【第二章】戻る日常、変わる日常ー。
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午後の作業は、予定通りに進んでいた。
冬獅郎は現場の責任者として、修繕箇所の最終確認を行っている。
隊士からの報告を受け、必要な指示を出し、次の工程へと人員を振り分ける。
普段と変わらない仕事。
頭を切り替えるには、ちょうどよかった。
「日番谷隊長、こちらの確認が終わりました」
「……ああ。問題ねぇな。次は西側だ」
「了解しました!」
隊士が駆けていく。
ふと、少し離れた場所に凛香の姿が見えた。
彼女は別の隊士と話しながら、修繕箇所を確認している。
腰まで伸びた髪が風に揺れ、彼女が身振りを交えるたび、隊服の袖がわずかに動いた。
その姿を見ていると、先ほどの言葉がまた頭に浮かぶ。
ー日番谷は日番谷だよね
冬獅郎は、ぐっと眉間に皺を寄せた。
――……何を期待してたんだ
身長が同じになったからといって、凛香の意識が急に変わるとは限らない。
彼女にとって、自分は昔から知っている元同期。
戦場を共にし、互いの力量を知り、長い時間を過ごしてきた。
凛香が自分に対して気安いのも、昔から変わらない。
それは、彼女の信頼の表れだ。
分かっている。
分かっているはずなのに。
彼女の中で、自分はいつまでも「あの頃の日番谷冬獅郎」のままなのだろう。
身体が成長しても、目線が同じになっても。
彼女にとっては、昔から知っている日番谷。
それ以上でも、それ以下でもない。
冬獅郎は、足元に映る自分の影に少し視線を落とした。
その影は、以前とは異なり大きくなっている。
変わらないことが、嬉しくないわけではない。
凛香が隊長と部下と言う関係になろうとも、自分を昔からの同期として受け入れてくれていること。
それは、他の誰にも代えられない関係だ。
けれど、今の自分を見てほしいとも思う。
昔の姿を知っているからこそ、今の自分にも目を向けてほしい。
内に秘めた欲が、いつの間にか胸の奥で変わり始めていた。
「……面白くねぇな」
その声は、ほとんど独り言だった。
誰かに聞かせるつもりなどなく、ただ胸の奥に溜まった歯痒さが、言葉になって零れた。
『隊長?』
すぐ近くから声がした。
顔を上げれば凛香書類を手に立っていた。
「……何だ」
『今、何か言いました?』
「別に」
『そうですか?』
凛香は、不思議そうに彼を見つめる。
冬獅郎は、彼女の顔を見た。
何も知らない顔。
自分の胸の内など、少しも察していない。
それが、また歯痒かった。
冬獅郎は、短く息を吐く。
「何でもねぇ」
凛香は、少しだけ首を傾げた。
「報告書を寄越せ」
『あ、はい!』
凛香が書類を渡す。
冬獅郎はそれを受け取り、目を通し始めた。
仕事に戻れば、余計なことを考えずに済む。
だが、胸の奥に残った感情は、簡単には消えなかった。
彼女の中で、自分は変わらない。
それならば。
――このまま終わらせてやるつもりはねぇ
冬獅郎は、静かに決意を固め始めていた。
そんな決意を、彼女は知る由もない。