【第二章】戻る日常、変わる日常ー。
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現場指揮を終え、一足先に隊長室へ戻った冬獅郎は、机の上に置かれた記録帳を開いた。
日付。身長。手足の長さ。
変化した数値を記入し、前回の記録と照らし合わせる。
百五十センチを超えた。
記録帳に書き込んだ数字を見つめ、冬獅郎は静かに息を吐く。
身体が変わっていくこと自体には、少しずつ慣れてきた。
着るものを変え、動き方を調整し、日々の業務に支障が出ないようにする。
今は、それでいい。
ただ――。
「……」
ふと、凛香のことが頭に浮かぶ。
以前は、何かにつけて頭を撫でてきた。
ーシロちゃん、今日も頑張ってるねぇ
そんな軽口とともに、頭へぽん、と手を置いてくる。
自分が小さいことを面白がっているのは分かっていたし、正直、鬱陶しいと思うこともあった。
ー子供扱いすんなッ!
そう言えば、凛香は楽しそうに笑っていた。
けれど復帰後の凛香はというと、以前よりも隊長と隊士という立場を意識しているようだ。
必要な場面ではきちんと敬語を使い、以前のような気安い振る舞いも少なくなった。
それは当然のことではある。
凛香が真面目に職務へ取り組んでいるのも理解している。
――分かってるんだが、な
冬獅郎は、記録帳を閉じた。
ふと、今日の復興現場でのことを思い出す。
危うく転びかけた凛香の腕を掴んだ時、彼女は自分の手を見ていた。
以前よりも大きくなったこの手を気にしている様だった。
「……」
冬獅郎は自分の手を見下ろした。
変わっていく身体と変わっていく周囲の視線。
そして、少しずつ変わっていく凛香との距離。
それでも、彼女の笑顔は変わらない。
昔と同じように、何気なく隣にいてくれる。
それだけで十分だと、思っていた。
――なのに。
「……たまには、撫でてきてもいいだろうが」
誰に聞かせるでもなく、柄にもない呟きが漏れる。
つい漏れてしまったその言葉に、自分で驚き眉を寄せた。
別に、頭を撫でられたいわけではない。
そう言い聞かせながら、冬獅郎は記録帳を机の引き出しへしまった。
窓の外では、復興作業を終えた隊士たちが帰路についている。
その中から、ふと耳に入る声があった。
「なあ、日番谷隊長って最近背丈が変わったと思わないか?」
「俺も思った。前より羽織の感じとかも違うよな」
「私も思った!どんどん格好良くなってるよね〜!」
声は遠く、すぐに聞こえなくなった。
冬獅郎は、窓の外へ視線を向ける。
隊士たちの間でも、変化は少しずつ話題になり始めているらしい。
これ以上、隠し通せるものではない。
それでも特に余計な騒ぎにするつもりはなかった。
「……明日も仕事だ」
小さく呟き、冬獅郎は立ち上がった。
身体が変わっても、隊長としてやるべきことは変わらない。
そして、凛香との日常も。
そう思いながらも、彼はほんの少しだけあの無遠慮な手の温度を懐かしんでいた。