【第三章】秘めたる想いと、芽生える想いー。
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合同稽古の後半は、隊長・副隊長による連携確認となった。
白哉と冬獅郎が指揮を執り、各隊の席官が複数人で動く実戦形式の訓練だ。
凛香は十番隊側の補佐として、冬獅郎の指示を受けながら隊士たちの動きを確認していた。
「左側の隊士、少し遅れているな」
『はい、六番隊の方との連携に慣れていないようです。次の組み合わせでは、もう少し動きを合わせられるよう調整します』
「頼む」
冬獅郎は訓練場を見渡す。
凛香は隣で資料を持ち、彼の指示を待っていた。
以前なら彼女が隣に立つと、自然と視線の高さに差があった。
だが、今は違う。
同じ高さに立つ凛香の顔が、すぐ横にある。
冬獅郎が視線を落とす必要も、凛香が見上げる必要もない。
その事実は、思っていた以上に落ち着かないものだった。
「次の組、準備が整ったみたいです」
凛香の声に、冬獅郎は我に返る。
「ああ」
二人は訓練場の中央へ向かう。
その途中、凛香が手にしていた資料の一枚が風に煽られた。
『あっ』
紙が飛びかけ、冬獅郎は反射的に手を伸ばし、凛香の手元へ近づいた。
彼の指が、彼女の指先に軽く触れる。
紙を押さえたまま、二人の手が一瞬重なった。
「……風が強いな」
冬獅郎は資料を整え、凛香へ戻す。
『ありがとうございます、隊長』
凛香は何の躊躇もなく受け取った。
『助かりました。これ、飛ばされたら面倒ですから』
「……そうだな」
冬獅郎が歩き出せば、凛香も当然のように隣を歩いた。
肩が触れるほどではないが、以前よりも距離は近い。
冬獅郎がわざと少し歩幅を変えると、凛香も自然に合わせる。
その様子を、恋次が遠くから見ていた。
「……朽木隊長」
「何だ」
「日番谷隊長と月影三席、随分息が合ってますね」
白哉は二人へ視線を向けた。
「隊長と直属の部下であれば、当然のことだ」
「まあ、そりゃそうなんスけど」
恋次は少し考えるように首を傾げる。
「何つーか、距離が近いっつうか…「恋次」ハイッ!」
白哉の声が、静かに遮った。
「他隊の関係を不用意に詮索する必要はない」
「……す、すんません」
恋次は口を閉じた。
白哉はそれ以上何も言わなかった。
ただ、二人の様子を一度だけ見て、訓練場へ視線を戻した。
冬獅郎は凛香の隣を歩きながら、彼女の持つ資料へ目を落とした。
「その記録、俺にも見せろ」
『はい、こちらです』
桜は資料を少し傾け、冬獅郎が見やすいようにする。
冬獅郎は彼女のすぐ横から内容を確認した。
近づいた距離が思いのほか近い。
それでも凛香は、何も気にしていない。
「……問題なさそうだな」
『ありがとうございます!』
その声も、表情も、いつも通りだった。
冬獅郎は資料から目を離し、凛香の横顔を見た。
――もう少し、意識してくれてもいいんだがな
そんな思いが、胸の奥に浮かぶ。
だが、口にすることはなかった。
今はまだ彼女が自然に受け入れてくれる、その距離を少しずつ変えていく段階。
それで十分だ。