「ああ、そうだな」
「あの時は、まさかバーダックと夫婦になるなんて想像もしなかったよ」
ふふっと笑みを零すと、夫は私を見つめ返して口を開く。
「そうか? オレは名無しさんを誘惑することしか頭になかったぜ。お前がつい可愛くてな」
「なっ、何言ってんの……」
夫の意外な本音を聞いて、思いの外動揺してしまう。
「くく、真っ赤になったな。まるで、熟れすぎたトマトみてえだぜ」
私の頬をバーダックが人差し指でつつく。
「ホントに……隙があれば、すぐからかうんだから」
「名無しさんをからかうのは、オレの専売特許だからな」
喉元でくつりと笑うバーダックはホントに楽しげで、さっきの悟飯くんの件もムカついていた筈なのに、そんな風に言われると何も言い返せない。
「……」
「どうした、いつもみてえに言い返さねえのか?」
夫はいつでも余裕があって、私ばっかり翻弄されて……。
「バーダックは狡いよ」
「何がだ」
「専売特許なんて言われちゃうと、何だか特別扱いされてるみたいで……」
もごもごと口籠る私を見た夫は、ふっと口元に笑みを湛える。
「バーカ。結婚してから、どれ程経つと思ってんだ。みてえじゃなくて、本当に特別なんだよ」
いい加減それぐらい理解しとけ、と鼻先をピンと弾かれた。
「痛っ……ちょ、それやめ……っ」
やめて、と言おうとした唇は塞がれてしまった。お馴染みの夫のそれで。
こんなので誤魔化されたくないと思いつつ、バーダックの柔らかい温もりは、私をうっとりさせるには充分すぎた。
アルコールの匂いが鼻腔を掠めて、それに酔った私の頭がクラクラする。
薄紅色の花弁がひらひらと舞うなかを、魅惑的な笑みで見下ろす様は、夫だからってことを抜きにしてもカッコよくて……思わずぽーっと見蕩れちゃうほど。
すると、バーダックは徐に私の横髪を掻き上げ、耳朶に唇を寄せる。
「理解できたか、愛しの名無しさんちゃん?」
なんて、甘く蕩けるような声音で囁かれた。
その軽口は夫なりのユーモアなんだろう。
お陰で、すっかり気持ちが解れた。
「もちろんよ、愛しの旦那様♡」
だから、私も軽快に答える。
バーダックは声を上げて笑った。
「いいノリじゃねえか」
「ふふ、バーダックこそ」
夫との軽妙な掛け合いが、私には何より至福のひとときだ。
あんまり現実味がなく、実感が湧かないぐらい幸せで、まるで砂糖菓子みたいに甘いムードは、ふわふわと夢の中にいるみたい。
けれど、頭の片隅で冷静な自分が、こんなに幸せでいいのかと畏縮してしまう。
「っ……」
私のほんの僅かな反応に、バーダックが片眉を上げた。
「お前、また余計な心配してんじゃねえだろうな?」
「!?」
図星だ。何で分かったんだろう。
「ど、どうして……」
「ったく、思考だだ漏れなんだよ、お前は」
こつんと額を小突かれる。
「っ……だから……あっ!」
今度は突然、腰元をぐっと引き寄せられて厚い胸板に埋 もれ、夫は私をしっかりと抱き締めた。
「分かるに決まってんだろ。オレは名無しさんの旦那だぜ。嫁の気持ちぐらい理解出来ねえで、この先どうする」
「バーダック……」
さらりと、気持ちを伝えてくれる夫が堪らなく愛おしくて、誇らしく思う。
バーダックは私の髪に鼻先を埋めながら、満足そうに息をつく。
「このまま名無しさんを肌で感じさせてくれ……」
こんな風に切願されたら、拒むことなんて到底できない。
それどころか、ときめく胸の奥が純粋な喜びで、温かく満たされていくような夢心地がした。
求められて嬉しいのは、バーダックが私を認めてくれた存在だからか。それとも、私自身が夫のことを求めているからか。
ふと頭に浮かんだ疑問は、どちらもそうなのかもしれないと思えた。
私もその胴に腕を回し、ひしと抱き返すと、バーダックが微かに笑う気配がした。
そうして抱き合う間に、胸中が温かな感情で満たされ、私は頬を紅潮させて喜色を浮かべる。
不意に顔を覗き込まれ、再び唇が重ねられた。
その感触は確かに夢なんかじゃないと、実感させてくれる不思議な魔法だった。
「名無しさん」
「ん?」
「愛してるぜ」
ハスキーな声が愛の言葉を紡ぐ。
とくんと胸が高鳴った。
「どうしたの、急に……」
「急じゃねえよ。お前が傍にいねえ時はもちろん、片時も忘れず名無しさんを一番に想っている。倅共の稽古をつけてやってる時もどんな状況でも、お前はオレの心から離れねえ」
バーダックが私の髪を指で梳きながら、甘やかに囁いてくれる。
「……うん」
「つまり、オレがそれだけ名無しさんを大事にしてんだから、もっと愛されてる自覚持てよっつーことだ。分かったか?」
「やっぱり、バーダックには何でもお見通しだよね。ホントに参っちゃうな」
心のどこかで元カレを振った私が、自分だけ幸せになっちゃいけないような気がしていた。結婚までして今さらって感じだけど、そんな罪悪感が胸中を支配して……。
でも、バーダックがくれた言葉を信じるなら、元カレの分まで夫を全身全霊愛することが私の使命だと思う。
「私も愛してる。バーダックと夫婦になれて良かった……今とっても幸せな気持ち」
「ああ、オレもだ。だが、この先もまだまだ永いからな。名無しさん、これからもよろしく頼むぜ?」
「もちろん!」
私は夫に微笑みかけた。
「お前はそうやって、一生オレの傍で笑ってろ。名無しさんの笑顔は、オレの憩いと元気の源だからよ」
バーダックも最高の笑みを向けてくれる。
夫と全く同じ気持ちになりつつ……。
彼がどうして私を好きになってくれて、結婚に至ったのか。それよりも今この瞬間、夫の優しい瞳に映ってるのは自分だけなんだと、その真実が私の心をしっかりと繋ぎ止めている。
愛されてる実感を胸にひしひしと感じながら、過去の出来事を思い起こす。
これまで苦悩の連続だったけれど、バーダックがいてくれたから、ここまで乗り越えられたと思う。
彼のひたぶるな戦闘への熱意や生き方が、どれほど私を勇気づけてくれたことか。それは挫けない勇気や一歩踏み出す勇気、他者への優しさを教えて貰ったからだ。
だから、この先は私もバーダックに習って、思いやりと感謝の心を常に忘れず、彼が愛したギネさんの分まで夫を心から敬愛し、助け合いながら人生の荒波を幾度も乗り越えていくんだろう。
別々に歩んで来たお互いの道が交わり、最愛の旦那様とさらなる至幸の道のりを目指しながら、まだ見ぬ未来へと胸を弾ませて。
生命 の果てを越えた、永遠 の旅路に繋がることを願いつつーー
END
「名無しさん、そろそろ起きろ」
耳元でバーダックの声が届いた。
「んー眠い……」
「ったく、しょうがねえな」
彼の溜め息が聞こえたかと思うと、今度は眉間に何か柔らかい感触を覚えた。
それは鼻梁を通り、やがて唇まで到達する。
「んんっ!?」
いきなり口を塞がれた私は一気に目が覚め、バーダックとドアップで対面する。何と彼も目を細めて私を見ていた。
これって、もしかしてキス顔をバッチリ見られてた!? もう信じらんない!
「……っ」
バーダックは唇を離して、「……やっと起きたか、憐れな子羊ちゃん。あんまり無防備だからよ、そのまま喰っちまおうかと思ったぜ」と大胆不敵に笑った。
物騒な発言をする彼を、怖いもの見たさに恐る恐る目視する。
視線がかち合った瞬間、バーダックが肉食動物よろしく獰猛な顔つきに変わった。
「!?」
私は反射的にぶるりと震え上がる。
こ、怖すぎでしょ……なんて恐ろしい形相だろう……こんなに怖れたのは、初対面の時と彼に襲われた時以来だわ……。
「何なら、今からでも喰ってやろうか?」
「アンタは狼か!」
「違う、サイヤ人の正体は大猿だ。いたいけな獲物を狙い定める、凶暴な希少動物なんだぜ?」
いかにも楽しげに、くつくつと笑うバーダック。
「そんなこと、知らないってば」
「ふん……それより、さっさと起きて朝飯作れ。オレはとっくに朝稽古を終えて帰って来たんだからよ」
彼は私の頭をポンポンと叩いて行動を促した。
「はいはい……」
今日も新しい一日が始まる。私は起床するとダイニングに移動して冷蔵庫を漁り、朝ご飯を作り始めた。
「ところで、悟空達は?」
「カカロット達はまだ鍛練中だ。チチは知らねえが、オレが帰宅した時はいなかったぜ」
「そうなんだ」
二人で過ごす時間は少ないけど、私自身それほど寂しさを感じない……っていうか、悟空やチチさんと悟飯くんもいてくれるから毎日賑やかに暮らしている。
何よりブルマさん宅で私の家事力を大いに振るう多忙な日々を送っているから、バーダックに逢えない時も寂しいと思う暇がない。
その反面、彼と一緒にいるひとときは大切に過ごす。そんな最高の幸せに包まれていた私に、バーダックからの更なるサプライズが待っていた。
「名無しさん」
「ん?」
私は支度の手を止めて振り返った。すると、バーダックがいつにも増して真摯な眼差しを向けてくる。
そんな彼を見て、一体何を言われるんだろうと思い、固唾を呑んで様子を窺う。
真剣さを帯びたバーダックは、徐に口を開いた。
「オレの嫁になれ」
「え……?」
唐突すぎて、一瞬呼吸が止まるかと思った。
「オレは残りの人生を懸けて、名無しさんと過ごしたい。お前にしてやれることなんざ、雀の涙だろうが……それでも、名無しさん。お前はギネの分までオレが守る」
「あ……」
あの俺様が“守ってやる”じゃなくて“守る”って言った?
そんな殊勝な台詞に胸を打たれ、言葉じゃとても言い尽くすことができない。
「おい、ちゃんと聞いてんのか?」
「……嬉しい」
無意識に本音を漏らしていた。
「名無しさん」
まさか、ホントにバーダックの口から夢に夢見ていたプロポーズが聞けるなんて……。
天にも昇る心地で「私でよければ、是非よろしくお願いします!」と歓喜のあまり、嬉し涙を流しながら受け入れた。
「ったく、お前は泣き虫だな。事あるごとに泣いてるぜ?」
バーダックは私を抱き寄せ、頭を撫でてくれる。まるで親が我が子をあやすように優しく。
……ちょっと照れるけど、私はバーダックの無骨な手が大好きだ。彼の温もりは、絶大な安心感を与えてくれるから。
私は満面に喜色を湛えて、愛しい人に告げる。
「だって、今日まで怒涛の連続だったでしょ? だから、今が幸せで凄く嬉しいの」
「確かに今でも幸せだが、もっとそうなれるぜ。オレらの旅路は始まったばっかだからな」
「バーダック、何気にクサいよ?」
「うっせえ、柄じゃなくて悪かったな!」
「あはは!」
ムキになる彼が、とても可愛いと思う時点でベタ惚れだな、私。
バーダックと婚約した一年後、私達はこれまで私の稼いだお金で、西の都に一軒家を購入した。それくらい、ブルマさんからのお給金がよかったわけで、彼女には幾ら感謝してもしきれない程だ。
ホントはパオズ山に建てればよかったんだろうけど、バーダックが「お前がブルマの家に通いやすいだろ」と言ってくれて。それは彼なりの愛情なんだろう。
孫家で過ごした最後の夜、悟空達がお別れ会を開いてくれて、特に悟飯くんが泣いて別れを惜しんでくれた。
こんなにも懐いてくれるなんて……健気な悟飯くんをぎゅっと抱き締めたまま、私は思わず貰い泣きしてしまった。
悟空に似て気は優しくて力持ちで、改めて素直ないい子だと思う。
そんなこんなで、私達は想い出がいっぱい詰まった孫家を後にした。
その後。厳かな結婚式と盛大な披露宴を催して、私達は晴れて夫婦の契りを結んだ。
新婚初夜、夢と現実の狭間で、バーダックに抱き締められながら思う。
俺様だけど不器用ながら溢れんばかりの愛情を、これでもかってほど注いでくれるバーダックが堪らなく愛しい。こんな風に想える時が来るなんて、想像もしなかったな。
そんな夫の温もりを一身に感じながら、夢路をたどるのだった。
時は巡り、
ブルーシートを敷いて持ち寄った料理や飲み物を並べれば、わいわい賑やかな宴会の始まりだ。
「ん~やっぱり名無しさんさんの作ったお弁当は格別ね! 鶏の唐揚げなんか、もう最高よ!」
「それ二度揚げしてるの。サクサクっと揚がるから、誰でも美味しく出来るんだよ?」
「そうだとしても、名無しさんさんの腕がいいから特別に美味しいのよ。でしょ、バーダック?」
ブルマさんは意味深な笑みを浮かべて、バーダックに視線を移す。
「まあな、名無しさんの飯はそんじょそこらの料理人より美味い。それはオレが保証するぜ」
カップ酒を口にしていたバーダックが、ブルマさんからの振りに不敵な笑みで返す。
「!?」
珍しい、バーダックが手放しで褒めてくれるなんて。それも、皆の前で……。
私は嬉しいのと気恥ずかしいので、いっぱいいっぱい。
「まあ、お熱いわね。これだから、新婚さんは妬けちゃうわ。ねえ、チチさん?」
「んだな、さっすが悟空さのおっ父だ。自分に素直なとこは、悟空さそっくりだべ」
「ついでに顔もね」
ブルマさんが、さらりとつけ加える。
「そっかあ? オラは自分じゃ分かんねえけどな」
そう返事しつつ、私とブルマさんにチチさん合作のお弁当を悟空が片っ端から平らげていく。
「ちょっと、孫くん! 私達が作った最高傑作なんだから、もっと味わって食べなさいよ!」
「そうだべ、悟空さ! ちっとはオラ達の分も残しといてけれ!」
「んなこと言ってもよー、もう残らず食っちまったぞ」
二人の抗議も虚しく、悟空は空っぽになったお弁当箱を左右に振って見せる。
「トホホ、オラの最高傑作が……」
「諦めるのはまだ早いわよ、チチさん。こんなこともあるかと思って、ラディッツとクリリンを買い出しに行かせてるから安心して!」
「え? それはまた意外な組み合わせだね」
「ええ、何と言っても片方は居候ですからね、こんな時こそ役に立って貰わなくちゃでしょ!」
私の台詞に、ブルマさんが得意げに鼻を鳴らした。
「ごめんね、ブルマさん。ラディッツも新居で一緒にって提案したんだけど、バーダックが融通利かないばっかりに……」
「てめえなあ……」
私を横目で凄むバーダック。
「いいのよ、新婚なら当然だし。それに家は両親がオープンだから、どれだけ居候がいようと問題ないもの」
「ありがとう、ブルマさん。このお礼は、きっちり働いて返すね」
「ええ、大いに期待してるわよ、名無しさんさん!」
ブルマさんに発破をかけられた私は「任せといて!」と笑って応える。
「名無しさんさん」
ふと今までバーダックと私の間で、大人しく飲み食いしていた悟飯くんが、ジュース両手に私をニコニコ顔で見つめている。
「なぁに、悟飯くん?」
「ボク、バーダックおじいちゃんが強くて優しくて大好きなんです。修業の時はすごく厳しいけど、それはボクのためだって分かってるから耐えられるし、頑張れるんです」
「そっかあ、悟飯くんはバーダックがホントに大好きなんだね」
やっぱり可愛いし癒されるなあ、悟飯くんの笑顔。
「名無しさんさんは、バーダックおじいちゃんのどこが好きで結婚したの?」
「え……?」
悟飯くんからの唐突な質問に、私は困ってバーダックに助けを求める。けど、彼はニヤリと笑って声には出さず「答えてやれよ」と唇を動かした。
もうバーダックってば、他人事みたいに……。
「それ、私も訊きたいわ。ねえ、チチさん?」
「んだんだ、オラも訊きてぇべ」
何故かブルマさんとチチさんまで会話に混ざる。
もう、しょうがないな……。
私は思い巡らせ、ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「えっと……私も悟飯くんと同じだよ。誰よりも強いのはもちろん、不器用だけど、心の痛みを分かち合える優しい所かな。だから、結婚するならこの人しかいないって思ったの」
自分で言ってて、かなり照れる……。
「へえ、そうなのね」
「名無しさんさんは、なかなか見る目あるだな」
妙に感心するブルマさんとチチさん。
「あはは……これでいいかな、悟飯くん」
「うん。良かったね、バーダックおじいちゃん」
悟飯くんはバーダックに満面の笑みを向けている。
「?」
「ああ。よく出来たな、悟飯」
夫は事もなげに、満足げな表情で悟飯くんの頭を撫でてあげていた。
「エヘヘ」
「なっ!?」
照れている悟飯くんを見て、ようやく悟った。
「なるほど、バーダックの差し金だったわけね」
「確信犯だべ」
ブルマさんとチチさんが納得したように頷いた。
事もあろうに、私の気持ちを聞き出すために孫を出しにするなんて!
そういえば、バーダックが悟飯くんに何か耳打ちしてたっけ……その時にあらぬことを吹き込んだのか!
バーダックめ、この憤りどうしてくれよう……でも、まさか皆の前で怒鳴るわけにもいかないし……あ! それが狙いか!
ホントにとんでもない確信犯だ。
バーダックを睨むけど、夫は意に介した様子もない。
自分は私の質問に答えてくれなかったくせに、ホントに狡いんだから!
そうこうしてる間に、ラディッツ達が買い出しから戻って来たり、亀仙人さんが酔っ払って踊り始めたりと、一段と騒がしくなる。
「おい、名無しさん。抜けるぞ」
「え? あ、ちょっと待って」
突然、バーダックに誘われて、お花見の場を抜け出した。
途中、少し離れた桜の木の下に寄りかかっているベジータと目線が合う。彼は何故か面白いものでも見るような、楽しそうな顔をしている。
私は不思議に思いながらも、バーダックの背中を追いかけた。
バーダックは皆の輪からどんどん離れていき、やがて人気のない場所まで連れて来られた。
満開の桜を眺めながら、夫が口を開く。
「しかし、見事なもんだ。ここまで咲き誇ると、いっそ清々しいな」
「だよね、惑星ベジータじゃ咲いてなかったの?」
「そうだな、植物が育つ土地じゃなかったからな。野菜なんかは全て工場栽培で機密管理だったぜ。ま、環境が環境だっただけにな」
バーダックは以前から惑星ベジータについて、必要以上に話したがらない。だから、ギネさんの件は別として、無理に聞き出そうとは思わなかったけど。
「こっちに来いよ、名無しさん」
「あ……」
バーダックに手を引かれ、中でも一際目立つ桜の木の下に攫われて、大木を背にしつつ、夫が私の横に片手をついた。
ちょっとだけドキドキしながら振り仰ぐと、「以前お前を散歩に誘ったことが、遠い昔のように感じるな」と夫が懐かしげな面差しで囁いた。
「うん、確かにね。あれから色々と様変わりしたもんね。私達の関係も」
「ああ、そうだな」
「あの時は、まさかバーダックと夫婦になるなんて想像もしなかったよ」
ふふっと笑みを零すと、夫は私を見つめ返して口を開く。
「そうか? オレは名無しさんを誘惑することしか頭になかったぜ。お前がつい可愛くてな」
「なっ、何言ってんの……」
夫の意外な本音を聞いて、思いの外動揺してしまう。
「くく、真っ赤になったな。まるで、熟れすぎたトマトみてえだぜ」
私の頬をバーダックが人差し指でつつく。
「ホントに……隙があれば、すぐからかうんだから」
「名無しさんをからかうのは、オレの専売特許だからな」
喉元でくつりと笑うバーダックはホントに楽しげで、さっきの悟飯くんの件もムカついていた筈なのに、そんな風に言われると何も言い返せない。
「……」
「どうした、いつもみてえに言い返さねえのか?」
夫はいつでも余裕があって、私ばっかり翻弄されて……。
「バーダックは狡いよ」
「何がだ」
「専売特許なんて言われちゃうと、何だか特別扱いされてるみたいで……」
もごもごと口籠る私を見た夫は、ふっと口元に笑みを湛える。
「バーカ。結婚してから、どれ程経つと思ってんだ。みてえじゃなくて、本当に特別なんだよ」
いい加減それぐらい理解しとけ、と鼻先をピンと弾かれた。
「痛っ……ちょ、それやめ……っ」
やめて、と言おうとした唇は塞がれてしまった。お馴染みの夫のそれで。
こんなので誤魔化されたくないと思いつつ、バーダックの柔らかい温もりは、私をうっとりさせるには充分すぎた。
アルコールの匂いが鼻腔を掠めて、それに酔った私の頭がクラクラする。
薄紅色の花弁がひらひらと舞うなかを、魅惑的な笑みで見下ろす様は、夫だからってことを抜きにしてもカッコよくて……思わずぽーっと見蕩れちゃうほど。
すると、バーダックは徐に私の横髪を掻き上げ、耳朶に唇を寄せる。
「理解できたか、愛しの名無しさんちゃん?」
なんて、甘く蕩けるような声音で囁かれた。
その軽口は夫なりのユーモアなんだろう。
お陰で、すっかり気持ちが解れた。
「もちろんよ、愛しの旦那様♡」
だから、私も軽快に答える。
バーダックは声を上げて笑った。
「いいノリじゃねえか」
「ふふ、バーダックこそ」
夫との軽妙な掛け合いが、私には何より至福のひとときだ。
あんまり現実味がなく、実感が湧かないぐらい幸せで、まるで砂糖菓子みたいに甘いムードは、ふわふわと夢の中にいるみたい。
けれど、頭の片隅で冷静な自分が、こんなに幸せでいいのかと畏縮してしまう。
「っ……」
私のほんの僅かな反応に、バーダックが片眉を上げた。
「お前、また余計な心配してんじゃねえだろうな?」
「!?」
図星だ。何で分かったんだろう。
「ど、どうして……」
「ったく、思考だだ漏れなんだよ、お前は」
こつんと額を小突かれる。
「っ……だから……あっ!」
今度は突然、腰元をぐっと引き寄せられて厚い胸板に
「分かるに決まってんだろ。オレは名無しさんの旦那だぜ。嫁の気持ちぐらい理解出来ねえで、この先どうする」
「バーダック……」
さらりと、気持ちを伝えてくれる夫が堪らなく愛おしくて、誇らしく思う。
バーダックは私の髪に鼻先を埋めながら、満足そうに息をつく。
「このまま名無しさんを肌で感じさせてくれ……」
こんな風に切願されたら、拒むことなんて到底できない。
それどころか、ときめく胸の奥が純粋な喜びで、温かく満たされていくような夢心地がした。
求められて嬉しいのは、バーダックが私を認めてくれた存在だからか。それとも、私自身が夫のことを求めているからか。
ふと頭に浮かんだ疑問は、どちらもそうなのかもしれないと思えた。
私もその胴に腕を回し、ひしと抱き返すと、バーダックが微かに笑う気配がした。
そうして抱き合う間に、胸中が温かな感情で満たされ、私は頬を紅潮させて喜色を浮かべる。
不意に顔を覗き込まれ、再び唇が重ねられた。
その感触は確かに夢なんかじゃないと、実感させてくれる不思議な魔法だった。
「名無しさん」
「ん?」
「愛してるぜ」
ハスキーな声が愛の言葉を紡ぐ。
とくんと胸が高鳴った。
「どうしたの、急に……」
「急じゃねえよ。お前が傍にいねえ時はもちろん、片時も忘れず名無しさんを一番に想っている。倅共の稽古をつけてやってる時もどんな状況でも、お前はオレの心から離れねえ」
バーダックが私の髪を指で梳きながら、甘やかに囁いてくれる。
「……うん」
「つまり、オレがそれだけ名無しさんを大事にしてんだから、もっと愛されてる自覚持てよっつーことだ。分かったか?」
「やっぱり、バーダックには何でもお見通しだよね。ホントに参っちゃうな」
心のどこかで元カレを振った私が、自分だけ幸せになっちゃいけないような気がしていた。結婚までして今さらって感じだけど、そんな罪悪感が胸中を支配して……。
でも、バーダックがくれた言葉を信じるなら、元カレの分まで夫を全身全霊愛することが私の使命だと思う。
「私も愛してる。バーダックと夫婦になれて良かった……今とっても幸せな気持ち」
「ああ、オレもだ。だが、この先もまだまだ永いからな。名無しさん、これからもよろしく頼むぜ?」
「もちろん!」
私は夫に微笑みかけた。
「お前はそうやって、一生オレの傍で笑ってろ。名無しさんの笑顔は、オレの憩いと元気の源だからよ」
バーダックも最高の笑みを向けてくれる。
夫と全く同じ気持ちになりつつ……。
彼がどうして私を好きになってくれて、結婚に至ったのか。それよりも今この瞬間、夫の優しい瞳に映ってるのは自分だけなんだと、その真実が私の心をしっかりと繋ぎ止めている。
愛されてる実感を胸にひしひしと感じながら、過去の出来事を思い起こす。
これまで苦悩の連続だったけれど、バーダックがいてくれたから、ここまで乗り越えられたと思う。
彼のひたぶるな戦闘への熱意や生き方が、どれほど私を勇気づけてくれたことか。それは挫けない勇気や一歩踏み出す勇気、他者への優しさを教えて貰ったからだ。
だから、この先は私もバーダックに習って、思いやりと感謝の心を常に忘れず、彼が愛したギネさんの分まで夫を心から敬愛し、助け合いながら人生の荒波を幾度も乗り越えていくんだろう。
別々に歩んで来たお互いの道が交わり、最愛の旦那様とさらなる至幸の道のりを目指しながら、まだ見ぬ未来へと胸を弾ませて。
END