【第三章】秘めたる想いと、芽生える想いー。
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討伐を終え、周辺の状況を確認していた時だった。
少し離れた林の向こうから、複数の霊圧が近づいてくる。
『……この霊圧は...』
凛香が顔を上げる。
冬獅郎も気配を察して、そちらへ視線を向けた。
やがて、木々の間から二人の死神が姿を現した。
「おう、日番谷隊長と凛香じゃねぇか」
先に声を上げたのは、斑目一角だった。
その隣には、優雅に髪を整えている綾瀬川弓親がいる。
「十一番隊か」
『一角!弓親!』
「俺たちも近くで虚を追ってたんだ。どうやら、そっちは片付いたみてぇだな」
一角は周囲に残る霊圧の痕跡を確認し、口元を緩めた。
「一角。こっちはまだ終わってないよ、誰かさんのせいで」
弓親が涼しい顔で言う。
「うるせェ!最後の一体が逃げたんだよ!」
「逃げたというより、君が追いかけるのに夢中になって、周囲を見ていなかったんでしょ?」
「お前なァ……」
二人のやり取りに、凛香が小さく笑った。
『相変わらずだねぇ、2人とも。元気そうで何よりだよ』
「そりゃァそうだ。虚退治なんざ朝飯前だからな!」
「一角、少しは言葉を選んだらどうだい?日番谷隊長の前だよ」
「別にいいだろ。事実なんだからよ」
弓親はやれやれと肩をすくめた。
「君は本当に、戦いの話になると途端に単純になるね」
「ンだと?」
「褒めているんだよ。分かりやすい莫迦...じゃなかった、ある意味美しい」
「ンだとコラァ!」
凛香は笑いをこらえながら、二人の様子を眺めていた。
その姿を、冬獅郎は少し離れた位置から見ていた。
凛香が一角と話す時の、遠慮のない口調。
弓親に向ける、気安い笑顔。
それは、彼女が昔から持っているものだった。
霊術院時代もそうだ。男女を問わず、親しくなった相手には自然体で接する。
特に、共に戦った仲間に対しては、余計な壁を作らない。
冬獅郎はそれをよく知っている。
知っているからこそ、面白くないと思うこともあった。
恋次と話している時も。
一角や弓親と笑っている時も。
彼女にとっては、ただの友人との会話に過ぎない。
それでも、自分以外の男に向けられる笑顔を見て、胸の奥がざわつく。
長年秘めてきた感情だ、今さらそれを初めて知ったわけではない。
ただ、以前よりも抑え込むことが難しくなっている。
まるで体が大きくなれば、想いも大きくなるようだ。
「……日番谷隊長?」
弓親の声に、冬獅郎は視線を戻した。
「何だ」
「いえ。少し考え事をされているようでしたので」
「別に問題ねぇ」
冬獅郎は淡々と答える。
弓親は扇子を軽く開き、目元を隠すように微笑んだ。
「そうですか、それなら結構です」
その視線は、ほんの一瞬だけ凛香へと向けられた。
弓親は何も言わなかった。
ただ、冬獅郎の視線がどこへ向いていたのかを、見逃してはいなかった。
長年の想いを隠しているつもりでも、近くにいる者には時折その片鱗が見えるものだ。
弓親もまた、乱菊や恋次同様彼の目には気付いている。
一方、一角はそんなことには全く気づいていないのだった。
「おい、月影」
『あ、はい!』
冬獅郎に呼ばれ、2人に軽く挨拶をしてから駆け寄る。
冬獅郎は自分が呼べばすぐ駆け寄ってくる凛香に目を向けながら、静かに息を吐く。
別に、彼女が笑うこと自体が嫌なわけではない。
むしろ、彼女が楽しそうにしていることは嬉しい。
ただ、その笑顔が自分だけに向けられるものではないという事実が、どうしようもなく胸に引っかかる。
そんな自分の感情を、冬獅郎はまだ表に出すつもりはなかった。
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