【第二章】戻る日常、変わる日常ー。
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稽古場から執務室へ戻る途中、凛香は冬獅郎の隣を歩く。
『ねえ、隊長』
「何だ」
『私、隊務の手伝いをもう少し増やしてもいいですか?』
冬獅郎は横目で彼女を見る。
「内容によるな」
『書類の確認とか、隊士たちの報告をまとめるとか、あと稽古の主導くらいならできるし。今できることは、なるべくやりたいくて』
「……無理のない範囲でなら許可する」
『!やった!』
凛香は、少しだけ笑った。
『ありがとう、シロちゃん!』
その言葉に、冬獅郎は一瞬だけ視線を逸らした。
心配。
彼女は、そう受け止めている。
自分が彼女をどれほど大切に思っているのか。 どれほど長い間、胸の内に秘めてきたのか。
霊術院時代から、ずっとだ。
彼女は同期であり、仲間であり、今は部下だ。
その関係を、自分の感情で変えるつもりはなかった為、伝えるつもりはない。
「当然だろ」
冬獅郎は、いつもの調子で答える。
「お前は十番隊の第三席だ。隊務に支障が出るようなことはさせねぇよ」
『ふふ。そういう真面目なところ、昔から変わらないねぇ』
凛香は笑った。
その笑顔を見た瞬間、冬獅郎の脳裏にあの大戦の光景がふと蘇る。
吹き飛ばされてくる身体、血に染まった長い髪。
あの瞬間を思い出すだけで、喉の奥がギュッと閉まる様な感覚に陥る。
ー凛香ッ!!
あの時、自分は確かにそう呼んでしまった。
隊長としての判断よりも先に、彼女を失いたくないという感情が声になった。
冬獅郎は、その瞬間を今でも忘れていない。
『……隊長?』
凛香の声に、意識が戻る。
「! 何だ」
『急にぼーっとしてたから。何か気になる事でもありました?』
「……何でもねぇ」
凛香は少しだけ首を傾げたが、すぐに笑った。
『疲れてるなら、ちゃんと休んだよ?シロちゃん』
冬獅郎の眉間に皺が寄る。
「さっきからシロちゃんシロちゃん言いやがって......、その呼び方をするなって何度も言ってるだろ!"日番谷"隊長だ!」
『もー、細かいなぁ』
「細かくねぇ!」
『はいはい』
冬獅郎は、楽しそうに笑い続ける彼女を見つめた。
彼女は、何も気づいていない。
あの時咄嗟に名前を呼んでしまった事も。 今、自分が抱えている想いにも。
それが、少しだけもどかしかった。