注文されたものを作ったり、店内の清掃などをしていると、いつの間にかシフト終わりの時間となった。
梓さんに声を掛けてから、探偵の仕事へと向かった。
　今日は浮気調査で、クライアントの恋人の男性がターゲットだ。
東都タワーの水族館に向かったのを尾行していた。
丁度クマノミ祭りをやっているようで水族館の中は人でごった返していて、男一人でも怪しまれずに潜入出来た。
ターゲットの男性はクライアントの女性ではない女性と歩いている。
その男女を見ていた視界の端に驚くべき光景が映った。
そこには、真壁　花音が俺と同じくらいの年齢であろう男と抱き合っていた。
普段の凛と済ましている彼女からは全くと言って良い程想像がつかない表情で、嬉しそうに笑っている彼女は年相応の女子高生だった。
そこで俺はふと我に返った。
今、俺は尾行中なのに、何をしているんだ。
まだ近くにいたターゲットは売店に入り、アクセサリーコーナーに迷わず進んでいった。
確かここのアクセサリーは大人気で、テレビでよく特集も組まれていたはずだ。
女性がターゲットの男性にこれは？と言っているのが聞こえてくる。
「いや、香利はこっちシンプルなやつの方が好きだな。」
「じゃ、こっちなんて良いんじゃない？予算もピッタリだし。」
「そうだな。このリングにするよ。・・・香利喜んでくれると思うか？」
「そりゃ、彼氏からの婚約指輪なんて嬉しくないわけないじゃない！いいなぁ、私の彼もプロポーズそろそろしてくれないかなぁ。」
成る程、依頼者へのエンゲージリングを選ぶ為に女友達に手伝ってもらっていたのか。
「全く、あんたのせいでお店五軒もハシゴしたんだから、ありがたく思いなさいよ？」
「悪かったって。」
まあ、大事な物だから仕方ないとは思うんだが、五軒も回ったのか。
それは、彼女に浮気を疑われなくはないか。
　依頼者に問題は無かったことを伝える為にメールを開いた。
今回の依頼者は、結果はメールで浮気か否かをシンプルに伝えて欲しいという事だったから恐らくこれでいいのだろう。
思っていたよりも早く調査が終わってしまった事もあり、今日は“黒い方“で仕事は無いし、久々に”ゼロ“の方に顔を出すかと思い、水族館を出た。
普段何かと仕事を任せてしまったりしているし、何か買っていこうと思って近くのスウィーツ専門店に寄った。
仕事が仕事だし、奴らは彼女程ではないが糖分不足になる事が多々ある。
ほとんどの奴らが頭を回す為にも甘い物を食べている。
「このドーナツ全部二つづつ下さい。」
取り敢えずショーウィンドウにあった十種類のドーナツを計二十個買った。
「六千円になります。」
さっさと支払いを済ませ俺は警察庁に向かった。
一度“俺”の家に帰りスーツに着替えるのも忘れずに。