朝、仕事に行く前に彼女の様子を見に行くことが増えてきたこの頃。
彼女は放っておくとすぐに食事を抜く傾向にあると気が付いたのは付き合いだして割とすぐの時だった。
特に朝ご飯は食べないでコンビニかどこかで買ってから学校で食べることもしばしばあるのだと蘭さんや園子さんたちから聞いた。
　キーケースから彼女の家の合鍵を取り出す。
勿論合鍵は彼女からもらったものだ。
「おーい、花音。おはよう、起きてるか？」
　玄関に入るが何も反応が無い。
既に学校へ行ったのかと考えたが彼女のローファーがまだあることを確認し、俺はため息を吐いて彼女の寝室へ向かった。
さてはまだ寝てるな。
　彼女の寝室の前で少し深呼吸をする。
前に一度起こした時、ほぼ下着姿で寝ていて俺の中の理性を総動員したのは記憶に新しい。
「花音！　いい加減起きろ！」
　ドアを開けるとやはりというべきか、ベッドがこんもりとしていた。
ベッドの塊を揺さぶるがんー、という声は聞こえるが起きる気配が無い。
俺はしょうがなく、本当にしょうがなく掛布団を剥いだ。
「…は？　子ども…？」
　掛布団を剥ぐと、そこに寝ていたのはとんでもない美少女、いや美幼女だった。
俺はロリコンじゃない。
「ん～、もうあさ？　あれ、零さんだ。おはよう。」
「零さんって、キミもしかして花音、か？」
　花音にそっくりな目の前の子どもは大きな瞳をきょとんとさせ首を傾げた。
可愛いからこういうことも様になるな。
「もしかしてもなにも、真壁花音だけど。零さんには何に見えてるわけ？」
　この物言い、間違いなく花音だ。
俺は何も言わずにすぐ近くにあった姿見を花音の前に置いた。
「…は？　ち、ちっさくなってる！？」
　着ていたであろうパジャマは明らかに大きくてずり落ちそうになっていた。
「ど、どうしよう零さん！」
「とりあえず、子ども服に着替えよう。あるか？」
　パニックになっている彼女は滅多に見られないなと心の中で少し苦笑いしながら大人の対応を見せる。
「ある！」
「じゃあ着替えてて。俺はとりあえず風見に連絡を入れてくるから。」
「ごめんね、お仕事あるのに。」
　少しだけシュンとした様子の彼女の頭を軽く撫でる。
前に力いっぱい撫でたら「このゴリラ！」と怒られたからだ。
「気にするな。緊急事態なんだから風見も分かってくれる。アイツの事なら自分も駆けつけますとか言いそうだな。朝ご飯作ってくるから準備出来たら下降りてこい。あと、蘭さんたちに学校休むことも伝えて。」
「ありがとう、零さん。」
　ようやく笑顔を見せてくれた彼女に俺も微笑んだ。