逆さ虹の森
逆さ虹の森の中がいちばん色鮮 やかになる季節が、やってきました。
緑色だった葉が、赤や黄色にぬりかえられていきます。
それは、リスくんのまちにまった季節でもありました。
えっさっさ ほいさっさ
きょうは秋の しゅうかくだ
こっちのどんぐり ほいさっさ
あっちのどんぐり まあるいぞ
リスくんのんきな歌声が、逆さ虹の森のなかにこだましています。
今日は森の仲間みんながどんぐりのしゅうかくの手伝いに来てくれているのです。
どんぐり池のまわりの木々はみんなドングリのなる木です。
クヌギやマテバシイ。かしの木ナラの木、コナラの木。
どんぐり池のほとりに立つ小屋の前には、ドングリの山ができていました。
「みんなありがとう、みんなのおかげでたくさんドングリを集めることができたよ。あとはボクだけでも、集められるよ! 今日はぼく、みんなにマテバシイのクッキーを焼いていたんだ」
リスくんは大きな木のお皿に山盛りの、マテバシイクッキーを用意していてくれました。
小屋のわきに作られたかまどの上では、たっぷりのお湯がシュンシュンとわいていて、グレイがごじまんの木苺 ジャム入りの、紅茶をいれてくれました。
「うわああああ、こりゃあうまそうだ! オレもうハラペコだったんだぜ!」
ヘビくんがクッキーにかじりつくと「あら、ヘビくんはいつもハラペコじゃありません?」と、キツネさんが笑いました。
「おいしいおいしい!」
「おいグレイ、オマエの紅茶も、うまいじゃないか」
「ピュルリリリリリ、ちょっとちょっと、私のことも忘れないでよ! 紅茶はさましてもらえるかしら?」
お空の上からコマドリさんもあわてておりてきました。
そこへ、一匹のお客様がやってきました。
「やあ、リスくんこんにちは。今日はおねがい事をしに来たんだが、かまわないかな?」
のっそりと木立の間からすがたを表したのは、イノシシさんでした。
リスくんはちらりと池の中をのぞき込んでから、イノシシさんにいましゅうかくしたばかりのドングリの中から、とりわけりっぱなものをひとっつ渡しました。
「ありがとう」
ドングリをうけとると、イノシシさんは池に向かって投げました。
森の仲間たちは、おやつを食べるのも忘れて、ドングリが池の中へと落ちていくのを見ていました。
ポチャン……。
「ウチのおくさんが、元気な赤ちゃんをうめますように」
イノシシさんがおねがいをすると、池がほんの少しだけ明るくなったように見えました。
みんな、池のそばにやってきます。
のぞきこむと、池の底の砂はきれいな黄金色 です。
「きっと、ねがい事が叶いますよ」
リスくんは胸を張って言いました。
「よ、イノシシのたいしょう、子どもが生まれるのか?」
「わあ、すてきだね、たのしみだね!」
「イノシシさんも、クッキーを食べてくといいぜ!」
「まあ、あなたのクッキーじゃなくってよ?」
「ピュルリリリリ、イノシシさんのところに赤ちゃんができたのよ。おいわいよ、おいわいよ」
コマドリさんはさっそくうわさ話を届けるために、どこかへと|飛んでいってしまいます。
「おおーい! コマドリさん! まだ生まれてないんだよー!」
イノシシさんの声は、コマドリさんにきこえたでしょうか。
「しかし、どんぐり池が灰色になってしまったといううわさを聞いたから、どうなっているかと思って心配していたんだが、大丈夫なようだね?」
イノシシさんは森の動物達に誘われて、クッキーを食べ始めます。
グレイがイノシシさんのために紅茶を入れます。
池のほとりには、リスくんとアライグマくんが、みんなの様子を眺めながら立っていました。
「おい、りすよ……」
「なに?」
「この池、ちゃんともとに戻ったんだよな?」
「うーん。イノシシさんがあの事件いらい、さいしょのお客さまだからなんとも言えないけど」
リスくんはそこまで言って、池をもう一度のぞき込みました。
池の底は金色で、水はとうめいで、みなもにうつる山々は赤や黄色に美しくかがいています。
「池ももとにもどってるし、ドングリもたくさんとれたし、きっとだいじょうぶだよ」
「そうか」
リスくんは、池のほとりをはなれて、みんなのところに戻ろうとしました。
「りすよ……」
またアライグマくんの声がして、リスくんはふり向きました。
「なあ、どうしてグレイはオンボロ橋を渡れたんだろうなあ。オレサマたち、あんなねがいごとをしたのになあ」
リスくんはくりっと目を大きくしました。
だって、そんなことあたりまえです。
だってグレイは「らんぼうものなんかじゃないからだよ! ね? グレイ!」
グレイが顔を上げます。
白いエプロンをして、みんなのために紅茶のおかわりを入れています。
「ふん、たしかにな」
「でしょ? グレイ! ボクも紅茶のおかわり~!」
「オレサマにもおかわりをよこせ!」
グレイはうなずきます。
逆さ虹の森は、おだやかな秋の日差しに包まれています。
おわり
緑色だった葉が、赤や黄色にぬりかえられていきます。
それは、リスくんのまちにまった季節でもありました。
えっさっさ ほいさっさ
きょうは秋の しゅうかくだ
こっちのどんぐり ほいさっさ
あっちのどんぐり まあるいぞ
リスくんのんきな歌声が、逆さ虹の森のなかにこだましています。
今日は森の仲間みんながどんぐりのしゅうかくの手伝いに来てくれているのです。
どんぐり池のまわりの木々はみんなドングリのなる木です。
クヌギやマテバシイ。かしの木ナラの木、コナラの木。
どんぐり池のほとりに立つ小屋の前には、ドングリの山ができていました。
「みんなありがとう、みんなのおかげでたくさんドングリを集めることができたよ。あとはボクだけでも、集められるよ! 今日はぼく、みんなにマテバシイのクッキーを焼いていたんだ」
リスくんは大きな木のお皿に山盛りの、マテバシイクッキーを用意していてくれました。
小屋のわきに作られたかまどの上では、たっぷりのお湯がシュンシュンとわいていて、グレイがごじまんの
「うわああああ、こりゃあうまそうだ! オレもうハラペコだったんだぜ!」
ヘビくんがクッキーにかじりつくと「あら、ヘビくんはいつもハラペコじゃありません?」と、キツネさんが笑いました。
「おいしいおいしい!」
「おいグレイ、オマエの紅茶も、うまいじゃないか」
「ピュルリリリリリ、ちょっとちょっと、私のことも忘れないでよ! 紅茶はさましてもらえるかしら?」
お空の上からコマドリさんもあわてておりてきました。
そこへ、一匹のお客様がやってきました。
「やあ、リスくんこんにちは。今日はおねがい事をしに来たんだが、かまわないかな?」
のっそりと木立の間からすがたを表したのは、イノシシさんでした。
リスくんはちらりと池の中をのぞき込んでから、イノシシさんにいましゅうかくしたばかりのドングリの中から、とりわけりっぱなものをひとっつ渡しました。
「ありがとう」
ドングリをうけとると、イノシシさんは池に向かって投げました。
森の仲間たちは、おやつを食べるのも忘れて、ドングリが池の中へと落ちていくのを見ていました。
ポチャン……。
「ウチのおくさんが、元気な赤ちゃんをうめますように」
イノシシさんがおねがいをすると、池がほんの少しだけ明るくなったように見えました。
みんな、池のそばにやってきます。
のぞきこむと、池の底の砂はきれいな
「きっと、ねがい事が叶いますよ」
リスくんは胸を張って言いました。
「よ、イノシシのたいしょう、子どもが生まれるのか?」
「わあ、すてきだね、たのしみだね!」
「イノシシさんも、クッキーを食べてくといいぜ!」
「まあ、あなたのクッキーじゃなくってよ?」
「ピュルリリリリ、イノシシさんのところに赤ちゃんができたのよ。おいわいよ、おいわいよ」
コマドリさんはさっそくうわさ話を届けるために、どこかへと|飛んでいってしまいます。
「おおーい! コマドリさん! まだ生まれてないんだよー!」
イノシシさんの声は、コマドリさんにきこえたでしょうか。
「しかし、どんぐり池が灰色になってしまったといううわさを聞いたから、どうなっているかと思って心配していたんだが、大丈夫なようだね?」
イノシシさんは森の動物達に誘われて、クッキーを食べ始めます。
グレイがイノシシさんのために紅茶を入れます。
池のほとりには、リスくんとアライグマくんが、みんなの様子を眺めながら立っていました。
「おい、りすよ……」
「なに?」
「この池、ちゃんともとに戻ったんだよな?」
「うーん。イノシシさんがあの事件いらい、さいしょのお客さまだからなんとも言えないけど」
リスくんはそこまで言って、池をもう一度のぞき込みました。
池の底は金色で、水はとうめいで、みなもにうつる山々は赤や黄色に美しくかがいています。
「池ももとにもどってるし、ドングリもたくさんとれたし、きっとだいじょうぶだよ」
「そうか」
リスくんは、池のほとりをはなれて、みんなのところに戻ろうとしました。
「りすよ……」
またアライグマくんの声がして、リスくんはふり向きました。
「なあ、どうしてグレイはオンボロ橋を渡れたんだろうなあ。オレサマたち、あんなねがいごとをしたのになあ」
リスくんはくりっと目を大きくしました。
だって、そんなことあたりまえです。
だってグレイは「らんぼうものなんかじゃないからだよ! ね? グレイ!」
グレイが顔を上げます。
白いエプロンをして、みんなのために紅茶のおかわりを入れています。
「ふん、たしかにな」
「でしょ? グレイ! ボクも紅茶のおかわり~!」
「オレサマにもおかわりをよこせ!」
グレイはうなずきます。
逆さ虹の森は、おだやかな秋の日差しに包まれています。
おわり
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