「トイレの遺体の足元に落ちていた２枚の内、片方のタオルの先が濡れていたようですが、なぜだかわかるかね？」
「さぁ、私には…。怖くてずっとうつむいてましたから。」
　目暮が現場の様子を樫塚に尋ねるが樫塚は知らないという。
「それと、そのタオルの下にあったあなたのブーツの靴ヒモの先に結び目にあって、ブーツに引っ掛かっていたんだが…。」
　花音はその様子を思い浮かべてみるがよくわからない。
「あぁ、あれは、子供の頃からの癖です。布製のスニーカーとかを丸洗いして干す時に、ヒモがそうなってると吊るしやすいって兄が。さすがにブーツは洗いませんけど、癖だけが残ってて。もう、その兄もいませんけど。」
　樫塚はそういうなり、涙ぐむ。
そんな樫塚を見かねたのか、目暮に提案する。
「警部殿、今夜はこれくらいにしていいんじゃないっスか？　お兄さんを亡くされて間もないし。見知らぬ男に目の前で自殺されたんですから。」
　目暮はその提案に頷いた。
「では、明日改めて事情聴取しますので、住所と連絡先を教えていただけますかな？」
「は、はい。何かに書きますね。」
「できれば身分が証明する物があれば何か。」
「大学を出たばかりの就職浪人なので名刺は…。家に帰れば保険証がありますけど。」
「では、明日持ってきてください。」
「わかりました。」
　ずっと黙っていた安室がニコニコと人のいい笑顔で話かける。
「あの、家に帰るなら、僕の車でお送りしましょうか？　近くの駐車場に停めてありますし。もしかしたら、あの男の仲間があなたの家のそばで待ち伏せしてるかもしれませんしね。」
「わざわざすいません。」
「いえいえ、そんな。礼には及びませんよ。」
　そんな安室に目暮は白い目を向ける。
「ところでだ、なぜ彼がここにいるんだね？」
　目暮の言葉に毛利が照れ臭そうに答える。
「いやあ、実は安室君、私の一番弟子になってたんスよ！！」
　それを聞いて目暮が目を見張る。
「で、弟子ィ～！？」
「いや～、あはは。」
「ったく、また君の周りには探偵が一人増えたってわけか。」
　それを聞いた安室はきょとんとする。
「君のほかにもいるんだよ。最近毛利君と一緒にチョロチョロ現場に顔を出す、若い女の探偵がな。それに花音君や、コナン君もいるしなぁ。」
　それを聞いた花音とコナンは顔を見合わせて苦笑いする。
「へぇ。花音さん以外の若い女性の探偵ですか。それはぜひ、会ってみたいですね。」
　安室の瞳が怪しく光るがそれに気付く者はいなかった。