【第二章】戻る日常、変わる日常ー。
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夜の隊舎の庭には、冷たい風が吹いていた。
冬獅郎は一人、静かな場所に立っていた。
昼間の違和感を確かめるためだ。
隊長羽織を脱ぎ縁側へそっと起き、腰に刺していた斬魄刀を抜く。
「……氷輪丸」
刀身が月明かりを受け、淡く輝いた。
冬獅郎は目を閉じ、己の斬魄刀へと霊圧を流す。
その瞬間、ヒュウッと静かに風の音を立てて冷気が周囲に広がった。
以前と同じ、何ら変わらぬ。 氷輪丸の力は、確かに自分の中にある。
だが。
その霊圧の流れが、僅かに違っていた。
完成した卍解の力とは別の何か。
氷輪丸の霊圧が、身体の奥深くへと流れ込んでくる。
まるで、今まで閉じていた何かが、少しずつ開いていくように。
「……一体どういうことだ」
冬獅郎は刀を握る手に力を込めた。
身体の内側で、ぎしりと鈍い軋みが起こる。
肩。 背中。 腰。
全身の骨が、僅かに動いているような感覚。
痛みは然程ない。
だが、確かな違和感があった。
「……氷輪丸」
問いかけるように、己が斬魄刀の名を呼ぶ。
返事はない。
ただ、冷気が静かに流れていた。
冬獅郎は刀を下ろす。
「……戦いが終わったから、ってわけじゃねえな」
ジェラルドとの戦いで解放した力。
その後に起きている変化。
二つは繋がっているのか。 それとも、別の現象なのか。
まだ分からない。
だが、身体が変わり始めていることだけは、既に気のせいだと片付ける事はできなくなってきてしまっていた。
冬獅郎は自分の手を見つめる。
指先
手の甲
腕
ほんの僅かに、以前とは違う。
少年の手つきから、青年の手つきへと変化を遂げ始めていた。
そしてふと視線を落とした時、彼は気づいた。
庭の石畳に映る、自分の影。
月明かりの下、その輪郭が。
ほんの少しだけ、以前より長くなっている。
「……」
冬獅郎は無言で影を見つめた。
それは、誰かに指摘されるほどの変化ではない。
明日になれば、気のせいだと思えるかもしれない。
だが、本人が気付くには十分な変化。
止まっていた時間を、少しずつ動かし始めている。
「……厄介なことになりそうだな」
カチャン...と静かに音を立てながら、刀を納める。
夜風が吹き、白銀色の髪が僅かに揺れた。
その背中は、まだ以前と何も変わらない。
けれどその身体の内側では、確実に新しい変化が始まっていた。
そして、その変化に気づいているのは
今のところ、冬獅郎ただ一人だった。