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必要がないのに、ついつい道場のほうをうかがってしまう。今日は十番組が隊務についていないので、道場で剣術の稽古をしているのだ。当然、組長の原田左之助が稽古をつけている。道場から聞こえてくる隊士達の声は勇ましく、今日もけが人が出るんだろうな、と千鶴はくすりと笑った。
時間を見計らって医務室で待機していると、案の定というか、ぞろぞろと隊士たちがやってくる。
「はぁ~、きっつ!今日も原田先生、厳しかったなぁ!」
「先生の槍は新撰組一だからな、学んでおいて損はない。」
千鶴はまるで自分のことが褒められたように、晴れがましい気持ちになった。 とその時、廊下を踏みしめる音とともに、騒々しい声を立てながら、男たちが三人転がり込んできた。
「千鶴先生、治療!治療頼むぜ!」
先ほどまで剣を振っていたのだろう、汗だくの永倉が千鶴に向かって腕を差し出した。
「先生、聞いてくれよ、新八っつあんったら、本気で打ち込んでくんだぜ、ケガしてる俺に!」
一緒になだれ込んできた平助が情けなさそうな声をあげ、同じく治療してくれと赤く腫れた手首を見せてくる。
「平助は甘いんだよ!戦場で『僕ケガしてるんで、勘弁してくださ~い』とかいう気か?」
二人は本来の目的を忘れ、やいのやいのと騒いでいる。それを見ながら、隊士たちもいつものことだ、と笑っている。 ふぅ、とため息をつく千鶴の耳元で、男がささやいた。
「まったく、こいつらは騒々しいな」
びくんっと思わず震えたことが、恥ずかしかった。 振り返ると、優しそうな笑みをたたえて、原田が見下ろしている。
「今日の稽古は永倉先生と藤堂先生もご一緒だったんですか?」
「そう、新撰組の三馬鹿が雁首揃えて指導したってわけだ」
「三馬鹿なんて・・・」
少なくとも、原田先生は違いますよ、と思ったが、口には出さない。 「左之、平助、お前らと一緒にしてほしくわねぇな!この永倉新八様、剣をもたせりゃ日本一の・・・」
「はいはい、永倉先生、さっさと治療させてくださいね」
そういって、千鶴は永倉の袖をまくり上げ、傷口に焼酎をぶっかけた。
「いってぇ!先生、もうちょっと優しくできねぇのかよ!」
「永倉先生にはこれで十分です。はいおしまい。次回からはお怪我なさらぬようお気を付けください」
ぶつぶつ文句を言う永倉を無視して、平助やほかの隊士たちの治療に当たる。もっとも実戦でのケガではないのだから、大した治療など必要ない。単に、みんなここで騒ぎたいだけなのだ。
全員の治療が終わると、三々五々医務室を隊士たちが出ていく。すると、永倉がいつも通りのからかいを始めた。
「なぁ先生、いつになったら俺の嫁さんになってくれるんだよ」
「はぁ・・・。永倉先生、またですか。はいはい、明日にでも嫁入りさせていただきますよ」
「またそれだ。いつになったら、俺のこの本気をわかってくれるのかね」
そういながら、永倉の顔は楽しげに笑っている。思わず千鶴もクスクスと笑う。永倉が医務室に来た時の、去り際のいつもの儀式のようなものだった。平助も原田も、一緒に笑っている。
「また断られたな、新八」
「新八っつあん、もうそろそろ諦めなって」
「いいや、俺は千鶴先生がウンと言ってくれるまで、諦めねぇ!」
三人は来た時と同じように騒ぎながら、医務室を出ていった。
夕暮れ、夕飯前の少し空いた時間に、千鶴は縁側に座って裏庭を眺めていた。ぼんやりと、原田のことを考えていたとき、「千鶴先生」と声をかけられ、ぎょっと振り向いた。
「すまないね、驚かせたかい?」
そこには、井上が手に小さな包みを載せて立っていた。
「巡察後に飴屋の前を通ったので、少し求めたんだ。先生、どうだい?」
井上はいつもこうやって千鶴を思いやってうれる。ありがたく頂戴することにして、二人並んで縁側で飴をなめることとなった。
「わぁ、きれいですねぇ」
桃色と白の縞模様の有平糖が夕陽できらきらひかっている。安いものではないと思うが、それをこうして買ってきてくれるのは、ありがたいことだった。
「何を考えていたんだい?」
「えっ?い、いえ別に・・・。」 そのとき、ふと頭に浮かんだ疑問を井上にぶつけてみた。
「原田先生と永倉先生、藤堂先生は本当な仲がよろしいんですね」
「うん?そうだねぇ。それぞれ個性は相当違うけど、ウマが合うんだろうね、いつも一緒にいるなぁ」
「やはり、腕前も同じくらいなんですか?」
それを聞いて、井上はう~ん、とうなって腕を組んだ。
「それはむつかしい質問だなぁ。原田君は槍の名手だが、永倉君も平助も槍は使わないし・・・。比べようがないね」
「そうですよね・・・」
「でも、剣の腕なら、永倉君が一番だよ」
思わずむせた。
「な、永倉・・・ごほっ、永倉先生、ですか!?」
千鶴の頭の中に、あの永倉の能天気な笑みが浮かぶ。
「うん?千鶴先生はしらなかったかい?永倉君が二番組組長を務めているのは、伊達じゃないよ」
「そう・・・なんですか?」
「総司のお突きもすごいし、斎藤君の居合も一級品だけどね。やはり永倉君が一番の使い手かなぁ。彼は努力の人だよ」
千鶴は口の中で有平糖をとかしながら、努力の人、とつぶやいた。
「疑ってるね、千鶴先生」
ふふ、と笑いながら井上が聞いてくる。
「い、いえ・・・。あまり努力には縁のない方に思えて・・・」
「ははは、彼は剣に関しては誰よりも真剣だよ。そうだ、だまされたと思って、夜道場へ行ってごらん。いいものがみられるよ」
井上が去って一人きりになった後、千鶴は井上が言ったことを思い出していた。 嫁に来いだのなんだのと、いつも馬鹿なことばかり言っている。お酒が大好きで、隊士たちの面倒見もよくて、いつも明るくて・・・ なんだか変な方向に考えが向いてきた。千鶴は立ち上がると、つぶやいた。 「夜の道場、か。」
時間を見計らって医務室で待機していると、案の定というか、ぞろぞろと隊士たちがやってくる。
「はぁ~、きっつ!今日も原田先生、厳しかったなぁ!」
「先生の槍は新撰組一だからな、学んでおいて損はない。」
千鶴はまるで自分のことが褒められたように、晴れがましい気持ちになった。 とその時、廊下を踏みしめる音とともに、騒々しい声を立てながら、男たちが三人転がり込んできた。
「千鶴先生、治療!治療頼むぜ!」
先ほどまで剣を振っていたのだろう、汗だくの永倉が千鶴に向かって腕を差し出した。
「先生、聞いてくれよ、新八っつあんったら、本気で打ち込んでくんだぜ、ケガしてる俺に!」
一緒になだれ込んできた平助が情けなさそうな声をあげ、同じく治療してくれと赤く腫れた手首を見せてくる。
「平助は甘いんだよ!戦場で『僕ケガしてるんで、勘弁してくださ~い』とかいう気か?」
二人は本来の目的を忘れ、やいのやいのと騒いでいる。それを見ながら、隊士たちもいつものことだ、と笑っている。 ふぅ、とため息をつく千鶴の耳元で、男がささやいた。
「まったく、こいつらは騒々しいな」
びくんっと思わず震えたことが、恥ずかしかった。 振り返ると、優しそうな笑みをたたえて、原田が見下ろしている。
「今日の稽古は永倉先生と藤堂先生もご一緒だったんですか?」
「そう、新撰組の三馬鹿が雁首揃えて指導したってわけだ」
「三馬鹿なんて・・・」
少なくとも、原田先生は違いますよ、と思ったが、口には出さない。 「左之、平助、お前らと一緒にしてほしくわねぇな!この永倉新八様、剣をもたせりゃ日本一の・・・」
「はいはい、永倉先生、さっさと治療させてくださいね」
そういって、千鶴は永倉の袖をまくり上げ、傷口に焼酎をぶっかけた。
「いってぇ!先生、もうちょっと優しくできねぇのかよ!」
「永倉先生にはこれで十分です。はいおしまい。次回からはお怪我なさらぬようお気を付けください」
ぶつぶつ文句を言う永倉を無視して、平助やほかの隊士たちの治療に当たる。もっとも実戦でのケガではないのだから、大した治療など必要ない。単に、みんなここで騒ぎたいだけなのだ。
全員の治療が終わると、三々五々医務室を隊士たちが出ていく。すると、永倉がいつも通りのからかいを始めた。
「なぁ先生、いつになったら俺の嫁さんになってくれるんだよ」
「はぁ・・・。永倉先生、またですか。はいはい、明日にでも嫁入りさせていただきますよ」
「またそれだ。いつになったら、俺のこの本気をわかってくれるのかね」
そういながら、永倉の顔は楽しげに笑っている。思わず千鶴もクスクスと笑う。永倉が医務室に来た時の、去り際のいつもの儀式のようなものだった。平助も原田も、一緒に笑っている。
「また断られたな、新八」
「新八っつあん、もうそろそろ諦めなって」
「いいや、俺は千鶴先生がウンと言ってくれるまで、諦めねぇ!」
三人は来た時と同じように騒ぎながら、医務室を出ていった。
夕暮れ、夕飯前の少し空いた時間に、千鶴は縁側に座って裏庭を眺めていた。ぼんやりと、原田のことを考えていたとき、「千鶴先生」と声をかけられ、ぎょっと振り向いた。
「すまないね、驚かせたかい?」
そこには、井上が手に小さな包みを載せて立っていた。
「巡察後に飴屋の前を通ったので、少し求めたんだ。先生、どうだい?」
井上はいつもこうやって千鶴を思いやってうれる。ありがたく頂戴することにして、二人並んで縁側で飴をなめることとなった。
「わぁ、きれいですねぇ」
桃色と白の縞模様の有平糖が夕陽できらきらひかっている。安いものではないと思うが、それをこうして買ってきてくれるのは、ありがたいことだった。
「何を考えていたんだい?」
「えっ?い、いえ別に・・・。」 そのとき、ふと頭に浮かんだ疑問を井上にぶつけてみた。
「原田先生と永倉先生、藤堂先生は本当な仲がよろしいんですね」
「うん?そうだねぇ。それぞれ個性は相当違うけど、ウマが合うんだろうね、いつも一緒にいるなぁ」
「やはり、腕前も同じくらいなんですか?」
それを聞いて、井上はう~ん、とうなって腕を組んだ。
「それはむつかしい質問だなぁ。原田君は槍の名手だが、永倉君も平助も槍は使わないし・・・。比べようがないね」
「そうですよね・・・」
「でも、剣の腕なら、永倉君が一番だよ」
思わずむせた。
「な、永倉・・・ごほっ、永倉先生、ですか!?」
千鶴の頭の中に、あの永倉の能天気な笑みが浮かぶ。
「うん?千鶴先生はしらなかったかい?永倉君が二番組組長を務めているのは、伊達じゃないよ」
「そう・・・なんですか?」
「総司のお突きもすごいし、斎藤君の居合も一級品だけどね。やはり永倉君が一番の使い手かなぁ。彼は努力の人だよ」
千鶴は口の中で有平糖をとかしながら、努力の人、とつぶやいた。
「疑ってるね、千鶴先生」
ふふ、と笑いながら井上が聞いてくる。
「い、いえ・・・。あまり努力には縁のない方に思えて・・・」
「ははは、彼は剣に関しては誰よりも真剣だよ。そうだ、だまされたと思って、夜道場へ行ってごらん。いいものがみられるよ」
井上が去って一人きりになった後、千鶴は井上が言ったことを思い出していた。 嫁に来いだのなんだのと、いつも馬鹿なことばかり言っている。お酒が大好きで、隊士たちの面倒見もよくて、いつも明るくて・・・ なんだか変な方向に考えが向いてきた。千鶴は立ち上がると、つぶやいた。 「夜の道場、か。」
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