《沖田総司の壁ドン》

「あれえ？千鶴ちゃん、こんなところで何してるの？」
廊下の角を曲がったところで、薄笑いを浮かべる沖田と遭遇してしまった。もちろん酒が入っている。普段から千鶴をからかっている沖田が、千鶴をそのまま行かせるはずがなかった。 ずんずんと千鶴のほうへ体を寄席、威嚇するように目の前へ立つ。
「ねぇ、千鶴ちゃん。そのお盆に載ってるのは、お酒だよね？」
蛇に睨まれた蛙。声が出ない。
「徳利が二本に・・・お猪口がふたつ？あれれ？庭ではそりゃもう大勢の隊士たちが花見をしてるのに、これじゃ足りないと思うよ？なんでこれだけなの？」
沖田に威圧され、千鶴は知らず知らずの間に壁に背をつけて身構えてしまった。
「さては、誰か特別な人の分かな？僕に・・・じゃないよね？」
くすくすと笑いながら、両手を千鶴の顔の横につき、顔を覗き込む。
「顔が赤いね。さては図星だね？」
千鶴は自分でも赤面しているのがわかっているので、俯いた。沖田が楽しそうに笑うと、
「よし。千鶴ちゃん、ちょっと僕と遊んでよ・・・」
そういいながら、ゆっくりと顔を近づけていく。
「総司」
男の声に沖田が振り向き、千鶴が男の名前を呼んで沖田のそばをすり抜ける。
「人の女に何手ぇだしてんだ、お前は。」
千鶴を背中に隠すようにすると、男は沖田を睨みつける。
「ちぇっ。いいところで邪魔するんだから。その感の鋭さは獣並みだね」
沖田はそれでも楽しそうに笑うと、二人に手を振って花見へ戻っていった。