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三条橋に着くと、隊士達を配置すると、永倉と原田は川の近くの旅館に隠れ、浪士たちがくるのをまった。 灯りをつけず、暗闇の中原田と無言で佇む。原田の息遣いが聞こえるのみだ。永倉は、目の前にしゃがむ戦友の背中を見つめた。鍛えぬいた体に似合わず、人の心を読み取り、思いやることが出来る繊細な心を持った男だ。千鶴が好きになるのも納得だ。だが、原田のほうはどうなんだろう。相変わらず時折島原へ遊びに出ている。千鶴を残して。千鶴とは男女の仲だろうに。
ふと、以前見た二人の様子を思い出した。早朝二人で木陰から出てきた姿。千鶴と、着物の着崩れた原田。自分をあざ笑うように見ていた三猿。 永倉は、目の前の戦友の背中を、見つめた。 原田も、わかっているのだろう。 永倉の殺気を感じ取り、身じろぎしない。原田からも、殺気がほとばしっている。どちらかが少しでも動けば、躊躇無く斬り合いになるだろう。
どれほどそうしていたのか。
ふ、と永倉の力が抜けた。 俺がどうあがいたって、千鶴ちゃんが選んだのは左之なんだからな・・・。 永倉からの殺気が消えたのを受けて、原田も力を抜いた。そのままお互い無言でいたところへ、闇に隠れるように数人の浪士たちが制札へ近寄るのが見えた。打ち合わせどおり、永倉が銃を合図としてうち、四方から新撰組隊士たちがおどりかかる。驚いた浪士たちはほとんどが逃げたが、逃げ損ねた一人が大刀を抜いて戦っている。窮鼠猫を噛むのことわざどおり、隊士数人を切りつけ、突破口を開こうとする。 浪士の前に立ちふさがったのは、永倉と原田だった。 向かってくる浪士を相手に戦いながら、永倉は今更ながら、原田との戦いがいかに心地よいかを確信していた。
原田が次にどうでるかがわかる。原田もまた、永倉に背中を預けて、戦っている。 半時後、隊士たちの見守る中、ついに浪士を倒した二人は、しばらく無言で立ち尽くした。どちらからとも無く、にやりと笑いあう。 そうだな。 永倉は思った。 左之が相手なら、千鶴ちゃんのことは、あきらめられるな。
「左之、帰ろうぜ」
永倉は以前の太陽のような笑みを原田へ向けた。
寝ずに待っていた千鶴は、隊士たちの手当てに追われた。怪我の重いものから診て行き、残ったのは永倉と原田である。
「俺はいいぜ。山崎がそろそろ空いただろ、山崎にみてもらう」
そういって、診療所をでようとする。
「何言ってんだ、左之。お前が出てってどうするよ。お邪魔虫の俺が出てくぜ」
永倉がそういって立ち上がったとき、原田がゆっくりと振り返った。
「新八、前から言おうと思ってたんだけどよ。勘違いしてるぜ、お前」
何だ?と永倉がつぶやいたとき、千鶴が診療所に戻ってきた。
「伊藤さんはお部屋にお戻りになりました。それでは、お二人のお手当てをさせてください」
そういう千鶴に、原田がいう。
「ああ、俺はいいんだ。新八を診てやってくれ」
「えっ?でも、原田先生もお怪我を・・・」
「永倉のほうが、いいだろ?」
そういうと、原田は千鶴ににやりと笑うと、永倉に「ゆっくり診て貰え」といって、出て行った。 二人残され、所在無げに立ち尽くしていたが、とりあえず、治療を・・・と千鶴が声をかけ、永倉を座らせた。 左之のやつ、何を言ってたんだ? そう思いながら隊服を脱いだとき、永倉はふと気がついた。切られてほころびた部分から、何か覗いている。見ると、白い布に、赤い糸で結び目がたくさん付けられたものが、縫いこんであった。
「なんだ?こりゃ。こんなもん前からあったかな?」
つぶやく永倉が千鶴を見ると、真っ赤になって慌てている。
「どうした、千鶴ちゃん。あれ、ここってこないだ千鶴ちゃんが繕ってくれたところか?これ、千鶴ちゃんが縫い付けたのか?」
「すっすみません、あの、私がしました!」
「いや、怒ってんじゃねぇけどよ。こりゃ一体なんだ?」
しばらく言いにくそうにしていた千鶴が、小声で言った。
「私のいた・・・ところの、お守りです。千人針といって、女の人が赤い糸で結び目を千個作ったものを持っていると、怪我をしないと・・・。慌てていたのでさすがに千人もの女性にお願いすることは出来なかったので、私が全部やったんですけど・・・」
永倉は、縫い付けられた布と、千鶴を交互に見た。
「お守りか・・・ありがたいけど、なんで俺に?左之にもちゃんとやったのか?」
ぱっと顔を上げて、千鶴は慌てていった。
「あの、以前から原田先生のことをおっしゃいますが、何故ですか?私と原田先生は、別に、その・・・何も・・・」
永倉は、三猿を思い出した。
「でもよ・・・俺、見たぜ?二人が早朝に・・・一緒にいるのを。それに」
左之が、千鶴ちゃんに口付けてたろ?三猿の嗤い声が聞こえてくる。
「原田先生は、色々相談に乗ってくださってて・・・。あの、もういいんです、それもあとで取っておきますから。すみません勝手なことをして」
そういいながら、俯いて治療の準備をする。千鶴は情けなさと恥ずかしさで涙を浮かべていた。永倉への想いを封じ込めようとしているのに、まったく逆のことをしている自分がいる。しかも、永倉の様子では、自分と原田のことを勘違いしていて、更にそれを何とも思っていないようだ。 恥ずかしい。想いを隠すも何も、永倉は自分のことをなんとも思っていないのだ。
「お待たせしました。傷を見せて・・・」
永倉が、千鶴の手を握った。
「先生。左之は、俺の戦友なんだ」
永倉の意図がわからないまま、千鶴はゆっくりと頷いた。
「あいつとなら、俺はどれだけでも戦える。何の疑いも無く、背中を預けられる。親友だからな」
自分の手を握る手の熱さを感じながら、千鶴は再度頷く。
「左之は・・・多分、千鶴ちゃんが好きだ」
口を開こうとした千鶴を制して、永倉は続けた。
「俺は、千鶴ちゃんも左之の事がすきなんだと思ってた。でも」
片手で、隊服を持ち上げる。
「こうしてお守りを俺にくれるってことは、左之とは、何にもないんだな」
永倉が、千鶴を見る。
「・・・期待して、いいのかな」
見ざる、言わざる、聞かざる。 未来から来たなんて、言えないのに。言えないけど。でも。
「はい」
小さく、だがしっかりと頷いた千鶴に、嬉しそうに微笑んで、永倉は千鶴を抱きしめた。
ふと、以前見た二人の様子を思い出した。早朝二人で木陰から出てきた姿。千鶴と、着物の着崩れた原田。自分をあざ笑うように見ていた三猿。 永倉は、目の前の戦友の背中を、見つめた。 原田も、わかっているのだろう。 永倉の殺気を感じ取り、身じろぎしない。原田からも、殺気がほとばしっている。どちらかが少しでも動けば、躊躇無く斬り合いになるだろう。
どれほどそうしていたのか。
ふ、と永倉の力が抜けた。 俺がどうあがいたって、千鶴ちゃんが選んだのは左之なんだからな・・・。 永倉からの殺気が消えたのを受けて、原田も力を抜いた。そのままお互い無言でいたところへ、闇に隠れるように数人の浪士たちが制札へ近寄るのが見えた。打ち合わせどおり、永倉が銃を合図としてうち、四方から新撰組隊士たちがおどりかかる。驚いた浪士たちはほとんどが逃げたが、逃げ損ねた一人が大刀を抜いて戦っている。窮鼠猫を噛むのことわざどおり、隊士数人を切りつけ、突破口を開こうとする。 浪士の前に立ちふさがったのは、永倉と原田だった。 向かってくる浪士を相手に戦いながら、永倉は今更ながら、原田との戦いがいかに心地よいかを確信していた。
原田が次にどうでるかがわかる。原田もまた、永倉に背中を預けて、戦っている。 半時後、隊士たちの見守る中、ついに浪士を倒した二人は、しばらく無言で立ち尽くした。どちらからとも無く、にやりと笑いあう。 そうだな。 永倉は思った。 左之が相手なら、千鶴ちゃんのことは、あきらめられるな。
「左之、帰ろうぜ」
永倉は以前の太陽のような笑みを原田へ向けた。
寝ずに待っていた千鶴は、隊士たちの手当てに追われた。怪我の重いものから診て行き、残ったのは永倉と原田である。
「俺はいいぜ。山崎がそろそろ空いただろ、山崎にみてもらう」
そういって、診療所をでようとする。
「何言ってんだ、左之。お前が出てってどうするよ。お邪魔虫の俺が出てくぜ」
永倉がそういって立ち上がったとき、原田がゆっくりと振り返った。
「新八、前から言おうと思ってたんだけどよ。勘違いしてるぜ、お前」
何だ?と永倉がつぶやいたとき、千鶴が診療所に戻ってきた。
「伊藤さんはお部屋にお戻りになりました。それでは、お二人のお手当てをさせてください」
そういう千鶴に、原田がいう。
「ああ、俺はいいんだ。新八を診てやってくれ」
「えっ?でも、原田先生もお怪我を・・・」
「永倉のほうが、いいだろ?」
そういうと、原田は千鶴ににやりと笑うと、永倉に「ゆっくり診て貰え」といって、出て行った。 二人残され、所在無げに立ち尽くしていたが、とりあえず、治療を・・・と千鶴が声をかけ、永倉を座らせた。 左之のやつ、何を言ってたんだ? そう思いながら隊服を脱いだとき、永倉はふと気がついた。切られてほころびた部分から、何か覗いている。見ると、白い布に、赤い糸で結び目がたくさん付けられたものが、縫いこんであった。
「なんだ?こりゃ。こんなもん前からあったかな?」
つぶやく永倉が千鶴を見ると、真っ赤になって慌てている。
「どうした、千鶴ちゃん。あれ、ここってこないだ千鶴ちゃんが繕ってくれたところか?これ、千鶴ちゃんが縫い付けたのか?」
「すっすみません、あの、私がしました!」
「いや、怒ってんじゃねぇけどよ。こりゃ一体なんだ?」
しばらく言いにくそうにしていた千鶴が、小声で言った。
「私のいた・・・ところの、お守りです。千人針といって、女の人が赤い糸で結び目を千個作ったものを持っていると、怪我をしないと・・・。慌てていたのでさすがに千人もの女性にお願いすることは出来なかったので、私が全部やったんですけど・・・」
永倉は、縫い付けられた布と、千鶴を交互に見た。
「お守りか・・・ありがたいけど、なんで俺に?左之にもちゃんとやったのか?」
ぱっと顔を上げて、千鶴は慌てていった。
「あの、以前から原田先生のことをおっしゃいますが、何故ですか?私と原田先生は、別に、その・・・何も・・・」
永倉は、三猿を思い出した。
「でもよ・・・俺、見たぜ?二人が早朝に・・・一緒にいるのを。それに」
左之が、千鶴ちゃんに口付けてたろ?三猿の嗤い声が聞こえてくる。
「原田先生は、色々相談に乗ってくださってて・・・。あの、もういいんです、それもあとで取っておきますから。すみません勝手なことをして」
そういいながら、俯いて治療の準備をする。千鶴は情けなさと恥ずかしさで涙を浮かべていた。永倉への想いを封じ込めようとしているのに、まったく逆のことをしている自分がいる。しかも、永倉の様子では、自分と原田のことを勘違いしていて、更にそれを何とも思っていないようだ。 恥ずかしい。想いを隠すも何も、永倉は自分のことをなんとも思っていないのだ。
「お待たせしました。傷を見せて・・・」
永倉が、千鶴の手を握った。
「先生。左之は、俺の戦友なんだ」
永倉の意図がわからないまま、千鶴はゆっくりと頷いた。
「あいつとなら、俺はどれだけでも戦える。何の疑いも無く、背中を預けられる。親友だからな」
自分の手を握る手の熱さを感じながら、千鶴は再度頷く。
「左之は・・・多分、千鶴ちゃんが好きだ」
口を開こうとした千鶴を制して、永倉は続けた。
「俺は、千鶴ちゃんも左之の事がすきなんだと思ってた。でも」
片手で、隊服を持ち上げる。
「こうしてお守りを俺にくれるってことは、左之とは、何にもないんだな」
永倉が、千鶴を見る。
「・・・期待して、いいのかな」
見ざる、言わざる、聞かざる。 未来から来たなんて、言えないのに。言えないけど。でも。
「はい」
小さく、だがしっかりと頷いた千鶴に、嬉しそうに微笑んで、永倉は千鶴を抱きしめた。
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