【第三章】秘めたる想いと、芽生える想いー。
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瀞霊廷の朝は、戦後の復興が進んだ今も慌ただしい。
各隊の隊舎には新たな隊士たちの声が戻り、修復を終えた通りには人々の往来が増えている。
だが、以前と全く同じ日常が戻ったわけではなかった。
失われたものは多いが、それを取り戻すために護廷十三隊は少しずつ前に歩みを進めている。
「月影、準備できたか」
十番隊隊舎の門前で、冬獅郎が声をかけた。
その傍らには、腰まで届く長い髪をキュッとまとめた凛香が立っている。
任務用の装備を整え、斬魄刀を腰に携えた姿は、普段の隊舎で見かけるものより幾分引き締まっていた。
『はい!現地の状況も確認してあります。流魂街の北西、虚の反応が複数あったんですよね?』
「ああ。先行した隊士の報告では、数は多くねぇが動きが散っているらしい」
『周辺の住民への被害が出ないよう、早めに片付けたいですね』
「だからこそ先に動きを封じる。俺が正面から押さえる。お前は周囲を確認しながら、逃げ道を塞げ」
『了解しました』
冬獅郎は短く頷いた。
先日の合同稽古で、隊長と隊長補佐による実戦任務の必要性が確認された。
各隊の連携を実際の任務で検証することも、その目的の一つだ。
今回、十番隊からは隊長である冬獅郎と、三席の凛香が同行する。
隊長補佐という役割を担う凛香は、冬獅郎の指示を受けるだけではない。
現場の状況を把握し、必要とあれば独自に判断を下すことも求められている。
凛香は長年、冬獅郎と共に戦ってきた。
互いの得意分野も、判断の癖も、戦闘中にどこまで任せられるかも知っている。
冬獅郎にとって、凛香は信頼できる隊士だ。
彼女が隣にいることを、長い年月の中で当たり前のように受け入れてきた。
だが、その当たり前を変えたいと思い始めたのも、また事実だった。
身体が成長し、彼女と同じ目線に立つようになってから、以前にはなかった感覚が生まれている。
昔の自分なら、凛香の隣にいられるだけで満足していたのかもしれない。
だが今は違う。
彼女にとって、ただ昔からの同期であるだけでは足りない。
そう思うようになった自分を、冬獅郎はもう否定しなかった。
「行くぞ」
『はい、隊長』
二人は瀞霊廷を後にし、流魂街へ向かう。
『この辺り、建物が密集していますね。虚が入り込んだら少し厄介かも...』
「だから、先に動きを封じる。住民の避難状況は?」
『現時点では被害の報告はありません。ただ、反応があった地点の近くに集落があります』
「分かった。状況次第では、討伐を優先する」
「はい」
現地に到着すると、少し離れた場所から低い唸り声が響いた。
その声に反応し、斬魄刀に手をかける。
「行くぞ」
『はいっ!』
冬獅郎の霊圧が周囲の空気を冷やす。
前方に現れた虚が、二人の姿を認めて咆哮を上げた。
すぐさま冬獅郎の斬魄刀が解放され、冷気が地面を走る。
虚の足元が凍りついた瞬間、凛香は横から駆け出した。
動きを封じられた虚の死角へと回り込み、斬魄刀を振るう。
もう一体が背後から迫ったが、凛香はその気配を察して身を翻した。
『隊長、右です!』
「分かってる」
冬獅郎の氷が虚の進路を塞ぐ。
凛香はその隙を逃さず、最後の一撃を叩き込めば、パラパラと虚が飛散する。
「……終わりだな」
『はい、周囲にも反応はありません』
凛香は斬魄刀を納め、周辺を確認した。
冬獅郎も念の為霊圧を探る。
確かに、報告にあった虚はすべて消滅していた。
「よし、戻るぞ」
『了解しました』
凛香の判断に迷いはなく、冬獅郎の指示にも無駄がない。
隊長と隊長補佐としての連携は、申し分なかった。
そのことに冬獅郎は満足していた。
だが、満足しているのは、あくまで任務に関してだ。
彼女との関係については、まだ何も変わっていない。
その事実が、胸の奥に静かに残っていた。