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どんぐり池

 さかさにじの森は、ひんやりとしたみどりのにおいにつつまれています。

 なぜ「さかさにじの森」とよばれているかというと、むかしむかし、この森にりっぱなさかさまのにじがかかったからなのだそうです。

 森のなかにはふしぎなばしょがいくつかあるのですが……あ、むこうからリスくんがやってきますよ。ちょうどよかった、リスくんについて行ってみましょう。

 リスくんは、ふしぎなばしょのひとつである「どんぐり池」のばんにんなのです。

 ばんにんなんていうとこわそうですけど、リスくんがこの池のばんにんをしているのは、強いからとか、見た目がおそろしいからというりゆうではありません。

 それどころかリスくんは、小さくてかわいらしいすがたをしています。

 せいかくも、のんびりしています。そうですね、ほんのちょっといたずらが好きなくらいです。

 ではなぜリスくんがこの池のばんにんをしているのかというと、この池は「どんぐりをなげこみながらねがいごとをすると、かなう」という、ふしぎな池だからなのです。

 なにしろリスくんはどんぐりさがしの名人ですからね。

 秋になるとリスくんは、たくさんのどんぐりをひろい集めます。

 そして、おねがいごとをするためにこの池をおとずれたおきゃくさまに、どんぐりをわけてあげるのです。

 ね? これは、リスくんでなければできないおしごとでしょう?

 あ、リスくんが、どんぐり池にとうちゃくしましたよ。

 ふかいみどりの森のなか、このどんぐり池のある場所だけは、明るいおひさまがとどくのです。

 リスくんは、朝の光をあびて大きくしんこきゅうをすると、池のまわりのおそうじをはじめます。リスくんの、朝のおしごとです。

 えっさっさ ほいさっさ
 きょうもおそうじ がんばるぞ
 こっちのはっぱを ほいさっさ
 あっちのかれえだ えっさっさ

 なんて、ちょうしはずれの歌を口ずさんでいます。

 リスくんは、池のほとりのちっちゃな小屋に立てかけてある、ほうきとちりとりをとろうとしました。
 
「あれ?」

 リスくんは、耳をひくひくさせました。小屋の中から「ぐがおぅ、ぐがおぅ」という、きみょうな音が聞こえてきたからです。

「なんだろう? もう、おきゃくさんが来たのかな?」

 小屋といっても、雨よけていどのもので、池にめんした方向にはかべもありませんし、ゆかだってありません。

 こっそりのぞき込むと、小屋の中では、だれかが横になってねているみたいです。あの「ぐがおぅ、ぐがおぅ」という音は、いびきだったのです。

「うわぁ」

 リスくんは、思わずかんしんして、声を上げました。

 小屋の中でねむっている、灰色のふかふかのかたまりが、とっても大きかったからです。

「だ……だれだろう?」

 そうっと近づいてみましたが、いままで見たことのないおきゃくさまです。

「くまさんよりは、ちょっと小さいかもしれないな」

 そう言って、眠っているおきゃくさまの顔を見てみました。

「ぐがおうぅぅ!」

 灰色のお口がぐわっと開いたものですから、リスくんはびくっととび上がると、毛をさかだてて、ぴょん! ととびのきました。

 ちらりと見えた牙が、ものすごく大きくてとがっていたので、リスくんはちょっぴりこわかったのです。

「も……もう、びっくりさせないでよ!」

 リスくんはむねに手を当てて、大きく息をすったりはいたりしました。

 どうやらおおきないびきだったみたいです。灰色の生き物は、まだねむっているようでした。

 リスくんは「そうだ!」とつぶやくと、小屋のかべにかけてあった、落ち葉のふとんを手に取り、灰色のおきゃくさまにそうっと近づきました。

 この落ち葉の布団は、冬の間にリスくんがこしらえたものです。夏の間に日をあびた、池のほとりの木々の落ち葉で作ったふとんは、とってもあたたかいのです。

 この「さかさにじの森のどんぐりの池」のうわさは、むこうのむこうの山にまでつたわっているらしく、とおくからやってくるおきゃくさまもいます。そういうおきゃくさまはこの小屋で一泊していくこともあるものですから、リスくんは、ふとんだってちゃんとよういしているのです。

 ふぁさり。

 ふとんがやさしい音を立てます。

 きっとあたたかくなったからでしょう。灰色のおきゃくさまのいびきも、すこしおとなしくなりました。まゆげの間によっていたシワも、なくなりましたよ。
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