★バーダックLong Dream【Changes-ふたりの変化-】
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「私、生きてる……うっ!」
耳鳴りと軽い頭痛に襲われ、左手で頭部を押さえた私は、その症状に耐えながら自らを奮い立たせて起き上がった。
顔を上げ、目の前の光景に息を呑む。
「何なの、これ……」
辺りには草原が果てしなく続いている。一瞬、夢じゃないかと思った。
だけど身体に起きた異変、頬に当たる爽やかな風、遥か上空を優雅に舞う鳥の姿、すべてが夢で終わらせるにはあまりにもリアルすぎる。
見知らぬ景色を前に、私はただぼんやりと立ち尽くした。
どうして、こんなことになったのか――一つだけ心当たりがある。
そもそも私は、彼氏とのデートの待ち合わせ場所に急いでいた。
その途中、ビルの工事現場に差しかかった時、頭上から叫び声が聞こえて、鉄材の束が私に向かって落下してきた。
「あ……あ……!」
恐怖と混乱が入り交じって一歩も動けなかった私は、死を覚悟して身を固くした。
けれど死の間際、急に目の前が眩しく光って、そこで意識がぷつりと途切れ……今に至る。
確実にあの世行きだって思ったのに、奇跡的に死ぬどころか、大した怪我さえしていない。
どうしてあんな不思議なことが起きたのか真相はまったく分からないけど、一応無事だったことを素直に喜ぶべきだと思う。
ただ重大な疑問があった。
「私、今どこにいるんだろ? ていうか、何で場所移動してるのよ?」
誰かに聞こうにも、辺りに人の気配はない。こんな田舎じゃ仕方ないのかも。
「あーあ、あの人怒ってるだろうな……とりあえず、電話で謝っとこ。久々のデート、楽しみにしてたのになあ。しかも明日は仕事だし、今日中に帰れればいいんだけど」
命も危うかった状況をすっかり頭から追い出した私は、鞄の中からスマホを取り出して電源を入れようとしたけど……。
「えっ、何で電源入んないの!?」
何度試しても、結果は同じ。
「え~……どうやって連絡しよう?」
何故か使えないスマホを鞄にしまって、しばらく思案した結果。
「しょうがない、近くの町にでも行って、電話借りるしかないか。あ、ここら辺なら村かな。適当に歩いてれば、そのうち車が通るかもしれないしね」
自分の置かれた状況をまったく把握できていない私は、まさか不幸の真っ只中にいるなんて思いもしなかった。それが、自分の運命を劇的に変えてしまうことさえも。
町か村を探して意気揚々と歩いていた私は、またしても命の危険に晒されていた。
鋭い牙を剥いた獰猛なサーベルタイガーが、目の前に現れたのだ。
「何でこんな所にサーベルタイガーがいるの!? 誰か放し飼いにでもしてるとか!? いやっ、そんなのあり得ないしっ!」
涎垂らしてるし、間違いなく餌だと認識されてる、よね……。
「助かったと思ったのに勘弁してよっ!」
迷わずサーベルタイガーに背け、全速力でその場から逃げ出す。
後ろからは獣が駆ける足音。
必死で逃げる私のすぐ傍らに聞こえる、野獣の荒い息遣い。
今振り向いたら、速攻でサーベルタイガーの餌食になる。
「私だけこんな目に遭わなきゃなんないなんて! 今日は思いっきり厄日じゃんっ!」
泣きたくなる気持ちをぐっと堪えて、ひたすら逃げる。
死に物狂いで走るなか、また奇跡が起きて欲しいと願わずにはいられなかった。
「神様助けて――っ!」
その時、近くで何か重たいものが落ちたような地響きが聞こえてくる。
「今度は一体何!?」
次の瞬間、全力疾走する私の前方に独りの男が姿を現した。
この時の私には、彼が神様のような存在に思えた。きっと私の切実な願いが届いたんだと。
「お願いっ、助けて!」
藁にもすがる思いで男に助けを求めた瞬間、自分の目を疑った。
「ちょ……何あれ!? あの男浮いてるんですけど! 本気で神様を引き寄せちゃったとか!?」
人間が重力に逆らって宙に浮いている。それを目の当たりにした私の頭の中は、パニック状態。
「避けろ!」
いきなり男の叫び声が聞こえて、私は頭を抱えて横へ飛び退いた。咄嗟でも、よく反応したなと自分で感心してしまう。
直後、背後で何かが爆発する音が聞こえた。
身体中の至る所に痛みを感じながら起き上がり、改めて男を見る。
「へっ、雑魚が」
吐き捨てるように言った男の足元には、さっきまで私を追い回していたサーベルタイガーの死骸が転がっている。
さらに男は邪魔だとでもいうように、死骸を蹴り飛ばした。
あまりにも強烈な光景に、悲鳴を漏らしそうになるのを慌てて呑み込んだ。もしもこの男が助けてくれなかったら、私の命が危なかったんだから。
だけど、コイツ神様じゃなくて悪魔じゃん……よりによって悪魔を降臨させてどうすんのよ、私。
「……助けてくれて、ありがとう」
恐る恐る話しかけると、男がゆっくりと振り向いた。
な、何なの、この人……。
目が合った瞬間、ゾクリと戦慄が走る。男は口元に笑みを刻んでいた。まるで獰猛な野獣が、獲物を捕らえたような危ない笑みだった。
めっ、目つきはかなり悪いけど、初対面の私を助けてくれたんだし……人を見た目で判断しちゃ駄目よね!
「ふん……あの程度の小物も倒せんとは、地球人は予想以上に軟弱だな」
前言撤回! 何なの、この性悪俺様男は!?
「アンタねえ!」
助けてもらって言える立場じゃないけど、文句の一つでも言ってやろうとした時。
「オレの名はバーダックだ。地球人、お前の名前も教えろよ」
バーダックと名乗った俺様男が、ゆったりと歩いて来る。
「は? 何言ってんの、アンタも地球人でしょ?」
中身は悪魔そのものだけど。
「バカを言え。オレは歴としたサイヤ人だ」
「サイヤ人? サイヤ国なんてあったっけ?」
聞いたこともない人種に首を捻ると、私の前に立ち塞がったバーダックにギロリと睨まれる。
その目つき、冗談抜きで危ないっつーの!
「……あれ?」
今気づいたけど、バーダックの腰には茶色くて長い物が巻きついている。
「それ、ベルトにしちゃ妙にフサフサしてるね。サイヤ国で流行ってんの?」
私がそう言うと、バーダックは自分の腰元に視線を落とす。
するとバッと顔を上げ「アホか! これはベルトじゃなくて尻尾だっ!」と怒鳴り散らした。
「し、尻尾っ!?」
まじまじと見ていたら、バーダックの腰に巻きついていた尻尾が離れて、ゆらゆらと自在に揺らめく。
「サイヤ国の人って、皆尻尾が生えてんの!?」
「何度もしつこいな、サイヤ国なんざ知るか。オレの故郷は惑星ベジータだ」
面倒そうに後頭部を掻いたバーダックは、イライラした口調で言い放った。
「惑星って……アンタ、宇宙人なの?」
とんでもない発言に驚いた私の質問には答えてもらえず、これ以上は聞くなとばかりに視線を逸らされた。
サーベルタイガーの命を簡単に奪うぐらい人間離れした力の持ち主で、しかも尻尾が生えててるわ、揚げ句に宙に浮くわで、宇宙人とか言われても納得しちゃうかも。性格は問題ありありだけど……。
「それより、さっきの質問が聞こえなかったのか?」
急に別の話題に変えられてしまった。鋭い眼差しのオマケつきで。
やっぱり、さっきの話を詳しく教えてくれるつもりはないみたい。
「別に睨まなくてもいいじゃない。名前を教えればいいんでしょ。私は名無しさんよ」
「名無しさん。わざわざ助けてやったんだから、礼を寄越すのが筋ってもんじゃねえのか?」
バーダックは静かな口調だけど、威圧感たっぷりにそう言った。
私は「えっ……」と情けない声を漏らすしかない。
確かに失礼極まりない俺様男でも、命を助けてもらったのは事実だ。
「急にお礼って言われても……あ、飴なら持ってるかも」
そう答えると、バーダックは無遠慮に顔を寄せてくる。
「!?」
いきなり至近距離で見つめられ、ビックリして声も出なかった。
「そんなもん要るか。オレが欲しいのはな」
そっと囁いたバーダックは固まっている私の顎を掴んで、無理やり上向かせ、ニヤリと口元を歪めた。
その瞬間、私の身体が本能的に竦み上がる。まるで蛇に睨まれた蛙みたいに……。
「もっと極上の刺激だ」
「んっ……!?」
いきなり柔らかいもので唇を塞がれた。
まさか……キス、されてる?
私には彼氏がいるのに、何でこんな俺様男なんかと!
そう思うと悔しくて怒りが沸々と込み上げ、どうしても仕返ししてやりたくなった。
「何すんのよっ!」
私は思いっきり、バーダックの頬を平手打ちする。
バチンッと弾ける音がしたけど、私の掌が痛いだけで、彼には何の痛手も負わせてないみたいだった。
「へっ、か弱いだけかと思ったら結構な跳ねっ返りじゃねえか」
バーダックはニヤッと笑い、私の肩を強引に抱き寄せる。
「勝ち気な女は嫌いじゃねえ。名無しさん、オレの女にしてやってもいいぜ?」
「じょっ、冗談言わないでくれる!? 私には恋人がいるんだから! 言っとくけど仮に彼氏がいなくたって、アンタみたいな俺様男は願い下げよ!」
「ほう? 随分な言われようだな。その俺様男に助けられたのは、どこのどいつだ?」
「うっ、それは……私、だけどさ」
私の言葉を聞いたバーダックが、ニヤリと笑う。
何よ、その「分かりゃあ良いんだ」的な顔は!
「……ムカつく」
「あ? 何か言ったか?」
「な、何でもない!」
あの危ない目つきで睨まれた私は、慌てて首を振りながら否定する。
うう、こんな俺様男に助けなんか求めるんじゃなかった。
私がヘコんでいると、いきなりバーダックが空を振り仰いだ。
「どうしたの?」
「何者かがこっちに向かってるらしい。間もなく、ここに到着するぞ」
彼は厳しい目つきで空を睨んだまま、そう答える。
「戦闘力は大して高くもねえようだが、地球にもそこそこ出来るヤツがいるようだ。ま、オレの敵じゃねえがな」
「ねえ、それって――」
どうしてそんなことが分かるのか質問しようとした時、「黙ってろ。客人のお出ましだぜ」とバーダックが空から視線を逸らさないまま言い放った。
「……」
あり得ないことの連続で、私の胸中は不安でいっぱいだった。
耳鳴りと軽い頭痛に襲われ、左手で頭部を押さえた私は、その症状に耐えながら自らを奮い立たせて起き上がった。
顔を上げ、目の前の光景に息を呑む。
「何なの、これ……」
辺りには草原が果てしなく続いている。一瞬、夢じゃないかと思った。
だけど身体に起きた異変、頬に当たる爽やかな風、遥か上空を優雅に舞う鳥の姿、すべてが夢で終わらせるにはあまりにもリアルすぎる。
見知らぬ景色を前に、私はただぼんやりと立ち尽くした。
どうして、こんなことになったのか――一つだけ心当たりがある。
そもそも私は、彼氏とのデートの待ち合わせ場所に急いでいた。
その途中、ビルの工事現場に差しかかった時、頭上から叫び声が聞こえて、鉄材の束が私に向かって落下してきた。
「あ……あ……!」
恐怖と混乱が入り交じって一歩も動けなかった私は、死を覚悟して身を固くした。
けれど死の間際、急に目の前が眩しく光って、そこで意識がぷつりと途切れ……今に至る。
確実にあの世行きだって思ったのに、奇跡的に死ぬどころか、大した怪我さえしていない。
どうしてあんな不思議なことが起きたのか真相はまったく分からないけど、一応無事だったことを素直に喜ぶべきだと思う。
ただ重大な疑問があった。
「私、今どこにいるんだろ? ていうか、何で場所移動してるのよ?」
誰かに聞こうにも、辺りに人の気配はない。こんな田舎じゃ仕方ないのかも。
「あーあ、あの人怒ってるだろうな……とりあえず、電話で謝っとこ。久々のデート、楽しみにしてたのになあ。しかも明日は仕事だし、今日中に帰れればいいんだけど」
命も危うかった状況をすっかり頭から追い出した私は、鞄の中からスマホを取り出して電源を入れようとしたけど……。
「えっ、何で電源入んないの!?」
何度試しても、結果は同じ。
「え~……どうやって連絡しよう?」
何故か使えないスマホを鞄にしまって、しばらく思案した結果。
「しょうがない、近くの町にでも行って、電話借りるしかないか。あ、ここら辺なら村かな。適当に歩いてれば、そのうち車が通るかもしれないしね」
自分の置かれた状況をまったく把握できていない私は、まさか不幸の真っ只中にいるなんて思いもしなかった。それが、自分の運命を劇的に変えてしまうことさえも。
町か村を探して意気揚々と歩いていた私は、またしても命の危険に晒されていた。
鋭い牙を剥いた獰猛なサーベルタイガーが、目の前に現れたのだ。
「何でこんな所にサーベルタイガーがいるの!? 誰か放し飼いにでもしてるとか!? いやっ、そんなのあり得ないしっ!」
涎垂らしてるし、間違いなく餌だと認識されてる、よね……。
「助かったと思ったのに勘弁してよっ!」
迷わずサーベルタイガーに背け、全速力でその場から逃げ出す。
後ろからは獣が駆ける足音。
必死で逃げる私のすぐ傍らに聞こえる、野獣の荒い息遣い。
今振り向いたら、速攻でサーベルタイガーの餌食になる。
「私だけこんな目に遭わなきゃなんないなんて! 今日は思いっきり厄日じゃんっ!」
泣きたくなる気持ちをぐっと堪えて、ひたすら逃げる。
死に物狂いで走るなか、また奇跡が起きて欲しいと願わずにはいられなかった。
「神様助けて――っ!」
その時、近くで何か重たいものが落ちたような地響きが聞こえてくる。
「今度は一体何!?」
次の瞬間、全力疾走する私の前方に独りの男が姿を現した。
この時の私には、彼が神様のような存在に思えた。きっと私の切実な願いが届いたんだと。
「お願いっ、助けて!」
藁にもすがる思いで男に助けを求めた瞬間、自分の目を疑った。
「ちょ……何あれ!? あの男浮いてるんですけど! 本気で神様を引き寄せちゃったとか!?」
人間が重力に逆らって宙に浮いている。それを目の当たりにした私の頭の中は、パニック状態。
「避けろ!」
いきなり男の叫び声が聞こえて、私は頭を抱えて横へ飛び退いた。咄嗟でも、よく反応したなと自分で感心してしまう。
直後、背後で何かが爆発する音が聞こえた。
身体中の至る所に痛みを感じながら起き上がり、改めて男を見る。
「へっ、雑魚が」
吐き捨てるように言った男の足元には、さっきまで私を追い回していたサーベルタイガーの死骸が転がっている。
さらに男は邪魔だとでもいうように、死骸を蹴り飛ばした。
あまりにも強烈な光景に、悲鳴を漏らしそうになるのを慌てて呑み込んだ。もしもこの男が助けてくれなかったら、私の命が危なかったんだから。
だけど、コイツ神様じゃなくて悪魔じゃん……よりによって悪魔を降臨させてどうすんのよ、私。
「……助けてくれて、ありがとう」
恐る恐る話しかけると、男がゆっくりと振り向いた。
な、何なの、この人……。
目が合った瞬間、ゾクリと戦慄が走る。男は口元に笑みを刻んでいた。まるで獰猛な野獣が、獲物を捕らえたような危ない笑みだった。
めっ、目つきはかなり悪いけど、初対面の私を助けてくれたんだし……人を見た目で判断しちゃ駄目よね!
「ふん……あの程度の小物も倒せんとは、地球人は予想以上に軟弱だな」
前言撤回! 何なの、この性悪俺様男は!?
「アンタねえ!」
助けてもらって言える立場じゃないけど、文句の一つでも言ってやろうとした時。
「オレの名はバーダックだ。地球人、お前の名前も教えろよ」
バーダックと名乗った俺様男が、ゆったりと歩いて来る。
「は? 何言ってんの、アンタも地球人でしょ?」
中身は悪魔そのものだけど。
「バカを言え。オレは歴としたサイヤ人だ」
「サイヤ人? サイヤ国なんてあったっけ?」
聞いたこともない人種に首を捻ると、私の前に立ち塞がったバーダックにギロリと睨まれる。
その目つき、冗談抜きで危ないっつーの!
「……あれ?」
今気づいたけど、バーダックの腰には茶色くて長い物が巻きついている。
「それ、ベルトにしちゃ妙にフサフサしてるね。サイヤ国で流行ってんの?」
私がそう言うと、バーダックは自分の腰元に視線を落とす。
するとバッと顔を上げ「アホか! これはベルトじゃなくて尻尾だっ!」と怒鳴り散らした。
「し、尻尾っ!?」
まじまじと見ていたら、バーダックの腰に巻きついていた尻尾が離れて、ゆらゆらと自在に揺らめく。
「サイヤ国の人って、皆尻尾が生えてんの!?」
「何度もしつこいな、サイヤ国なんざ知るか。オレの故郷は惑星ベジータだ」
面倒そうに後頭部を掻いたバーダックは、イライラした口調で言い放った。
「惑星って……アンタ、宇宙人なの?」
とんでもない発言に驚いた私の質問には答えてもらえず、これ以上は聞くなとばかりに視線を逸らされた。
サーベルタイガーの命を簡単に奪うぐらい人間離れした力の持ち主で、しかも尻尾が生えててるわ、揚げ句に宙に浮くわで、宇宙人とか言われても納得しちゃうかも。性格は問題ありありだけど……。
「それより、さっきの質問が聞こえなかったのか?」
急に別の話題に変えられてしまった。鋭い眼差しのオマケつきで。
やっぱり、さっきの話を詳しく教えてくれるつもりはないみたい。
「別に睨まなくてもいいじゃない。名前を教えればいいんでしょ。私は名無しさんよ」
「名無しさん。わざわざ助けてやったんだから、礼を寄越すのが筋ってもんじゃねえのか?」
バーダックは静かな口調だけど、威圧感たっぷりにそう言った。
私は「えっ……」と情けない声を漏らすしかない。
確かに失礼極まりない俺様男でも、命を助けてもらったのは事実だ。
「急にお礼って言われても……あ、飴なら持ってるかも」
そう答えると、バーダックは無遠慮に顔を寄せてくる。
「!?」
いきなり至近距離で見つめられ、ビックリして声も出なかった。
「そんなもん要るか。オレが欲しいのはな」
そっと囁いたバーダックは固まっている私の顎を掴んで、無理やり上向かせ、ニヤリと口元を歪めた。
その瞬間、私の身体が本能的に竦み上がる。まるで蛇に睨まれた蛙みたいに……。
「もっと極上の刺激だ」
「んっ……!?」
いきなり柔らかいもので唇を塞がれた。
まさか……キス、されてる?
私には彼氏がいるのに、何でこんな俺様男なんかと!
そう思うと悔しくて怒りが沸々と込み上げ、どうしても仕返ししてやりたくなった。
「何すんのよっ!」
私は思いっきり、バーダックの頬を平手打ちする。
バチンッと弾ける音がしたけど、私の掌が痛いだけで、彼には何の痛手も負わせてないみたいだった。
「へっ、か弱いだけかと思ったら結構な跳ねっ返りじゃねえか」
バーダックはニヤッと笑い、私の肩を強引に抱き寄せる。
「勝ち気な女は嫌いじゃねえ。名無しさん、オレの女にしてやってもいいぜ?」
「じょっ、冗談言わないでくれる!? 私には恋人がいるんだから! 言っとくけど仮に彼氏がいなくたって、アンタみたいな俺様男は願い下げよ!」
「ほう? 随分な言われようだな。その俺様男に助けられたのは、どこのどいつだ?」
「うっ、それは……私、だけどさ」
私の言葉を聞いたバーダックが、ニヤリと笑う。
何よ、その「分かりゃあ良いんだ」的な顔は!
「……ムカつく」
「あ? 何か言ったか?」
「な、何でもない!」
あの危ない目つきで睨まれた私は、慌てて首を振りながら否定する。
うう、こんな俺様男に助けなんか求めるんじゃなかった。
私がヘコんでいると、いきなりバーダックが空を振り仰いだ。
「どうしたの?」
「何者かがこっちに向かってるらしい。間もなく、ここに到着するぞ」
彼は厳しい目つきで空を睨んだまま、そう答える。
「戦闘力は大して高くもねえようだが、地球にもそこそこ出来るヤツがいるようだ。ま、オレの敵じゃねえがな」
「ねえ、それって――」
どうしてそんなことが分かるのか質問しようとした時、「黙ってろ。客人のお出ましだぜ」とバーダックが空から視線を逸らさないまま言い放った。
「……」
あり得ないことの連続で、私の胸中は不安でいっぱいだった。