根っこ広場
逆さ虹の森は、昼間でもうすぐらく深い緑の中ですが、夜は本当にまっくらなのです。
しめった暗やみの中を、仲間たちはずんずんと行進していきます。
どんぐり池のそばにある、小さくてかわいらしいリスくんのお家を目指します。
リスくんのおうちにつくと、アライグマくんがドアをあけようとしました。けれども、その手をキツネさんがつかみました。
「アライグマくん、もう夜もおそいのですから、いきなりお家の中にふみこむなんて、しつれいですわ」
そう言って、コホン、とせきばらいをするとドアの前に立ち、コンコンとノックをしました。
「リスくんリスくん、おやすみのところもうしわけありませんけれども、ちょっと起きていただけません?」
アライグマくんがいらだたしげに足先を上げたり下げたりしています。みんなもしんぱいそうにアライグマくんの後ろから小さなリスくんの家のドアをみつめていました。
すると、家の中からゴソゴソともの音が聞こえてきて、ほそくひらいたドアからリスくんが顔を出しました。
「キツネさん? あれ? みんなも? どうしたの?」
「リスくん、おねがいがあるんだぜ!」
「リ、リスくん、けがは? だ、だいじょうぶだったの?」
「どんぐりを出しやがれ!」
みんながいっせいに話しだしたので、リスくんは目をパチクリさせました。
「え? なにか急なねがいごとでもできたのかい?」
リスくんはいつもきているチョッキの中からどんぐりを一つさしだします。
「ちっげーよ! ぜんぶだよ!」
「ぜんぶ!?」
「そうよそうよ。オオカミよ。らんぼうもののオオカミをこの森に入れないように、みんなでおねがいするのよ」
「お、おねがいだよ、リスくん」
「ちょっとシツレイするぜ!」
みんなの足元を、ヘビくんがすり抜けて、リスくんのお家に入ってきました。
「オオカミって、グレイのこと? ダメだよ、グレイはわるいやつなんかじゃないよ!」
リスくんは思わずどんぐりをしまってあるタンスの引き出しを手でおさえました。
「そこだな」
アライグマくんがにやりと笑います。
「やめて! やめてったら!」
リスくんはいいましたが、アライグマくんは引き出しごとどんぐりをうばうと、リスくんのお家を出ていってしまいました。
アライグマくんが引き出しをかかえて走ります。
つぎにコマドリさんを頭にのせたくまさんがものすごい勢いで走っていきます。
キツネさんはへびさんをむんずとつかむと、やっぱり走りだします。
「まってったら!」
リスくんもあわててあとをおいますが、アライグマくんやくまさんやキツネさんに、かけっこで勝ったことがありません。
それでも、いっしょうけんめいに走りました。今まで生きてきた中で、いちばんいっしょうけんめいに走りました。
みんながめざすのはどんぐり池いがいにありません。どんぐり池ならリスさんのうちから近いところにありますし、まいにちまいにち通っている道です。目をつぶっていたって、たどりつける自信があります。
まっくらな森をぬけ、どんぐり池にとうちゃくすると、空から月の光がさしこんで、池のまわりだけが明るくかがやいて見えました。
リスくんは、アライグマくんが力いっぱい池の中にどんぐりの入った引き出しを投げこむところを見ていました。しっかりと、見ていました。ドングリのつまった引き出しは、ゆっくりゆっくり落ちていくように、リスくんには見えました。けれども、どんなにガンバってもリスくんの手はとどかないのでした。
「らんぼうもののオオカミが、逆さ虹の森へ入ってこれませんように!」
森の仲間の声が、いくつも重なりました。
ちゃぽん……!
どんぐりのいっぱい入った引き出しをのみこんだどんぐり池が、ぱあっと金色にかがやきました。
「ダメェェェェ!」
リスくんの声が、森中にこだまします。
こがねいろにかがやく池の底をのぞき込み、リスくんはへたりこんでしまいました。
しばらくするとかがやきはうしなわれ、何事もなかったように、もとのしずかなドングリ池にもどります。
「よしっ!」
アライグマくんはまんぞくげにこぶしをにぎりしめました。
「ひ、ひどいよっ!」
リスくんがぎりっとアライグマくんをにらみます。
「グレイはボクのともだちなんだぞ! お池のそうじだって、手伝ってくれたんだぞ!」
「ピュルリリリ! らんぼうもののオオカミの話は、リスくんだって知ってるはずよ!」
アライグマくんとリスくんの間に、コマドリさんがわりこみました。
「ああ、そうだぜ。アイツはいいやつかもしれないが、オオカミ山にはたくさんのオオカミが群れでくらしてるんだぜ」
「そ、そうよ。リスくん。もし昔みたいに、オオカミの群れがやってきてあばれまわったら、どうするの?」
ヘビくんとくまさんにもそう言われて、リスくんには何も言い返せないのでした。たしかにグレイはとてもステキな友だちですが、グレイ以外のオオカミがどんなオオカミなのかは、リスくんにもわからないからです。
「さあさあ、夜ももう少しで明けてしまうわ。リスくんも後はゆっくりおやすみなさい。ワタシたちは、逆さ虹の森を守ったのよ」
キツネさんはやさしくリスくんの肩をたたきましたが、すわりこんでしまったリスくんのひとみからは、とうとうポロリと、なみだがこぼれおちたのでした。
しめった暗やみの中を、仲間たちはずんずんと行進していきます。
どんぐり池のそばにある、小さくてかわいらしいリスくんのお家を目指します。
リスくんのおうちにつくと、アライグマくんがドアをあけようとしました。けれども、その手をキツネさんがつかみました。
「アライグマくん、もう夜もおそいのですから、いきなりお家の中にふみこむなんて、しつれいですわ」
そう言って、コホン、とせきばらいをするとドアの前に立ち、コンコンとノックをしました。
「リスくんリスくん、おやすみのところもうしわけありませんけれども、ちょっと起きていただけません?」
アライグマくんがいらだたしげに足先を上げたり下げたりしています。みんなもしんぱいそうにアライグマくんの後ろから小さなリスくんの家のドアをみつめていました。
すると、家の中からゴソゴソともの音が聞こえてきて、ほそくひらいたドアからリスくんが顔を出しました。
「キツネさん? あれ? みんなも? どうしたの?」
「リスくん、おねがいがあるんだぜ!」
「リ、リスくん、けがは? だ、だいじょうぶだったの?」
「どんぐりを出しやがれ!」
みんながいっせいに話しだしたので、リスくんは目をパチクリさせました。
「え? なにか急なねがいごとでもできたのかい?」
リスくんはいつもきているチョッキの中からどんぐりを一つさしだします。
「ちっげーよ! ぜんぶだよ!」
「ぜんぶ!?」
「そうよそうよ。オオカミよ。らんぼうもののオオカミをこの森に入れないように、みんなでおねがいするのよ」
「お、おねがいだよ、リスくん」
「ちょっとシツレイするぜ!」
みんなの足元を、ヘビくんがすり抜けて、リスくんのお家に入ってきました。
「オオカミって、グレイのこと? ダメだよ、グレイはわるいやつなんかじゃないよ!」
リスくんは思わずどんぐりをしまってあるタンスの引き出しを手でおさえました。
「そこだな」
アライグマくんがにやりと笑います。
「やめて! やめてったら!」
リスくんはいいましたが、アライグマくんは引き出しごとどんぐりをうばうと、リスくんのお家を出ていってしまいました。
アライグマくんが引き出しをかかえて走ります。
つぎにコマドリさんを頭にのせたくまさんがものすごい勢いで走っていきます。
キツネさんはへびさんをむんずとつかむと、やっぱり走りだします。
「まってったら!」
リスくんもあわててあとをおいますが、アライグマくんやくまさんやキツネさんに、かけっこで勝ったことがありません。
それでも、いっしょうけんめいに走りました。今まで生きてきた中で、いちばんいっしょうけんめいに走りました。
みんながめざすのはどんぐり池いがいにありません。どんぐり池ならリスさんのうちから近いところにありますし、まいにちまいにち通っている道です。目をつぶっていたって、たどりつける自信があります。
まっくらな森をぬけ、どんぐり池にとうちゃくすると、空から月の光がさしこんで、池のまわりだけが明るくかがやいて見えました。
リスくんは、アライグマくんが力いっぱい池の中にどんぐりの入った引き出しを投げこむところを見ていました。しっかりと、見ていました。ドングリのつまった引き出しは、ゆっくりゆっくり落ちていくように、リスくんには見えました。けれども、どんなにガンバってもリスくんの手はとどかないのでした。
「らんぼうもののオオカミが、逆さ虹の森へ入ってこれませんように!」
森の仲間の声が、いくつも重なりました。
ちゃぽん……!
どんぐりのいっぱい入った引き出しをのみこんだどんぐり池が、ぱあっと金色にかがやきました。
「ダメェェェェ!」
リスくんの声が、森中にこだまします。
こがねいろにかがやく池の底をのぞき込み、リスくんはへたりこんでしまいました。
しばらくするとかがやきはうしなわれ、何事もなかったように、もとのしずかなドングリ池にもどります。
「よしっ!」
アライグマくんはまんぞくげにこぶしをにぎりしめました。
「ひ、ひどいよっ!」
リスくんがぎりっとアライグマくんをにらみます。
「グレイはボクのともだちなんだぞ! お池のそうじだって、手伝ってくれたんだぞ!」
「ピュルリリリ! らんぼうもののオオカミの話は、リスくんだって知ってるはずよ!」
アライグマくんとリスくんの間に、コマドリさんがわりこみました。
「ああ、そうだぜ。アイツはいいやつかもしれないが、オオカミ山にはたくさんのオオカミが群れでくらしてるんだぜ」
「そ、そうよ。リスくん。もし昔みたいに、オオカミの群れがやってきてあばれまわったら、どうするの?」
ヘビくんとくまさんにもそう言われて、リスくんには何も言い返せないのでした。たしかにグレイはとてもステキな友だちですが、グレイ以外のオオカミがどんなオオカミなのかは、リスくんにもわからないからです。
「さあさあ、夜ももう少しで明けてしまうわ。リスくんも後はゆっくりおやすみなさい。ワタシたちは、逆さ虹の森を守ったのよ」
キツネさんはやさしくリスくんの肩をたたきましたが、すわりこんでしまったリスくんのひとみからは、とうとうポロリと、なみだがこぼれおちたのでした。