【第二章】戻る日常、変わる日常ー。
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『……はぁ』
凛香は稽古場の隅で、小さく息を吐いた。
目の前では、隊士たちが木刀を打ち合わせている。
その動きを、ただ見ているだけ。
踏み込み、受け、返し
以前なら、何も考えずにできた動作だ。
今は、見ているだけ。
「ッハァ、ハァ....月影さん!今の動きってどうでしたか?」
若い隊士が、少し息を切らしながら木刀を下ろして尋ねた。
凛香はすぐに表情を切り替える。
『うん、今のは良かったよ。だけど、受ける時に少し重心が後ろに寄ってるかな』
「重心、ですか?」
『そう。相手の攻撃を受け止めようとしすぎてる。少し流すようにしてみて』
「分かりました!」
隊士は再び構えた。
凛香は、その動きを見守る。
この体でも指導することはできる、それが隊士たちの役に立つことも頭では理解している。
けれど。
『……私も、振りたいなぁ』
思わず口から零れた。
「何をだ」
背後から低い声がし、ビクッと肩が揺れる。
デジャブを感じながらも、凛香は振り返る。
『た、隊長』
冬獅郎が稽古場の入口に寄りかかりながら立っていた。
『い、いや、そのー...?みんなが振ってるの見てたら、なんか身体がうずうずしてきちゃって...』
「まだ許可してねぇだろ」
『分かってます、見てるだけです!』
「その割には、さっきから木刀の方ばかり見てるな」
「『...............』」
お互いの沈黙が流れる。
『……バレた?』
「バレるに決まってんだろ」
冬獅郎は、彼女のそばに置かれた木刀へ目を向けた。
桜が指先で柄に触れている。
「月影」
「はい?」
「それ、振るな」
『まだ何もしてしてないんですけど!』
「するつもりだっただろ」
『……、.............ちょっとだけ?』
冬獅郎の眉がグッと寄る。
「凛香」
その呼びかけに、ふいっと凛香が顔を上げた。
冬獅郎はハッとして、言葉を止めすぐさま言い直す。
「! 月影、後もう少し我慢しろ」
凛香は、何の疑問も抱かずに笑った。
『はいはい。分かりました、隊長』
そして、木刀から手を離す。
『でも、こうして稽古を見てるだけでも勉強になりますね。自分が動けない分、今まで見えてなかったところもあるし』
「まぁたまには、そういった目線も必要だろうよ」
『そうだね』
凛香は嬉しそうに笑った。
その顔を見て、冬獅郎はわずかに目を細める。
彼女が少しずつ回復していることは、素直に嬉しかった。
ただ、無理をしてほしくない。
それだけは、どうしても譲れなかった。