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薬鳴

正確には記念日なんてわからなかった。
ただ二人で祝える日が有れば、と思っただけで。


婚約指輪


夕暮れが過ぎようとする縁側で、お供の居ない鳴狐は薬研の前に改めて座った。
「?どうした改まって」
鳴狐は薬研の手袋を外す。
薬研が不思議に思ってると、鳴狐はジャージのポケットから光る物を薬研の指に嵌めた。
それを見て薬研は顔を赤らめて慌てる。
左薬指に嵌められたのは銀のシンプルな指輪だった。
「こ、これ…!!婚約指輪!!?」
鳴狐が頷くと、薬研は変な声を出す。
「ばっ馬鹿!!!!普通こういうのは俺っちから渡すもんだろ!!?」
鳴狐は良く分からない、という様に首を傾げた。
「恥ずかしい事しやがって!!!!」
薬研はぶつぶつ言いながら赤い顔で指輪を見つめる。
「嫌だった?」
少し残念な気持ちを込めて言うと、いや、と薬研は言った。
「悔しいけど…嬉しい…でも!!俺っちだって威厳ってもんがあんだよ!!」
薬研は闇の眼を泳がせて溜息を吐く。
「わかったよ指輪買ってやる!!サイズ教えろ!!」

後日-

薬研は予告通り鳴狐の左薬指に指輪を嵌めた。
「一応ルビーだ。ダイヤは俺っちの小遣いじゃ厳しかったんでな…」
炎よりも赤い石が日の光に輝く。
「…綺麗」
鳴狐が嬉しそうに笑うと、薬研も安堵の溜息を吐いた。
「…まあ手袋するから分からないけどな」
薬研も手袋を外し左薬指の指輪を晒す。
シルバーの指輪は鳴狐のと同じように輝いた。
誰かの声が薬研を呼んだ。
「っと、これは俺っち達だけの秘密な」
口の前に指を当てる薬研に、鳴狐も頷く。
秋の半ば。
密かな関係はより一層輝きを増した。
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