宮野さんのところ、もとい、阿笠博士のお宅を訪ねると事前に花音が電話をしていたがとてつもなく驚いていた。
勿論二人とも。
「本当に花音なの？」
「そうだよ、志保。志保が哀だった時はこういう視線だったんだねぇ。」
「何呑気な事言ってんのよ。ていうか、なんで貴方がついていながらこうなったわけ？」
　志保さんは俺に鋭い眼力を向けてきた。
“赤い血が流れている”と言ってくれた時の先生と同じ表情だな、とどこか頭の中で遠い記憶を思い出す。
「す、すみません。」
「志保、あんまり零さんのこと責めないでよ。私の不注意だと思うし。」
　ちっさい彼女が上目遣い（多分わざとやってる）で志保さんに言うと、志保さんはため息を吐いて俺から彼女に向き直る。
「一応聞くけど、組織の関係者に会ったりした？」
「してない。」
「何か人からもらったものを食べたりは？」
「んー、してないかな。最近は受験勉強で忙しくて寄り道とか買い食いとかもしてないよ。」
　そういえば花音は今高校三年で大学は東都大学受けるんだったか。
俺がポアロにいた時はポアロに勉強かねてよく来てたけど今は家で勉強したり、図書館に通っているらしい。
以前よりは俺も時間が出来たため、たまに彼女の苦手教科を教えたりしている。
「そう。なら私たちみたいに薬で小さくなったわけじゃないのかも。一回検査するからついてきて。…降谷さんは博士とここにいて。」
「…はい。」
　ちっさい花音は志保さんの後ろをトコトコと追いかけて行った。
「…なんだか花音君の小さかった頃を思い出すのぉ。」
　しみじみ、といった風に阿笠博士が言う。
「小さかった頃の彼女はどんな女の子だったんですか？　彼女のおじいさまやおばあさまからはたまにお聞きするんですが。」
　なんせお二人は大阪に住んでいるからそこまで頻繁に会いに行けるわけではない。
「いつも彼女のお父さんの後ろを今のようにトコトコついて回っておったよ。勿論仕事が忙しい人じゃったから時には新一の家や蘭君の家に預けられてたが。彼女があれくらいの時はお父さんの事をパパと呼んでたのぉ。」
　だから彼女はさっきパパと呼んできたのだろうか。
普段彼女が父親の話をするときは父さんと呼んでいる。
「…とても可愛かったでしょうね。」
　何せ見た目はあのままで、そこに子ども特有の純粋さが入ったらそれこそペド気質なんて絶っっっっ対無い俺でも悶えるレベルだ。
「そりゃあのう。信悟君もいっつも自慢しておったよ。」
「…僕には本当に勿体ないな。」
　ボソッと呟いたが、阿笠博士には聞こえていたようだ。
「前に彼女も同じことを言っておった。まぁ、儂というよりは志保君にじゃがな。儂からしたらお似合いじゃよ。まぁその辺は彼女の祖父母のほうが言っておると思うけどな。彼女のおばあさんは儂の友人に当たるのでな。」
「ありがとうございます。」
　確かに、彼女のおばあさまと阿笠博士はどこか似た雰囲気がある。
「検査、終わったよ！　今志保が色々調べてくれてる。」
　志保さんの部屋からいつもの太陽のような笑顔を浮かべながら彼女はまたトコトコと走ってきた。