【第二章】戻る日常、変わる日常ー。
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その頃、執務室では冬獅郎が書類に目を通していた。
机の上には戦後処理に関する報告書や、復興に関する各隊との調整資料がドッと積まれている。
「隊長、こちらの書類ですが」
「ああ。そこに置いておけ」
「分かりました」
隊士が退室すると、冬獅郎は筆を置いた。
そして、無意識に左肩を回す。
「……っ」
鈍い違和感。
肩から背中にかけて、内側が軋むような感覚が走りほんの少しだけ顔を歪める。
ここ数日、こうした症状が続いている。
大戦で氷輪丸を完成させたことによる身体の変化。
それ自体は理解している。
だが、卍解をそれも終わる...はずなのだが...
戦いが終わったというのに、身体の奥で何かが変わり続けているようだった。
霊圧の質も、以前とはわずかに違う。
氷輪丸を呼び出す際の感覚も変化している。
今までの自分ならば、意識せずとも扱えていた力に、ほんの僅かな調整が必要になっていた。
「……何なんだ、一体」
冬獅郎は自分の手を見下ろす、拳を握りしめたり開いたりの動作をする。
今のところ、氷輪丸を使った時のような外見の大きな変化はない。
だが、身体の内側では確実に何かが起きている。
隊長として、これを見過ごすわけにはいかなかった。
後日で四番隊に相談するか...
いや、まずは自分で経過を確認するべきだろう。
そう考えていると、襖の向こうから心のどこかで求めていた声がした。
『隊長ー?』
「何だ」
『お仕事中、失礼します。お茶をお持ちしました』
「ああ。入れ」
襖が開き、凛香が盆を持って入ってきた。
「お前、もう動いていいのか?」
『少しくらいなら大丈夫ですよ、乱菊さんにも頼まれましたし』
「松本に?」
『はい。隊長、休憩してないんじゃないかって』
冬獅郎はグッと眉間に眉を寄せた。
病人を使うとは、後でお灸が必要だな...。
「……余計なことを」
凛香は机の端に、優しく湯呑みを置く。
『お茶です、どうぞ』
「悪いな」
凛香は室内を見回した。
懐かしい執務室、机の上に積まれた書類、窓から見える庭。
どれも以前と変わらないが、酷く懐かしく思える。
『なんだか、懐かしいです』
「三週間しか経ってねえだろ」
『三週間も、ですよ』
「そうかよ」
冬獅郎は書類に目を向けながら、湯呑みに手を伸ばした。
その時、ふと凛香の視線が彼の手元に止まる。
『……?隊長?』
「何だ」
『手、痛いんですか?』
まさか気づかれると思わず、冬獅郎の動きがわずかに止まった。
だがそれも一瞬で、動揺を見せぬよう平然とした態度で返事をする。
「いや」
『そう、ですか?』
「あぁ、まぁ少し肩が凝ってるだけだ」
『お仕事しすぎですよ〜』
「お前に言われたくねえな」
『私はちゃんと休んでます!』
えっへんと胸に手を当てながら自慢げに言う凛香。
こんなやり取りも久し振りで、ようやく彼女が十番隊に戻ってきたのだと実感し、冬獅郎はじんわりと胸の奥が熱くなる。
「そういう問題じゃねえよ」
凛香はくすりと笑った。
『無理しすぎないでくださいね』
「分かってる」
冬獅郎は短く答えた。
凛香はそれ以上追及することなく、空になった盆を手に取る。
『では、私は戻りますね』
「おい」
『はい?』
「部屋に戻ったら休め。うろつくなよ」
『も〜、分かってますって』
「……本当に分かってんのか」
『はいはい、シロちゃん』
ぽんっの頭の上に手を置かれ、優しく人撫でする凛香。
「お前……!」
久しぶりに聞く呼び名、そして不意に降ってきた手に冬獅郎は思わず声を荒らげた。
凛香は楽しそうに笑いながら、執務室を後にする。
襖が閉まった後、冬獅郎は小さく息を吐いた。
「……ったく」
口元には僅かな笑みが浮かべながら、名残惜しそうな目つきで閉じられた襖を見つめる。
けれど、それは本人も気づいていなかった。