オンボロ橋
「ああ、オレはリスくんに出会ってしあわせだったよ」
リスくんはグレイの言葉にびっくりして、口をぽかんと開けたました。しばらくしたら、なんだかはずかしくなってきます。
だって、出会ってしあわせだったなんて、そんなことを言われたのははじめてですから。
うれしいようなくすぐったいような気持ちになりかけたのですが、ゆうべのドングリ池でのできごとを思い出すと、リスくんはやっぱりうつむいてしまいました。
そして、グレイにもゆうべおきたことを話して聞かせました。
「みんなひどいよ。グレイとお話したこともないくせに」
リスくんの声を聞きながら、グレイは自分の飲んでいたカップを洗います。
リスくんもあわててすっかりぬるくなってしまった紅茶をのどに流し込みました。
「オレはもう逆さ虹の森にはいかないつもりだったから、そんなことしなくても、よかったのになあ」
「ええ? どうして!?」
「いや、オレがいたら、みんなこわい思いをするだろう?」
「だってだって、グレイは何も悪いことしてないよ?」
「今はな。でもやっぱり、オオカミたちが昔してしまったことは、取り消せないのかもしれないなあ」
グレイはリスくんからからっぽになったカップを受け取ります。
「さあ、リスくん。おそくならないうちに逆さ虹の森へ帰るんだ。暗くなると、オンボロ橋はあぶないからさ」
グレイの笑顔をみていたら、リスくんのむねのなかには、もう二度とグレイと会えないのではないかという不安が広がっていきました。
だから思わず言ってしまったのです。
「ボクが、オオカミ山に住めばいいんじゃないの? そうしたらグレイとこれからもいっしょにいられるんじゃないの?」
カップを洗っていた手を止めてグレイはふりかえりました。そして静かに首をふりました。
「ダメだよリスくん。キミがここに住むようになったら、こんどはきっと、キミは森の仲間と会えなくなっちまうだろう」
「そんなの、みんなが悪いんだよ。ボク、ゆるさないんだからね」
リスくんは本気なのに、グレイはぷはっと笑いました。
「たしかにみんなはリスくんに悪いことをしたかもしれない。けどリスくんはみんなのことがきらいなのかい?」
リスくんは森の仲間たちのことを思い出してみました。
ちょっとらんぼうだけど、いがいと親切なアライグマくん。
いつもおなかをへらしている、へびくん。
やさしいキツネさん。
大きいのに、リスくんよりもずうっとこわがりなくまさん。
いつも忙しく飛びまわって、みんなにいろんなじょうほうをはこんでくれる、コマドリさん。
「……好きだよ」
リスくんの答えに、グレイはうなずきました。
「それが答えだよリスくん。オレはいじをはって、ひとりぼっちのオオカミになっちまったが、リスくんにはそんなふうになってほしくないんだ。さあ、送っていくよ」
グレイは家のドアを開けました。
リスくんは悲しい気持ちでグレイの後に続きます。
胸の中がもやもやとしました。
森のみんなも好きだけど、グレイのことも好きなのです。
こんなことって、あるでしょうか?
どっちのことも好きなのに、どっちかだけをえらばなくてはいけないなんて。
なのに、その気持をうまくグレイに伝えることができません。トボトボと歩いていくうちに、もう二匹はオンボロ橋の前についてしまいました。
このままわかれるなんてイヤだ。
きっとみんなをせっとくしてみせるから、それまでまっていてね。そうリスくんがグレイにつたえようとしたときでした。
ピュルリリリリリリリ ピュルリリリリリリリリリ ヒヒヒヒヒヒヒ
お空の高いところから、コマドリさんのさけび声が聞こえてきました。
「コマドリさん?」
リスくんは空を見上げました。
「ピュルリリリリリリリ! だれか! たすけて! 誰か! 助けて! ピュルリリリリリリ!」
リスくんとグレイは思わず顔を見合わせました。
「なにか、大変なことがおきたのかもしれないな」
「コマドリさーん! コマドリさーん! なにがあったの!?」
空に向かって呼びかけると、何も見えなかった青い空に小さな黒い点が見えました。それから、その点は、どんどん大きくなって、オンボロ橋の手すりの上におりてきました。
「リスくん! よかったわ。助けて! みんなが大変なのよ」
コマドリさんはよほどあわてているのでしょう。グレイがすぐそばにいることにも気がつかないみたいです。
「どうしたんだ?」
とグレイが声をかけたとたんに「きゃあ!」といって、つなの上からとびあがりました。
「待って! コマドリさん。グレイはだいじょうぶだよ。ぜったいらんぼうなんかしないよ!」
コマドリさんはパタパタと空中を飛びまわりながら、リスくんとグレイをみくらべます。
「わかったわ! ついて来てちょうだい!」
コマドリさんは高いところから二匹の目の前へとおりてきました。
「根っこ広場よ」
そう言うと、コマドリさんは先にとんでいきます。
「リスくん、背中にのるんだ! しっかりつかまって」
リスくんが背中にのると、グレイは走り出しました。その速いことといったら、しっかりつかまっていなければ、後ろに転げ落ちそうなほどでした。
先を行くコマドリさんに追いつくと「あんないしてくれ」とグレイは声をかけます。
コマドリさんはついてきたグレイにちょっとビクッとしましたが
「こっちよ!」
と答えると、スピードを上げて、根っこ広場へいっちょくせんに向かっていきました。
リスくんはグレイの言葉にびっくりして、口をぽかんと開けたました。しばらくしたら、なんだかはずかしくなってきます。
だって、出会ってしあわせだったなんて、そんなことを言われたのははじめてですから。
うれしいようなくすぐったいような気持ちになりかけたのですが、ゆうべのドングリ池でのできごとを思い出すと、リスくんはやっぱりうつむいてしまいました。
そして、グレイにもゆうべおきたことを話して聞かせました。
「みんなひどいよ。グレイとお話したこともないくせに」
リスくんの声を聞きながら、グレイは自分の飲んでいたカップを洗います。
リスくんもあわててすっかりぬるくなってしまった紅茶をのどに流し込みました。
「オレはもう逆さ虹の森にはいかないつもりだったから、そんなことしなくても、よかったのになあ」
「ええ? どうして!?」
「いや、オレがいたら、みんなこわい思いをするだろう?」
「だってだって、グレイは何も悪いことしてないよ?」
「今はな。でもやっぱり、オオカミたちが昔してしまったことは、取り消せないのかもしれないなあ」
グレイはリスくんからからっぽになったカップを受け取ります。
「さあ、リスくん。おそくならないうちに逆さ虹の森へ帰るんだ。暗くなると、オンボロ橋はあぶないからさ」
グレイの笑顔をみていたら、リスくんのむねのなかには、もう二度とグレイと会えないのではないかという不安が広がっていきました。
だから思わず言ってしまったのです。
「ボクが、オオカミ山に住めばいいんじゃないの? そうしたらグレイとこれからもいっしょにいられるんじゃないの?」
カップを洗っていた手を止めてグレイはふりかえりました。そして静かに首をふりました。
「ダメだよリスくん。キミがここに住むようになったら、こんどはきっと、キミは森の仲間と会えなくなっちまうだろう」
「そんなの、みんなが悪いんだよ。ボク、ゆるさないんだからね」
リスくんは本気なのに、グレイはぷはっと笑いました。
「たしかにみんなはリスくんに悪いことをしたかもしれない。けどリスくんはみんなのことがきらいなのかい?」
リスくんは森の仲間たちのことを思い出してみました。
ちょっとらんぼうだけど、いがいと親切なアライグマくん。
いつもおなかをへらしている、へびくん。
やさしいキツネさん。
大きいのに、リスくんよりもずうっとこわがりなくまさん。
いつも忙しく飛びまわって、みんなにいろんなじょうほうをはこんでくれる、コマドリさん。
「……好きだよ」
リスくんの答えに、グレイはうなずきました。
「それが答えだよリスくん。オレはいじをはって、ひとりぼっちのオオカミになっちまったが、リスくんにはそんなふうになってほしくないんだ。さあ、送っていくよ」
グレイは家のドアを開けました。
リスくんは悲しい気持ちでグレイの後に続きます。
胸の中がもやもやとしました。
森のみんなも好きだけど、グレイのことも好きなのです。
こんなことって、あるでしょうか?
どっちのことも好きなのに、どっちかだけをえらばなくてはいけないなんて。
なのに、その気持をうまくグレイに伝えることができません。トボトボと歩いていくうちに、もう二匹はオンボロ橋の前についてしまいました。
このままわかれるなんてイヤだ。
きっとみんなをせっとくしてみせるから、それまでまっていてね。そうリスくんがグレイにつたえようとしたときでした。
ピュルリリリリリリリ ピュルリリリリリリリリリ ヒヒヒヒヒヒヒ
お空の高いところから、コマドリさんのさけび声が聞こえてきました。
「コマドリさん?」
リスくんは空を見上げました。
「ピュルリリリリリリリ! だれか! たすけて! 誰か! 助けて! ピュルリリリリリリ!」
リスくんとグレイは思わず顔を見合わせました。
「なにか、大変なことがおきたのかもしれないな」
「コマドリさーん! コマドリさーん! なにがあったの!?」
空に向かって呼びかけると、何も見えなかった青い空に小さな黒い点が見えました。それから、その点は、どんどん大きくなって、オンボロ橋の手すりの上におりてきました。
「リスくん! よかったわ。助けて! みんなが大変なのよ」
コマドリさんはよほどあわてているのでしょう。グレイがすぐそばにいることにも気がつかないみたいです。
「どうしたんだ?」
とグレイが声をかけたとたんに「きゃあ!」といって、つなの上からとびあがりました。
「待って! コマドリさん。グレイはだいじょうぶだよ。ぜったいらんぼうなんかしないよ!」
コマドリさんはパタパタと空中を飛びまわりながら、リスくんとグレイをみくらべます。
「わかったわ! ついて来てちょうだい!」
コマドリさんは高いところから二匹の目の前へとおりてきました。
「根っこ広場よ」
そう言うと、コマドリさんは先にとんでいきます。
「リスくん、背中にのるんだ! しっかりつかまって」
リスくんが背中にのると、グレイは走り出しました。その速いことといったら、しっかりつかまっていなければ、後ろに転げ落ちそうなほどでした。
先を行くコマドリさんに追いつくと「あんないしてくれ」とグレイは声をかけます。
コマドリさんはついてきたグレイにちょっとビクッとしましたが
「こっちよ!」
と答えると、スピードを上げて、根っこ広場へいっちょくせんに向かっていきました。