その頃花音は人通りの少ない路地にいた。
「そろそろ、出てきてくれない？」
後ろを振り返らずに花音が言うと一人の男が花音の前に姿を現した。
「花音ちゃん、やっと僕の気持ちに応えてくれるんだね。あの金髪の男とは別れてくれたんだね、そうだよね、僕がいるんだもの。僕が毎日ポストに入れてた手紙読んでくれたかな？君への想いを頑張って綴ったんだ。そうだ、昨日君がコンビニで買ったチョコ、僕も食べたよ。流石僕の花音ちゃんだね！美味しかったよ、花音ちゃんはセンスが良いんだね。ますます好きになっちゃったよ。毎日部活大変だね。あちこちに引っ張り回されてるのに文句を言わずに頑張っちゃうところは君の素敵なところだけどたまには断らないとだめだよ。あぁ、そうだ、僕が撮った君の写真どうだった？沢山撮ってその中でも特に美しい写真を入れたんだ。愛してるよ、花音ちゃん。いや、僕だけの花音。」
男の台詞を黙ったまま聞いていた花音は十秒程の沈黙の後ようやく口を開いた。
「はぁ・・・。文句も言わず、ね。じゃあまずあんたに言わせてもらうわ。私はあんたの事なんてこれっぽっちも好きでも愛してもないし写真も手紙も捨てたわ。それにあの人とはまず付き合ってもないし、私は誰とも付き合ってない。もう少し自由に動いてもらおうかと思ってたけど、安室さん気づいたみたいだし、周りの人達も気付きそうだったから、今私はここにいる。」
男を無表情で見つめながら花音は言った。
「正直面倒くさいのよね。さっさと私の目の前から消えてくれない？目障り。私はキレるとそこそこきついらしいよ？」
最後の部分だけは笑って言ったが、目だけは笑っていなかった。
「そ、そんな事、僕の花音ちゃんが言う筈がない！」
「“僕の”？意味わかんない、私は誰のでも無いし、私は私だけのモノよ。」
「ぼ、僕の花音ちゃんを返せ！この偽物！」
そう言われ、花音は舌打ちをした。
「だから、この世にあんたの“花音ちゃん“とやらはいないっつの。ついでに言わせてもらうとこっちのがどちらかっつったら素だし。」
花音が相変わらず笑みを絶やさずに言うと、逆上した男がナイフを出してきた。
「ぼ、僕の花音ちゃんがいないのなら・・・
お、お前なんて、死んでしまえばいいんだ！」　
そう言って男は花音に向かって走り出した。
「花音さんっ！」
遠くから安室の声がした事に驚いた花音は一瞬動きが止まってしまった。