オンボロ橋
池のほとりは、ほんのりと明るくなってきました。
しんとひえた空気の中で、りすくんはしばらくのあいだ泣きつづけていました。
それでも、朝になったらグレイが木立のおくからすがたをあらわすのではないかと、ときどきふりかえってみます。けれどなんかいふりかえっても、グレイのすがたをみつけることは、できませんでした。
たいようはどんどんとのぼり、あたりはすっかり明るくなってしまいました。
りすくんが池の中をのぞきこむと、ふしぎなことに、池の底の金色だった砂がすっかり灰色に変わってしまっていました。
「そんな……」
すこしおさまっていたなみだが、またぶわりとふきだします。
りすくんはガバリと地面の上にたおれこむと、こんどこそ声を上げて泣いてしまいました。
高くなったおひさまが、りすくんのせなかをあたためてくれました。
「そうだ!」
何かを思いついたように、りすくんはぴょんととびおきると、ドングリ池にせを向けててくてくと歩き始めました。
りすくんが歩いていった先には、オンボロ橋がありました。
橋の向こうのけもの道は、大きく曲がりくねりながら、林の中へと消えていました。
「この先は、オオカミ山なんだ。らんぼうもののオオカミがたくさん住んでいる、山なんだ」
りすくんは小さい体の毛をさかだてて、ふるえました。けれどもゴクリとつばをのみ込むと、そろそろとオンボロ橋の上をわたりはじめたのでした。
グレイに会いたいという思いと、オオカミがこわいという思いが、りすくんの中でぐるぐるおいかけっこをしているみたいでした。
山のおくに向かってかけだしたいような、逆さ虹の森へにげ帰りたいような、二つの気持ちがりすくんのなかでケンカをしているのでした。
たたたっと走ったかと思うと、立ち止まりあたりを見回します。手をふって元気に歩いて行ったかと思うと、自分の足がふみつけた小枝の音にとびあがり、木の上によじ登ります。
そんなふうにけもの道をおくへおくへと進み、りすくんはなだらかなしゃめんにたくさんのお家の立っている開けた場所にたどりつきました。
ここが、オオカミたちの群れの住んでいる場所なのでしょう。
りすくんは林の中から、そっとようすをうかがいました。
その集落には、けもののすがたがみえませんし、シーンとしずまりかえっています。
りすくんは林の中からはいだすと、あちこちのお家のまどから、こっそり中をのぞいてみました。
どの家にも、誰もいません。オオカミどころか、ネズミだってみあたりません。
りすくんはいっけんの家に思いきって入ってみました。
家の中はうすぐらくて、ホコリのにおいがします。天井のすみには、クモの巣がはっています。
「だれも……いないのかな?」
りすくんがとほうにくれた、そのときです。
うしろから、きいっ、という、ドアのひらく音がきこえました。
「だれかいるのかい?」
声が聞こえて、りすくんはあわててふり返ります。
「……」
「……」
ほこりっぽくてうすぐらいへやの中で、二匹はしばらく見つめ合いました。
「りすくん?」
「グレイ?」
なまえをよびましたが、二匹はお互いに動くことができませんでした。
どれほど時間がたったでしょうか。
「グ、グレイ……キミは、キミは、オオカミなの?」
グレイはしばらくりすくんを見つめた後に「そうだ」と、はっきりと答えました。
「オンボロ橋の向こうの、オオカミ山の、らんぼうもののオオカミだったの?」
グレイはりすくんから目をはなすことなくもう一度「そうだ」と答えました。
「ウソツキ!」
りすくんに言われた時、はじめてグレイは悲しそうに目を細め、りすくんから目をそらそうとしました。
「ウソツキ、ウソツキだよ、だって、だってグレイはやさしいじゃないか! らんぼうものなんかじゃないじゃないか! グレイはグレイだよ。ボクのお友達のグレイだよ!」
グレイは、目を大きくひらいて、もう一度りすくんを見つめました。
グレイの目の前で、りすくんはわあんわあんと大きな声で泣きはじめてしまいました。
グレイは大あわてです。
「り……りすくん。泣かないでくれないかい? た、たのむ……」
おろおろと近づいてきたグレイに、りすくんはぴょんと飛びつき、ふかふかの毛にしがみついて泣くのでした。
「りすくん、たしかにオレはりすくんの友だちのグレイだが、この山に住んでいたらんぼうもののオオカミのなかまでもあったんだ」
泣きじゃくるりすくんにグレイはそっと話しかけました。
「もしよかったら、オレの話を聞いてくれるかい?」
しずかにといかけられて、りすくんはようやくグレイのむねの、ふかふかした毛の間から顔を上げました。
「はなし?」
「そうだよ。ここに住んでいた、らんぼうものとよばれていた、オオカミたちの話さ」
りすくんはひくっと涙をひっこめると「きかせて!」と、言いました。
しんとひえた空気の中で、りすくんはしばらくのあいだ泣きつづけていました。
それでも、朝になったらグレイが木立のおくからすがたをあらわすのではないかと、ときどきふりかえってみます。けれどなんかいふりかえっても、グレイのすがたをみつけることは、できませんでした。
たいようはどんどんとのぼり、あたりはすっかり明るくなってしまいました。
りすくんが池の中をのぞきこむと、ふしぎなことに、池の底の金色だった砂がすっかり灰色に変わってしまっていました。
「そんな……」
すこしおさまっていたなみだが、またぶわりとふきだします。
りすくんはガバリと地面の上にたおれこむと、こんどこそ声を上げて泣いてしまいました。
高くなったおひさまが、りすくんのせなかをあたためてくれました。
「そうだ!」
何かを思いついたように、りすくんはぴょんととびおきると、ドングリ池にせを向けててくてくと歩き始めました。
りすくんが歩いていった先には、オンボロ橋がありました。
橋の向こうのけもの道は、大きく曲がりくねりながら、林の中へと消えていました。
「この先は、オオカミ山なんだ。らんぼうもののオオカミがたくさん住んでいる、山なんだ」
りすくんは小さい体の毛をさかだてて、ふるえました。けれどもゴクリとつばをのみ込むと、そろそろとオンボロ橋の上をわたりはじめたのでした。
グレイに会いたいという思いと、オオカミがこわいという思いが、りすくんの中でぐるぐるおいかけっこをしているみたいでした。
山のおくに向かってかけだしたいような、逆さ虹の森へにげ帰りたいような、二つの気持ちがりすくんのなかでケンカをしているのでした。
たたたっと走ったかと思うと、立ち止まりあたりを見回します。手をふって元気に歩いて行ったかと思うと、自分の足がふみつけた小枝の音にとびあがり、木の上によじ登ります。
そんなふうにけもの道をおくへおくへと進み、りすくんはなだらかなしゃめんにたくさんのお家の立っている開けた場所にたどりつきました。
ここが、オオカミたちの群れの住んでいる場所なのでしょう。
りすくんは林の中から、そっとようすをうかがいました。
その集落には、けもののすがたがみえませんし、シーンとしずまりかえっています。
りすくんは林の中からはいだすと、あちこちのお家のまどから、こっそり中をのぞいてみました。
どの家にも、誰もいません。オオカミどころか、ネズミだってみあたりません。
りすくんはいっけんの家に思いきって入ってみました。
家の中はうすぐらくて、ホコリのにおいがします。天井のすみには、クモの巣がはっています。
「だれも……いないのかな?」
りすくんがとほうにくれた、そのときです。
うしろから、きいっ、という、ドアのひらく音がきこえました。
「だれかいるのかい?」
声が聞こえて、りすくんはあわててふり返ります。
「……」
「……」
ほこりっぽくてうすぐらいへやの中で、二匹はしばらく見つめ合いました。
「りすくん?」
「グレイ?」
なまえをよびましたが、二匹はお互いに動くことができませんでした。
どれほど時間がたったでしょうか。
「グ、グレイ……キミは、キミは、オオカミなの?」
グレイはしばらくりすくんを見つめた後に「そうだ」と、はっきりと答えました。
「オンボロ橋の向こうの、オオカミ山の、らんぼうもののオオカミだったの?」
グレイはりすくんから目をはなすことなくもう一度「そうだ」と答えました。
「ウソツキ!」
りすくんに言われた時、はじめてグレイは悲しそうに目を細め、りすくんから目をそらそうとしました。
「ウソツキ、ウソツキだよ、だって、だってグレイはやさしいじゃないか! らんぼうものなんかじゃないじゃないか! グレイはグレイだよ。ボクのお友達のグレイだよ!」
グレイは、目を大きくひらいて、もう一度りすくんを見つめました。
グレイの目の前で、りすくんはわあんわあんと大きな声で泣きはじめてしまいました。
グレイは大あわてです。
「り……りすくん。泣かないでくれないかい? た、たのむ……」
おろおろと近づいてきたグレイに、りすくんはぴょんと飛びつき、ふかふかの毛にしがみついて泣くのでした。
「りすくん、たしかにオレはりすくんの友だちのグレイだが、この山に住んでいたらんぼうもののオオカミのなかまでもあったんだ」
泣きじゃくるりすくんにグレイはそっと話しかけました。
「もしよかったら、オレの話を聞いてくれるかい?」
しずかにといかけられて、りすくんはようやくグレイのむねの、ふかふかした毛の間から顔を上げました。
「はなし?」
「そうだよ。ここに住んでいた、らんぼうものとよばれていた、オオカミたちの話さ」
りすくんはひくっと涙をひっこめると「きかせて!」と、言いました。