いつも聞こえる階段を降りる音よりも小さい音が聞こえ、彼女が降りてきたことを悟る。
「朝ご飯、和食でよかったか？」
「うん、ありがとう。取り敢えず蘭に学校休むこと伝えて、新一にちっさくなったこと伝えたら今すぐ駆けつけ様な勢いだったけど、零さんがいるから大丈夫って伝えちゃったけど、これで大丈夫？」
「あぁ。後で宮野さんのところへ行こうか。彼女ならどうにかしてくれるはずだし。」
　初恋の先生の娘さんである宮野志保さん。
組織が壊滅するまで俺の手で殺してしまったも同然だと思っていたがコナン君改め新一君や目の前でご飯を食べている彼女の策で生きていてくれた、初恋の人の大切な娘さん。
「確かに志保なら助けてくれそうだね！　…会えるの、楽しみ？」
「まぁね。組織が壊滅してから一度会った時には警戒されていたから。彼女が生まれてくる前からこっちは知っていたのに。」
「しょうがないよ。あんな出会いじゃ。私だって先生とのことがあってすんごい警戒してたの知ってるでしょ。それに父さんから見た目すら優しく見える男には気をつけろって言われてたから。」
　彼女にも警戒されていた時のことを思い出して思わず苦笑が零れる。
正直あの時は俺も彼女のことを警戒していたのだ。
「悪いな、どうせ大人げなくいじめてたよ。食べ終わったらすぐ出るからな。」
「はーい！」
　見た目が小さいからというのもあるんだろうけど、本当に子どもを相手してる気分になってきた。
…彼女との間に将来子どもが出来たらこんな子になるんだろうか。
彼女に知られたら笑われそうだから黙っておくけど。
「そういえばよく子ども服なんてあったな。」
「あぁ、それはよく私おばあちゃんが服を作ってくれたり、父さんが大量に服を買ってくれたりしたんだよ。でも私服あげるような女の子身近にいなかったから。志保にあげたりはしてたけどそれでもまだまだあったんだよ。」
　彼女の現在の外見はぱっと見6.7歳前後で、それこそ宮野さんや新一君が小さくなっていたころと同じくらいだ。
「…なぁ、俺同業者に捕まらないか…？」
「それはペドフィリア的な意味で？　まぁ、大丈夫じゃない？　私がパパとか呼んでれば顔の似ない親子に見えるでしょうし、最悪零さんならどうにかするでしょ。」
　ちっさい彼女の口からペドフィリアなんて単語聞きたくなかったが、その後のパパを聞いて思わず胸元をグッと抑えてしまった。
「…パパ！　ご馳走様でした！」
　ニコニコと、いや、この場合ニヤニヤか。
とにかくこちらを見てくる彼女は何か確信を得たようだ。
「…その顔でパパっていうのやめろ。」
「その割に嬉しそうに頬が緩んでますけどね。トリプルフェイスの降谷零さんはどこへやら。まぁ、どうせここから出たらパパって呼ばなきゃでしょ。この姿で零さんなんて呼んだらそれこそ職質されちゃう。だから、将来の予行演習兼ねつつパパって呼ぶね。パパ！」
　どうやら俺の考えていることはお見通しだったようだ。
この確信犯め。
「食器洗っておくから歯磨いておいで。」
「食器くらい私洗うよ。」
　そういって彼女は椅子から降りる。
「花音、今の自分の背丈分かってるのか？　俺の腰よりも少しは高いけどその背丈でこれは届かないだろう。」
　彼女は食器を持ったまま案の定シンクの前で立ち尽くしている。
「…ごめんなさい。食器お願いします。」
「はいはい。」
　食器を洗い終えると同時に彼女が何かを持って戻ってきた。
「零さん、髪の毛縛ってくれない？」
「いつも自分でやってなかったか？」
「まぁ、そうなんだけどね。これも予行演習ってことで！」
　なんだか見た目年齢通りに甘えてくる目の前の彼女が本当に将来の自分の娘のように思えてきてしまう。
俺ももう色々末期だな。
「…ねえ、零さんなんでこんなに器用なの？」
　テレビとかでよく見る子役のような髪型に花音がこちらへ疑いの目を向ける。
「よく君が俺の隣でやってるの見てたからな。実際にやってみるのは初めてだったけど上手くできてよかったよ。」
「そういうこと。ありがとう。」
　髪の毛もしばったことだしと彼女に手を差し出す。
「ほら、そろそろ宮野さんのとこ行くぞ。」
「うん！」
　手をつないで歩きだすと、歩幅までいつもと違って本当にちっさくなったんだな、と思う。
「…あ、零さん、靴が無い！」
「あ、本当だ。」
　冷静にすべて対処したように思えたがどうやら思っていたより俺自身もパニックだったらしい。