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数日後、千鶴はまた永倉とともに薬の買出しに出ていた。声をかけていいものかどうか迷ったが、いつもと変わらぬよう振舞うことにして、買出しに行くが、と永倉に声をかけると、いつもの微笑を浮かべてついてきてくれたのだ。
だが、道中はぽつぽつとしか話はできず、ついにお互い無言で歩くこととなった。 前から来た男が、永倉を見て慌てたように道を譲る。やはり新撰組の永倉と顔が知られているのだろう。千鶴は永倉の隊務のことを思った。
「先生、なんかごめんな」
永倉の小さな声に、千鶴は我に返り、永倉を見上げた。
「え?何ですか?」
永倉は、まっすぐに前を見ている。
「いや、俺と一緒にいると、先生までこんな風に見られちまうんだな、と思ってさ」
そういわれて、千鶴はあたりを見た。店先でこちらを見ながらひそひそと話す女達、あからさまに眉をひそめて顔をそらす男。
「俺は慣れてるけどよ、先生に迷惑かけちまってるんだな、と思ってさ。やっぱ、新撰組の者と一緒にいるのは・・・」
「なんですか、それ?」
千鶴はあきれたように、永倉を見た。永倉も、千鶴を見返す。
「永倉先生、申し訳ないですけど、以前からこうですよ?永倉先生と歩いていると、皆こういう反応しますし、お茶屋の娘さんも、おっかなびっくりお茶をだしてきますよ?」
二人は立ち止まって、向かい合った。
「永倉先生、どうなさったんです?」
「どうって・・・いや、だったら、先生なんで俺が一緒に来るのを断らなかったんだ?いやだろう、こんな風に・・・」
千鶴は更に混乱したように、首をかしげた。
「私、嫌だとは思いませんでしたよ?永倉先生方は京を守ってくださっていますし、私は皆さんと一緒にお仕事が出来るのを誇りに思っていますし。それに、永倉先生が恐れられているということは、それだけ先生がお強くて、不逞浪士を何人も捕まえてらっしゃるということでしょう?その永倉先生と一緒に歩けて、私は自慢でしたが・・・」
最後のほうは、段々尻切れトンボになっていった。永倉がぽかんと自分を見つめているので、変なことを言ったかと、不安になったのだ。 永倉が、ふふっと笑った。くっくっと笑い続ける。
「え、永倉先生、何ですか?私変なことを申し上げましたか?」
おろおろと永倉の顔を覗き込む千鶴の顔が面白くて、永倉は盛大に噴き出した。
「いや、悪い悪い、そうじゃなくてさ、なんか、俺バカみたいだな、と・・・。はは、俺が勝手に思い込んでたんだな」
「・・・なんだかわかりませんけど、誤解が解けてよかったです・・・?」
永倉は顔を覆っていた手を下ろすと、千鶴ににっこりと微笑んだ。どきん、と千鶴の心臓が跳ねる。 聞いてみようか。お見合い話のことをどう思っているのか、こうして買い物についてきてくれる理由を、聞いてみようか。
「あのっ・・・」
「千鶴さん」
チリッと緊張が走った。振り返ると、三上新三郎が立っている。三上の視線は永倉に向いている。
「千鶴さん、こんなところで奇遇ですね。実は新撰組の屯所へ向かうところでした」
「屯所に・・・?」
千鶴はそっと永倉を見上げた。永倉も鋭い目で三上を見つめている。
「ええ、直接お話したいと思いまして」
三上はまだ永倉を見ている。永倉も三上をゆっくりと眺めた。千鶴は唇をかんでその様子を見ていたが、ついに三上に声を掛けた。
「三上様、せっかくのお話ではございますが、このお話は・・・」
三上が鋭い目で千鶴を見る。びくりと千鶴が一歩下がったところに、永倉が前に出た。
「・・・なんのつもりだ?」
千鶴の姿がほぼ隠れるくらい正面に立った永倉は、三上と真正面に向き合う形になった。
「なんのつもりって言ってもなぁ・・・」
永倉はにやりと笑った。
「女をそんな目つきで睨みつけるような男を、先生に近づけるわけにいかねぇだろうが」
永倉が言うと同時に、三上の手が刀に伸びた。瞬間、永倉が間合いをつめて、どん、と三上にぶつかった。永倉の手は三上の手首を押さえ、二人は至近距離でにらみ合う形になった。
「おいおい・・・こんな往来で抜くのか?上役に知られたら困んじゃねぇのか?もっとも」
必死に刀を抜こうとあがく三上の耳元に口を寄せて、永倉が囁いた。
「どうせ俺に斬られるんだから、後の事なんかどうでもいいか?」
三上は動きを止めて、永倉を見た。永倉は、澄んだ空色の瞳で三上を睨みながら、小さな声で付け加えた。
「人の惚れた女に、手ぇだしてただで済むと思うなよ」
永倉がゆっくりと三上から体を離し、手を離した。三上はじっと永倉を睨んだ後、千鶴に視線を移すと、「また後ほど」と呟いて、去っていった。 小さな声だったけれど、千鶴にははっきりと聞こえたのだ。もう三上の姿は見えないのに、ずっとそっちの方向を見て振り向かない永倉の耳が、はっきりと赤くなっている。
「永倉先生・・・。もしかして、初めて三上様にお会いしたとき、睨んでらっしゃったのは・・・」
永倉はがしがし頭を引っかき、まだあらぬほうを見つめたまま、ぼそぼそと応えた。
「まぁ・・・あいつが先生に好意があるのはまるわかりだったし・・・」
そこまでいって、永倉は慌てた様子で歩き始めた。
「ま、とりあえず今のは忘れてくれ!先生の見合い話は、俺がご破算にしちまったってことで、近藤さんたちに謝っとっからよ!」
そういって、どんどんと歩いていく。千鶴は思わず、永倉の袖をくんっとひっぱった。驚いて振り向く永倉の目に映るのは、俯きながら、しっかりと自分の袖を掴む千鶴の姿。永倉は千鶴の手を掴んで袖から離すと、その手をそのまま掴んで、歩き出した。 往来の人々がものめずらしそうに眺めたが、二人は気にせず、ずっと手をつないで歩いていった。
だが、道中はぽつぽつとしか話はできず、ついにお互い無言で歩くこととなった。 前から来た男が、永倉を見て慌てたように道を譲る。やはり新撰組の永倉と顔が知られているのだろう。千鶴は永倉の隊務のことを思った。
「先生、なんかごめんな」
永倉の小さな声に、千鶴は我に返り、永倉を見上げた。
「え?何ですか?」
永倉は、まっすぐに前を見ている。
「いや、俺と一緒にいると、先生までこんな風に見られちまうんだな、と思ってさ」
そういわれて、千鶴はあたりを見た。店先でこちらを見ながらひそひそと話す女達、あからさまに眉をひそめて顔をそらす男。
「俺は慣れてるけどよ、先生に迷惑かけちまってるんだな、と思ってさ。やっぱ、新撰組の者と一緒にいるのは・・・」
「なんですか、それ?」
千鶴はあきれたように、永倉を見た。永倉も、千鶴を見返す。
「永倉先生、申し訳ないですけど、以前からこうですよ?永倉先生と歩いていると、皆こういう反応しますし、お茶屋の娘さんも、おっかなびっくりお茶をだしてきますよ?」
二人は立ち止まって、向かい合った。
「永倉先生、どうなさったんです?」
「どうって・・・いや、だったら、先生なんで俺が一緒に来るのを断らなかったんだ?いやだろう、こんな風に・・・」
千鶴は更に混乱したように、首をかしげた。
「私、嫌だとは思いませんでしたよ?永倉先生方は京を守ってくださっていますし、私は皆さんと一緒にお仕事が出来るのを誇りに思っていますし。それに、永倉先生が恐れられているということは、それだけ先生がお強くて、不逞浪士を何人も捕まえてらっしゃるということでしょう?その永倉先生と一緒に歩けて、私は自慢でしたが・・・」
最後のほうは、段々尻切れトンボになっていった。永倉がぽかんと自分を見つめているので、変なことを言ったかと、不安になったのだ。 永倉が、ふふっと笑った。くっくっと笑い続ける。
「え、永倉先生、何ですか?私変なことを申し上げましたか?」
おろおろと永倉の顔を覗き込む千鶴の顔が面白くて、永倉は盛大に噴き出した。
「いや、悪い悪い、そうじゃなくてさ、なんか、俺バカみたいだな、と・・・。はは、俺が勝手に思い込んでたんだな」
「・・・なんだかわかりませんけど、誤解が解けてよかったです・・・?」
永倉は顔を覆っていた手を下ろすと、千鶴ににっこりと微笑んだ。どきん、と千鶴の心臓が跳ねる。 聞いてみようか。お見合い話のことをどう思っているのか、こうして買い物についてきてくれる理由を、聞いてみようか。
「あのっ・・・」
「千鶴さん」
チリッと緊張が走った。振り返ると、三上新三郎が立っている。三上の視線は永倉に向いている。
「千鶴さん、こんなところで奇遇ですね。実は新撰組の屯所へ向かうところでした」
「屯所に・・・?」
千鶴はそっと永倉を見上げた。永倉も鋭い目で三上を見つめている。
「ええ、直接お話したいと思いまして」
三上はまだ永倉を見ている。永倉も三上をゆっくりと眺めた。千鶴は唇をかんでその様子を見ていたが、ついに三上に声を掛けた。
「三上様、せっかくのお話ではございますが、このお話は・・・」
三上が鋭い目で千鶴を見る。びくりと千鶴が一歩下がったところに、永倉が前に出た。
「・・・なんのつもりだ?」
千鶴の姿がほぼ隠れるくらい正面に立った永倉は、三上と真正面に向き合う形になった。
「なんのつもりって言ってもなぁ・・・」
永倉はにやりと笑った。
「女をそんな目つきで睨みつけるような男を、先生に近づけるわけにいかねぇだろうが」
永倉が言うと同時に、三上の手が刀に伸びた。瞬間、永倉が間合いをつめて、どん、と三上にぶつかった。永倉の手は三上の手首を押さえ、二人は至近距離でにらみ合う形になった。
「おいおい・・・こんな往来で抜くのか?上役に知られたら困んじゃねぇのか?もっとも」
必死に刀を抜こうとあがく三上の耳元に口を寄せて、永倉が囁いた。
「どうせ俺に斬られるんだから、後の事なんかどうでもいいか?」
三上は動きを止めて、永倉を見た。永倉は、澄んだ空色の瞳で三上を睨みながら、小さな声で付け加えた。
「人の惚れた女に、手ぇだしてただで済むと思うなよ」
永倉がゆっくりと三上から体を離し、手を離した。三上はじっと永倉を睨んだ後、千鶴に視線を移すと、「また後ほど」と呟いて、去っていった。 小さな声だったけれど、千鶴にははっきりと聞こえたのだ。もう三上の姿は見えないのに、ずっとそっちの方向を見て振り向かない永倉の耳が、はっきりと赤くなっている。
「永倉先生・・・。もしかして、初めて三上様にお会いしたとき、睨んでらっしゃったのは・・・」
永倉はがしがし頭を引っかき、まだあらぬほうを見つめたまま、ぼそぼそと応えた。
「まぁ・・・あいつが先生に好意があるのはまるわかりだったし・・・」
そこまでいって、永倉は慌てた様子で歩き始めた。
「ま、とりあえず今のは忘れてくれ!先生の見合い話は、俺がご破算にしちまったってことで、近藤さんたちに謝っとっからよ!」
そういって、どんどんと歩いていく。千鶴は思わず、永倉の袖をくんっとひっぱった。驚いて振り向く永倉の目に映るのは、俯きながら、しっかりと自分の袖を掴む千鶴の姿。永倉は千鶴の手を掴んで袖から離すと、その手をそのまま掴んで、歩き出した。 往来の人々がものめずらしそうに眺めたが、二人は気にせず、ずっと手をつないで歩いていった。
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