【第二章】戻る日常、変わる日常ー。
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パタパタパタッ
『隊長!四番隊から、正式に許可が下りました!』
勢いよく隊長室の扉を開けた凛香は、報告書を両手で差し出した。
『本日より、通常の隊務への復帰が可能とのことです』
声には、隠しきれない喜びが滲んでいた。
大戦後、長かった療養期間。
身体は戻ってきているのに、思うように動けない。
隊士たちの稽古を見守ることは許されても、自分が刀を振るうことは制限される。
そのもどかしさを、凛香は目覚めてからというものの何度も味わってきた。
ようやく。
ようやく、第三席として戻れる。
「……そうか」
冬獅郎は静かに報告書を受け取り、目を通した。
四番隊の判は確かに押されている。
記載された内容にも、特に問題はない。
凛香の表情が明るくなる。
『これで、やっと――』
「月影」
その声に凛香の言葉が止まり、反射的に背筋が伸びる。
冬獅郎は報告書を机に置く。
「復帰の前に、話がある」
『はい?』
予想していなかった声音だった。
隊長としての、低く、静かな声。
凛香は、改めて姿勢を正す。
冬獅郎は椅子から立ち上がった。
「大戦の時のことだ」
その一言で、凛香の胸の奥が僅かに冷える。
お説教が始まるのだと理解するには、十分な言葉だった。
「お前が卍解を使った事や俺の卍解を写した事、それは良い。第三席として、あの状況で必要だと判断した事だろう」
一つずつ、淡々と並べられる。
「だが、それを踏まえたとしてもだ。霊力の限界を超えて戦い続けた事や無闇矢鱈と突っ込んで行った事まで、"仕方なかった"で済ませるつもりはねぇ」
凛香は視線を落とした。
『……申し訳ありません』
「謝罪が聞きたいんじゃねぇ」
冬獅郎の眉間にグッと皺が寄る。
「お前は第三席だ。自分の力を把握して、尸魂界は勿論のこと隊士達を守る立場にある」
『……』
「自分自信を蔑ろにして、使い潰すような戦い方をしてどうする」
凛香は、普段真面目で曲がった事を嫌い、仲間が傷つく事を嫌う。
努力を怠らず、常日頃から鍛錬を続けていて、自身の斬魄刀の能力を理解し状況に応じて戦う。
非常に頼りになる第三席だ。
ただし。
戦闘において、その判断とは裏腹に自分を蔑ろにするような戦い方をする事はこれまでもしばしばあった。
ここまで酷くはなかったが、時たま危うい時があるのは明白だった。
「あの時俺が受け止められなかったら、どうなってた。一歩間違えば死んでたかもしれねぇんだぞ」
その言葉に、凛香の指が僅かに強張った。
あの時のことは、覚えている。
身体が宙を舞った感覚
視界を埋める砂埃
全身の痛み
誰かの声
そして、意識が途切れる直前に感じた、確かな腕の感触。
けれど、その時の冬獅郎の姿を、凛香は知らない。
『……隊長』
「何だ」
『私、あの時は……あれしかないと思ったんです。私の卍解は大きな戦いで使うには余りにもリスクが高すぎる、だからこそ「分かってる」....』
返答は、思ったより早かった。
「だからこそ、次は同じ事をするなと言ってる」
凛香は唇をキュッ結ぶ。
冬獅郎の言葉は、厳しい。
けれど、その厳しさの奥にあるものを、凛香は知っていた。
自分の判断を責めるだけではない。
二度と同じ事態にならないように、次を考えろと言っている。
『……はい』
今度は、はっきりと答えた。
『肝に銘じます』
冬獅郎は、しばらく凛香を見ていた。
やがて、小さく息を吐く。
「四番隊の許可は確認した。俺からも、第三席としての現場復帰を認める」
凛香の顔が、ぱっと明るくなった。
『ありがとうございます、隊長!』
「ただし、無理をすれば即座に四番隊へ戻す」
『はい!!』
「返事だけはいいな」
『……そこは信用してくれてもよくないです?』
ほんの少しだけ、昔の調子が顔を覗かせる。
冬獅郎は呆れたように目を細めた。
「信用してるから言ってんだ」
その言葉に、凛香は一瞬だけ目を丸くした。
けれど、すぐに笑みを浮かべる。
『はい、頑張ります』
その返事は、先ほどよりも静かだった。
隊長室を出る時、凛香は背筋を伸ばした。
療養中に甘えていた距離を、少しずつ戻していく。
これからは、隊長と第三席。
その立場を、もう一度きちんと意識しよう。
そう、心に決めた。
これは余談だが、後日六番隊に書類を届けに行った際、白夜にも釘を刺された事は言うまでもなかった。