どんぐり池
朝のしごとをおえたリスくんは、灰色のおきゃくさまのとなりにすわって池をながめました。
リスくんは、どんぐり池をぐるりとかこむ緑が、森のなかで一番きれいだと思っているのです。
森の緑はとてもふかくて、しっとりと包み込むようないろですが、池のほとりの緑はおひさまの光をあびて、明るくかがやいているのです。
それに、青い空が池の上にぽっかりと見えるのも、いいものです。
ねころがると、青空に緑のはっぱのゆれるようすが見えますし、かがみのような池をのぞき込めば、小さな魚がキラリとうろこを光らせて、まるで空を泳いでいくようです。
だからおきゃくさまがこないとき、リスくんは小屋の前にすわって、けしきをながめてすごします。
池の中をのぞきこんだリスくんは、ポケットの中のどんぐりをひとつとり出しました。リスくんのきているチョッキにはどんぐりのたくさんつまったポケットが、いくつもついているのです。
リスくんはとりだしたどんぐりを、ぽいっと池になげ入れました。
ポチャ。
かすかな音を立てて、どんぐりが池におちていきます。どんぐりのおちたばしょからわっかがいくえにも広がって、池に小さなゆらぎを作りました。
どんぐり池はものすごくすきとおった池ですから、おちていくどんぐりがよくみえました。リスくんが見ている先でどんぐりは、池のそこの、金色の砂の中にすい込まれて、見えなくなってしまいました。
「ねがいごとかあ」
リスくんはつぶやきました。
どんぐり池のばんにんなんかをしていますが、リスくんは今まで一度もねがいごとをしたことがないのです。
だって、かなえてほしいと思うようなねがいごとが思いつかないのです。
それはそれでしあわせせなことかもしれませんが、リスくんはちょっぴりねがいごとをしていくなかまやおきゃくさまがうらやましいなと思うのでした。
「ねがい……ごと?」
ねていると思った、灰色のおきゃくさまの声がきこえて、リスくんはびっくり。おもわず「うわぁ!」と、さけんでしまいました。
「あ、ごめんごめん。おどろかせるつもりはなかったんだ!」
「あ! おどろいちゃってごめんなさい!」
二人どうじにあやまります。
「いやいや、オレの方こそ、きゅうに声をかけたから……」
「いえいえ、ボクの方こそ、おどろきすぎでしたね!」
また、二人の声がかさなりました。
「ぷっ」
「ふふっ」
そして、二人どうじにわらってしまいました。
「これ、リスくんがかけてくれたのかい?」
灰色のおきゃくさまは、落ち葉のふとんを持ち上げて言いました。
「あ、はい」
リスくんは、ちょっと恥ずかしくて、うつむきがちにこたえます。
「そうかい。あったかかったよ。こんなによくねむれたのは、久しぶりだなあ」
そう言って灰色のおきゃくさまは、大きくのびをしました。
「はい、どうぞ」
リスくんはおきゃくさまにどんぐりをさしだしました。
「え? どんぐり? オレにくれるのかい?」
おきゃくさまは首をひねりながらリスくんにたずねます。
「ええ? おきゃくさまは、どんぐり池におねがいごとをするために来たんじゃないんですか?」
「……いや」
そう答えながらも、お客さまはリスくんの手からどんぐりをうけとりました。
「なあんだあ! ボクてっきりお客さまだと思ってました!」
そこでリスくんは、この池が「どんぐりを投げ入れながらねがいごとをすると、かなう」といううわさの池なのだということ、自分がこの池のばんにんをしているのだということを、灰色さんにはなしました。
「ふうん、じゃあ、オレはもうおきゃくさんじゃないんだから、リスくんもそのかしこまったしゃべりかたはやめにしないか?」
リスくんは、それもそうだと思いました。
「うん! そうだね。ところで、キミのことはなんてよんだらいいかな?」
リスくんは灰色さんにききました。
何しろリスくんは灰色さんみたいな森のじゅうにんを見たことがなかったのです。
「あんた……オレのことをしらないのかい?」
灰色さんは、いいました。
そうきかれると、しらないことがもうしわけないような気がしましたが、いくらかんがえてみても、今まで見たことがないようです。
「うん。ボク、しらないよ」
「そうか」
灰色さんはしばらくかんがえたあとで、ポツリといいました。
「……グレイ」
「グレイ?」
「そうだ、オレのことは、グレイとよんでくれるかい?」
「うんわかったよ! グレイだね?」
へんな名前だなあ。
そう思ったものの、リスくんは灰色さんのことを、グレイとよぶことにしました。
リスくんは、どんぐり池をぐるりとかこむ緑が、森のなかで一番きれいだと思っているのです。
森の緑はとてもふかくて、しっとりと包み込むようないろですが、池のほとりの緑はおひさまの光をあびて、明るくかがやいているのです。
それに、青い空が池の上にぽっかりと見えるのも、いいものです。
ねころがると、青空に緑のはっぱのゆれるようすが見えますし、かがみのような池をのぞき込めば、小さな魚がキラリとうろこを光らせて、まるで空を泳いでいくようです。
だからおきゃくさまがこないとき、リスくんは小屋の前にすわって、けしきをながめてすごします。
池の中をのぞきこんだリスくんは、ポケットの中のどんぐりをひとつとり出しました。リスくんのきているチョッキにはどんぐりのたくさんつまったポケットが、いくつもついているのです。
リスくんはとりだしたどんぐりを、ぽいっと池になげ入れました。
ポチャ。
かすかな音を立てて、どんぐりが池におちていきます。どんぐりのおちたばしょからわっかがいくえにも広がって、池に小さなゆらぎを作りました。
どんぐり池はものすごくすきとおった池ですから、おちていくどんぐりがよくみえました。リスくんが見ている先でどんぐりは、池のそこの、金色の砂の中にすい込まれて、見えなくなってしまいました。
「ねがいごとかあ」
リスくんはつぶやきました。
どんぐり池のばんにんなんかをしていますが、リスくんは今まで一度もねがいごとをしたことがないのです。
だって、かなえてほしいと思うようなねがいごとが思いつかないのです。
それはそれでしあわせせなことかもしれませんが、リスくんはちょっぴりねがいごとをしていくなかまやおきゃくさまがうらやましいなと思うのでした。
「ねがい……ごと?」
ねていると思った、灰色のおきゃくさまの声がきこえて、リスくんはびっくり。おもわず「うわぁ!」と、さけんでしまいました。
「あ、ごめんごめん。おどろかせるつもりはなかったんだ!」
「あ! おどろいちゃってごめんなさい!」
二人どうじにあやまります。
「いやいや、オレの方こそ、きゅうに声をかけたから……」
「いえいえ、ボクの方こそ、おどろきすぎでしたね!」
また、二人の声がかさなりました。
「ぷっ」
「ふふっ」
そして、二人どうじにわらってしまいました。
「これ、リスくんがかけてくれたのかい?」
灰色のおきゃくさまは、落ち葉のふとんを持ち上げて言いました。
「あ、はい」
リスくんは、ちょっと恥ずかしくて、うつむきがちにこたえます。
「そうかい。あったかかったよ。こんなによくねむれたのは、久しぶりだなあ」
そう言って灰色のおきゃくさまは、大きくのびをしました。
「はい、どうぞ」
リスくんはおきゃくさまにどんぐりをさしだしました。
「え? どんぐり? オレにくれるのかい?」
おきゃくさまは首をひねりながらリスくんにたずねます。
「ええ? おきゃくさまは、どんぐり池におねがいごとをするために来たんじゃないんですか?」
「……いや」
そう答えながらも、お客さまはリスくんの手からどんぐりをうけとりました。
「なあんだあ! ボクてっきりお客さまだと思ってました!」
そこでリスくんは、この池が「どんぐりを投げ入れながらねがいごとをすると、かなう」といううわさの池なのだということ、自分がこの池のばんにんをしているのだということを、灰色さんにはなしました。
「ふうん、じゃあ、オレはもうおきゃくさんじゃないんだから、リスくんもそのかしこまったしゃべりかたはやめにしないか?」
リスくんは、それもそうだと思いました。
「うん! そうだね。ところで、キミのことはなんてよんだらいいかな?」
リスくんは灰色さんにききました。
何しろリスくんは灰色さんみたいな森のじゅうにんを見たことがなかったのです。
「あんた……オレのことをしらないのかい?」
灰色さんは、いいました。
そうきかれると、しらないことがもうしわけないような気がしましたが、いくらかんがえてみても、今まで見たことがないようです。
「うん。ボク、しらないよ」
「そうか」
灰色さんはしばらくかんがえたあとで、ポツリといいました。
「……グレイ」
「グレイ?」
「そうだ、オレのことは、グレイとよんでくれるかい?」
「うんわかったよ! グレイだね?」
へんな名前だなあ。
そう思ったものの、リスくんは灰色さんのことを、グレイとよぶことにしました。