策
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そんなある日、千鶴は文を受け取った。緊急の患者を診て欲しいとの依頼だった。いつもなら誰かについてきてもらうが、もうそんなことを頼める相手はいなかった。千鶴は自分で重い診療箱を抱え、迎えのものと共に屯所を出た。
幸い怪我自体はそれほど手当ての難しいものではなく、夕刻には千鶴は謝礼をもらって家を出た。
帰りたくない・・・。
暗澹たる思い出足は自然と重く、千鶴は回り道をしながら、夕暮れの中を歩いていた。ふと気がつくと、あたりの景色に見覚えが無い。道に迷ったことに気づき、慌てて京都の通りを覚えるための歌を思い出した。
まるたけえびすに、おしおいけ・・・
日がだいぶ傾いている。人通りもなく千鶴は途方にくれた。
ろくじょうしちちょうとおりすぎ・・・
もうだめだ、どこかで駕籠を拾えるだろうか、と辺りを見回したとき、
「先生!」
懐かしい声がした。 通りの向こうから、隊服をはためかして、永倉が走ってくる。道に迷った不安感と、今までの孤独感が一気に爆発し、千鶴は涙をとめることができず、永倉に向かって走り出した。
「先生、どうしたんだよ、道に迷ったのか!?」
永倉の胸に飛び込んで、ただ泣き続ける。永倉は千鶴の背中をなでながら千鶴が落ち着くのを待つと、帰ろう、と言って診療箱を持ち上げた。 先を歩く永倉の後ろを歩く千鶴の気持ちは複雑だった。以前なら、永倉との間の沈黙はむしろ心地よいものだった。だが、今は怖い。永倉が何を考えているのかがわからない。そして、以前なら、こうしたときには手をつないでくれた。今は、ただ黙って前を歩くだけだ。千鶴はとぼとぼと、永倉の後ろを歩き続けた。 屯所が近づいてきたころ、永倉が足を止めた。
「あー・・・えっとよ、先生」
永倉は、空いた手で髪をガシガシとかきまわしている。永倉の困ったときの癖だ。
「ちょっと最近、先生おかしくねぇか?隊士の間でも、話題になってる。先生がなんでそんなにお鹿を嫌うのかわかんねぇけど、あいつもそんなには・・・」
「新八」
原田が、立っていた。原田も千鶴を探していたのだろう、汗をかいて、少し紅い髪が額に張り付いて、肩で息をしている。
「先生は、俺が屯所へつれて帰る」
いうなり、原田は千鶴の腕を取った。
「おい、なんだよ左之。俺・・・」
原田が、永倉の襟元をつかんだ。
「見てわかんねぇのか、バカが」
言われた永倉は千鶴を見て、押し黙った。 千鶴は唇をかんで、大粒の涙を流していた。嗚咽がもれ、千鶴は両手で口を覆い、屯所へゆっくりと歩き始めた。原田に突き飛ばすように襟を離された永倉は、数歩後ろへよろめいた。原田は最後にもう一度永倉を睨むと、千鶴の肩へ手を回して、一緒に歩いていった。
千鶴は、次の日に屯所を出た。
幸い怪我自体はそれほど手当ての難しいものではなく、夕刻には千鶴は謝礼をもらって家を出た。
帰りたくない・・・。
暗澹たる思い出足は自然と重く、千鶴は回り道をしながら、夕暮れの中を歩いていた。ふと気がつくと、あたりの景色に見覚えが無い。道に迷ったことに気づき、慌てて京都の通りを覚えるための歌を思い出した。
まるたけえびすに、おしおいけ・・・
日がだいぶ傾いている。人通りもなく千鶴は途方にくれた。
ろくじょうしちちょうとおりすぎ・・・
もうだめだ、どこかで駕籠を拾えるだろうか、と辺りを見回したとき、
「先生!」
懐かしい声がした。 通りの向こうから、隊服をはためかして、永倉が走ってくる。道に迷った不安感と、今までの孤独感が一気に爆発し、千鶴は涙をとめることができず、永倉に向かって走り出した。
「先生、どうしたんだよ、道に迷ったのか!?」
永倉の胸に飛び込んで、ただ泣き続ける。永倉は千鶴の背中をなでながら千鶴が落ち着くのを待つと、帰ろう、と言って診療箱を持ち上げた。 先を歩く永倉の後ろを歩く千鶴の気持ちは複雑だった。以前なら、永倉との間の沈黙はむしろ心地よいものだった。だが、今は怖い。永倉が何を考えているのかがわからない。そして、以前なら、こうしたときには手をつないでくれた。今は、ただ黙って前を歩くだけだ。千鶴はとぼとぼと、永倉の後ろを歩き続けた。 屯所が近づいてきたころ、永倉が足を止めた。
「あー・・・えっとよ、先生」
永倉は、空いた手で髪をガシガシとかきまわしている。永倉の困ったときの癖だ。
「ちょっと最近、先生おかしくねぇか?隊士の間でも、話題になってる。先生がなんでそんなにお鹿を嫌うのかわかんねぇけど、あいつもそんなには・・・」
「新八」
原田が、立っていた。原田も千鶴を探していたのだろう、汗をかいて、少し紅い髪が額に張り付いて、肩で息をしている。
「先生は、俺が屯所へつれて帰る」
いうなり、原田は千鶴の腕を取った。
「おい、なんだよ左之。俺・・・」
原田が、永倉の襟元をつかんだ。
「見てわかんねぇのか、バカが」
言われた永倉は千鶴を見て、押し黙った。 千鶴は唇をかんで、大粒の涙を流していた。嗚咽がもれ、千鶴は両手で口を覆い、屯所へゆっくりと歩き始めた。原田に突き飛ばすように襟を離された永倉は、数歩後ろへよろめいた。原田は最後にもう一度永倉を睨むと、千鶴の肩へ手を回して、一緒に歩いていった。
千鶴は、次の日に屯所を出た。