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薬鳴

目を開いたら其処は草原だった。


記憶の狭間


君が居る。
銀色の髪が揺れていた。
鳴狐は振り返る。微笑を称えていた。
「…此処は?」
金色の眼の中に自分を見る。闇色の髪と眼が映っていた。
「此処は記憶の狭間」
お供の狐が草むらから現れる。
「記憶の狭間?」
「失われる記憶の捨て場所で御座います」
薬研は辺りを見渡す。何処までも続く緑と水色。果ての無い草原と空に眩暈すらした。
「薬研は此処に捨てられたのです。私達の様に」
お供の言葉を噛み締める。
「俺っちは…」
段々思い出す。戦っていた事。昨日の事。最後の記憶。
「…アンタらは溶かされた鳴狐か」
「左様。顕著されて直ぐに溶かされた鳴狐で御座います」
鳴狐もお供も、別に何ともない、と云う顔をしていた。
「捨てられた…か」
果てしない世界で二人で居たのか、他に誰か居るのか。
人影を捜したけれど見つからなかった。
「…鳴狐」
薬研は鳴狐の金の眼を見つめる。
「…帰ろう」
薬研は立ち上がる。お供の横を通り抜け、鳴狐の手を握った。
「…何処へ?」
お供が心配そうに鳴く。
「俺っち達は帰る場所が在る。少なくとも、俺っちには」
薬研は思い出していた。仲間や審神者、使命の事を。
「帰ろう、皆の所へ」
「成リマセン」
お供の気配が変わった。
怪物と成った狐が薬研と鳴狐の手を分かつ。
薬研へ襲い掛かってきたその牙を、自身の本体で受け止めた。
「皆待ってる」
「此処カラハ出ラレナイ」
「そんな事ねえさ」
薬研は怪物と化したお供の毛並みを撫でる。
「な?鳴狐」
鳴狐は泣いていた。その泪に、お供も大人しくなる。
「帰ろう」
薬研は鳴狐の手を取ろうとした。
しかし、其れは叶わなかった。
「俺には資格が無い」
鳴狐は言う。
聞き返そうとしたら、今度は声が出なかった。
「有り難う」
鳴狐は泣きながら笑っていた。

意識が遠のく。

次に目覚めた時、知った天井を見た。
審神者の声がする。
横を見ると、銀色と金色が目に入った。
「…帰って来られたのか?」
薬研が呟くと、鳴狐は首を傾げる。
薬研は天井に視線を戻した。
薬研は鳴狐に語った。
記憶の狭間の事を。

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