【第二章】戻る日常、変わる日常ー。
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朝の十番隊隊舎。
執務室へ続く廊下を、冬獅郎が歩いていた。
白い羽織が、歩調に合わせて静かに揺れる。
新しく仕立て直した死覇装と隊長羽織は、以前のものよりも身体に馴染んでいた。
袖の長さも、裾の位置も、今の彼にはちょうどいい。
けれど、衣服を新調したことで、かえって目立つようになった変化もあった。
以前より、明らかに大きくなった身体。
そのことに気付いている者は、十番隊の中でも少なくない。
「……ねえ、今の日番谷隊長、見た?」
「見た見た!やっぱり、また伸びてるよね?」
廊下の向こうから、女性隊士たちの小さな声が聞こえてくる。
冬獅郎は、聞こえていないふりをして歩き続けた。
「前って、もっと小柄だったじゃない?」
「そうそう。私たちと並ぶと、かなり身長差があったのに」
「今は……なんていうか、少し雰囲気が変わってきた気がする」
「顔つきも前より大人っぽくなってない?」
声を潜めているつもりなのだろうが、廊下は静かだ。
内容は、ほとんど聞こえていた。
冬獅郎は眉間に皺を寄せる。
――アイツら、好き勝手言いやがって...
自分の身体に起きている変化について、周囲が気になるのは理解できる。
以前の姿を知っている隊士からすれば、二十センチは伸びたのだから驚くのも無理はないだろう。
しかし、本人にしてみれば、朝からその話題を耳にするのは少々煩わしい。
まして、仕事が始まる前からだ。
「……おい」
冬獅郎が足を止め、廊下の向こうへ声をかける。
女性隊士たちは、揃って肩を跳ねさせた。
「ひ、日番谷隊長!」
「仕事はどうした」
「す、すぐに戻ります!」
「なら、さっさと戻れ」
「はいっ!」
慌ただしく去っていく背中を見送り、冬獅郎は短く息を吐いた。
別に、己の身長の話をするなと言いたいわけではない。
ただ、あまり騒がれるのは面倒だった。
そのまま執務室へ向かおうとした時、背後から聞き慣れた声がする。
「隊長、朝から人気者ですねぇ♪」
「……松本」
振り返ると、朝から酒瓶を片手に持つ乱菊が立っていた。
口元には、明らかに面白がっている笑みが浮かんでいる。
「聞こえてたのか」
「そりゃあ、あれだけ盛り上がってれば聞こえますよぉ」
「……仕事に戻れ。それは置いてけよ」
「はいはーい」
乱菊は笑いながら、冬獅郎の隣を通り過ぎた。
その背中を見送り、冬獅郎はもう一度だけため息をつくのだった。