【第一章】大戦、そして終戦へー。
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――音が、遠い。
何かが崩れる音、大地を砕く轟音。
そして、耳鳴りにも似た重たい霊圧。
それらすべてが、ひどく遠くから聞こえているようだった。
凛香はゆっくりと瞼を持ち上げようとした。
けれど、身体が思うように動かない。
背中に伝わるのは、冷たい地面の感触。
頬には乾いた砂埃が張り付き、口の中には鉄の味が広がっていた。
『……っ、う……ゲホッゲホッ』
声を出そうとした途端、喉がひどく痛んだ。
視界はぼやけ、焦点が合わない。
何があったのか。
自分は、どうしてここに倒れているのか。
記憶を辿ろうとするが、頭の奥が鈍く痛み、思考がうまくまとまらない。
ー確か、交戦中だった、はず....そうだ、敵の避けきれずに...。
そこまで思い出したときだった。
不意に、肌を撫でるような霊圧を感じた。
凍てつくような、鋭く澄んだ霊圧。
知っている。
どんなに揺らいだ頭でも、忘れるはずがない。
『……隊、長……?』
掠れた声が自分から自然と漏れる。
護廷十三隊 十番隊 隊長
日番谷冬獅郎
その霊圧を感じ取った瞬間、凛香の意識は急速に現実へと引き戻されていった。
重たい腕を地面につき、どうにか上半身を起こそうとするが、グラリと視界が大きく揺れる。
それでも、歯を食い縛り側に転がっていた斬魄刀を拾い上げ、目の前の光景を確認しようと顔を上げた。
そして――息を呑んだ。
『……なに、あれ……』
視界の先にいたのは、巨大な敵。
ジェラルド・ヴァルキリー
その巨体は、もはや通常の死神が相手にするような大きさではなかった。
圧倒的な存在感。
立っているだけで周囲の空気が歪むような霊圧。
そして、その前には我が隊長以外にも2人の隊長の背中が見えた。
六番隊隊長 朽木白哉
十一番隊隊長 更木剣八
凛香は息を詰め、生唾を飲み込む。
三人とも、無事とはとても言い難い状況なのは明白だった。
特に目を引いたのは、更木の様子だった。
『……更木、隊長?』
その姿は異様だった。
身体から溢れる霊圧は猛々しくもあり荒々しく、制御されているようには見えない。まるで内側から何かが壊れていくような、危うい気配を纏っている。
いや、もはやまともではないのかもしれない。
一方、白夜と冬獅郎は冷静に敵を見据えていた。
『……っ』
ふと霊圧に意識を真向けると日番谷の霊圧が、明らかに弱まっていた。
いや、正確には弱まっているというよりも、卍解の力が限界に近づいているように感じられた。
あれだけの力を維持し続けるのは、容易なことではない。
そしてそれは敵の圧倒的な力を前にして、三人とも決定打を欠いている証拠でもあった。
ーこのままじゃ....っ...
『……まず、い、よね...』
凛香は自分の身体を見下ろした。
腹部には傷があり、動くたびにどくんどくんと脈を打つのが分かる。
衣服はベッタリと自分の血と仲間の血と、あれやこれやで汚れている。
立ち上がろうとしただけでも、全身に鋭い痛みが走り、まともに動ける状態ではないのだと悟る。
ましてや、あの敵を相手にするなどたかが第三席の思い上がりにも甚だしい。
それでもー
そうだとしてもー
凛香の視線は、冬獅郎から離れなかった。
彼が戦っている。
霊術院時代からの同期で、その頃から今まで立場は変わろうとも共に歩んできた仲間が、目の前で戦っているではないか。
凛香が身体を起こす理由には、十分だった。