【第二章】戻る日常、変わる日常ー。
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十番隊の隊舎に、凛香の姿が戻った。
隊士たちから声を掛けられるたび、凛香は笑顔で応じる。
「月影三席! 復帰おめでとうございます!」
『ありがとう。皆も、大戦後の調整で忙しかったでしょう?何もできずごめんね』
「いえ! でも、やっぱり三席がいると安心します!」
その言葉に、凛香は少しだけ照れくさそうに笑った。
『そう言ってもらえるのは嬉しいけれど、私もまだ本調子とは限らないからね。気を抜かないように』
「はい!」
隊士たちの前では、以前と同じ第三席として。
隊務の確認を行い、書類に目を通し、稽古の進行を補助する。
療養中に感じていた焦りは、少しずつ仕事の手応えへと変わっていった。
それでも、完全に以前の自分へ戻ったわけではない。
身体の奥には、まだ大戦の傷が残っている。
無理をすれば、四番隊へ戻される。
そして、隊長から受けた説教も、まだ耳に残っていた。
――自分自身を蔑ろにして、使い潰すような戦い方をしてどうする
凛香は書類を揃えながら、ひとつ息を吐く。
『……気をつけないと』
誰に聞かせるでもなく呟いた。
その日の夕刻。
隊長室へ隊務報告を届けると、冬獅郎は机に向かったまま、顔を上げた。
「今日の具合は」
『問題ありません。隊務も、予定通り進みました』
「そうか」
短い返答。
それだけで、凛香は少し安心した。
以前なら、ここで「シロちゃん、心配性だね」などと笑っていたかもしれない。
けれど、今日は口にしなかった。
『では、失礼します。隊長』
凛香は一礼し、扉へ向かう。
冬獅郎は、その背中を目で追った。
「……月影」
『はい?』
呼び止められ、凛香が振り返る。
「明日も、今日と同じ程度にしておけ。いきなり隊務を増やすな」
『はい、承知しました』
きちんとした返答。
余計な軽口はない。
冬獅郎は、僅かに眉を動かした。
「……ああ」
凛香が扉を閉め去っていくと、隊長室に静けさが戻った。
冬獅郎は手元の書類へ視線を戻す。
別に、問題はない。
隊長と第三席としては、むしろ正しい距離、以前に戻っただけだ。
そう思いながらも、胸の奥に小さな引っ掛かりが残った。