オンボロ橋
グレイはリスくんを、集落のいちばんおくにある、いっけんの家へと連れて行きました。
炉 には火が入り、しゅんしゅんとお湯がわいていました。まどべには赤い色をした小さな花がかざられています。
「ここは?」
「オレのうちさ」
グレイは、リスくんのために温かい紅茶を入れてくれました。そえられたスプーンの上にはよいかおりのするジャムがのっています。
「このジャムは、グレイが作ったの?」
「ああ、林の中の木いちごとはちみつで作ったんだが、ちょっと甘すぎたから、紅茶に入れて楽しんでいるのさ」
リスくんは、ジャムののったスプーンで紅茶の中を軽くかきまぜてから、ひとくち飲みました。
「おいしい!」
思わずえがおになります。
グレイはリスくんのえがおに「そうか、よかった」とうなずくと、自分もひとくち紅茶をすすりました。
「この山には、グレイしか住んでいないの?」
リスくんがたずねると、グレイは何かを思い出すように上を向いて、パチパチと目をしばたかせました。
「むかしむかしさ……」
グレイは、きおくをたどるように、ゆっくりと話しはじめました。
むかしむかしさ、この山のオオカミも、逆さ虹の森の動物たちとなかよくやっていたのさ。
だけど、あるとき、とんでもないらんぼうものの親子が、リーダーになっちまったんだよ。
その親子がまた、とんでもなく強いやつだったもんだから、だれも逆らえなかったのさ。
それでオレたちはあっちこっちで悪さして、このあたりではらんぼうものとよばれて、みんなにきらわれちまったんだよ。
オレが生まれた時にはもう、逆さ虹の森にオオカミは入れなくなっちまってた。
むかしはオンボロ橋をわたって、他のどうぶつたちとも楽しくやっていたっていう話を聞いた時に、オレはうらやましくてしかたがなかったよ。
どうしてオレたち、こんなにきらわれもんになっちまったんだろうってね。
ずいぶん長い間らんぼうものの親子がオオカミのリーダーだったが、オヤジの方は先に病気にかかって死んで、子どものほうも、数年前にがけから落ちて、死んじまったのさ。
で、オレたちオオカミは次のリーダーを決めることにした。
リーダーになのりを上げたのは二匹のオオカミだった。
一匹は、この山を出てあたらしいすみかをさがそうと言った。
もう一匹は、まわりの動物たちにあやまって、またむかしのようになかよくしようじゃないかと言った。
「そ……それで、もしかして、あたらしいすみかを?」
リスくんは紅茶の入ったカップを手でにぎりしめながら、ドキドキしてグレイにたずねました。
「まあまあ、あわてんなよ」
グレイはにがわらいをうかべます。
「オオカミのリーダーはさ、強いやつがなるという決まりなんだ。だから二匹は、けっとうをすることになったんだ」
リスくんは紅茶をのむのも忘れて、みをのりだしてグレイのお話に聞きいっています。
「それで、新しいすみかをさがそうと言ったヤツが勝った。だからみんな、そのリーダーについて、この山を出て行っちまったのさ」
「じゃあ、グレイは、どうして残ったの?」
リスくんに見つめられながら、グレイは少しぬるくなった紅茶をひとくちゆっくりと飲みました。
「負けたオオカミがオレだったからさ」
リスくんは二度三度、うなずきました。
「そうだったんだね。それで、グレイはボクとお友達になるために、逆さ虹の森へとやってきたんだね?」
「まあ、そうだな。はじめのうちはなかなかけっしんがつかなくて、オオカミ山で一人でくらしてたんだ。まあ、一人も悪くはなかったんだけどさ。ある日、ああ、リスくんと最初に会った前の日に、思い切ってオンボロ橋に足をかけてみたんだよ。そうしたら、渡れるじゃないか。びっくりしたよ」
「それまでは、渡れなかったの?」
「ああ、いつから渡れるようになったのかはわからないが、オレが昔わたろうとしたときは、むりだったよ。あの橋にはドングリ池のねがいごとがかかっていたからな。群れのヤツらも、リーダーの親子も、あの橋をわたろうとしたんだが、なぜかあの橋の前に行くと、足が出なくなっちまうんだ」
「なのに、なんでグレイはわたれたんだろうねえ?」
「さあな。理由はわからないが、オレはあの橋をわたって、ドングリ池に行ったのさ。もう夕方で、だれもいなかった。小さな小屋を見つけて、そのままそこでオレはねちまったのさ」
「そして、次の朝、ボクと出会ったんだね」
リスくんがにっこりとすると、グレイもとがった大きな口をわずかにゆがませました。くちびるのあいだから、大きな牙がのぞきましたが、リスくんはちっともこわくなんかないのでした。
「ここは?」
「オレのうちさ」
グレイは、リスくんのために温かい紅茶を入れてくれました。そえられたスプーンの上にはよいかおりのするジャムがのっています。
「このジャムは、グレイが作ったの?」
「ああ、林の中の木いちごとはちみつで作ったんだが、ちょっと甘すぎたから、紅茶に入れて楽しんでいるのさ」
リスくんは、ジャムののったスプーンで紅茶の中を軽くかきまぜてから、ひとくち飲みました。
「おいしい!」
思わずえがおになります。
グレイはリスくんのえがおに「そうか、よかった」とうなずくと、自分もひとくち紅茶をすすりました。
「この山には、グレイしか住んでいないの?」
リスくんがたずねると、グレイは何かを思い出すように上を向いて、パチパチと目をしばたかせました。
「むかしむかしさ……」
グレイは、きおくをたどるように、ゆっくりと話しはじめました。
むかしむかしさ、この山のオオカミも、逆さ虹の森の動物たちとなかよくやっていたのさ。
だけど、あるとき、とんでもないらんぼうものの親子が、リーダーになっちまったんだよ。
その親子がまた、とんでもなく強いやつだったもんだから、だれも逆らえなかったのさ。
それでオレたちはあっちこっちで悪さして、このあたりではらんぼうものとよばれて、みんなにきらわれちまったんだよ。
オレが生まれた時にはもう、逆さ虹の森にオオカミは入れなくなっちまってた。
むかしはオンボロ橋をわたって、他のどうぶつたちとも楽しくやっていたっていう話を聞いた時に、オレはうらやましくてしかたがなかったよ。
どうしてオレたち、こんなにきらわれもんになっちまったんだろうってね。
ずいぶん長い間らんぼうものの親子がオオカミのリーダーだったが、オヤジの方は先に病気にかかって死んで、子どものほうも、数年前にがけから落ちて、死んじまったのさ。
で、オレたちオオカミは次のリーダーを決めることにした。
リーダーになのりを上げたのは二匹のオオカミだった。
一匹は、この山を出てあたらしいすみかをさがそうと言った。
もう一匹は、まわりの動物たちにあやまって、またむかしのようになかよくしようじゃないかと言った。
「そ……それで、もしかして、あたらしいすみかを?」
リスくんは紅茶の入ったカップを手でにぎりしめながら、ドキドキしてグレイにたずねました。
「まあまあ、あわてんなよ」
グレイはにがわらいをうかべます。
「オオカミのリーダーはさ、強いやつがなるという決まりなんだ。だから二匹は、けっとうをすることになったんだ」
リスくんは紅茶をのむのも忘れて、みをのりだしてグレイのお話に聞きいっています。
「それで、新しいすみかをさがそうと言ったヤツが勝った。だからみんな、そのリーダーについて、この山を出て行っちまったのさ」
「じゃあ、グレイは、どうして残ったの?」
リスくんに見つめられながら、グレイは少しぬるくなった紅茶をひとくちゆっくりと飲みました。
「負けたオオカミがオレだったからさ」
リスくんは二度三度、うなずきました。
「そうだったんだね。それで、グレイはボクとお友達になるために、逆さ虹の森へとやってきたんだね?」
「まあ、そうだな。はじめのうちはなかなかけっしんがつかなくて、オオカミ山で一人でくらしてたんだ。まあ、一人も悪くはなかったんだけどさ。ある日、ああ、リスくんと最初に会った前の日に、思い切ってオンボロ橋に足をかけてみたんだよ。そうしたら、渡れるじゃないか。びっくりしたよ」
「それまでは、渡れなかったの?」
「ああ、いつから渡れるようになったのかはわからないが、オレが昔わたろうとしたときは、むりだったよ。あの橋にはドングリ池のねがいごとがかかっていたからな。群れのヤツらも、リーダーの親子も、あの橋をわたろうとしたんだが、なぜかあの橋の前に行くと、足が出なくなっちまうんだ」
「なのに、なんでグレイはわたれたんだろうねえ?」
「さあな。理由はわからないが、オレはあの橋をわたって、ドングリ池に行ったのさ。もう夕方で、だれもいなかった。小さな小屋を見つけて、そのままそこでオレはねちまったのさ」
「そして、次の朝、ボクと出会ったんだね」
リスくんがにっこりとすると、グレイもとがった大きな口をわずかにゆがませました。くちびるのあいだから、大きな牙がのぞきましたが、リスくんはちっともこわくなんかないのでした。