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背徳の雅荘

その時は、丁度今ぐらいの気候だった。
暑い日と寒い日が交互に来て、体調を崩しやすい。
昼間だけれど日差しが強くないその日に、青江は菫色の眼に映っていた。


背徳の雅荘
3.鳥と蛇


カシャ、と無機質な音がする。
青江は道端の野草を撮っていた。
安いデジカメに写る花は、名も無き紫の花だ。
調べてみると、それはオオアキギリと言う名らしい。今はすぐに調べられるから便利だな、と思った。
カシャ、とまた、青江の物ではないカメラの音がする。
その方を見ると、旧式のカメラを構えた大男が居た。
「肖像権侵害」
そう言い放つと、その男はすまない、と言う。
「君があまりにも可愛かったから」
そう言われて青江は悪い気はしないし、納得もした。
黒と白のスカート姿の青江は、ヘッドドレスまで付ける完璧なゴスロリファッションだった。
「女の子が写真を撮るなんて、珍しくて」
「それは偏見。全ての女の子に謝罪しなさい」
初対面の男に、青江はにっかりと笑いそう言った。
「それに、僕は男だよ」
そう付け足すと、男は菫色の眼を見開く。
「…それは良かった」
予想外の反応だったので、青江も金の左眼を丸くする。
「君みたいな可愛い子が女の子な筈ないからね」
一つ間を置き、青江は声を出して笑った。
「何それ、初めて言われた」
「君の初めてを貰えたなんて嬉しいな」
青江は近寄り、その姿をカシャリと撮る。
「お返し」
そう言うと、いくらでもどうぞ、と返された。
「この先の植物園に撮りに行こうと思ってるんだけど、良かったら一緒に行かないかい?」
軽くナンパされる。青江はその男を気に入ったので、それに応じた。
「入場料を奢ってくれるなら」
「大丈夫、彼処は無料で入れるんだ」
それは良かった、と青江は言う。

石切丸との出会いは、そんな感じだった。

青江はなんとなくそれを思い出す。
隣で眠る石切丸を見ながら、肺に煙草の毒煙を送っていた。

そのキスに酔っていると、カラン、と入り口のドアが開く音がする。
直ぐに口を離され、その三日月を称えたの眼は離れていった。
「じゃあな」
「ああ、またな」
「たまには屋敷に来い」
「それだけは嫌だ」
残念、と残し、黒碧の彼は裏口から店を出て行く。
枯草色は口元を拭い店の受付に戻った。
「お楽しみ中でしたか」
入って来たのは黒と金白金の眼だった。慣れた様子でそう言う。
「いや、軽くだけだ」
軽く、ね、と古今は少し笑った。
「何の用だ?」
「今日は予約を入れた筈ですが?」
「ああ、そうだったな。忘れてた」
「相変わらず記憶力は無いんですね」
軽く悪口を言われても冗談なのを認識して笑って流す。
「今日は何処を?」
「左足に前の続きを」
分かった、と言って鶯丸は古今を奥の部屋へと誘導した。

「なんで人は古来から刺青をするんでしょうね」
その痛みに薄ら汗をかきながら古今は言う。
「今の状態で其れを論議するか?」
「したくないと?」
「まあそういうわけではないが」
古今の内腿に蛇の鱗が増えていった。
「古今は何故彫るんだ」
「…そういえば、なんででしょうね」
鶯丸はちらりと呆れた視線を古今に向ける。
「貴方は何故?」
「ああ、彫った所は悦くてな」
性感帯になる、という意味だ。
「…貴方って本当マゾヒストですよね」
「古今は悦くならないのか?」
「なりますね」
「ほら、なるんじゃないか」
鶯丸が戯れにその柔赤のタトゥーを触ると古今は反応した。
カラン、とまた入り口のドアに付けた鐘が鳴る。
今日は客が多いな、と呟き鶯丸は席を立った。
ああ!久しぶり!と珍しく楽しそうな鶯丸の声に古今もその様子を覗き見する。なんだか恐い職業の人間にしか見えない男と、枯草色はハグをしていた。
「おや、先客が居たのかい」
サングラス越しに見られ、古今は少し引っ込む。
「その方と仲が良さそうですね」
小声でそう訊くと、鶯丸はそうだな、と言った。
「山鳥毛とは同級の幼馴染でな。山鳥毛、この子はうちの大家の古今だ」
そうか、宜しくとその男は右手を上げた。
古今もこくりと頭を下げる。なかなかに貫禄の有る山鳥毛を同い年とは、鶯丸の実年齢は本当に分からない。
「用が有るのならわたくしは帰りますけど」
「ああ…すまないな、私は待てるが」
「いいえ、帰ります」
古今は鶯丸に、また今度続きを、と言いそそくさと店を出た。
カラン、とドアの鐘を鳴らす。すると、店の前に人が居るのを見た。
水銀の長髪を束ねた男だ。その気怠げな空の眼は、古今をちらりと見る。
古今は少しその男を見つめたが、微かに微笑んで軽くお辞儀をし、通り過ぎていった。

その名も知らぬ水銀に、古今は一目惚れしたのだという。

へえ〜〜〜〜〜〜〜と行平と薬研は梅酒を片手に大きな感嘆の声をあげる。古今は細長い酒用のコップを傾けながら少し照れたように笑った。
「ふうん…って、さんちょうもう…?」
星空の眼がぱちぱちと耀く。聞いたことある名前だ、とその幼女の顔は考えた。
「あ、そうだその人一文字の頭だ。面白い名前だったから覚えてる」
一文字…と古今と行平と薬研は声を揃える。そういう情報に疎い三人だったが、微かにその極道の噂は知っていた。
「いや、貴方本当に何処から仕入れるんです?そういう情報」
「綺麗な蝶々のお姉さんから」
そうピースをして自前の梅酒を少し呑むその可愛らしい少年の名は、正宗日向と言った。
薬研の一つ下の後輩で、まだランドセルを背負う歳だ。
しかも正宗という由緒ある家の子であるのにも関わらず、自作の梅酒をこうやって振る舞ったり、薄暗い“うわさばなし”を集め人に売る“小遣い稼ぎ”をしていた。
多分他にも何かやってる。
表向きには趣味の梅干し作りのついでとして梅酒を作ってるらしいが、その量は趣味の範囲かは怪しかった。
本人が言うには無料で“お裾分け”しているので法には触れてないらしい。
まあ、未成年の飲酒は立派な犯罪だが。
「やっぱりそういう人だったんですね…道理で恐い訳です」
「古今って意外とビビりだよね」
「日向がどっしりしてるだけです」
そう、日向は度胸があるというか、生意気だった。
どんな相手でも最初からタメ口で呼び捨てにする。
多分今回が初めての人生じゃないのだろう。
「では、その水銀さんの名前もご存知で?」
「う〜ん…検討はつくけど…それは自分で聞きなよ」
悪戯っぽく笑うその顔も可愛らしかった。

春の鳥が鳴いている。
そう言って空を見上げた。
枯草色と山の鳥は、授業をサボりその深い蒼の空を見るのが好きだった。
二人は秘密を沢山作った。
鶯丸が初めて知った秘密は、秘密になりきれてなかった。
二つ目に教えてくれた秘密は、どこか悪戯っぽく笑って言った。
その肩に留まった黒い小鳥に、枯草色の眼は吸い込まれる。
なんだか、とても魅力的に映ったのだ。
「あのタトゥーを見て、山鳥毛に彫りたいと思ったんだ」
そう告げる鶯丸に、山鳥毛は、ほう、と言った。
「結構大変だったんだぞ、彫師になるの」
「だろうな」
そんな会話をしたのはいつだったろう。
中学を卒業して、一時期二人は疎遠になった。
そんな二人を再会させたのも、やはり刺青だ。
晴れて彫師になった鶯丸は、仕事として一文字の門を潜ったのだ。
山鳥毛のその身体にタトゥーを彫り込んだあの時が、人生の絶頂だったと言っても過言じゃない。
そのくらい、刺青が、山鳥毛の事が、好きだったのだ。

唇を合わせ、吐息を漏らした。
その左手が前髪で隠した幾何学模様のタトゥーをなぞり、ゾクゾクと背中が泡立つ。
「ん、ふぁ、さんちょ、も」
「ん、とも、なり」
自分の本名を久々に聞き、古備前友成はその感覚に酔った。
少し背伸びをして、顔を両手で固定し貪る様に舌を絡める。
久々のその味に、珍しく鶯丸は昂っていた。
コンコン、とドアを叩く音がして、鶯丸は唇を離す。
「そろそろ入っていい〜?」
と、どこか間延びした声に、どうぞ、と鶯丸は口元を拭い答えた。
カラン、とドアが開き、銀を束ねた青年が入ってきた。
「こんにちわぁ」
「おや、お前は一文字に居た…」
鶯丸は昔の記憶を呼び起こそうと顎を持った。
「ああ、俺の弟の姫鶴だ」
山鳥毛に紹介され空の眼は軽く頭を下げる。どこか気怠げなその姿は、姫の名に合う気がした。
「そろそろ墨を挿れてもいい頃かと思ってな、今日はその相談に来たんだ」
成程ね、と鶯丸はその姿を舐める様に見る。
「うん。じゃあ色々説明するから取り敢えず座れ」
鶯丸は応接用のソファに二人と向かい合わせに座り、パンフレットを渡す。
「お前、痛みには弱いか?」
ん〜、と姫鶴は考える。
「血が出るくらい頭を鉄パイプで殴られるくらい痛い?」
「いや…多分それよりは痛くない」
「なら大丈夫〜」
右手でOKマークを作った。一体何があったらそんな発想になるのか。
「和彫と洋彫が有るが、どっちが良い?」
「何か違うの?」
「和彫は龍とか鳳凰とか、日本画っぽいやつで、洋彫は山鳥毛みたいなやつとか、ハートのやつとかだな」
君みたいなの?と訊かれ、そうだな、と鶯丸は答える。
姫鶴はパンフレットをぺらぺらと捲り、ふ〜んと相槌を打つ。
「そのパンフレットはやるから、じっくり考えてくれ。一生物の話だから、慎重にな」
う〜む、と鶴姫は右上を見て唸った。面倒くさそうな顔をするが、これはちゃんと考えてもらわないと困る。
「まあそれはいいんだけどさあ」
よくはない。
「さっきの女の子、なんて名前?」
「?ああ、古今の事か」
「ふ〜ん、古今ちゃんって言うんだ」
山鳥毛が深紅の眼を丸くしたので、鶯丸は色々と察する。
「…では今日は持ち帰ろうか。色々世話になるが、宜しくな」
山鳥毛はそう言い、席を立つ。
「ああ。本当に、ちゃんと考えてくれよ」
念押しする鶯丸に、はあい、と姫鶴は返事をする。
カラン、と音を立て、入り口のドアは閉まった。

髭切は、男だ。
源と言う名家に生まれ、その環境は彼を持て余した。
雄を隠され、女として育てられる。
一つ下の次男、膝丸に比べたら、それは大変な事でも無かった。
ただ、その二人の父は、婿養子だった。
母親が死亡し、源家は髭切と膝丸の仲を引き裂いた。
髭切は父親と共に源を追われる。
その後の話を髭切はしない。
ただ高校を卒業した頃に、膝丸が助けに来てくれたと言った。
その一言を言う髭切の金蜜の眼は、とても愛おしそうだった。

古今は、ふう、と煙草の息を吐く。
そうでなくても、吐く息が白くなる季節だった。
そんな寒い日でも、薄めのタイツを履いてはいるが古今のスカートは短い。
お洒落は我慢なのだ。
鶯丸の店の前に居た古今は、その姿を確認して煙草を急いで携帯灰皿に押し込む。
「おや、君は」
声を掛けたのは、頬のタトゥーが印象的な方の男だった。
「こんにちは」
古今が軽く頭を下げると、二人も挨拶をする。
「先入ってていいよ」
水銀の彼がそう言い、山鳥毛は少し微笑んでドアをカランと鳴かせた。
「君、古今ちゃんって言うんだね」
「はい、細川古今と言います。…貴方は?」
「俺は一文字姫鶴」
ひめつるさん、と古今は繰り返した。
「火、持ってる?」
訊かれて古今はジッポライターを取り出した。
その蛇と桔梗が描かれたライターは、昔歌仙がプレゼントしてくれた物だ。
歌仙との思い出は色々と処分したのだが、それだけは捨てられなかった。
ボ、と音を立て火が点く。姫鶴は煙草を咥え、その手に顔を近づけた。
その顔が近寄り、古今の心臓がどきりと跳ねる。それはいつ振りの高鳴りだろうか。
「あのひととうぐさんって、昔デキてたんだよ」
いきなりの話題に古今は何も言えなかった。
「話を聞くと、もう随分と長い仲なんだって。それこそ小学生とか?どういう出会いかは知らないけど」
「…そうなんですね」
ふう、と煙を吐く空色を見ながら、無難な返答をする。
「なんか、長い事会わない時期も有ったらしいけど、うぐさん彫師になって、片っ端からウチの子達ほってったの。あ、刺青をね」
俺はまだ入れられなかったけど、と姫鶴は付け足す。
「…鶯丸はほられる方が好きですからね。情事の話ですよ」
そう言うと姫鶴は、ははっ、と笑った。
ガタン!と音がして二人は反射で振り向く。お頭!!と姫鶴は煙草を放り捨て店内に入った。
煙草の始末をしたため古今が一足遅れて入ると、山鳥毛が鶯丸に覆い被さる形で二人は床に倒れていた。
「す、すまん、事故だ」
足を滑らせただけだ、と山鳥毛が言うと、水銀はほっとした様に溜息を吐いた。
「もう、俺を口実にしてるの分かってよ…」
え。と古今が言い、姫鶴は、あ、やべ、と漏らした。
鶯丸は一人爆笑する。
「そんな気はしてたけど、本当にそうだとはなあ」
話を聞くと、姫鶴は刺青を入れる気は無いらしかった。
ただ鶯丸の居場所がわかったので、山鳥毛はどうしても会いたかったのだと言う。
しかし、ただヤクザの頭領が彫師に会いに行くのはおかしい。
そういう訳で、姫鶴の付き添い、という形で店に入ったのだ。
山鳥毛は真っ赤な顔でサングラスを直した。
「未だに鶯丸が忘れられなくてオンナ作んないんだよ、元ヤクザの頭の癖に」
“元”?と古今と鶯丸が喰い付くと、あ、これも秘密だった、と確信犯の姫鶴は舌を出す。
「…そういう事は大体足を洗った」
これは内緒だが、と山鳥毛は続ける。
「今はキャバクラの経営だけをしている。あと、警察への協力もしようと考えていた」
信じられる?と姫鶴は眉間に皺を寄せ笑って親指で山鳥毛を指す。
鶯丸はまた爆笑し、古今はどこかほっとする。
一応、極道と連れ添う気でいるのは後味が悪く感じていた。
「姫鶴だって古今に会いたがっていただろう」
山鳥毛に反撃され、姫鶴は、い“っと言う。
「一目惚れなんて恥ずかしい、なんて言いながらも
そう続ける山鳥毛の口を押さえながら、姫鶴はわああ〜〜〜!!!と叫んだ。
その様子が可笑しくて、古今もクスクスと笑う。
「おやおや、お互い様じゃないですか」
一目惚れがこうじて寒い中待ち伏せをしていた古今が言える立場では無いが。
「ではわたくし達はお邪魔でしょうから」
そう言って古今は席を立つ。
「行きますよ、姫鶴さん」
声を掛けられた姫鶴は、え、と言ったが、少し考えて立ち上がった。
「では、寒いので車に居ますね」
そう言い残しカランとドアの鐘を鳴らす。
二人が居なくなるのを見送って、山鳥毛と鶯丸は気遣いに苦笑した。

バン、と黒い軽自動車のドアが言う。
古今はエンジンを掛け、暖房を付けた。
最新型の軽自動車は直ぐに暖かくなる。少し温度を調節し、古今は背を椅子に預けた。
姫鶴はちらりとこちらを見る。古今が視線を移すと、直ぐに前を向いた。
姫鶴は何か言いかけてやめる。古今にはなんだか、その姿が可愛らしく見えた。
「姫鶴さんは、」
「呼び捨てでいいよ」
「…姫は、」
「いや、それは近過ぎる…」
気不味そうに照れる姫鶴に、古今は少し笑ってしまう。
「いいえ、姫って呼ばせてもらいます」
「君の方が姫じゃん」
「そんな事ないですよ?」
古今は足を組んだ。
「わたくしは良く蛇と言われます」
「じゃあ蛇って呼ぶけど」
「いいですよ」
承諾した事を意外と思ったようで、姫鶴は空色の眼を投げ掛ける。
「…蛇って、鶯丸とはどんな関係なの?」
「ああ、あいつですか。ただの下宿人ですよ」
「寝た事は?」
「まあ…酔った勢いで一度だけ」
「やっぱ有るんだ…」
その眼は少し軽蔑の色が見える。
「別に恋愛感情は全く無いですよ」
「…ふぅん」
不思議そうな目で古今を見る。そんな普通の反応は、雅荘で暮らしていると珍しいものだった。
雅荘には、“そういう感情”が突飛な男しか居ない。
古今は、ぐっと姫鶴に顔を近付けた。
ひめ、と囁くと、え、何、と姫鶴は戸惑う。
その黒と金白金の眼で射抜くと、姫鶴は蛇に睨まれているかの様な顔をした。
「こういう時は目を瞑るものです」
「それって、キス待ち顔をしろってこと?」
「ええ」
じりじりと顔を近付けていくと、姫鶴の顔が段々赤くなっていく。
はあ、と吐息を掛けると、姫鶴は顔を背けた。
「…貴方、もしかしてAもした事無いんです?」
「そ、そんな事無い!キスぐらいした事ある」
「なら良かった」
古今は我慢ならずその顔を掴み、無理矢理舌を突き入れる。
姫鶴はいきなりの事に驚き、その感覚に違和感を持った。
「ま、って!」
なんとか顔を離し、はあ、はあと息を切らす。
「蛇の舌って…」
そう問われ、ああ、と古今は舌を出した。
「スプリットタンですよ」
その二股に分かれた舌を、姫鶴はまじまじと見る。
「初めて見た…」
そう熱心に見られると、古今もなんだかむず痒くなってきた。
「気味悪いですか?」
「ううん…かぁいいよ」
蛇、かぁいい、と微笑まれ、古今はもう我慢が出来なかった。
「貴方の方が可愛いですよ」
そう笑いながら、改めて唇を重ねた。
二股の舌使いは予想が付かず慣れないようで、ずっと古今の良い様に口内を弄られる。
煙草の味がした。
時々漏れる甘い吐息に、古今は欲情を煽られる。
お互いに抱き合って、姫鶴はその違和感に初めて気付いた。
「ちょっ、待って」
姫鶴は古今の薄い胸板を押す。
「蛇…もしかして…男!?」
その発言に古今は首を傾げた。
「今気付いたんですか?」
「えっちょ、マジで!?」
信じられない物を見た顔をするので、古今はほくそ笑む。
「ふふ、貴方を騙せたのなら嬉しいです」
まあ、身体以外は女なんですけどねえ、と付け加えると、姫鶴はただ瞬きをする。
「やっぱり、姫って可愛い。うん…とっても、

おいしそう」

舌舐めずりをする古今に、姫鶴の本能が、逃げろ、と言ってきた。
古今は慣れた手付きで姫鶴をシートベルトで固定する。え、え、と姫鶴が混乱している内に、お互いのベルトを外し始めた。
「人に挿れたいと思ったのは弟以来です」
「それ女のセリフじゃない!!!!」
ああ〜〜〜〜〜〜!!!! と、悲鳴が響く。
それを店内で聞いて、組み敷かれた鶯丸は笑っていたし、組み敷いていた山鳥毛も同情した。

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