【第二章】戻る日常、変わる日常ー。
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復興現場は、朝から慌ただしかった。
戦後の傷跡がまだ多く残る区域では、建物の修繕と通路の再整備が並行して進められている。
隊士たちは各々の持ち場で作業に取り掛かり、資材の運搬や損傷箇所の確認に追われていた。
凛香は、現場の状況をまとめた報告書を手に、作業区域の境目を歩いていた。
腰まで伸びた髪が、歩くたびに背中で揺れる。
隊服の袖を軽く整えながら、彼女は次の確認箇所へと向かう。
「月影」
呼び止められ、凛香は振り返った。
そこには冬獅郎が乱菊と共にこちらへ歩いてくる姿があった。
凛香は手元の書類を持ち直し、2人に駆け寄る。
『ちょうど報告に向かうところでした!北側の資材搬入が――』
「その前に、こっちの確認を頼む。東側の修繕箇所に追加が入った」
『了解しました』
凛香は差し出された書類を受け取ろうと手を伸ばした。
その時、ふと視線が冬獅郎の顔に止まる。
『……あれ?』
「何だ」
『……ちょっと、並んでみてもいいです?』
「何だ、急に」
『いや、ちょっと確認したくて』
凛香は冬獅郎の隣へ移動する。
肩を並べて立ち、顔を横へ向ける。
冬獅郎も、彼女を見る。
視線の高さは、完全に同じだった。
『……わぁ、気のせいじゃなかった』
凛香の声に、少しばかりの感嘆が混じる。
『目線、一緒ですね』
冬獅郎は、黙って彼女を見ていた。
これまで、彼女が自分を見下ろす角度は、当たり前のものだった。
凛香が話しかけてくる時、彼女の顔を見上げる。
隣を歩く時も、少しだけ視線を上げる。
それが、今は違う。
顔を向ければ、自然に目が合う。
首を傾ける必要もない。
彼女の瞳が、正面から自分を捉えている。
『……不思議な感じ、ずっと私の方が高かったのに』
凛香が、ぽつりと言った。
『なんだか、急に追いつかれた気がします』
「実際、追いついたんだろ」
『ふふっ、そうですね』
凛香は笑った。
その笑顔を、冬獅郎はじっと見つめる。
――少しは、意識するようになったか
ほんのわずかに、期待が生まれた。
身長が同じになった。
目線が同じになった。
これまでとは違う距離で、彼女と向き合っている。
凛香の中でも、自分への印象が少しは変わるのではないか。
そんな考えが、頭をよぎる。
『隊長?』
凛香が、不思議そうに顔を覗き込んだ。
冬獅郎は、視線を逸らす。
「仕事に戻るぞ」
『はい!』
凛香は、何事もなかったように書類を開いた。
冬獅郎は、隣を歩く彼女の横顔を見ないようにした。
今はまだ、期待するには少し早いのかもしれない。
そして、その2人のやり取りをニタニタとしながら見守る乱菊だった。