【第二章】戻る日常、変わる日常ー。
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凛香が隊長室を出た後。
掴んだ手首の感触が指先に残っている手を見つめていた。
あの瞬間、手を伸ばしてきた凛香を止めたのは考えてのことではなかった。
頭を撫でられそうになり制止する、いつも通りの、何の意味もない仕草。
「……」
指が長くなり、節も少しゴツゴツし始め、掌も広がった。
手首から肘までの距離も、確かに以前とは違う。
それは自分が記録してきた変化の一つに過ぎない。
だが、彼女は気づいた。
頭の位置に、掴まれた手の感触に。
まだ、身長が伸びたかとは言わなかった。
身体が変わっているのかとも尋ねなかった。
彼女の中でも、その違和感の正体がなんなのかまでは答えは出ていないのであろう。
それもそのはずだ、何せ霊術院の頃からこの体は止まったまま。
今更成長が訪れるなど、とてもじゃないが誰も思わないだろう。
それでも。
ようやく彼女が、初めて明確な違和感を口にした。
冬獅郎は机の上の記録帳を開く。
百四十八
次に測る時には、百五十を超えているかもしれない。
以前の自分なら、そこまでの変化を想像することすら難しかった。
だが、今は違う。
停滞していた期間が消え、身体は日々変わり続けている。
記録帳に書き込む数字が、以前よりも早い速度で増えていく。
それと同じように。
凛香との距離も、少しずつ変わっていくのだろうか。
いつの日か彼女と肩を並べて歩きたいと、同じ目線で、同じ歩幅で、共に歩みたいと願った事を思い出す。
冬獅郎は、そんな考えを振り払うように帳面を閉じた。
彼女は、まだ何も知らない。
自分がどれほど長い間、彼女を想ってきたのかも。
大戦の最中、意識を失う彼女を受け止めた時、思わず名前を呼んでしまったことも。
そして、今日。
彼女の手を掴んだ理由も。
「……急ぐ必要はねぇ」
誰に言うでもなく呟く。
凛香は、ようやく第三席として戻ってきた。
今は、それでいい。
彼女が自分の変化に気づいていくのを、無理に止めるつもりはない。
そして。
体の成長に比例して、彼女への想いもまたより一層膨らみ始めている事を、この時の彼はまだ気付いていなかった。