棘
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千鶴が屯所に来てからもう1年がたとうとしていた。
(早かったな・・・)
最初は右も左もわからず、強面の男達が恐ろしく、何故悪評高い新撰組の専属医師などなってしまったのだろう、と後悔する日々だったが、少しずつ慣れてくると、隊士たちは意外と優しく、そして一般の人々と変わらぬ人たちでもあった。暑ければ子供のように水遊びをし、雪が降れば雪合戦で大騒ぎ。明日をも知れぬ仕事だからこそ、今の一瞬を大切にしているかのようだった。
まさか隊士達とごろ寝をするわけにもいかず、千鶴の部屋は特別に幹部達の近くに一部屋あてがわれている。結果、幹部達と話す機会も多くなり、今では一緒に外出したり、お茶を飲んで一服することもある。
「で、先生は誰が好きなんだ?」
まったくもって、純真な好奇心です、といった顔で、藤堂が聞いてきた。
「はい?」
何を言い出すんだろうこの人は、とぽかんと藤堂の顔を見つめると、一緒にお茶を飲んでいた沖田や原田が口を挟む。
「そうだね、気になるなぁ。千鶴先生にとっちゃ、選り取り見取りだもんね。周りは男ばっかり」
「千鶴、誰か気になる奴がいんのか?」
「はい?」
「俺は近藤さんなんかいいと思うぜ!何しろ包容力って点では一番だろ!」
「だ~め、近藤さんは僕のものだからね」
「総司、気持ち悪いぜ・・・」
「あの?」
千鶴を無視して話は続く。 ふぅ、とため息をついてふと目をそらすと、離れた廊下を行く人影が見えた。 (あれは・・・) 土方さんはどうだ、いっそ俺で、などと喧々囂々とやり合う三人を置いて、千鶴はそっとその場を離れ、人影が去った方へ足を向けた。 庭へおりるため下駄を履き、除いてみると、井戸端にいるのはやはり・・・
「永倉先生?」
振り返った永倉は、左手で右手を押さえている。指の間から、水で薄まった血がぽたんと落ちた。
「永倉先生!?」
慌てて駆け寄る千鶴に永倉はにかっと笑いかけた。
「おいおい、あんまり慌てっと、こけちまうぞ。大した事ねぇよ、稽古中に竹刀が折れちまって、ちょっと切っちまっただけだって」
「竹刀でって・・・。ちょっと、見せて下さい」
桶からそっと水をかけると、切れている箇所はそれほどでもない。水で濡れた血が大げさに見えただけだろう。
「あっ・・・これ、棘じゃないですか?」
「んん?」
陽の光でよく見ると、確かに細い棘が中指の腹に刺さっていた。
「ああ、こんなもん、大した事ねぇよ。ほっときゃ自然と治るって」
そういって手ぬぐいで手を拭いて笑う永倉を、千鶴は真剣な顔で押し留めた。
「だめです!こういったところから膿んで、熱を持ったりしますから。治療室に来てください、棘を抜いてしまわないと!」
一生懸命話す千鶴を永倉はしばらく見つめると、ぷっと吹き出して、わかったわかった、と笑い出した。
「そんなに一生懸命にいわれちゃ、行かないわけにいかねぇよな!」
そして、治療室へ向かって歩き出した。 治療室に着くと、千鶴は永倉に陽の当たる場所へ座るように言い、棚から毛抜きを取り出した。
「じゃ、棘を抜きますね・・・」
振り返ったとき、永倉は障子にもたれ、庭を眺めていた。いつものようにからからと笑う永倉ではなく、落ち着いた様子で、少し微笑を浮かべて外を眺めている。 (あれ?なんだか・・・) 千鶴の心臓がとくんとはねた。 (いつもと、印象が・・・) 永倉が千鶴に気づき、顔を向けた。
「ああ、じゃぁ頼むぜ」
優しい笑顔のまま言われ、千鶴は急に落ち着かなくなり、慌てて永倉の前に座った。
「じゃ、じゃぁ、えっと、そうだ、手を!手をお貸しください!」
「・・・どうしたんだ、千鶴先生?」
そういいながら、永倉が手を差し出す。 (で、先生は誰が好きなんだ?) 先ほどの藤堂の質問が頭に浮かぶ。 (なんで急に思い出すの!?) 目の前には、差し出された永倉の手がある。 落ち着こうと、そっぽを向いて永倉の手を取る。
「千鶴先生よ・・・大丈夫か?」
「大丈夫です!はい、大丈夫!」
いざ毛抜きで棘を抜こうとすると、端が埋もれてしまって、抜くことが出来ない。針を消毒して、それで引っ掛けるようにしたら・・・。千鶴は治療に集中し、一時永倉のことを忘れた。
「・・・っはい!やっと抜けました・・・」
顔を上げると、すぐそばに永倉の顔があった。
「おっありがとうな。以外と太いのが刺さってたんだな」
にっこり笑う永倉の顔に、思わず固まる。
「・・・先生よ。なんか、本当に大丈夫か?」
ふと我に返ると、永倉の手を握り、永倉の顔を見つめる自分に気がついた。
「ひゃあぁ!」
叫ぶと同時に、握っていた永倉の手を投げ出した。
「痛てぇ!な、何だよ先生!何なんだってんだよ!」
どたばたと、廊下を走る音がする。
「千鶴先生、大丈夫・・・新ぱっつあん?先生に何したんだよ!?」
「何にもしてねぇよ!」
「あの、な、永倉先生は何も・・・!」
「永倉君、一体何事だ!?」
「源さんまで、何だよ!?」
俺はなんにもしてねぇ!と喚く永倉を、皆が引きずるように連れて行った。 千鶴は永倉の手を掴んでいた自分の手を胸にあて、ずるずるぺたん、と畳に座った。 遠くから永倉とみんなのやり合う声が聞こえてくる。
(で、先生は誰が好きなんだ?)
やっぱり、そういうこと・・・なのかなぁ・・・。 永倉が、遠くから助けを呼んでいる。千鶴は一呼吸してから、「すみません!誤解なんです!」と叫んで、永倉の元へ走っていった。
(早かったな・・・)
最初は右も左もわからず、強面の男達が恐ろしく、何故悪評高い新撰組の専属医師などなってしまったのだろう、と後悔する日々だったが、少しずつ慣れてくると、隊士たちは意外と優しく、そして一般の人々と変わらぬ人たちでもあった。暑ければ子供のように水遊びをし、雪が降れば雪合戦で大騒ぎ。明日をも知れぬ仕事だからこそ、今の一瞬を大切にしているかのようだった。
まさか隊士達とごろ寝をするわけにもいかず、千鶴の部屋は特別に幹部達の近くに一部屋あてがわれている。結果、幹部達と話す機会も多くなり、今では一緒に外出したり、お茶を飲んで一服することもある。
「で、先生は誰が好きなんだ?」
まったくもって、純真な好奇心です、といった顔で、藤堂が聞いてきた。
「はい?」
何を言い出すんだろうこの人は、とぽかんと藤堂の顔を見つめると、一緒にお茶を飲んでいた沖田や原田が口を挟む。
「そうだね、気になるなぁ。千鶴先生にとっちゃ、選り取り見取りだもんね。周りは男ばっかり」
「千鶴、誰か気になる奴がいんのか?」
「はい?」
「俺は近藤さんなんかいいと思うぜ!何しろ包容力って点では一番だろ!」
「だ~め、近藤さんは僕のものだからね」
「総司、気持ち悪いぜ・・・」
「あの?」
千鶴を無視して話は続く。 ふぅ、とため息をついてふと目をそらすと、離れた廊下を行く人影が見えた。 (あれは・・・) 土方さんはどうだ、いっそ俺で、などと喧々囂々とやり合う三人を置いて、千鶴はそっとその場を離れ、人影が去った方へ足を向けた。 庭へおりるため下駄を履き、除いてみると、井戸端にいるのはやはり・・・
「永倉先生?」
振り返った永倉は、左手で右手を押さえている。指の間から、水で薄まった血がぽたんと落ちた。
「永倉先生!?」
慌てて駆け寄る千鶴に永倉はにかっと笑いかけた。
「おいおい、あんまり慌てっと、こけちまうぞ。大した事ねぇよ、稽古中に竹刀が折れちまって、ちょっと切っちまっただけだって」
「竹刀でって・・・。ちょっと、見せて下さい」
桶からそっと水をかけると、切れている箇所はそれほどでもない。水で濡れた血が大げさに見えただけだろう。
「あっ・・・これ、棘じゃないですか?」
「んん?」
陽の光でよく見ると、確かに細い棘が中指の腹に刺さっていた。
「ああ、こんなもん、大した事ねぇよ。ほっときゃ自然と治るって」
そういって手ぬぐいで手を拭いて笑う永倉を、千鶴は真剣な顔で押し留めた。
「だめです!こういったところから膿んで、熱を持ったりしますから。治療室に来てください、棘を抜いてしまわないと!」
一生懸命話す千鶴を永倉はしばらく見つめると、ぷっと吹き出して、わかったわかった、と笑い出した。
「そんなに一生懸命にいわれちゃ、行かないわけにいかねぇよな!」
そして、治療室へ向かって歩き出した。 治療室に着くと、千鶴は永倉に陽の当たる場所へ座るように言い、棚から毛抜きを取り出した。
「じゃ、棘を抜きますね・・・」
振り返ったとき、永倉は障子にもたれ、庭を眺めていた。いつものようにからからと笑う永倉ではなく、落ち着いた様子で、少し微笑を浮かべて外を眺めている。 (あれ?なんだか・・・) 千鶴の心臓がとくんとはねた。 (いつもと、印象が・・・) 永倉が千鶴に気づき、顔を向けた。
「ああ、じゃぁ頼むぜ」
優しい笑顔のまま言われ、千鶴は急に落ち着かなくなり、慌てて永倉の前に座った。
「じゃ、じゃぁ、えっと、そうだ、手を!手をお貸しください!」
「・・・どうしたんだ、千鶴先生?」
そういいながら、永倉が手を差し出す。 (で、先生は誰が好きなんだ?) 先ほどの藤堂の質問が頭に浮かぶ。 (なんで急に思い出すの!?) 目の前には、差し出された永倉の手がある。 落ち着こうと、そっぽを向いて永倉の手を取る。
「千鶴先生よ・・・大丈夫か?」
「大丈夫です!はい、大丈夫!」
いざ毛抜きで棘を抜こうとすると、端が埋もれてしまって、抜くことが出来ない。針を消毒して、それで引っ掛けるようにしたら・・・。千鶴は治療に集中し、一時永倉のことを忘れた。
「・・・っはい!やっと抜けました・・・」
顔を上げると、すぐそばに永倉の顔があった。
「おっありがとうな。以外と太いのが刺さってたんだな」
にっこり笑う永倉の顔に、思わず固まる。
「・・・先生よ。なんか、本当に大丈夫か?」
ふと我に返ると、永倉の手を握り、永倉の顔を見つめる自分に気がついた。
「ひゃあぁ!」
叫ぶと同時に、握っていた永倉の手を投げ出した。
「痛てぇ!な、何だよ先生!何なんだってんだよ!」
どたばたと、廊下を走る音がする。
「千鶴先生、大丈夫・・・新ぱっつあん?先生に何したんだよ!?」
「何にもしてねぇよ!」
「あの、な、永倉先生は何も・・・!」
「永倉君、一体何事だ!?」
「源さんまで、何だよ!?」
俺はなんにもしてねぇ!と喚く永倉を、皆が引きずるように連れて行った。 千鶴は永倉の手を掴んでいた自分の手を胸にあて、ずるずるぺたん、と畳に座った。 遠くから永倉とみんなのやり合う声が聞こえてくる。
(で、先生は誰が好きなんだ?)
やっぱり、そういうこと・・・なのかなぁ・・・。 永倉が、遠くから助けを呼んでいる。千鶴は一呼吸してから、「すみません!誤解なんです!」と叫んで、永倉の元へ走っていった。
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